ISと無気力な救世主 作:憲彦
……申し訳ない。
さてさて、間が開いてしまったので少し前回の説明をしよう。現世とあの世の境目である境界に住む海堂と束。かなり前から、娘であるクロエと現世で少しの間一緒に過ごすために、一定時間現世に蘇ることを申請。受理されて14時間限定で蘇れた。死神君の粋な計らいで、福沢諭吉が多量に入った封筒を2つ、遊園地と水族館のチケット、完璧なルートを記されたメモ帳を貰った。最初にクロエの為に買い物をした。と言っても、ほとんど2人の趣味に走られたがな。では、前回はサラッとしか書けなかった購入品の紹介をしよう。なお、前回書いていない物もあるが、気にしないでくれ。
・猫の耳が着いている大きめのパーカー
・ほとんど猫の着ぐるみのパジャマ
・東方キャラの庭師の服(刀付き)
・束衣装
・SPDの制服(レッドの女バージョン)
・某魔法戦隊の服(レッドの女バージョン)
・ギター
・ギターケース
・海堂の愛用していたギター入門の本
……何故かあの店では、やたらとコスプレの衣装が多かった気がする。しかも完成度も高く、それを使って放送されても違和感の無いレベルだ。しかもどれを着ても似合っている為、束も海堂も歯止めが効かなくなって調子に乗って着せまくった。まぁ余り恥ずかしいのは嫌だと言われて、上の6着で我慢した。
服を買った後は、海堂が楽器売り場を見付けたので、ギターを拝借して弾いてみた。クラシックギターの腕はプロレベルの為、弾いている内に客が集まってきた始末。……お前ら一応死人だぞ。束に関しては見付かったらアウトだ。まぁ、束の見た目は思いっきり変わっている。あの痛々しいウサギ耳は着けてないし、変な紫色の髪は元の黒色に戻している。昔からの知人、もしくは束の容姿が完全に頭に入っていない限り、気付くことは無い。
話がずれたが、ここではギターと海堂愛用の入門の教本を1冊。ギターケースを購入。まとめてクロエにプレゼントした。その後は再び電車に乗って、水族館へと向かっている。そこそこ時間があるので、電車の中ではクロエにギターの弾き方を教えている。電車の客がいないからな。結構空いている。が、音を出すのは迷惑なので、指の使い方等をだ。
そんな時間を過ごしながら、1時間弱で水族館付近の駅に到着。だが、向かっている時に問題が発生した。
「あ、木場」
「え?海堂……ん?ッ!?篠ノ之束ぇぇぇ!!!」
「ちょっ!?待て待て待て待て待て!!!!」
水族館に向かっている途中、木場と真耶に遭遇。海堂は無意識に木場と呼んでしまった。小さい声で言ったから気付かれないと思ったが、木場には聞こえた様だ。そして海堂を見付けたのだが、束の姿を見るなり物凄い勢いで走ってきた。
「どけ海堂!!篠ノ之束!お前、生きてたのか!!?」
「落ち着けって言ってんだろ!この馬鹿!!」
馬鹿に馬鹿と言われるとは……。今にもオーガに変身して束を無へと還してしまいそうな木場を、海堂が必死に抑えている。と言うかこのままだと海堂と木場が喧嘩に発展してしまいそうだ。だがそこに真耶がやって来た。そして、
「ふう~」
「ふにゃっ!?」
木場の耳に軽く息を吹き当てて、行動不能にした。完全に力が抜けたようで、地面に腰を着いてしまった。
「真耶!?」
「篠ノ之博士。どう言うことですか?あの時死んだ貴女が、何故ここに?」
木場が何かを言いたそうにしているが、真耶はそれを無視して束に話しかける。海堂はそんな木場を見て「うわぁ~」と言う顔をしている。まぁ確かにかつての親友がこんな状態になってるのだ。色々と気になるところがあるのだろう。
「篠ノ之博士って……まだ私を博士と呼ぶの?」
「えぇ。どんな事があろうとも、貴女はこの世界を作った人間の1人。ISを開発した偉大な人です。何があったにしろ、それは変わらない事実ですから。それより、どうしてここにいるのですか?」
「娘に、娘に会うために14時間限定だけど生き返らせて貰ったの。旦那も一緒に」
「「旦那?」」
話を聞いていた木場と真耶が、旦那と言う言葉に反応した。2人が首を傾げていると、ゆっくりと海堂を指差す。
「えええぇぇぇぇ!?海堂結婚したの!?」
「あぁ。色々とあってな」
「お前……でも……」
「まぁお前の言いたいことは分かる。が、安心しろ。もう束は変わったんだ。ほら見ろ。ウサギの耳も着けてないし、髪も黒になってんだろ?」
「「本当だ……まともになってる……」」
いや、まともになってるかの基準はそこかよ。まぁ海堂のふざけた説明に納得して、木場も収まってくれた。そして時間もここで少し消費してしまった為、死神君から貰ったメモ帳を開いて再確認。
「ん?」
「直也どうしたの?」
「いや。ここ」
そう言って海堂が指差したメモ帳の1文に「木場勇治、木場真耶の2人に会った場合は、行動を共にするとお得になる」と書かれていた。……死神君の用意周到さが少し気持ち悪い。
「なんの事だかさっぱり分からんが、取り敢えず木場たちも一緒に行くぞ」
「え?なんで?」
「良いだろうが。久々に行こうぜ。どうせお前らもこの先の水族館だろ?」
「確かにそうだけど……」
「良いですね!私は賛成です!勇治さんもそうしましょうよ!!」
結局、真耶に丸め込まれて一緒に行動することに。真耶はスゴく楽しそうだが、海堂と束、木場は複雑そうな顔をしており、クロエは「何ごと?」と言うような表情をしている。まぁそんな事はさておき、ようやく水族館に着いた。入場時、4人以上だったので買い物時に使える500円割引券を人数分貰った。
「うぉぉぉぉ!綺麗~」
「本当ですね~」
「はい!アッ!お母さん!見て下さい!ジンベイザメ!!」
「おぉぉ~!おっきい!」
女性陣はスゴくはしゃいでいた。木場と海堂はそれを遠くから眺めている。眺めながら、今のお互いの事を話していた。
「結婚生活、順調みたいだな」
「うん。怖いくらいにね」
海堂の言葉に、そう答える木場。人間は幸せを感じすぎると、幸せに鈍くなってしまう。木場もそんな時期に入っているためか、自信無さげに答えたのだろう。まぁ端から見たらマジで順調だがな。あれで不安になる理由が分からない。
「何で不安になってんだよ。普通お前じゃなくて相手がなるもんだろ」
確かに。海堂の言う通り、長く続く結婚生活に不安を覚えるのは、男性よりも女性の方だ。木場は珍しいパターンだな。まぁ何事にも例外はあるわけだから、一概に珍しいとは言えない。
「ハハ。でもお前こそ、何で篠ノ之束と?」
「さぁな。何か他人な気がしなかったし、放っておけなくてな」
「ふ~ん。過去が自分と似ているからかもな」
「あぁ。多分な」
確かに。海堂も束も、自分の夢を達成出来なかったと言う点では似ている。そして、その夢の自分にとっての大きさも。叶えられずに死んでしまったと言うのも似ている気がする。
「あっちでの生活はどうなの?」
「悠々自適に過ごしてるよ。たまにだけど、ギター使って演奏してる。毎日楽しく面白おかしく生きてるよ」
生きている、と言う表現は正しいかは分からないが、それを聞いて木場は何かに安心したようだ。木場は海堂の事を昔から知ってるからな。少し心配になってしまったのだろう。
「そう言えば、新曲。聞いてないな。完成したの?」
「そういや~そうだったな~。よし!今弾くか?」
「え?今?」
マジで?みたいな顔をしている木場を他所に、クロエを呼んでギターを借りた。今は人が少ないため、デパートの様にギャラリーが集まる事は無いだろう。
「じゃ、耳の穴かっぽじってよく聴けよ。今だけ限定の特別公演だ!」
木場は少し焦っている。絶対に人が集まってくると思ったからだ。確かに、少ないけど人はチラホラいる。人が集まったら面倒なことになる。そう思っての焦りなのだろうが、海堂が弾き始めても人は集まらなかった。
まぁ当然だ。なんせ、海堂の弾いている曲は、この水族館と言う空間では驚くほど違和感の無い曲。全員放送か何かだと思っているのだろう。海堂の妻である束ですら気づかないレベルだ。
「スゴい……」
小さく呟くと、その後は何も言わずに黙って隣で聴き続けた。約3分程だろうか。海堂の曲は静かに終わりを迎えた。
「あれ?放送止まった?」
「えぇ~……もっと聴きたかったな~」
「ん?放送器具の不調か?」
客たちが少しザワザワしている。係員も普通に流れている放送だと思っていたようで、無線を使って確認するように言っている。
「ふぅ。まぁこんな感じだ……ん?なに泣いてんだ?お前……」
反応の無い木場を見ると、何故か号泣していた。滝の様に涙を流している。
「や、やっと……やっと聴けた……お前の、聴きたかった曲を。やっと、やっと!」
「うわっ!?」
「ありがとう……ありがとう!!」
「いててて!!抱きつくな!おまっ!ギター!ギター巻き込んでる!いててて!!!」
感激の余りか、海堂に抱き付いてしまった。結構な強さで抱き付いたのか、ギターが海堂の体にめり込む。結構めり込んでおり、海堂の体は悲鳴をあげている。
……少し力を考えろよ。
「お父さん……」
「勇治さん。浮気ですか?」
「直也……女なら兎も角、相手が男なんて……」
「え?ちょっと待って……え?」
「うぅ……海堂ぉぉぉ!!」
「おめーは離れろ!!!」
結局、海堂はボコられた。束と真耶の2人に。かなりボコボコにされている。アニメみたいに目に青アザができている。それに服も所々裂けている。酷くやられたもんだな。
「これ俺が悪いのか?」
「ふん!私がいるのに、直也が別の人とイチャつくからだもん!!」
「海堂さんが私の勇治さんと抱き合うからです!」
「抱き合ってねーよ!!大体、何で俺様が男なんかと抱き合わないと―」
「は?」
何故か真耶に睨まれた。とんでもない眼力で、蛇に睨まれた蛙の様に、海堂は固まってしまった。……お前蛇だろ。まぁそんなふざけたツッコミは置いといて、館内にあるものを見終わった一行が向かった先は、屋外で行われているイルカショー。始まる20分前だと言うのに、もうほとんどの席が埋まっていた。が、運の良いことに1番良くショーの見れる席(最前席)が人数分開いていた。
「イルカショー楽しみだね~!」
「うん。まぁ楽しみではあるんだけど……」
「ここ、水被りそう……」
海堂と木場が揃ってそんなことを気にしていた。まぁ荷物はコインロッカーに入れてるし、ギターに関しては防水加工付きのケースに入っている。荷物が濡れる問題はない。
「そんな事、気にしなくても良いじゃないですか~」
「そうだよ。服なんかいくらでも乾くんだし」
なんなら売店で買えばいい。この水族館限定デザインのシャツやズボン、パーカーが売られている。まぁ席はもう変えられないので、ここで大人しく見るしか無いがな。そんなこんなで、イルカショーがスタートした。うp主はイルカショーなんか見たこと無いので、内容は省略させてもらう。が、その間の海堂ご一行の様子を。
「スゴい!あんなに高く飛ぶなんて!お母さん写真撮りました?」
「うんうん!撮ってるよ!」
クロエのをな。イルカ撮れよ。イルカを。
「うわぁ!?こんな近くまで来るんだ!」
「イルカって意外と大きいんですね~」
ステージがデカイからな。ショーが出来る範囲もかなりの物なのだろう。だが、そのときだった。
「帽子邪魔だな」
海堂が帽子を頭から取ったとき、いつもの癖で頭の上で腕を振ったのだ。すると、イルカが飛べの合図と勘違いしてしまい、目の前で大きく跳ねてしまった。
「うわっ!?」
「キャッ!?」
目の前で跳ねられたので、大量の水をぶっかけられた。イルカショー終了後、全員で仲良く服を買うことになってしまった。
「あ~……まさかここの従業員みたいな格好をするとは……」
「海堂があそこで手を挙げるからだろ……」
あれはもうマジで海堂のタイミングが悪かった。それしか言いようが無い。でだ、水族館でやることは全部終わった。問題はこのあと。時間的に、遊園地まで行く時間はない。どこかで時間をロスしたと言うわけではない。単に本人たちがのんびり楽しむつもりだったからだ。
「クロエ。遊園地行きたい?」
「いえ。今日は十分楽しみました。これ以上は……」
欲が出てしまう。そう言いたいのだろう。束も海堂も、クロエが言いたいことが何と無く分かったのか、余り詳しくは何も言わなかった。
「そっか。じゃあ最後にご飯でも食べに行こうか!お金はまだまだ余ってるし!」
「お!良いな!木場たちも来いよ!また何かの割引券貰えるかも知れないからよ」
「良いのか?」
「おう!まだまだ諭吉さんは一杯いるからな!俺達2人の奢りだ!」
「本当ですか!?でしたら是非お願いします!!」
奢りと言う言葉に釣られ、真耶は承諾。そのまま食事まで一緒にすることになった。まだ封筒の中には諭吉さんは沢山いるので、少し良いところに行こうと言う話になったのだが、束がこの近くに良い店があると言って、そこに向かうことになった。
「うん。まぁ予想はしてたんだけどさ……」
「水族館の後にここは流石に……」
5人がやって来たこの場所。まぁ予想された方もいるだろうが一応言っておこう。寿司屋だ。男2人は色々と気にしているが、女3人は全く気にしておらず、普通にバリバリ食べている。どこにでもある回転寿司のチェーン店だ。特に珍しいものは何も無いはずなのだが……
「ん?ふはりははべないの?」
「食ってから言えよ……」
海堂にそう言われると、茶で無理矢理口に入ってたものを胃袋へ流し込み、改めて言った。
「ゴクッ!2人は食べないの?」
「あぁ……うん。食べるよ?ただその……」
「木場。言うだけ無駄だ。食うぞ」
海堂はどうでも良くなって、自分もあるだけ食べることにした。木場もそれを見て自分も食べた。不思議なことに、1つ口に入れると特に気にならなくなった。
~1時間後~
「いやぁ~……食べた食べた」
「もう入らない……」
アニメの様に膨れている腹を擦りながら、満足そうにしている。最初は色々と抵抗していた海堂だったが、今は束と同じ状態になっている。木場、真耶、クロエは膨らんではいないが、満足そうだ。
ピピピ!ピピピ!
「ん?あ、そろそろ帰ろうか」
どうやら帰らなくてはならない時間になったようだ。早くクロエを家まで送らなくてはならない。電車に乗って草加の家まで急いだ。木場たちも同じ方向なので、一緒だ。
「到~着!」
帰りはさほど時間はかからなかった。束はクロエを家に入れる前に、これからしばらく会えないため後悔しないようにと、抱き付いて頬擦りをしている。
「木場。ちょっと良いか?」
「ん?」
まだ少し時間がかかりそうだったので、海堂が木場を連れて少し離れた場所へと向かった。
「なに?」
「ちょっと頼みがあってな。……木場、お前は自分の守りたいものはちゃんと守れよ。絶対にな」
「ッ!?……てっきり、娘を守ってくれ。とか言われると思ったんだがな」
「馬鹿か?アイツは誰かに守られなきゃダメな程、弱くねーよ。お前は何かと無茶するからな」
「ウッ……って!お前だってあの時とんでもない無茶しただろ!!」
あの時とは、白騎士事件の事だろう。確かに、あれはとんでもない無茶だ。木場の命を助けるために、自分の命を捨てたのだから。
「まぁ、お前はこっちで頑張れよ。あと、しばらくこっちには来んなよ。まだ束と2人で色々やりたいからな」
「はぁ……分かったよ。お前が決めたんなら、あの人は人の心を取り戻したんだ。もう怪物じゃない。しっかり面倒みなよ?」
「分かってるって。じゃ、俺達はこれで」
そう言い残すと、束と海堂はゆっくりと消えていった。笑いながら3人に手を振って。
ようやく書けた……結構間が空いてすいませんでした!
次回もお楽しみに!感想と評価、その他作品もよろしくお願いします!!