ISと無気力な救世主   作:憲彦

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2本目!


託した者と託された者

「ゼロ。親父と2人にしてくれ」

 

一音の言葉に従い、ゼロはその場から溶けるように消えていった。まるでそこには最初からなにも居なかったかのように思えるほど、綺麗に消えてしまったのだ。

 

「いつから気付いてたんだ?俺がゼロと一緒にこんなことやってるって。もしかして、最初からか?」

 

「いや。気付いたのはついさっきだ。違和感こそ感じていたが、一体それがなんの違和感なのか気付かないレベルでな」

 

「なら、聞かせてもらおうか?アンタの推理を」

 

「推理って程じゃない。ただ、さっき気付いた違和感の正体はお前だった。最初、その表現が合ってるか分からないが、ショッカーが現れた最初の戦いの後、俺は海東に頼んでファイズギアを盗んでくる様に頼んだ。だが、アイツはデルタギアも一緒に盗んできた。お前に頼まれたと言ってな」

 

「あぁ。間違いない。頼んだのは俺だ。だが何故それが違和感なんだ?」

 

「おかしいんだよ。確かにショッカーの攻撃はあったが、まだ情報が大きく出てない時だった。士と海東の2人がショッカーと関わりを持ってる事も、ベルトを持ってくる事を頼んだことも、あの時は当事者しか知らないはずだ。だがお前は、士達がショッカーと関わりがあるとこを分かっていた。そしてベルトを持ってくる事も。あの時アイツはスマートブレイン方面とは言え、ただ歩いているだけだ。にも関わらず、ベルトを盗みに行っている事を知っていた。そして自分の物も取ってくる様に頼んだ。おかしいだろ?なんでお前が知ってるんだ?」

 

「海東から聞いた。って言ったら?」

 

「ならアイツがそう言う筈だ。だが、海東は話したとは言っていない。お前が頼んだと言ったんだ。1番疑問に思ったのが、本音がライフエナジーを吸われ死にかけてたとかき、病室でお前が言った言葉だ。『俺はこんなの』後に続く言葉がなんでも、その言い回しをするって事は先を知って、阻止する為に動いてる人間じゃないとできない。色々と考えてみた。お前以外のヤツが何かしてるんだって思ってみた。だが、誰もできないんだよ。封印して使われなかったライダーズギア。海東が持ち出すまで誰も使ってない。誰も触ってない。俺が変身できない様に細工できるのはお前だけだった……」

 

ショッカーを長い間相手にして来た士と海東も細工をすることは可能だ。しかし、ショッカーを鬱陶しく思っている2人はそんなことをする筈がない。そして村上や草加、木場はベルトが盗まれた後に一夏が再び戦おうとしていることに気付いた。本音やその他の身内には元々話していない。状況的に、一音以外やれそうに無いのだ。

 

「はぁ……まさかそんなことで気付くとは……正解だよ。俺がやったんだ。ベルトを細工してアンタが変身できない様にしたのも、時間を何度も改変して、歴史を変えようとしたのも。全部俺だ」

 

「一体どうやってそんなことを……そもそも何故ゼロが生きているのか。そこからが疑問だ」

 

「簡単だ。アンタらはゼロを殺せなかった。ただそれだけだ。世界中のIS。起動してない物も含めて5日もかけずに全て掌握した相手だ。簡単には死なないと思ったんだよ」

 

一音は、あの戦争からしばらくしてドイツに渡った。一夏が最後に戦い、ゼロを破ったあの場所へと行くために。全てのISを掌握し、開発者自身が危険すぎると判断して封印する程の代物。ファイズブラスターとオーガの攻撃を受けたとしても簡単に破壊される筈がない。可能性は低いが、その考えに懸けてその場所を訪れた。

 

結果、一音の考えは当たっていた。ゼロは死んでいなかった。灰になったコアをかき集めて、復活を試みていたのだ。それほどまでに凄まじい力を持つIS。それを見て、一音はあることを考えた。普通に考えれば不可能な事だ。だが、もしかしたらゼロなら可能性があるとして。

 

「復活したゼロに聞いてみたんだよ。歴史を変えられるかって。無理だろ?普通。でもアイツは言ったよ。力を覚醒させれば可能だと」

 

「なんでそんなことを……」

 

「なんで?本気で言ってるのか?」

 

突然、一音の声色が変わった。強い怒りや悲しみが混ざったような声を出し始めたのだ。

 

「アンタが、アンタが世界を取ったからだ!俺たち家族を捨て、世界を守ることを選んだ!そりゃ最初は、皆アンタの言葉通りに、いろんな事を頑張ったよ。破壊された都市の修復や、傷付いた人のケア。母さんと草加さんは忙しくなる店を必死で回していた。アンタが託したものを守るために必死で!でも、分かるか?忙しさから抜けた瞬間に見せる、皆の顔が……意識しないように、アンタが居なくなった寂しさに気付かない様に、必死で動き回ってもいつかはやって来る。忙しさから抜け出た瞬間にする、あの表現が……どこも見ていない。明日どころか、今さえも見ていない。見てるのは、アンタの幻影だ。アンタがいた頃の、アンタが動いていた頃の影を!虚ろな目でずっと眺めている姿が!アンタに分かるか!?」

 

「…………」

 

「そんな表情を、俺は見てることができない。だから、アンタが生きている未来を手に入れる!全員が笑っていたあの頃を、もう一度!だから、俺の邪魔はさせない!変身!」

 

『Standingby complete』

 

デルタに変身すると、一音は走り出して一夏につかみかかった。一音の話を聞く限り、落ち度は一夏にある。一夏は勿論それを理解していた。託したとは言え、それは一方的だったからだ。生き返ってからと言うもの、自分の最期の瞬間について考えた時間はある。そして託した物についても。本当にあれで良かったのかと思ったことすらある。

 

「俺もあれで良かったのか分かんねぇ……でも、世界を救った事は後悔してない」

 

「何故だ!俺たちよりも世界が大事って言うのか!?アンタにとって!俺たちは世界以下の存在だったのか!?どうなんだ!」

 

「そんな訳ねぇだろ!変身!」

 

『555 ENTER』

『Standingby complete』

 

一夏も変身し応戦を始めた。我が儘、独り善がりな戦い、偽善的、自分勝手、並べようと思えばいくらでも並べられる。一夏の戦いは正にそれだった。

 

「邪魔はさせない!絶対に!親父の未来を救うためなら!悪魔に魂を売ることも!俺自身が悪魔になっても構わない!アンタが未来を作り上げる為なら!俺は!」

 

「グッ!自分の未来はどうだって良いってのか!?」

 

「構わないね!例え存在が消え失せても!俺は過去に行ってアンタに降りかかる火の粉を振り払う!」

 

一音の猛攻に一夏は防戦一方だった。全く手も足もでない。だが、自分の存在が消え失せても構わないと言う言葉を聞いて、一夏の動きが変わった。

 

「一音……俺はお前を、消させはしない」

 

「ッ!?」

 

「ハァッ!!」

 

「ガァ!?」

 

防戦一方だった動きが一気に攻める動きに変り、一音の攻撃は全て弾かれ、崩れた所に休む暇を与えない攻撃を叩き込んだ。

 

「グッ……!なんで急に!」

 

「ハァ!」

 

「ウワッ!チィ!オラァ!」

 

『Ready』

 

だが一音もただやられる訳ではない。一夏を殴ると同時にファイズショットを奪い取り、自分のミッションメモリを差し込んだ。

 

「チェック!」

 

『Exceed Charge』

 

「ウォラア!!」

 

「ッ!ウワアアアアア!!!」

 

「ハァハァハァ…負けない……負ける訳には……!来い!スライガーァァァァ!!!」

 

「?ウワッ!?」

 

地下空間イッパイに広がる程の声で叫ぶと、壁を突き破り一夏を突き飛ばして一夏の元に馬の状態のジェットスライガーが現れた。一音はそれに股がり、デルタ専用のブレードを展開する。

 

『グルルルル……』

 

「スライガー、分かってる。だが、もう少し俺の我が儘に付き合ってくれ。これが最後だからよ…行くぞ!」

 

心配するように唸るスライガーの首の部分を撫で宥めると、ブレードを構えて一夏へと駆けていく。

 

「ヤベ……」

 

『complete』

『Startup』

 

アクセルフォームに変身して距離を取ろうと部屋から出ていこうとした。だが

 

「この空間で何処に逃げるつもりだ!」

 

「マジかよ!?」

 

スライガーを加速させ、壁を破壊しながら一夏へと近付いていく。ここまでの道を複雑な迷路の様に見せ掛けた一本道にしたのは、これが目的の様だ。一夏の逃走経路を絞り、逃げ道を直線的にするために。

 

「チッ。我慢してくれよスライガー」

 

180°方向転換し、壁を蹴りアクセルの加速と共にスライガーへと突っ込んでいく。ファイズショットが無いためグランインパクトは放てないが、それでも十分な威力がある拳をスライガーに叩き込むことができる。

 

「フンッ!」

 

「ウォワ!?」

 

胴体に見事に一夏の拳が入り、スライガーは体勢を崩し倒れた。構造上、スライガーは一度倒れてしまうと簡単に立ち上がることができない。一音はスライガーから降りると、ブレードを左手に持ちアクセルフォームの解除された一夏に斬りかかる。

 

「ウッ。利手じゃない方で持ってどうすんだよ!」

 

「こうする!」

 

簡単に受け止められたが、右手に付けたファイズショットで殴り付ける。一撃で止まらず、何度も強烈な拳を一夏に入れ続けた。

 

「グアッハ!」

 

体の至るところから火花が散り、危険な状態に追い詰められた。だがそれは一音も同様だ。受けた攻撃の数こそは少ないが、ファイズショットを使ったり一夏の重い攻撃を受けたりで、ダメージ的には同じだ。体力もお互いに底をつき、意識が薄れていく。

 

「グッ!ハァ!」

 

「ウァ!」

 

『Ready ENTER』

『Exceed Charge』

 

「ッ!ハァ!チェック!」

 

『Exceed Charge』

 

一音の拳をなんとか受け止め、力任せに投げ飛ばす。一瞬隙ができ、ポインターに自身のミッションメモリを差し込みクリムゾンスマッシュを一音に入れようとした。だが、一音はブレードで放たれたポインターを弾き、デルタムーバーに持ち変えグランインパクトを放つ。

 

「グッ!ウゥゥゥ……!!」

 

「ハアアアアアア!!」

 

互いの技が正面からぶつかり、バチバチとスパークしながら反発しあった。

 

「「ウワァッ!!」」

 

攻撃はどちらかが勝ったのではなく、反発しあった末に互いに吹っ飛んだ。一音は腕、一夏は右足部分が破損して生身の部分が露出した。

 

「イッテ……強ぇな~」

 

右足を庇いながら一夏が立ち上がる。一音の力は一夏が想像する以上のものだった。一音も腕を庇いながら立ち上がる。

 

「チッ。壊れたか」

 

破壊したファイズショットを投げ捨て、デルタムーバーを無事な左手で一夏に向ける。

 

「まだやるのか?お互い、もう限界だろ?体力的意味でも、ライダーズギアのダメージレベル的にも」

 

一夏の言う通りだ。変身はいつ解除されてもおかしくない。破損のレベルも今までの比ではない。さっきの攻撃で腕と脚を破損。吹っ飛ばされて壁に全身を打ち付けめり込んだ時に胴体のアーマーと仮面部分も一部破損している。

 

「早く終わらせたいんならブラスターにでもなれ。一瞬で俺を殺せるだろ」

 

確かにそうだ。ブラスターになれば勝負は一瞬で決まるだろう。だが、一夏はブラスターを使うことを考えていなかった。

 

「今さらなるつもりはねぇよ。次の一撃で決める」

 

「そうかよ」

 

一音も一撃で決めることを決心した。残ってる体力でフラフラと走ってくる一夏を仕留めようとする。狙うは一点。砕けて左目が露出している仮面の隙間。そこに入れれば一瞬で終わる。

 

「ハァハァ……ッ!そこだ!」

 

力の入らない腕で照準を合わせて引き金を引いた。光弾は一音の狙い通り一夏の左目に飛んでいった。だが

 

「ヌゥッ!ハァアアアア!!!」

 

「ッ!?」

 

「ハア!」

 

「ウァッ……ウッ!」

 

一夏は当たる直前で体を捻り避け、全力で一音に向かって走り、左足でデルタギアに強烈な前蹴りを打ち込んだ。結果、デルタギアに亀裂が入り砕け散った。

 

変身が解除され、崩れるように倒れる一音の手を付かんで抱き抱える。

 

「なんで…なんでだよ……!なんで勝てねぇんだよ!」

 

「…………」

 

「間違ってたのか?間違ってたから止めたのか?なぁ!俺は間違ってたのか?!」

 

「いいか一音。親が子供の決めた事に口出しする権利は持ってねぇんだよ。できることって言ったら精々、少し後ろに立ってたまに手を差し出したり、折れそうになったら支えたり、挫折して進めなくなった時に、帰れる場所を作るくらいなんだよ。だから俺にはお前のやろうとする事を止める権利はない」

 

「じゃあなんで……」

 

「お前が後悔してないってんなら俺は止めなかった。後悔してないヤツが、本音が病室で苦しんでたときにあんなこと言わねぇだろ。だから止めた。自分で止められなくなる前に」

 

「そうかよ……なぁ、なんで世界を救ったんだ?なんで俺たちじゃなくて世界を取った?」

 

「お前たちだけを守るのは簡単だ。でもな、お前たちだけを守っても、お前たちが、安心して暮らせる世界が無かったら、俺は死ぬほど後悔する。俺の守る世界ってのはな、大切な物や場所、そしてお前たちを含めた全部なんだよ。だから、お前たちを取らなかった訳じゃない。お前たちを含めての世界だからな」

 

「ブラスターにならなかったのは?」

 

「子供を殺したい親が、どこにいるよ」

 

その言葉を聞くと、一音は気を失ってしまった。

 

「大丈夫か一夏!」

 

「無事か?」

 

そこに士と弾が入ってきた。あの3体のオルフェノクと上は片付いたと言う事かも知れない。

 

「悪い。手子摺った。何があったんだ?」

 

「いや。ちょっとな。悪いが一音とスライガーを上に連れていってくれないか?俺はゼロを始末する」

 

「分かった」

 

士はスライガーを取りにこの場所から離れ、弾は一音を抱えて上へと上がろうとした。

 

「弾」

 

「なんだ?」

 

「ありがとうよ」

 

「?なんだ急に気持ち悪い」

 

「一緒に戦ってくれたから……かな」

 

「そうかよ。じゃあな親友。70年後にあの世で」

 

「70年も生きてられんのか?」

 

「ふっ。孫に囲まれて死んでやるよ」

 

それを最後に弾は振り返らずに一音を抱えて上へと行ってしまった。

 

『良いのか?私を消せば、歴史は元に戻るぞ』

 

「ショッカーが居なくなるならそれで良い」

 

『私を消したところで、ショッカーは消えないぞ』

 

「なに?」




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