ISと無気力な救世主 作:憲彦
2月14日。男子、特に男子高校生がチョコを貰っただの貰えなかっただので一喜一憂する日。が、実際は3世紀にローマで残酷な拷問の上に撲殺された聖人、バレンタインの記念日だ。人の死を記念日にする辺り、拷問と処刑を執行した連中への皮肉も含められている感じがするな。
話が少しズレたが、この日は相愛の男女が愛を告白し、カードや贈り物を取り交わす日だ。セントバレンタインデーと言うらしい。因みに、女性が男性にチョコレートを送る風習は日本だけの物だ。
重要なのは、日本だけ女性が男性にチョコレートを送るではない。相愛の男女が愛を告白すると言う所だ。相愛と言うことは既に交際を始めている。何故また告白する必要があるんだ?そもそも聖人が1人死んだ日だ。どんな理由で拷問に逢い撲殺されたかは知らないが、そんな日を愛の告白をする日に使うか?
まぁそんなことはどうでも良い。問題は、この学園でこの日を送る今作の主人公である一夏だ。最近登場回数が少なかったから少し紹介しておいた。この日は特に早く起きる。何故なら、部屋から出られなくなるからだ。
「遅かったか……」
訂正、もう出られなくなっていた。まぁ理由は皆さんお察しだろう。この学園は寮生活だ。普通の高校とは違い、入り口に下駄箱があるわけではない。その為、下駄箱にチョコレートをブチ込むことは不可能だ。なので、大量に部屋の前、もっと言えばドアの前に置かれるのだ。バリケードが組まれてる訳じゃないのに、ドアがピクリとも動かない。
「んぬぬぬ!!!はぁ……ダメか」
一応、本音と交際していることは公言しているが、やはり仲良くなりたいと言う人は沢山居るのだろう。ほぼ学園の教師を含めた全員から送られるのだ。仕事しろよ教師。
「今起きてるのは……ダメだ。誰も居ない……」
そりゃあ4時だぞ。起きてる訳無いだろ。起きてるのはここにチョコレートを置いた馬鹿共だけだ。あいにく、一夏の友人にはそんな馬鹿は居ない。
「はぁ……気は進まんがドアぶっ壊すか……」
バジンの整備や修理に使う工具箱からドライバーを取り出し、ドアを止めてあるネジを外した。が、これでもドアは開かない。まぁこれは去年も同じだったので、冷静に対応出来る。ドアを蹴飛ばすんだ。これで吹っ飛ぶ。因みに去年はSHRに来なかったのを怪しんだ千冬が、本音を連れて一夏の部屋に行った。それで救出された。その後に、対策をいくつか考えた。これはその1つだ。
「開いたな……仕分け始めるか……」
仕分けとは、どのクラスの誰が渡したかだ。因みに、大半と言うか大体は一夏の所属しているクラス以外の生徒だ。教員は……焦ってる人しか出さない。
中には危険な物も混じってるのがあるので、本人に返すようにしている。送り主不明のチョコレートは、千冬と真耶が毒物検査にかける。毒薬、睡眠薬、下剤、自白剤、惚れ薬、催淫薬等の類いが見付かった場合は、草の根を分けてでも送り主をさがしだす。
まぁ、この日の朝食の時間に、今まで接点の無いヤツが急に馴れ馴れしく関わってくるが、大体ソイツが犯人で間違いない。犯人が判明した場合、千冬と真耶が生徒指導室に連行して、反省文と道徳の授業、その他生命倫理に恋愛観や人として最低限のマナーを1から叩き込む。なので、出てきた人は趣味、哲学書を読むことと勉強、尊敬する人は二宮金次郎と言う理想的な生徒へと変身して出てくる。ほとんど洗脳に感じるがな。
「えっと……これが1年の3組で、こっちが5組。7組ってどこだよ?何で卒業間近の3年生まで送ってんだ?あぁ今年も教師から送られてるよ……」
スマートブレインの独身社員を紹介してやれ。少しは減ると思うぞ。
「2年8組……あったか?そんなクラス……」
IS学園七不思議の1つには、存在しない2年8組の生徒がたまに現れると言うのがある。何故2年生をピンポイントで?
「去年と同じで、俺のクラス以外は大体送ってんな~。諦めろよ……」
手紙付きのチョコレートも送られるが、「愛人でも良いので付き合ってください!」や「旦那と過ごせない寂しさを埋めてください」とか「お姉さんとイケナイ関係にならない?」みたいなアホな手紙が送られてくる。しかも写真付きで。しかし、相手の気持ちなので無下にも出来ない。1枚ずつ一夏なりの丁寧な返答の手紙を書く。
内容は「俺は本命1人としか付き合うつもりないし、そもそも、2番目で満足するようなヤツとは一緒になる気は無い」や「有給や休みの日を利用しろ」とか「他を当たれ」みたいな感じの返事だ。
「送り主不明が出てきたな……あ、これもだ。これも……また出てきた」
取り敢えず、3時間かけて漸く仕分け作業が終わった。後はこれをそれぞれの教室に送るだけだ。1人じゃあ当然無理なので、バジンに手伝ってもらう。2年8組のはどうするべきだろうか……一応送り主不明の方に入れてある。
「じゃあバジン。頼むぞ」
『またかよ……恒例行事にするつもりじゃないよな?』
「んな事するかよ……早く運ぶぞ。変身」
『Complete』
量が量だ。生身の人間に運ぶことは出来ない。ファイズになるしかないのだ。それでも時間はかかるがな。最悪アクセルフォームでそれぞれの教室に送ることになる。
教卓の上に置かれた大量のチョコレート。ある意味この光景はシュールだ。
「おはよう~!いっちー!はい!バレンタインのチョコレート!!今年は手作りにしてみたよ!!」
「手作りって……また手が込んでるな」
「うん!リンリンと一緒に作ったよ!!」
「うえ?鈴も?」
「そりゃあね。いつも世話になってるし。お礼くらいは作るわよ。ほい」
雑に投げ渡したが、チョコレートその物は綺麗にラッピングされている。時間がないなかで良く作れたな。
その後は、ラウラとデュノア。最後にオルコットから貰った。が、サンドイッチと言う前科があるので、ラッピングをといて1つ鈴がオルコットの口に入れた。オルコットは倒れないので今回のは当たりだった様だ。
その頃職員室では
「今年も来ましたね~。送り主不明チョコ」
「良くこれで送る気になったな……誰が送ったか分からんだろ」
直後に、自分が送り主です!って言ってるような感じだがな。取り敢えず、それぞれ取り出してから、砕いて欠片を検査機にかけた。すると、見事なまでに2年8組以外のチョコに異常な反応が出た。毒物は入ってないが、全部惚れ薬や催淫薬だった。
「どこで手に入れた……」
「最近は色んな物がネットで簡単に買えますからね~。こう言う薬は普通に売ってますよ?」
「買ったのか?」
「ご想像にお任せします!あ、そう言えば、織斑先生は草加さんにチョコあげるんですか?」
「そのつもりだ。放課後にでもバジンに配達を頼もうと思ってる。真耶は?」
「私もあげようと思ったんですけどね。勇治さんが手作りを私にくれたんですよ~!ラッピングも綺麗だったし、見た目も可愛かったですし、本当に女子力高いですよね~」
「……それ、本人の前では言うなよ……かわいそうだから」
まぁ、確かにそうだな……。一見すると、真耶の方が女子力の塊の様に見えるからな。でも実際は木場の方が女子力が高い。……この小説での性別間違えたな。結婚前夜と木場勇治編のカッコいい木場はどこに行ったのだろうか……
さてと……次はホワイトデーかな?書くかどうかは話が別だけど。
次回もお楽しみに!感想、評価もよろしくお願いします!!