ISと無気力な救世主 作:憲彦
……銀魂ポロリ編の様にギャグで行こうと思ったんだけど、なんか真面目な物が続いていますね……
救済
「ありゃりゃ?ここ何処だ?中途半端にデータが残ったと思ったら、訳の分かんない場所に出ちゃったよ」
何処かの薄暗い場所。周りは荒れている所を見ると、既に廃棄された場所の様だ。そこに置かれているパソコンの画面から、あの時千冬と草加の2人の手によって死んだはずの束が出てきたのだ。
「と言うか、何でここに出てこれたの?今のデータの量じゃあじきに消滅するはずだけど……まさかこんなに生きてたとは……ん?」
攻撃を受け、体が灰に変わる瞬間、わずかではあるが束のデータがコアに残り、それがコアネットワークから排出されて電脳空間をさ迷ってたのだ。しかし、量が少ないので消滅する。はずだった。どう言う訳か、長い間消滅する事は無かったのだ。それだけではなく、何かに呼ばれるようにこの場所に出てきてしまった。そして、周りを観察していると、自分の足元に転がってる様々な部品に気付いた。
「これは……ISの部品?と言うことは何処かの企業?でもだとしたらこんな乱雑に保管はされてない……廃棄された?いや、部品が残ってるのはおかしい……ちょっと端末を拝借しよう」
そう言うと、まだ使える端末を起動して、今自分の居る場所について調べた。廃棄されたのならデータは残っていない。残っていたとしても、なんの価値も無いゴミしか残っていない筈だ。だが、どうやら様々なデータが残ったままだった。しかも厳重なロックがかかった状態でだ。
「ふん。この程度の鍵、この私にとっては紙切れ同然なんだけどね~」
そう言うと、本当に簡単にパスワードを解除して、データを閲覧し始めた。
「ふむふむ。ここはドイツ……そしてこの陰気な場所は廃棄された研究所……ねぇ」
既に必要な情報は手に入れた。だが、こんな怪しいデータを見せられて、素直に「はいそうですか」となる天災ではない。この端末に残っていたデータ、ホコリが床に散らばっているが、明らかに最近数名の人が出入りしている跡。何か大きなもの、例えるなら人間。そのくらいの大きさの物を引き摺った跡。極め付きは何かが腐敗した様な匂い。廃棄されたと言うのは、多少の観察力があれば当然気付くことが出来る。束ほどにもなれば、考える間もなく感覚で分かる。
「はぁ……この国の連中は懲りないね~。全く。まぁ、私には関係無いけ―ガダッ……ん?誰?」
VTシステムの事や試験管ベビーの事。ドイツと言う国には束が耳に留めた内容の事が幾つかある。むしろISが世間に浸透してからと言うもの、これ程までに重大な問題を起こしてくれたのは、ドイツとアメリカ、イスラエル程度だ。そして、そんなことを考えているとき、後ろのガラクタを置いてある場所から誰かが動いた様な音がした。ガラクタをどかして確認すると、そこから1人の少女が出てきた。
「銀髪で黒い眼球に金色の瞳……お前、試験管ベビーだな。しかも失敗作として破棄された初期型の」
「は、はい。そうです」
「そ。名前は?いくら人工的に作られた存在でも、名前くらいはあるでしょ?」
「名前……?NO.968」
「番号じゃなくて名前。分かる?な・ま・え。君の製作番号には興味ないよ。君たちNO.1000以前の個体は破棄された事は知ってるの。番号になんか興味は無い。私が聞いてるのは名前」
「それ以外の名前は……私には……ありません」
「あっそ。じゃあ君以外の試験管ベビーは?君が968番って事は、それ以前の個体も存在してる筈だよね?」
「……失敗作と判明すると、全員消滅廃棄されました」
「じゃあ何で君は生きてるの?こんな生命倫理もクソも無いような実験。そしてそれを知ってる君の様な存在。存在価値が無いと分かれば1人残らず殺す筈だけど?まぁ、私が人に言えた義理じゃあ無いけどね」
「私は……逃げてきました……廃棄される直前に。その後は、ずっとここに……」
「……成る程。非常食の空が転がってるって事は、それを使って飢えをしのいでいたって訳……」
そう言うと、転がってるガラクタに手を伸ばし、何かを作り始めた。
「何をやってるんですか?」
「ここから逃げるための道具を作ってるの。こんなに材料があるんだ。2人乗りのロケットくらい作れるよ。後は、私でも嫌悪感を抱くこの胸糞悪い研究所を消し飛ばすか」
重要な情報を保管してある古い研究所等には自爆機能が付いている。軍の施設であればなおさらの事。最悪の場合はそれを発動させて、都合の悪いものをまとめて消し飛ばせる。古いガス管の破裂と言えば誰もが納得するしな。
「ん~……ま、飛べれば良いし、デザインは気にしなくて良いか。君も早く準備しな。置いていくよ」
「何故、私を助けようと……?」
「君はこんな場所で一生暮らしたいの?私は御免被るよ。君もこんな所に居るつもりは無いでしょ?安心しなよ。ここを出たら信用できる人の所に送るから」
「信用……」
「うん。なんせ、来世何て言う曖昧な物に希望を託してこの私を殺した人だ。この世の誰よりも信用できるよ。よし、こんなもんで良いか。早く乗って」
まさかもう完成するとは。確かにここにあるのは全部IS関係の部品。2人乗りのロケット程度、完成までは大した時間はかからない。が、流石に速すぎだ。エネルギー面一体どうした?しかも隣にあるIS的な物は何だ?
「コアがあればもっと早く作れたんだけどな~。まぁ、無くても動くけどね。両方とも」
何恐ろしいこと言ってんのこの人。と言うかデザインは気にしなくて良いとか言っておきながら、完全にロケットニンジン型じゃねーか。
「こっちのISは君が持って―」
「そこに居るのは誰だ?」
乗り込んで脱出しようとしたとき、入り口の扉が開いて複数の男が入ってきた。格好的にここの関係者の様だ。その後ろに銃を持ったのが3人居る。何故そんなのを付けてきたのだろうか。
「あらら。管理人来ちゃった?早く乗りな」
「ん?誰かと思えば篠ノ之束と、廃棄から唯一逃げ出した失敗作のNO.968ではないか。何故ここに居るんだ?」
「どうでも良いでしょ。あ、この子廃棄されたんでしょ?私が貰っても問題ないよね?と言うか貰うよ」
「それは困る。アレは私の作ったものだ。科学者として失敗作は完全に消去しなくては気が済まなくてね」
「はぁ、何で科学者ってこうもまともなのが少ないんだろうね~」
「貴女に言えた義理ですかな?自分の発明が認められなかったくらいで、一度世界を破壊しようとした。今ロケットに乗り込んだアレの様な存在が出来たのも、大元の原因は貴女にあるんですよ?」
「原因を追求しようとしたら、いくらでも責任の転換は出来る。そんなことも知らないのか?ハゲ猿。自分の作った物に責任を持てないくせに、よく科学者なんかやってられるな。まぁ、その程度の事も理解できない猿なんだろうけど」
「猿でけっこう。ではここは猿らしく、私の場所を荒らした報いは受けてもらいますよ。あのウサギ女を殺しなさい」
後ろに居るヤツに命令すると、銃の安全装置を外して前へ出てきた。だが、束は全く焦っていない。むしろ余裕そうだ。
「やめときな。お前らじゃ私には勝てないよ」
「負け惜しみですか?実に見苦しいですね。まぁ、もう遅いですけどね。……殺れ」
狭い部屋に銃弾が排出される爆音と硝煙の匂い、煙などが充満した。撃ち終わると束の死体を確認するために煙が晴れるまでその場で待っていた。だが、
「ウワァァァ!!」
「アアアア!!」
鉄の塊が飛んできて、銃を構えていた連中を吹っ飛ばした。
「な!?どう言う事だ!?」
「言っただろ?やめておけばって。私を殺す事が出来るのは、この世界で4人しか居ない。でも、お前たちはそこには含まれてないよ」
煙が晴れ、束の姿を確認できるようになると驚いた。体には確かに銃弾が当たった痕がある。穴も開いている。だが、血を流していないのだ。しかも穴から見えるのは臓器等ではなく数字とアルファベットの羅列。しかも徐々に塞がってきているのだ。
「お、お前は一体……」
「ISを作って世界を変えた元凶さ。そして、彼女の様な存在を作り、悪戯に世界を引っ掻き回したただの罪人だよ。と言うわけで、天災は天災らしく、嵐の様に去っていくよ」
近くにあった端末を操作して、ここの自爆機能を作動させた。作ったISを待機状態に変えて、自分もロケットに乗り込んだ。建物からニンジンが飛び出すと言うシュールな光景の後、その場所は跡形もなく消し飛んだ。
「あ、あの……」
「ん?」
「助けてくれて、ありがとうございました……」
「お礼はまだ早いよ。日本に着くまで時間がある。それまで休みな」
その言葉を聞くと、少女は眠りについた。精神的に疲れていたからなのか、すぐに眠った。
「さぁ~てと、私もや~すも」
久し振りに外に出たからか、束も疲れたようだ。日本に着けば自動的に着陸するようになっている。設定した座標も千冬の家の近くだ。ISの部品を使っているため、レーダーにも極力干渉せずに進むことが出来る。安心して眠ることが出来るだろう。
~4時間後~
ピーピーピーピー!!!
「……アラームなんか設定したっけ?……もう着いたのか。おい。起きな。着いたよ」
無事に着陸すると、少女をロケットから降ろし、1つの端末とさっき待機状態にしたISを渡した。
「ここから見えるあのでっかい家。あそこに私の世界一信用できる人、草加千冬が居るから、その人に今渡した端末を渡すんだ。それと、そのISはプレゼントだよ」
「……あの、貴女は?」
「私は用事があるからこれで帰るよ。早く行きな」
「はい……」
束の指示した場所を目指して、歩き出した。だが、束が来ないためか、少し不安そうにしている。
「ちょっと待って。もう1つ渡すものがあった」
「?」
「クロエ。君の名前だ。あの男が言ったように、君を作り出した大元の原因は私。でも、私は自分の作ったものには必ず名前を付ける。大切な私の子だから。君は今日からNO.968ではなく、私の大切な娘の1人、クロエだよ」
クロエを抱き締めながらそう伝えた。クロエは初めて感じる愛情と言うものに、少し戸惑って居るが、名前を貰い、愛情を受けて嬉しそうにしている。
「あ、ありがとうございます……!」
「コラコラ。泣いちゃダメだよ。さ、早く行きな」
「はい!お母さん!行ってきます!」
「うん。行ってらっしゃい」
娘の出発を見届けると、束はまたロケットに入って飛んでいった。
「全く……ここまでシブトイとは……自分でもちょっと引くな~。もう限界みたいだけど……欲が出ないように肩入れはしないことを心掛けてたんだけど、出来れば、娘の成長を見たかったな~」
限界。その言葉通り、体は消滅しかけている。体が薄くなってきて、パーツごとに消えてきている。
そしてその頃、千冬の家では玄関でクロエと千冬が話をしていた。
「束が?」
「はい。これを」
少し疑っている様だったので、千冬に先程渡された端末を差し出した。
『やぁやぁ!ちーちゃん聞こえる~?久し振りだね~。今目の前に私の娘が居るはずだけど、私の代わりに面倒を見て欲しいんだ。ちょっと信じられない事もあるけど、全部本当の事だから信じてあげてね。私はもう出てくることは出来ない。押し付けるようで悪いけど、娘の事をお願いね!!じゃあ!』
「……クロエと言ったな。どこで降ろして貰った?」
「えっと……あの方向です」
「結構近いな……よし。まだ行けるか」
そう言うと、硬式の野球ボールを持ってきて、油性ペンで何かを書いた。そして、一緒に持ってきたバットを使い、束が飛んでいるであろう方向に全力で打った。
「ウワッ!?何だ?……ちーちゃん、君はやっぱり細胞レベルでチートだねぇ~。ハハハハ!!アッハッハッハッハッハ!!」
『任せろ』
千冬はその一言を届け、束はそれを見ると完全に消えた。だが、その表情に悲しみはない。笑いながら、穏やかな表情だった。
「さてと、アイツには伝えたし。クロエ、入れ。子供たちにお前の事を紹介する。雅人さんにも連絡しないと」
最初こそは疑われたが、他ならぬ束からの頼みと言うことで、千冬はクロエの事を受け入れた。これ以降、彼女は篠ノ之クロエと名乗り、千冬達のお陰で戸籍も取得することが出来た。名字が名字の為、何かと不便な事はあるが、クロエ自身その名を誇りに思っているため、全く気にしていない。
画面から出てくるのは、バクスターが画面から出てくるのをイメージすれば分かりやすいです。
……時間系列的に色々と無理がありますが、多目に見てください。これが限界です。試験管ベビーのナンバーについては適当です。原作でそう言った番号があったとしたら申し訳ない。あったら直そうと思います。
次回もお楽しみに!感想と評価、『教えて!憲八先生!!』の活動報告と『インフィニット・ネクサス』もよろしくお願いします!!
インフィニット・ネクサス……後ろに何か付けましょうかね。何か寂しい気もするので笑