デレマスマフィアパロ置き場   作:ホルマリン漬けパトラッシュ

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薬物乱用はダメ、ゼッタイ。


マパロその03(奈緒)

「新種の違法薬物ぅ?」

 

 奈緒は日頃から情報屋と呼ばれる人種を利用している。アングラの情報を集めるにはアングラの人間と接触するのが一番早い。警官としては褒められる行為では無いだろうが───正直汚職も多いこの街の警察では渡される情報だけでは不足どころか、偽情報まで出回る始末だ。

 奈緒の知っている情報屋の中でも幅広く、そして知る限り最も正確な情報をもたらしてくれる情報屋と面会していた。一ノ瀬志希、と宮本フレデリカだ。

 

「そっ、この志希ちゃんの徹底的な解析の結果、こいつは今までに見たことのない違法薬物であることが確認されましたー!」

 

正直、奈緒はこいつと関わったことは正解なのか今でも疑問に思うことがある。情報の幅広さや正確さは手持ちの情報屋の中では間違いなく最高なのだが、如何せん性格に難がある。危険な稼業を金持ちの道楽で始めるような人物である。そのおかげで情報料がとても安いのだが。

 今回も、一週間ほど前に押収した薬物の解析を頼んだのだが、嬉々として解析に取り組んだ上にさぞ楽しそうに報告する姿を見るとどうしても不安を覚える。

 

「こいつは少量摂取するだけなら基本的には気持ちよくトリップできるだけなんだケド、大量に、もしくは長期的に摂取すると巡査さんもご存知の通りの凶暴化やら痛覚麻痺やら、とにかく暴れるのに適した状態になるんだねー。これを開発したやつは多分天才だと思うにゃー。」

志希はズズ、と冷めた缶コーヒーを啜って息をついた。

 

「それだけじゃなくて、こいつを製造・販売しているであろう組織もなかなか曲者っぽいよ?」

とはフレデリカの談。

 

ここ最近報告件数が急増しているこの麻薬。346号なんて名前がついたから、現場じゃ「ミシロ」なんて呼ばれてたりする。そのせいで警察は増える事件に振り回され、初動に当たることの多い地域課は見事に負傷者を増やしている段階だ。

 

「曲者って、どういうことだよ。警察(こっち)じゃ"とにかくデカイ組織で、最近急激に勢力が増した"ってことしか掴んで無いんだ。」

奈緒は志希とフレデリカを問いただすが、二人は目を合わせて、「情報料があと2枚足りませーん(はーと)」と抜かす。奈緒は仕方ない、と言った様子で、2枚の紙幣を渡した。

 

「誘拐、殺人、武器麻薬取引なんでもござれ。昔から根付いてた組織からすれば目の敵。そりゃ他人のシマを断りもなく荒らしまくったら良い印象なんて持たれないよね。巡査さんも気をつけてね?アタシ達だって危なすぎて潜ろうと思えないぐらいの組織だから、下手に潜れば火傷で済まないかもよ?」

志希は中身を飲み干したアルミ缶を放って、一つの封筒を差し出す。

 

「それはオマケ。中身を見ればわかる。でも、見たら燃やしてね?」

唇に指を当て、ウィンクをする志希。それを見た奈緒は、よっぽどの情報が入っているのだろうと速やかにカバンに仕舞った。

 

「ありがとうな志希、ありがたく使わせてもらう。コーヒーの分は置いとく。アタシは先に行くわ。」

奈緒はコーヒーの金額分の硬貨を志希に投げると、足早にその場を去った。

 

「…本当に、気をつけてね、巡査さん?多分キミが思ってるより、あの組織は深いよ?」

 

 

 * * * * *

 

 

 家に帰った奈緒は、封筒の中身を確認していた。中に入っていたのは、薬物がもたらす効果や推測される原料、ここ数ヶ月で出回ったであろう範囲が記されていた。そして、数日後に取引が予想されるというメモを見つけた。

 本来ならば専門の部隊で強襲するべきだが、情報源が情報源なだけに動いてくれないだろう。奈緒は仕方なく単身偵察する覚悟を決めると、偵察に必要な情報を集め始めた。

 

 

 

 数日後、取引が行われる場所へと私服姿の奈緒は一人歩いていた。カバンの中には護身用の拳銃(グロック)。このご時世では一般人も護身用に拳銃を携帯することも珍しくない。警察手帳(バッジ)はズボンの内側に隠した。バッジさえ見つからなければ、万が一見つかってもたまたま居合わせた一般人として逃げれる可能性も無くはないだろう。

そんな気休め程度の保険を掛けつつ、予め予定していた場所へと急いだ。

 

 

 

 奈緒の予想通り、予定していた場所は取引場所を覗き見ることが出来るようであった。奈緒は物陰に隠れて取引場所を見ていると、既に居た一台の他に、更に二台の車が入ってきた。車が止まり、中から明らかにカタギのそれとは違う雰囲気を纏った、武装した男たちが出てきた。いくら人影のない場所とは言え、最初からライフルを引っさげて出てくるとは、なかなか厳しい警備のようである。

 そして、取引が始まろうかという時。首筋近くに反射しないよう黒く塗られた刃が添えられた。

「あんた、どちらさん?…その手の人間じゃないよね?おまわりさんかな?」

 奈緒はナイフを払って拳銃を引き抜こうとするが、相手の方が早い。相手はナイフを投げつけ、奈緒の体勢を崩すと間合いを詰め、奈緒を押さえつけた。

 

「っと、危ないなあ。安心してよ。やっぱおまわりさん?」

銀髪の女だった。奈緒は内心舌打ちをした。見抜く力の強い相手だ、嘘は通らないだろう。

「…そうだよ、殺すか?」

奈緒は睨みつけながらそう言った。

 

「安心してな。敵じゃないよ。味方でもないけど。あばれんといてね?」

 銀髪の女は奈緒を話すと右手を差し出した。

 

「あたしは周子。少なくともあそこで取引をしてる奴らとは敵。敵の敵は味方って言うでしょ?ひとまず落ち着こうよ。アレの情報だって欲しいでしょ?」

 差し出された右手に奈緒は迷ったが、そもそも相手に生死を握られているのだ。選択の余地はない。

 

「敵じゃないなら左手を得物から離してくれないか。アタシは奈緒。お察しの通りの身分だ。」

 指摘をされた周子は「ありゃ、気づいてたかー。」と空手の左手を上げ、ひらひらとさせた。

 

「奈緒ちゃんはあそこで取引してるブツとメンツはどこまでご存知?」

 壁に背を預けた周子は奈緒にタバコの箱を向ける。それを見た奈緒は手振りで断り、

 

「ああ、最近この街で急速に出回ってる。警察(うち)じゃ"ミシロ"って呼んでるよ。んで、そいつの流通にはかなりデカイ組織が関わってるってのもな。…あんた、あっち側じゃないな。地元の裏社会(にんげん)?」

 半ばカマかけだが、正解だったようで「そそ、シマを荒らされてる地元の裏社会(にんげん)だよ。」と、軽い答えが帰ってきた。

 

「だからこそ、警察さんとはすこーし関係を持っておきたいなって思ってるのよ。アレが出回ったせいで、儲けは減るわ奴さんらがでかい顔するわで、大変なんやわー。あたしはフリーなんだけどね?奴さんらの依頼はきな臭くて、とてもじゃないけど受ける気にならないんだよねー。そもそもあいつら自前の戦力あるから依頼も殆ど無いけど。」

 周子は紫煙を吐きながら、とても憎たらしそうに語る。フリーランスは依頼数が減るのは相当痛いようで、タバコも減らしちゃったわと周子は漏らす。

 

「奴さんら、どうも外国のマフィアさんも原材料関連でほんの少し絡んでるらしくてね?ロシア系か中国系か・・・多分そのどちらか。でなければいくらこの国は銃器所持が許されてるって言っても、あんな重装備なんか揃えれないよね。車は殆どが完全防弾だって話だし。」

 

「もうひとつ。近々大きい抗争が起きる。アイツラを快く思わない地元の組織は、奴さんらを少し懲らしめようと計画を練っているみたい。ココからはあたしの予想だけど、多分管区警察が経験したことのない規模の抗争になる。出来る限り一般人への被害は避けようとしてるみたいだけど、もしあたしの予想通りになったなら、絶対表社会に隠しきれない被害を与えるかもしれない。っつーわけで、多分あと1ヶ月ぐらいは警戒しといたほうが良いんじゃないかな?」

 これあたしが漏らしたなんて誰にも言わないでよー、と軽い出来事を扱ったかのように言う。

 

「待てよ。その情報は確かなのか?もし本当にそんな動きがあるなら、うちの刑事部がとっくに掴んでるはずだ。でも何も…」

警察(おたくら)の上は相当どっぷりみたいだね。地元組織の動きをなるべく阻害しないように、黙ってるんじゃないかな?」

 

 

 * * * * *

 

 

 二人はそのまま取引を覗き見つつ、幾つかの情報を交換していた。ミシロの取引も終わったようで、離れたところでは男たちが撤収作業をしていた。二人の情報交換もそれなりに有意義に終わり、こちらも撤収しようという時だった。

奈緒が手に入れた情報をどの様に扱うかを悩んでいると、一挙動で周子が拳銃を抜いて撃ったかと思えば、ぐぎゃ、と男のうめき声がした。

 

「あちゃー。一発で仕留めるつもりだったけど、やっぱ銃は扱いが難しいなあ。奈緒ちゃん、(おきゃく)だよ(おきゃく)。ほら戦おう?」

周子の拳銃には減音器(サプレッサー)が装着されているようで、パスンパスンと抑えられた銃声が何回も響く。奈緒もカバンから拳銃を取り出して、物陰から撃ち始める。しかし相手も物陰に隠れて、弾は遮蔽物で止まる。徹甲弾でも使えば遮蔽物ごと狙えるのかもしれないが、生憎持ち合わせてなどいない。長期戦になる可能性を読んだ奈緒は、撃つ速度を緩める。

攻撃が弱まったからか、物陰に隠れていた男達が乗り出して銃撃を浴びせてくる。響く射撃音は3つ。すべて違法なフルオート射撃可能な銃だ。隠れるのに利用している遮蔽物が削れる音や、近くを銃弾が通る音が奈緒の耳に届いて、思わず身をすくめる。

 

「あかんわー、奴さんら本気で殺しに来てるわー。」

 激しい銃撃を受けているというのに、のんきな声が隣から聞こえた。見れば周子は拳銃を床に置いて、新たなタバコを咥えていた。

 

「本気で殺しに来てるわー、じゃないだろ!タバコなんて吸いやがって!あんたも手伝えよ!」

 怒鳴られた周子はそんなに焦らなくてもすぐ近づいてきたりしないよー、やっぱキミも吸わない?とタバコを向ける。奈緒はやってられるかと無視を決め込み、男たちに向けて銃を放つ。男たちは撃たれれば隠れ、隙があれば大量の弾丸を叩きつけてくる。よく訓練されているようで、組織とやらの強大さが伺える。これはダメか、と奈緒が思っていた矢先。

 

「奈緒ちゃーん。この銃貸すからちょっと援護して?」

 またしてものんきな声が聞こえた。はぁ?と隣を睨めば、残っていたのは周子の拳銃のみ。どこへ行った、と探せば男たちの懐に飛び込もうとしている周子の姿があった。

「あのバカ!」

 奈緒は周子を援護しようと照準を男の一人に向ける。しかし、援護は必要無いように思えた。周子は位置を調整して男たちの射線から外れたかと思えば、ナイフで一人の首を切りつけ、他の男めがけて投げ飛ばした。そしてまた一人の首を切る。最後に残った男は動揺して乱射するが、周子は飛んでくる銃弾を曲芸のように避け、最後に残った男の脳天にナイフを突き刺した。

 体感で20秒も無いぐらいだろうか。奈緒が唖然としていると、周子が戻ってきた。

「お待たせー、鉄砲返して?」

 あの光景を見ては逆らえる訳もなく、奈緒は素直に周子に拳銃を返した。

 

 

 * * * * *

 

 

20分ほど早足の移動を続け、追手が来ていないことを確認した二人は足を止め、息を付いた。

 

「あんた、本当に人間か…?サイボーグとか、宇宙人じゃないよな?」

「何言ってるん、人間に決まってるっしょ?なんなら触る?」

 

 本当に人間なのか疑ってかかる奈緒に、周子はなぜか胸を反らす。触る?と聞いてくる周子に「触らねーよ」と奈緒は言うが、サイズは自分と同じくらいか、と胸の中で密かに思う。

 

「とりあえず、追手も居ないみたいだしココで解散かな?あたしおなかすいたーん」

 周子は疑問形で言うが、背中を向けて歩き出す当たり、意見はさせないらしい。奈緒もそれならば、と自宅の方面に歩き始めたが、尾行を考えて一直線には帰らずに、途中でショッピングモールに寄ることにした。行動半径がバレることは好ましくないので、きちんといつもなら行かない店に行く。今のところ気配は無いが、やっておいて損は無いだろう。

 

 

 * * * * *

 

 

 結局のところ、尾行されることはなかった。家に戻ってきた奈緒は拳銃の弾倉を抜いて薬室から弾を抜く。拳銃とバッジを机の上に置くと、シャワールームへと向かった。自分の気づいていない怪我をしていないか、シャワーを浴びながら確認する。街を歩いておいて今更な気もするが、風穴が空いていたら面倒だ。幸いなことにその心配はないようで、体に風穴は空いていなかった。拳銃のクリーニングやら、このあともやることは幾つかあるが、今ぐらい一息ついてもいいだろう。

 そう思った矢先、電話が鳴った。自分の携帯を見ても着信していない。着信音はカバンの中からだ。恐る恐る覗き込むと、見慣れない携帯が入っていた。取り出してみれば本体に「ナオちゃんへ(はーと)」とデカデカと書かれていた。鳴り止む気配も無いので応答すると

「やーっと出てくれた。やっほー奈緒ちゃん。周子ちゃんでーす。トラップとかは警戒しなくていいよ、その携帯あたしが入れたやつだから。これからも奈緒ちゃんと仲良くしたいなあと思って、こっそり携帯電話(それ)を入れさせて頂きましたー。もちろんそっちから掛ける事もできるから、なんか連絡したいことあったらよろしゅー。じゃあねー。」

 奈緒が返事をする間も無く、一方的に要件を告げた周子は通話を終了した。一回こっきりの縁だと思っていたが、そうではないようで、明らかに使い倒す気マンマンといったようだ。奈緒はため息を付くと、デカデカと書かれた文字を消すべく、クリーナーを探し始めた。

 

 




薬物乱用 ダメ、ゼッタイ。(大事なことなので二回言いました)

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