ISと無気力な救世主   作:憲彦

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昨日は更新できずにすみませんでした。何か、ありとあらゆるやる気が吸いとられ、とても文章を書ける状態ではありませんでした……


蛇と兎 下

ここに来てからどれくらい時間が経ったのだろうか。死神君から判決を聞いてから、結構経つが、まだ転生するつもりはない。いつも海堂と一緒に行動しており、境界では珍しいカップルとして少し話題になっている。実際に交際している訳では無いがな。

 

「クロエ……どうしてるかな……?」

 

「クロエ?誰だそれ?」

 

なんとなく束が発したクロエの名。海堂はあまり束の過去に触れないので、その名を聞くのも初めてだ。当然食い付く。

 

「あぁ~。私の娘の1人だよ。ここに来る前、私が心友に託した、大切な娘の1人さ」

 

「娘居たのか!?」

 

「血は繋がってないけどね。私のせいで生まれたような存在だし、私は自分の作った物には名前を付けて、自分の子供の様に扱う。私の科学者としてのポリシーだよ」

 

海堂はかなり驚いたが、束の言葉を聞くと納得して、深いことまでは聞かなかった。詮索しない代わりに、こう言った。

 

「なら、今日はその子に会いに行くか!」

 

「え?」

 

どうやって?と聞く前に、海堂が束の手を掴んで走り出し、境界の出入り口まで走っていった。

 

「うぇ!?チョッ!!ウワァァァ!!!」

 

勢いよく飛び出すと、そこは雲の上だった。境界の入り口は結構高い場所にあるようだ。最初は重力に任せるように落ちていき、高度50メートルの辺りで急停止。そこからはゆっくりと穏やかに飛んでいる。

 

「ッ!?ここは?」

 

「現世。生きてる連中が住んでる世界だ」

 

海堂の説明で納得。久し振りの現世を懐かしむ様に、様々な場所を眺めている。空から落ちたとき、スカイツリー等の世界的に有名な物が見えたことから、ここは日本の首都として扱われている東京だ。

 

「娘さん預けた家ってどこだ?」

 

「ここから南東に50キロぐらいかな?」

 

と言うことで、海堂と束は町を眺めながら南西に飛んで行った。町の賑わい具合から見て、今日は休日の様だ。中には休日になったから、久し振りに実家へ帰るIS学園の生徒もチラホラ見える。IS学園の制服は他の学園の物よりも目立つので、すぐに分かる。

 

「今日は学園の生徒が多いね~」

 

「クロエって言うのも、IS学園って場所に通ってんのか?」

 

「それはどうだろうね~?どこの学校に通おうと、それはあの子の決めることだからね~」

 

束はクロエを千冬に託した後、すぐに消滅してしまった。後の事は何も分からないのだろう。そんな感じに雑談をしながら飛ぶこと約3時間。そこそこスピードを出して飛んできたので、千冬の家が見えてきた。

 

「ん?草加?」

 

表札を見て、昔の自分の知り合いと同じ名字に少し疑問を持った。なんせ、昔は「俺には結婚なんか無理だ」だの、「そもそも俺を好きになる女性は居ないだろ」とか言っていたからだ。少し疑う。

 

「あぁ。私の友達、草加雅人って人と結婚して、名字変わったんだよ」

 

「あぁ。そう(本人だったァァ!!)」

 

変わり果てた知り合いの今を見て、海堂は頭を抱えている。少し受け入れられない部分があるのだろう。結構前に結婚してると伝えられていたが、ほとんど信用していなかったのだ。だってあの草加だもん。クソが付くほどの仕事人間。親しい人の前以外は鉄の仮面を付けたような温度の無い表情。人や自分よりも仕事を優先。物欲や人間の三大欲求はどこへ行った?と言うレベルで酷かったのだ。結婚したと言う言葉その物がドッキリに思えてくる。

 

「あ!来た!!」

 

久し振りに見るクロエの姿。あの時より少し身長が伸びていた。その事に気付くと、年甲斐もなくハシャイでいる。

 

「さっき見た制服と同じだな」

 

「うん!IS学園の制服が似合ってるよ!!」

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえり~!」

 

クロエが家に入ると、千冬の声が響いてきた。そしてその後に、

 

「「お姉ちゃんお帰り~!!」」

 

草加と千冬の子供たちが飛び出してきて、クロエに抱きついた。見た目的に小学校3年生くらいだろうか。元気の良い2人だ。

 

「ん~……?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、前に話を聞いたときは娘と息子って言ってたけど……どっちも娘じゃね?」

 

……まぁ、確かに片方。恐らく姉の方は千冬と草加の要素がバランスよく混じってる。千冬の見た目があるから女に見えるが、メチャクチャ中性的な見た目だ。髪を短くして、服の系統を男物に変えれば、性別を誤魔化せるかもしれない。

 

それに対して弟の方。見た目が完全に女。草加も千冬も顔が整っている。その部分を混ぜれば、姉の様に中性的な顔立ちになる筈なのだが……

 

「男の娘ってヤツじゃないの?」

 

しかも表情。スゴく柔らかい。草加も千冬も他人には絶対に見せない様な表情をしている。10人中10人が好きになるだろう。そして髪の毛。艶があって軟らかそうだ。動くたびに綺麗に揺れている。肌、色白で肌理細やか。一目見ただけでも柔らかくスベスベしていると予想できる。

 

「本当にアイツの子供だよな?昔の草加と全然似てないんだけど」

 

「間違いないと思うよ。昔のちーちゃんソックリだし。弟と言うよりは妹にも見えるから、間を取ってオモウトで良いんじゃない?」

 

束が何を言っているかわからない件。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロエを見ると、ここに来た目的が済んだので、境界へと帰って行った。

 

「ありがとうねぇ。久し振りに娘を見ることが出来て満足したよ」

 

「そいつは良かったな。早く家に帰るか」

 

海堂が帰ろうとすると、そこに死神君が現れた。すると、束に用事があると言って、海堂を先に家に帰らせた。

 

「で?用事って?」

 

「はい。転生に必要な書類がまとめ終わったので、それをお伝えに来ました。ですので、転生の日取りを決めようと思いまして」

 

「え?すぐに転生しなきゃダメなの?」

 

「はい。貴女の場合、本来なら死なない筈の人間まで殺してしまった。それも大量に。その事件で死んでしまった方の魂達の中には、今でも貴女を消滅させろと言う声もあります。それに……」

 

「それに?」

 

「貴女の作ったIS。そのコアには人格がある。この先彼らが進化すれば、それは新たな生命となってしまいます。しかし、新たな生命を作るのは、神にのみ許された行為。貴女はその行為に足を踏み入れてしまった。それが1部の神の間では結構な問題になっています。それ故に、裁判では確かに転生は許可されました。ですが、その行為が原因で、その判決が覆り、消滅処分になってしまう可能性もあります」

 

要するに、早く転生をする必要が生れたと言うことだ。原則として、この世界では一度決まった判決を覆すと言うことはない。覆せるのは裁判に不正などが見付かった場合のみだ。本来なら、判決が覆り、束に消滅処分が下ることはないが、神以外の者。しかも人間が神の領域に足を踏み入れるのだ。危険と判断されても仕方無いだろう。

 

「そんなことを我々死神が黙って認めることはありませんが、いつまで言ってられるか分かりません。ですので、早く決めてもらおうと思い、これを持ってきました」

 

書類を受け取ると、暗い顔をしながら海堂の家へと戻っていった。死神君はそれを見届けると、木の影に隠れていた海堂に声をかけた。

 

「行きますか?」

 

「当たり前だ。けど、俺1人じゃぁ無理だ。頼む。一緒に来てくれ」

 

「……魂を正しい場所へ導く。それが死神です。ご一緒しましょう」

 

空っぽの頭を地面に擦り付けて、自分の命と大切な友人の命を奪った人間のために、海堂は頭を下げて死神君に一緒に助けるように懇願した。死神君はそれに乗ることにした。

 

2人で束の判決を覆そうとする神の居場所に乗り込んだ。その場所では、絶賛、束の消滅に就いて話をしていた。しかも、今殺ろうと言う話にもなっている。

 

「あぁ~いたいた。ようやく見付けたよ~。神の皆さま方」

 

「こんな時間に何の用だ?人間が軽々しく神同士の会話に口を挟みおって」

 

「まぁまぁまぁ。お喋りの邪魔をしたことは謝るよ。だけどな……お宅ら、うちの束を消滅させようとか話してただろ?」

 

「それがどうした?」

 

「境界の裁判で、束は転生後に50年の監視が付けられることで転生が許可されたはずだ。それを無視して消滅っていうのは~、不味いんじゃないか?」

 

神の前だが、海堂の態度はいたって普通だ。神だからと言って特に改まった様子は全く無い。

 

「お前はその発言が不味いんじゃないのか?人間の魂風情が、神に口出しなど、烏滸がましいにも程がある」

 

「そもそも。あの女はたくさんの人間を殺している。お前もその1人だ。死んでくれと思わないのかね?」

 

「……そうだな~。確かに、死んだときは恨んださ。夢を叶えられなくて、木場には曲を聴かせてやれなくてで悔しい思いもしたさ。だがな、こっちで夢は叶えられたんだ。アイツにもいつかは曲を聴かせる。恨む理由が無くなったんだよ。あんたらはただ、自分達にしか出来ない筈の事が、アイツに出来た事が気に入らないだけだろ」

 

「……貴様、神に対してその口の聞き方は何だ?消されたいのか?」

 

「あらあら?そんなことしちゃって良いのかな~?そんなことやったら、アンタらの立場が危ないよ~?なぁ、死神のにーちゃん?」

 

「えぇ。神々の間にある絶対不変の法律。その第6条には、『罪なき魂を消滅させた神は、その全権を剥奪する』とあります。当然、共犯した神も同じです」

 

この法律はどんな神にも適応される。これにはどんな神も逆らうことが出来ない。

 

「ふん。それがどうした?お前を殺さずに、あの女だけを殺せば良い。それだけの話だ」

 

「第9条『神々の裁判で下された判決は遵守される。これを無視した神は、その全権を剥奪する』お忘れですか?これはあなた方神が作り上げた法律ですよ?」

 

「殺したきゃいつでも来い。まぁ、それなりの覚悟を決めてからな」

 

自分達の定めた法律。しかも絶対不変にして絶対遵守される物。今やこれが自分達の首を締めている。これを出されれば、頭の固い神は何も出来なくなるのだ。

 

「因みに裁判は不正の発覚が無い限り、再び審議をすることはありません。これもあなた方が決めた物です。当然、偽の不正証拠も厳罰になります。忘れたとは言わせませんよ?」

 

「つー訳で、束は殺させない。もしまた殺そうって言うなら、何か手を出そうって言うなら、こっちは黙ってないからな」

 

「当然、その場合は死神も全員そうです。正しく導く。その為ならどんな者が細工をしようとも、我々が全力で阻止します」

 

それを伝えると、海堂と死神君はその場所から出ていった。因みに、これ全部映像に残ってる。死神君が市場で買ったカメラを設置してたんだ。翌日海堂か束が消滅させられていれば、すぐに犯人がバレる。

 

「ただいま~」

 

海堂が家に帰ると、束は横になって渡された資料を読んでいた。

 

「あ、直也……どこ行ってたの?」

 

「あぁ、酒とツマミが無くなってたから、買ってきた」

 

「そう……ねぇ、直也は私の事どう思ってる?私はここにいたい。この先もずっと……でも」

 

「ずっと居たいなら居れば良いだろ。俺は気にしない。誰が何と言おうともな。気が済むまでここに居ろ」

 

「でも、私は……」

 

「死んだんだ。もう昔の事なんかどうでも良いだろ。俺にとっては、お前が居ない方が嫌だよ」

 

資料を束から取ると、丸めてゴミ箱の中に放り込んだ。海堂は束に居て欲しいのだろう。この場所に。自分の1番近くに。

 

「無理して今決めんな。のんびり考えろ。ここには時間なんて無いんだからよ」

 

「一緒に、居ても良いの?」

 

「……束、俺と一緒に居てくれ。これからも」




すみません。テンション戻らない変な状態で書いたので、本編もそれに連れて変なものになってしまいました。お詫び申し上げます。

次回もお楽しみに!感想と評価、『教えて!憲八先生!!』の活動報告もよろしくねお願いします!!

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