デレマスマフィアパロ置き場   作:ホルマリン漬けパトラッシュ

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もし待ってくれていた方がいれば、大変おまたせしました。

周子ちゃんはダーツが趣味だって言うから、多分投擲は得意だと思うんですよね。


マパロその05(塩見周子)

 友人である一ノ瀬志希から、ある依頼を受けた。彼女は情報屋だが、情報屋だって命を狙われる。そして、狙ってきた組織に報復してほしいということだった。

もちろん依頼なので、対価は受け取る。志希は小金持ちなようで、払いはいいしツケにされたことはない。なのでよっぽど文句も言わずに普段は依頼を受けるのだが───今回は少し無理がある。

「志希ちゃん?あたしあたし、周子だよー。ちょっと任された仕事で問題があってね、手が足りそうにないから腕のいい人紹介してくんないかなーって。」

 

 

 

 

 

 塩見周子は、フリーランスの殺し屋(ヒットマン)兼ボディーガードだ。仕事を始めたのは3年前に実家を追い出された後。貯金も底をつくかという頃に裏社会の人間に拾われて殺しの技術を教え込まれたのはいいが、ある日突然拾った人間が姿を消した。それからは固定の陣営に付くこともなく、気が惹かれた仕事のみをこなしていた。

最近では小早川関連の仕事を受けることも多いが、たまにこうして別の依頼を受ける。普段は一人で仕事をするのだが、今回ばかりは相手の人数が多すぎるので素直に増援を頼むことにした。志希ならば良い増援を連れてきてくれるだろう。しかし、増援と話をつけるのに手こずっているのか一向に返信がない。暇を持て余した周子は、懐からタバコを取り出すと咥えて火を付けた。タバコも教わってから、ずっと吸っている。あの女は今どこで何をしているのだろうか。

 

タバコを一本吸い終わった頃、やっと志希から返信が来た。追加の殺し屋一人と運転手が一人。殺し屋の名前を聞けば、ロシア系のような外国の名前と見知ったドライバー。ドライバーに関しては何度か仕事を共にしたことがあり、信用できるだろう。

合流まで少々時間がかかるという事で、もうタバコを吸って潰そうとしたが、タバコを切らしていることに気がついた。仕方がなく、近くのコンビニへと歩き始めた。

 

裏社会がはびこるこの街だが、意外なことに景観は整っている。整備された道路と街路樹、規制に沿った広告など、せめて表通りぐらいはきれいにしてこうという社会の涙ぐましい努力を感じられる。しかし残念なことに裏道に一本入ってしまえば、飲んだくれはいるわ、たまに襲われている女はいるわと、警官の目が届かない場所は無法地帯だ。

そう言えば、あの娘と出会ったのもこんな裏道だったろうか。

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 ある日、仕事もなく完全フリーだった周子は、気の赴くままに街を散歩していた。その頃の周子は人に恨みを買う仕事(ヒットマン)にはまだ手を付けておらず、特に警戒しなくても街を出歩くことが出来ていた。

 その年の冬はとても寒く、周子も着込んで出かけていたが冷たい風に身を震わせていた。あまりにも寒いので雪でも降るのではないかと空を見上げた時、何かが横からぶつかった。油断しすぎたかと懐に手を入れながら振り向くと、一人の女が居た。

 毛が絡む事無く降ろされた黒髪、そしてその間から覗く整った顔と金色の目。きちんと髪を整えていればさぞかし美しいことだろう。しかしながらその顔は、生気の失せた、虚ろな目をしていた。ぼーっと歩いていたら、急に足を止めた周子にぶつかってきたと言うところだろう。

「へい彼女、どこいくの?」

「・・・どこでも良いじゃない。貴女に関係あるの?」

女が漂わせる雰囲気は、乱れた髪の毛のせいか、どこか妖艶であった。しかし周子は、それを以上に自分と似たような独特な「ニオイ」を感じ取っていた。

「いやーだってキミ、今帰るところないでしょ?見た感じ2日か3日は食べてなさそうだし。あたしの家だってご飯とシャワーぐらいあるよ。」

身なりを見るに、女は路上生活者ではなく、所謂「健全な市民」といったところだろう。事情はどうあれ、食事とシャワーにはつられたようで、目の前の女はわずかに揺らいだものの、承諾した。

 

 

 

「狭っ苦しいところだけど、上がって上がって。」

女は素直に従い、玄関で靴を脱いでリビングへと入る。しかし、そこで足を止めてしまった。

「・・・貴女、本当に一人暮らし?」

「そうだけど?とりあえず、シャワー浴びちゃいなよ。そこ右ね。服は洗濯機の中に入れといて。」

周子の家は一般的なアパートの一室だ。一般的とは言うが、それはあくまで子供がいる家庭が使うものとしては、と言う意味である。つまり、2LDKのこの部屋は一人暮らしの部屋としては完全に広すぎるのだ。

この国で年若き人間が一人暮らしをしようとすれば、普通はワンルームになるのである。女が驚くのも無理はないが、臭うのでさっさとシャワーを浴びてもらいたかった。

 女は何も言わずにシャワールームへと歩いていき、水音を立てる。それを確認した周子は一つの部屋へ急ぎ、仕事道具を隠し始めた。いくら銃器が合法な国とはいえ、流石に初対面の人間に見せるものではない。手早く高い位置にある棚へ銃と弾を放り込み、鍵をかけた。

 そしてそのままタンスから適当にシャツとズボンを見繕い、新品の下着とタオルをつかむ。流石に胸のサイズはわからないので、下だけだが。そのまま脱衣所に置く。食事とシャワーで釣ったので、食事も用意しなければならない。

何が残っていたか、と冷蔵庫を見れば、僅かな肉と野菜、味噌のみ。そういえば本当は今日買い物に出かけていたのを忘れていた。とりあえず肉入り野菜炒めでも作ろうと、フライパンに油を敷く。肉と野菜は軽く湯通ししてからフライパンに投入して、軽く水で解いた味噌を投入し、弱火で少し水気を飛ばす。ありあわせの食材だが、ひとまず完成だ。

 

 周子がリビングでくつろいでいると、女が風呂場から髪を拭きながら出てきた。

「ありがとう、さっぱりしたわ。」

「そっかー、よかった。お腹すいたっしょ?も食事できてるからさ、そこ座って待っててよ。はいこれ水。」

周子は立ち上がって冷蔵庫からボトルに入った水を取り出して女に渡す。女は受け取ると意外そうな顔で、

「あら、水道水でも良かったんだけど。」

「この地区の水道水激マズよ?料理に使うならまだしもそのまま飲むなんて冗談じゃないよ。」

「そうなの。ありがとう。」

女はソファーに座って、ボトルの蓋を開けて水を飲み下す。そこへ、周子が料理を持ってくる。

「ありあわせの食材だけど、めしあがれー。」

 

「ごちそうさま、ようやく人心地ついたわ。」

「そか。お粗末さん。」

周子は皿を持ち、流しへ向かおうとすると、女から声をかけられた。

「流石に貰ってばっかりでは悪いから、洗い物ぐらいさせてくれないかしら?」

「いや、そのまま休んでなよ。勝手もわかんないでしょ?テレビでも見ててー。」

「・・・そうね。なら、お言葉に甘えさせてもらうわ。」

女はそのまま深く座りなおすと、水を飲み始めてテレビをつける。周子はその様子を横目で見ると、彼女の食事中の仕草を思い返していた。どことなく品を感じさせるその食べ方や、彼女の着ていた服の良さといい、彼女が一定以上の家庭の出であることを思わせる。

しかし、こんな国で自らそんな良い家を出るということは何かしら厄介事があったのかもしれない。周子は自分の抱えた問題が案外大きいものだった可能性を考え、内心複雑だった。

 

 周子が洗い物を終え、リビングに戻り女の対面に座る。

「さて、なんか交換条件みたいで悪いけども。キミの事を話してもらってもいいかな?」

そう言い放った周子の目に写ったのは、先程より少し暗い表情を浮かべた女だった。

「何もキミの出自をすべて話せって言ってるわけじゃないよ。名前とか、年齢やらを話してくれるとありがたいなって。あ、あたしは周子。歳は18ね。」

「…速水奏よ。歳は17。悪いんだけど、暫く置いてくれないかしら。帰る家が無いの。」

そう告げる奏の顔は、有無を言わさないものだった。周子は仕方なく、それを許す。

「まあ、気が向いたらどうして出てきたのかも教えてよ。さて、寝床なんだけど、ベッド1つしか無いんだよね。流石にシーツとかも予備がないんで、床かベッドどっちかになるんだけど・・・」

「そう、なら床でいいわ。流石にここまでされてベッドまでよこせとは言わないわよ。」

「そか、じゃあ明日早いし今夜は早めに寝ちゃおうか。なんだかんだと10時過ぎてるし。」

そういうと、奏は何を言っているんだ、という顔を向けてくる。それを見た周子は、

「暫くココで過ごすなら着替えとか生活用品いるっしょー?冷蔵庫の中も何もないし、朝から買い物かなって思ったんだけど」

そう言うと、奏はそうね、といった様子で腰を上げる。

「ところで、その寝床とやらはどこかしら?」

 

 

 夜の1時。早く寝ようと言ったが、周子は日頃そう早寝しているわけでもないので寝れるはずもなく、延々と考え事をしていた。

当然ながら考え事と言うのは、隣で寝息を立てている奏のことである。ここのところろくに寝ていなかったのか、奏は布団に入ってすぐに夢の世界へと旅立っていた。

どうしてそう経済的に貧しいわけでもなさそうな家を捨ててきたのか。着替えとして渡したシャツからチラチラ見える痣や指の傷を見るに、喧嘩の後だろうか。大方殴られて殴り返してそのまま帰らなくなったのだろう。そのうち帰りたくなるだろうから、それまで泊めておこうと思った矢先、

窓ガラスや黒板に爪を立ててひっかくような音が周子の耳に届いた。この家に黒板なんてものは置いていないから、前者だろう。とすれば強盗か。周子は枕の下に手を突っ込み刃の厚いナイフを掴んで引き出すと、(シース)を払って左手で構える。

耳を澄まして足音を聞けば、男の足音が一つ。響く足音の大きさといい、道具だけはある素人だろう。扉の隣に張り付き、男が入ってくるのを待ち伏せる。一歩一歩と、扉に近づいてくる。そして、とうとうドアノブが回され、扉が開く。

そして部屋に一歩踏み込んだ男の首元めがけ、周子はナイフを横にして突き刺す。男の首に突き刺さったナイフを軽くひねってから抜き、もう一度突き出す。今度は男の上顎に刺さり、そのまま脳幹を傷つける。

男は刺された勢いで仰向けに床に倒れ、大きな音がする。そのせいで、奏が目を覚ましてしまった。

「貴女、・・・殺したの?」

奏は目を見開き、覚える表情で周子に問いかける。

「そうだね、殺した。でもこいつは盗人だよ。ひょっとしたらあたし達を殺してからごっそり頂いていくつもりだったかもそれない。そんな奴をみすみす見逃すほど、あたしは甘くないよ。」

周子は男の服で刃に付いた血と油をぬぐうと、ナイフを鞘に戻した。そして、男の懐からある物を取り出して奏に見せる。

「ほら見てこれ。軍用のサバイバルナイフだ。完全に殺しに・・・奏ちゃん?」

奏は完全に怯えきっていた。周子に怯えていると言うよりは、男のナイフに怯えているようで、自らの体を抱いて歯を鳴らす。その呼吸は、自らを苦しめるように過剰に酸素を吸い込む。

「ちょっと奏ちゃん!?落ち着いて、あたし何もしない!」

今袋持ってくるから、と周子は小走りで寝室を出る。

 

 周子が紙袋を持って部屋に戻ると、奏は失神直前だった。袋を口に押し当て、呼吸を落ち着かせる。しばらくすると、奏の呼吸が落ち着いた。

「どう、奏ちゃん。楽になった?」

「ありがとう、楽になったわ。ごめんなさいね。」

奏は体を起こし、周子を見る。

「・・・あのナイフ、似てたのよ。私の家に入ってきた強盗が持ってたのに。」

 

 そう前置くと、奏はぽつぽつと何があったかを話し始めた。彼女の家は比較的裕福で親との仲も良好だったが、どうやら三日ほど前に彼女の家は強盗の被害に遭ったようで、父と母が盾になり奏だけ逃げ出せたらしい。恐怖心からずっと逃げ続け、周子と出会い、今に至る。

 

 それを聞いた周子は、温室のような環境で育った娘には、酷な話だと思った。

「そか、怖かったね。よく頑張った。」

周子は奏を抱きとめ、背中を叩く。そして、あることを思いついた。

「奏ちゃん、親の敵とりたい?」

「・・・取りたいけど、どうやって、」

「しゅーこちゃんの友達に人捜しが得意なのが居る。もし奏ちゃんが犯人の特徴を覚えているなら、見つけられるかもしれない。」

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 周子が物思いに耽っていると、自らを呼ぶ声に引き戻された。声のする方を向けば、以前にも会った運転手と見慣れぬ銀髪を持った娘。

「ごめーん、待たせちゃった?」

「待ったというか、あまりにもぼーっとしてたから薬でもキメたのかと思ったぞ・・・アーニャ、紹介する。こいつが周子だ。今回はこいつと組んでくれ。」

目の前の運転手の後ろに居た銀髪娘が周子を上から下まで眺めてアナスタシア、と一言だけ発する。

「よろしくね、アナスタシアちゃん。あたし周子。」

 

 

 

 軍人でもない人間ならば、作戦は緻密なものよりも大雑把で余裕のあるものが良い。何故ならば、軍隊で鍛えられた人間でなければ時間通り動くのは非常に難しいからだ。

アタシが前衛、アナスタシアちゃんが後衛。あたしが殴り込んで、外に出ようとしたり回り込もうとする敵をアナスタシアちゃんが撃つ。

実際に乗り込んでみれば寄せ集めの集団を各個撃破するのはそう難しくはなく、順調に数を減らしていった。しかし、途中で手持ちの弾が尽きてしまう。

「アナスタシアちゃーん。弾ちょうだい弾。」

と聞けば、あたしの銃では使えない弾らしい。仕方なく、腰のホルスターに拳銃を戻し、ナイフをそれぞれ両手で鞘から引き抜く。姿勢を低くして敵に向かって走り出す。

狙いを絞らせないように軽く左右に動けば弾頭が奏でるソニッククラックの音。相手の懐に入って喉を切り裂き、血が吹き出る体を掴んで盾にする。敵は無情にも、味方だった男ごとあたしを撃とうと死体めがけて乱射するが、男の着込んでいた防弾ベストで弾が止まってしまう。

弾切れになった敵は弾倉を変えようとするが、その隙を見逃さずに左手でナイフを投げつける。ナイフは吸い込まれるように男の脳天に突き刺さる。そういえば鳴り響いていた銃声が聞こえないな、と見渡せば立っていたのはアナスタシアのみ。

敵は全て死体に変わっていたようで、床は血で赤く染まり、ところどころに薬莢が光り輝いている。

「シューコ、こっちは終わりました。」

「おっけースターシャちゃん。帰ろうかッ!」

アナスタシアの後ろで動き出そうとした男めがけて右手でナイフを投げれば、狙った脳天ではなく首元に突き刺さる。ナイフを目で追っていたアナスタシアちゃんは、その男の頭にトドメを刺し直した。

「ヘタクソ、ですね?」

初めてアナスタシアが笑ったのを見たのは、小馬鹿にされたときだった。

 

 

 

 近くに泊めておいた車に乗り込めば、運転手はすぐに車を走らせた。途中、サイレンをけたましく鳴らすパトカーや警察のバンとすれ違った。特殊部隊でも連れているのだろうが、生憎残っているのは死体だけだ。

ナイフはそれなりに値が張るので、回収してある。足が付くこともないだろう。心配事はない、とのんきにシートに身を沈めていると、突如リアガラスに蜘蛛の巣がいくつも出来た。

「後ろからバイク!2両!」

アナスタシアの叫び声を聞いてドアミラーを見れば、二人乗りしたスポーツバイクが2台追いかけてくる。

「これ、防弾は?」

運転手に尋ねれば、5.56mmまでという頼もしい返事が帰ってくる。追手は短機関銃を撃ってきているだけなので、まず弾が車内に入ることはない。しかしこのまま放置していても埒が明かないので、運転手から拳銃を借りてドアを開けて車外に乗り出す。風で顔に自分の髪が当って地味に痛い。

的を絞らせまいと左右に動く車からちょこまかと動くバイクを狙うのは難しかったが、何発か撃てばバイクの運転手に命中し、バイクはそのまま転んですっ飛んでいった。もう一両の方は、アナスタシアが片付けていた。

真っ白になった防弾ガラスというのはかなり目立つので、途中で乗り換えた上で解散地点に到着した。後は家に帰るだけだ。

 

 

 

 


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