二刀は舞い、弾丸は貫く   作:[Schwarznegger]

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なんか短くなった。まあ、サクッとどうぞ。


黒トリガー争奪戦編
Ballerini di danza sotto la luna


 

 

 

 

 遠征から帰還したばかりのトップチームに下された『玉狛支部の(ブラック)トリガー奪取任務』。作戦の確認をした後、各々自隊の作戦室で待機していた。

 

 

 

「…………」

 

 へらへらと笑う長身の男。持つ得物はやけに長い長刀。対して自身は両刃の二刀。刃の向きを気にすることなく、かつ手数は相手の二倍。客観的に見てもこちらが有利。ボーダーで積み上げた経験もこちらが上。さらにサイドエフェクトもある。なのに、勝てる映像(イメージ)が全く思い浮かばない。どう攻撃しても、ギアを上げても、軽くいなされる。

 ギリッ、と軋むほど奥歯を噛み締め合わせた両の拳をさらに握り込む。何もかも悟ったようにすかした態度をとって、水のようにゆらゆらと捉え所なく揺蕩う。イメトレするだけで苛ついたのは初めてだ。

 

「……和人、殺気漏れてるわよ」

 

 自分に何をされることもないが、こうもピリピリした空気を撒き散らされると胃に良くない。それを感じて桐ヶ谷隊オペレーターの篠崎里香(シノザキ リカ)は軽く諌めるが聞く気配はなし。

 

「…………」

 

「聞こえてないし」

 

「……いいの? 放っといて」

 

 栗色の髪の少女も微妙に表情を強張らせて、彼と付き合いの長い幼馴染の少女に尋ねるが、返ってきたのは気にするなというような言葉だった。

 

「……別に良いんじゃないかしら。集中の仕方は人それぞれだもの。ああやって感情を昂らせるやり方もあるのよ」

 

 苛烈に剣を振るうには必要かもしれないが、感覚を氷のように研ぎ澄まし、狙い撃つ自分には必要ない。

 

 

 玉狛支部に居る近界民の持つ黒トリガー奪取任務。遠征から帰還したばかりのトップチーム太刀川隊、冬島隊、風間隊に直接戦闘をした三輪隊と和人の桐ヶ谷隊を投入するところに城戸司令の本気度が伺える。だが、その任務を妨害する可能性が大いにあるS級隊員、迅悠一と玉狛支部の面々が立ちはだかるなら、用心するに越したことはない。

 

「…………和人、時間よ」

 

「——ああ」

 

 ばさり、と師匠も羽織る黒コートの裾を翻し、部隊の合流場所へ出発する。この任務の成否でボーダーのパワーバランスが崩れる可能性もある。失敗はできない。

 

 

 

 

 

「よう、太刀川さん久しぶり。こんな夜更けに皆さんどちらへ?」

 

 やはりか、と満場一致で訪れた面々はその言葉を脳裏に浮かべた。飄々とした態度と薄い笑みを浮かべて佇むのは迅悠一。黒トリガー抜きにしても相当の実力者だ。

 しかし、こちらはトップチームに加え、A級部隊を二つ引き連れている。いくら迅とはいえ、S級隊員とはいえ、予知のサイドエフェクトがあるとはいえ、この面子を相手に勝利は困難を極めるはずだ。無論、この未来が視えていなかった道理もない。

 

「迅、俺たちは城戸司令の特命で動いている。邪魔をするとはどういうことか分かっているのか?」

 

 最初に口火を切ったのはA級三位部隊『風間隊』隊長の風間蒼也(カザマ ソウヤ)。今回の案件に関して彼自身思うことがあるのだろう。言葉に若干の棘が含まれている。しかし、実力派エリートは何処吹く風。

 

「いやいや、風間さん。俺は城戸さんに『黒トリガーを回収しろ』って命令を受けた。そして、支部長に俺のやり方でって命令を受けた。そして俺はその近界民をボーダーに入隊させれば、円満に解決できると思って行動してる。俺は俺なりに城戸さんの命令に従ってるよ」

 

「そんな理屈が通ると思ってるのか!」

 

 声を荒げるのは三輪。前髪で隠れて見えないが、いつもよりも眉間の皺がさらに深く刻まれている。

 

「思ってないさ。だけど、ボーダー隊員になれば話は別。だろ?」

 

 あっさりと先程の言葉を取り消し、その思惑を露わに。それを察した風間はさらに言葉を重ねた。

 

「……『ボーダー隊員同士の私的戦闘を禁ずる』か」

 

「ボーダーのルールを盾にするだと……」

 

「いや、迅。お前の後輩はまだボーダー隊員じゃないぞ。次の正式入隊日である一月八日までそいつはただの野良近界民(ネイバー)だ」

 

 任務を遂行するのに何の支障もないな、と腰の孤月を抜刀する。それに応じて迅も『風刃』を抜刀した。

 太刀川慶(タチカワ ケイ)。No.1攻撃手(アタッカー)にして個人(ソロ)総合一位に君臨する実力者。かつてはNo.1攻撃手(アタッカー)の座を懸けてお互いに切磋琢磨し合ったライバル。迅がS級隊員となってからは叶うことのなかった真剣勝負。久々の本気の戦いに心が高揚する。

 

「しかし、迅。まさかとは思うがお前一人で俺たちを相手にできるとは思っていないだろうな」

 

「俺もそこまで自惚れちゃいないよ、風間さん。正直、五分五分だ。だからちゃんと増援を要請してあるさ」

 

「——嵐山隊現着した!」

 

 流石、正義の味方。現れるタイミングもバッチリだ。隊長の嵐山を筆頭に、木虎、時枝も居る。姿は見えないが狙撃手の佐鳥もいるのだろう。

 

「嵐山隊か……」

 

「忍田本部長派と手を組んだ、ということは……」

 

 ボーダー本部隊員の多くを動かせるのが忍田本部長。それに加え、A級最強と謳われる玉狛支部に、S級隊員の迅、黒トリガー持ちの近界民。黒トリガー二本だけでもボーダー内のパワーバランスは既に崩れているのにこれで完全にひっくり返ったと言える。

 

「ナイスタイミングだ、嵐山。助かった」

 

「三雲君には弟妹を救ってもらった恩があるからな。気にするな」

 

「木虎もメガネ君の為に?」

 

「上司からの命令だからです」

 

 相変わらず素っ気ない木虎。しかし、一つの疑問が浮かぶ。

 

「迅さん。有栖川先輩はどうしたんだ?」

 

 和人は気にかけている男の名を口にする。あの男ならば、ボーダーの内部抗争やルールなどお構い無しに自分の信念に従って行動しそうなものだが。

 

「ああ、アイツは子供は寝る時間とか言ってたな」

 

「…………」

 

 気のせいか。一瞬だが皆の視線が風間に集中したのは。大学生にも関わらず、身長百五十五センチという小柄な体格。しかし、高スペックな彼。舐めてかかれば痛い目を見る。

 

「さて、どうする太刀川さん。正直なとこ、嵐山たちがいれば勝つのはこっちだ」

 

「予知のサイドエフェクトか……面白い、お前の予知を覆してみたくなった」

 

 二本目の孤月を抜刀し、放つは斬撃。迅との距離は旋空を使うには良い距離だ。しかし、余裕を持って躱された。そう、それでいい。そうでなくては。この程度でやられる男なら失望していた。

 嵐山は牽制のつもりかメテオラを足元に放つ。粉塵が巻き起こり、視界が塞がれる。だが、それは向こうも同じ。詩乃は迷うことなくレーダー頼りに狙いを定め引鉄を引いた。

 

「——嵐山ッ!」

 

 しかし、迅は当然予知していただろう。警告によって嵐山は集中シールドで顔面を防御した。

 簡単に仕留められるとは思っていなかったが、内心舌打ちする。やはり集中シールドを粉砕できるアイビスを使うべきだったか。もしくは狙いが欲張り過ぎだったか。脚の一本でも奪っていれば大きなアドバンテージを得られた筈だ。

 

「おー、レーダー頼りあそこまでの狙撃。やるじゃん、朝田」

 

「当真先輩に比べたらまだまだです。……狙撃ポイントに移動してもいいですか?」

 

 当真勇(トウマ イサミ)。長身でリーゼントが特徴の男。全体訓練でのやる気は皆無だが、それと実力は比例しない。圧倒的なセンスを持って、No.1狙撃手の座に君臨する実力者。

 詩乃のセリフの後半は部隊の統率者である太刀川に向けられたものだ。バカとはいえ、戦闘に関しては頼れる男。それが太刀川である。少しの間を置いてすぐさま指示を飛ばした。

 

「ああ、そうだな……狙撃手(スナイパー)組は各々ポイントに移動。迅優先で仕留める。嵐山たちを分断するぞ」

 

「了解」

 

「分断したら、どうすんすか太刀川さん」

 

「三輪と米屋、出水で何とかしろ。指揮は三輪、お前に任せる」

 

 もし手が足りないようなら、狙撃手を回す、と付け足し迅たちを分断すべく移動を開始する。

 

「黒トリガーに加え、本部長派も向こうについたとなれば、今回の任務失敗は許されないぞ」

 

「分かっています、風間さん」

 

 戦いはまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 







サブタイはイタリア語。意味は『月の下で踊り手は舞う』。
翻訳サイト頼りなので若干違うかも……。



それじゃあ、また次回とか。


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