『本部より哨戒中の各局、東署管内、○○通り-△△にてけん銃のようなものをもって徘徊している男がいるとの通報、応答可能な局どうぞ』
「東18より本部、応答可能です。どうぞ」
『本部より東18、了解。
「
そういって助手席に座る相方は受話器を戻した。運転中なので横目で確認すると、あろうことかポテトを掴みながら無線を操作していたようだ。
「せめて受話器触る時はポテト置いとけって…」
「えー?だって銃だよ?徘徊だよ?早く応答しなきゃ危ないじゃん。」
ケラケラと相方の── 北条加蓮はコーラを飲み下しながらサイレンのスイッチを入れ、マイクに声を吹き込み、周りの一般車両を退かし、進路を作る。私はそれを確認するとハンドルを切ってアクセルを踏み込んだ。
組み始めてから1年が経つが、加蓮のこういうところは変わらない。私のほうが1年年上のはずだが、この数ヶ月ずっとからかわれ続けている気がする。
しかし、一般哨戒の日にばかりこういう事案に遭遇している気がする。ライフルは車の後ろに積んでいるが、おそらく最初に到着するのは私達だろう。取り出している暇は間違いなく無い。
「加蓮、ショットガンよろしく。」
助手席の横にはショットガンが収められている。コレが最大の火力になりそうだ。
「了解。長くて好きじゃないんだけどなあ、コレ。」
本当にこいつは。文句しか出てこないのかと思いながらパトカーを飛ばす。
そんなことを話していると、指示のあった住所に近づいてきた。
「奈緒、あれ。」
加蓮の指をさす方を見ると、たしかに銃を持った小太りな男が居た。私がブレーキを踏んでパトカーを止めるとほぼ同時に、加蓮がドアを開け放つ。
手にしていたショットガンを男に向け、
「警察よ!銃を捨てて!」
加蓮は大声で叫ぶ。
私もドアを開け放ち、腰に下げた
男は警告なんて気にも留めないかのように、こちらに背を向けて立ち尽くしている。警告を聞くどころか、こちらの存在に気がついていないかのようだ。
加蓮が目配せをしてくる。私は仕方がない、と拳銃を斜め上に向けると、2発、空に向かって撃った。
「最後の警告よ!銃を捨てて、跪きなさい!従わなければ──」
撃つ、と言おうとした瞬間、男は叫び声を上げた。見た目からは想像出来ない勢いでこちらを振り向くと、手にしていた
これはマズイ、と私も加蓮もとっさにパトカーのドアに隠れる。きっと機関けん銃の弾ぐらいなら防いでくれるだろう。
「何よ!あいつ|機関けん銃
「通報を鵜呑みにするからだよバカ!アタシだってけん銃だと思ってたけど!完全に規制に沿ってない銃じゃんか!」
どちらも歯を食いしばり、銃撃が止むのを待っている。私は無線機のスイッチを入れると、
「東18より本部、
『本部より東18、了解。付近のユニットは急行してください。コード3。』
ふと銃声が止んだ。男は弾切れを起こしたのだろう。棒立ちのまま機関けん銃の弾倉を交換していた。
勝機、とばかりに二人は立ち上がり、男に向かって引き金を引いた。ショットガンと拳銃の、似たようで違う銃声が何発も響く。
合わせて10発ほど叩き込んだだろうか。男は銃を落とし、仰向けに倒れ込んだ。男の状態を確認するため、銃を向けたまま男に近づく。
加蓮が男が落とした銃を遠くに蹴り飛ばした時だった。突然男が跳ね起きる。銃で撃たれた人間が出来る動きではない。ドラッグでも使っているのか、跳ね起きた勢いのまま、加蓮に飛びかかった。
加蓮はとっさに銃を向けようとするが、蹴り飛ばすために違う方向を向いていたためか。男が飛びかかるほうが早かった。男は加蓮のマウントを取ると、押しつぶそうと言わんばかりに力を込める。加蓮も負けじと抵抗するが、鍛えていても男と女だ。次第に押され始める。奈緒は銃を相手に向けようとするが、加蓮に当たる可能性を考えると、
「何すんだお前!加蓮から離れろ!」
と叫びながら
加蓮も既に立ち上がり、腰に下げていた拳銃を抜き放ち、男に向ける。当たりを沈黙が包む。分単位で時間を感じるが──実際には10秒そこらの話だろう。男は微動だにしない。
奈緒は倒れた男の状態を確認すべくゆっくりと近寄った。心臓か肺にでも当たったのか、どす黒い血を流した男は呼吸をしていないようだった。それを見た奈緒は本部へ報告すべく、肩に付けた無線機のスイッチを入れる。
「東18より本部、容疑者を射殺。警官の負傷は無し。どうぞ」
『本部より東18、10-4。付近を閉鎖し、現場保存に当たれ。』
「10-4。」
報告し終えたところで、加蓮の方を見ると、
「サンキュー、奈緒。助かった。」
微笑みを浮かべながら、加蓮は礼を言う。
「おう。ところで、こいつは…」
それを見て、安心したように奈緒は言いつつ、男にも視線を向ける。
「多分そうだろうね、目の焦点合ってなかったし。ヤク中でしょ。多分今流行ってるアレ。」
「だよなあ…」
二人はこの街で最近流通している、ある麻薬を思い浮かべていた。