ISと無気力な救世主 作:憲彦
「2人とも遅いな……」
ショッカーとの戦闘の真只中だったが、前回の戦いでゼロが元凶と判明。その直後、全員の記憶の中に本来の正しい記憶を流し込み、また時間を巻き戻した。だが、今までと違っていた。ショッカーは現れず、現れたとしても大した戦力ではなかったりする。平和その物な日常が続いていた。
そんな中、少しは休めと村上から指示を受け、一夏は家族でショッピングモールに訪れていた。あんな騒ぎがある中だが、営業はしている。客もそこそこいるようだ。
「ごめんイッチー!道に迷っちゃって!」
「あと渋滞に巻き込まれた」
「だから一緒に行くかって言ったろ。時間的に道路がこむ直前だったんだからよ」
少し呆れながら、遅れて到着した本音と一音の2人を連れて歩き始めた。
「ねぇ、なに買う?」
「洗剤とトイレットペーパーが少なくなってたな。後、洗顔クリームと歯磨き粉。食材も少し欲しいな」
「こんなところで買おうとすんなよ」
「そうだよ!せっかくここまで来たんだよ?服とかアクセサリーとか靴とかそう言うのにしようよ」
少しずれた感覚の一夏にツッコミを入れて、本音が提案した服屋やアクセサリーショップへと向かっていった。
「これなんかどう?」
「親父にはこっちだろ」
「えぇ?ちょっと暗すぎない?もう少し明るくしようよ!」
「親父が明るかったらそれはそれでキモい」
「大丈夫だよ!IS学園の制服は白1色だったけど、全然似合ってたもん!」
一音の発言が気になったのか、白い服をもって少し顔を膨らましている。そして一音は嘘だろと言う顔をしている。一夏が明るい系統の色の服を着ているのが想像できないようだ。ファイズ自体が黒い上に、一夏自身モノクロの服しか着ない。しかも黒ベースで、意識しなければ真っ黒になることがある。想像できないのは無理もない。
「服なんかどれでも良いだろ」
「いいわけないでしょ!だったらこれ着れるの?!」
突き出されたのは学ラン。よく見る黒のなんの変鉄もない学ランだ。確かに、学校を卒業したのにこれを着るのは少し恥ずかしい。
「着てやっても良いぞ。ただし、お前もこれを着るならな」
だが、簡単に引き下がる一夏ではない。近くにあった、恐らく学ランと合わせる為に販売されているであろうセーラー服を手にとって本音に渡した。
「なッ!?」
「良い歳して何やってんだ?あの2人」
そんな2人を脇目に、自分の服を会計に通して代金の支払いを終わらせた。
「おぉい。いつまでやってん……結局それ着たのかよ。学ランとセーラー服」
言い争いの末に、お互い着ることにしたのだろう。一夏は特に恥ずかしがる様子はない。が、それに反して本音は顔を真っ赤にしてうつ向いている。余程恥ずかしいようだ。しかし、2人とも見た目が若い。軽いコスプレをしているように周りには見える。
「なぁ、買うのか?それ」
「いや。買わない。制服なら学園のが残ってる」
「じゃあ早く戻せよ。母さん恥ずかしさでパンク寸前だぞ」
「だな。本音、早く着替えるぞ」
「うん……///」
服を元に戻すと、店を出て次の場所へと行く事にした。特に目的はない為、目についた場所へと入っていく。入ったのはアクセサリーショップだ。
「おぉ!目移りしちゃうね~。どれ買おっかな~?」
「常に身に付けられる物が良いな~。最期の時も一緒にいられるようなのが!」
(息子の考え方が重たいな)
いつの間にか危険な方向に走り出した一音を見て、一夏は頭を抱え何故こうなったのかと自問自答していた。ほとんど自分のせいである。
「イッチーは買わないの?」
「今選んでる。少し待ってろ」
普段からアクセサリーの類いを頻繁につけている訳ではない。どれを買うか悩んでいる。よく着ける人には分かるのかもしれないが、一夏は全部同じに見える。だが、そんな中、ある1つの物に目が止まった。
「ん?」
手に取ったのは銀色のネックレス。ペンダント部分に特に凝った装飾があるわけでもなく、宝石細工やガラス細工が施されている訳でもない。つや消し加工された本体に削り込みで幾何学的な模様が付けられただけのシンプルな物だ。
「それ、ロケットネックレスですよ」
「はい?」
「すみません。興味深そうに見ていたのでつい。ペンダントを押すと、開いて写真を見ることができるんですよ。この店で撮影もできて、入れることもできますけど、どうします?」
「じゃあこれで。撮影もお願いします」
「かしこまりました。ではこちらにどうぞ」
3人で会計を済ませ、そのまま写真撮影に入った。一音は2人だけで撮れと言っているが、そんなのお構いなしに一夏は並ばせる。
「もう少しよってくださ~い。はいOKで~す。今からペンダントに嵌め込みますので、少々お待ちください」
それから5分ほどで作業が完了し、一夏に手渡された。普段ならポケットにしまって終わりだが、ペンダントを開いて写真を確認し、少し笑うと自分の首にかけた。
「珍しいね~。イッチーがすぐにアクセサリーを着けるなんて」
「明日は槍でも降ってくんじゃね~か?」
「たまには着けるさ。次は映画でも行くか」
「時間的にはこれがジャストだな」
『父親を殺して保険金を騙し取ろうとする母親と子供の話』と、やたらに長いタイトルの映画をさされた。
(大丈夫かこれ?内容丸わかりだぞ。つーかリアルすぎるだろ!?普通にありそうなんだけど。上映時間も微妙に長いし。なにこれ本当に)
「イッチー?イッチー!」
「悪い。少し考え事してた。別の映画にしよう……そうだな~」
「あの!…一夏さんでよね?仮面ライダーファイズの」
流石に見る気になれず、他の映画にしようとする一夏だったが、背後から突然声をかけられた。しかも仮面ライダーファイズと言っている。その声は一夏達がよく知る人物の声だった。
「パトリック?」
「やっぱり。折り入って、お話があります」
「……本音、一音。映画は無しだ。どっかの店に入って席を取っておいくれ」
「うん。分かった」
本音が一音を連れてその場を離れ、一夏とパトリックの2人だけにした。
「どうする?ここで話すか?それとも人のいない場所に移動するか?」
「できれば、場所を移して頂きたい」
「なら屋上に行くぞ。今日は車も少ないからな」
雰囲気を察して、移動を提案。エスカレーターに乗って屋上へと向かっていく。その間、2人に会話はなかった。
「で用件ってのはなんだ?こっちは久しぶりの家族サービスの真只中なんだが」
「お願いがあります。ショッカー壊滅を、少しの間待っていて欲しいんです!お願いします!!」
頭を下げ、突然一夏にショッカー壊滅を待てと言ってきた。冗談で言っている様子は全くない。
「一応、理由を言ってくれないか?」
「前回のショッカーとの戦いで、俺は正しい歴史を思い出しました。俺の仲間たちは、ISとの全面戦争で、副隊長と俺を除き、全員殉職しました。俺の作戦ミスで、アイツらを全員殺してしまいました。記憶が戻った時、俺は安心したんです。全員生きていることに。そして思ったんです。不謹慎ですけど、時間が巻き戻って、新しい歴史が進んでて良かったと。だから、アイツらに生きていて欲しいんです!期限付きでも、もっとアイツらを生かしていたいんです!」
「その間に、ショッカーの被害がでてもか?いつまで待っていれば良いんだ?期限が来たとき、お前はしっかり仲間と別れられるのか?」
「それは……」
答えに困った。当たり前だ。ショッカーが出たら自分達が出撃して倒せば良い。だがそれでも被害は出る。最小限に抑えたとしても数千万円程度の被害は確実だ。それに例え仲間達が生きられたとしても、別れの時に未練なく別れられる訳がない。自分が殺してしまったも同然の存在。罪滅ぼしの為にも生かしたいと言う気持ちは分からなくはないが、正しい記憶を取り戻したと言うことは、仲間が死んでから今までの感情が全て押し寄せて来たと言うことだ。簡単に別れられるはずがない。
「正しい歴史では、俺は死んでる。蘇ってみれば世界は訳の分からん連中に支配されかけてる。あの戦争で生き残って、平和に暮らしてたヤツらが苦しんでる。俺はそれを長引かせたくない」
「それは俺も同じです!でも……俺は、仲間にまだ生きていて欲しいです。もっと!この世界で過ごして欲しいんです!!」
「その気持ちを否定する訳じゃない。生きていたいと言う気持ちは俺にもある。だが、ショッカーは倒さなくちゃならない。俺の一存でどうにかできる話じゃない。それに、例えどんな理由があったとしても、戦う力を持った俺たちには、敵を倒す義務がある。悪いが、俺個人として、その頼みは受けることはできない」
一夏自身、パトリックの気持ちを理解できない訳じゃない。死んだ仲間に生きていて欲しい。一夏がパトリックの立場なら間違いなく同じことをしていたからだ。そして何より、死んだ一夏だからこそ、仲間や家族といる喜びを強く感じている。
しかし、自分達は仕事としてショッカーを相手にしている。ボランティアの様な慈善事業ではない。故に義務や責任が発生する。私情に流されて多くの犠牲を出すわけには行かないのだ。
一夏はそれを全て理解した上でパトリックの頼みを断った。そしてこれ以上は話せないと悟ると、パトリックに背を向けて立ち去ろうとする。
「そんなの、そんなの!俺にも分かっています!!でも!それでも!俺は……!ッ!変身!!!」
『complete』
「ッ!?グッ!」
『555 ENTER』
『Standingby complete』
「貴方を、貴方を負傷させてでも!多くの犠牲が出ようとも!仲間を殺してしまった無能な俺の、罪を償うために、アイツらをまた死なせるわけにはいかないんだ!」
「お前、自分が何をやってるのか分かってるのか!?こんな時に仲間内でバカやってる暇はねぇんだよ!」
「分かってますよ!でも俺には!これしかしてやれる事が無いんだ!!これしか!だからアアア!!!」
ライオトルーパーに変身したパトリックは、一夏に襲い掛かった。一夏は間一髪の所でファイズに変身。パトリックの攻撃を受け止めた。
「これが間違ってる事だって、俺は分かっています。あんな頼みが、最初から聞き入れられない事も。だから、力ずくでも!」
「仕方ねぇ。相手になってやる。お前の頼みを聞き入れられるかどうかは分からねぇが、憂さ晴らしには付き合ってやるよ!」
パトリックにも様々な葛藤があった。ライオトルーパーと言う立場、隊を率いる長としての立場、同じ釜の飯を食い、苦楽を共にし、数々の修羅場を越えてきた仲間としての立場、そして同じ時間を過ごしてきた友人としての立場。
兵士である以上、戦うための道具であるのかもしれない。戦うために感情を捨てなくてはならないのかもしれない。だが、パトリックにはそれができなかった。考え抜いて、苦しみ抜いた結果が一夏との衝突だ。
「ハァ!」
「フッ!オラァ!」
「グッ!これが量産型との差……」
「どうした?力が入ってねぇぞ!」
「ッ!ハアアアアアア!!!」
アクセレイガンをホルスターから抜き、小回りを利用して一夏に連撃を叩き込む。わずかに距離が開くと、直ぐ様ガンモードに変型させフォトンブラッド光弾を撃ち込んだ。
「うおおおおおおお!!!ハァ!」
一夏に体当たりをし、そのまま一緒に屋上から飛び降りる。だが、一夏は空中でパトリックを蹴り飛ばして体制を立て直し、ファイズフォンを銃に変型させ攻撃を入れる。当然、攻撃を受けたパトリックは体制を崩し、背中から地面に強く叩き付けられた。
「グアッ!ガハァ!」
「ふう。どうだ?気は済んだか?」
「ウッ!なんとしてでも……なんとしてでも!貴方を止める……!それが、俺にできる、唯一の…!」
「何やってるんですか?こんなところで」
「パトリック、もう良いだろ?」
「ライ…大佐。なんでここに」
まだ立ち上り戦おうとするパトリックに副隊長のライとラウラが声をかけ止めた。
「一夏、パトリックが済まなかった謝罪させてくれ」
「いや。別に良い。コイツの気持ちは分からない訳じゃない。できれば、ソイツの願いは叶えてやりたいが、俺にはそんな力がないからな……」
「一夏さん、私からも謝罪します。家の隊長が出過ぎた事をしてしまい、申し訳ありませんでした」
「気にすんなよ」
「ありがとうございます。ほら隊長帰りますよ。みんな待ってるんですから」
「私の部下も待っている。早く帰るぞ。食事が冷めてしまう」
「でも、みんなに会わせる顔がない……殺したのは俺だ。だからせめて、もう少し生きてほしくて、なのに俺は……」
「誰もあんたを恨んじゃいませんよ。アイツらは、あんたに後を託したんです。あんたなら勝って、生きて生還すると信じて。その思いを無視するんですか?」
「…………」
ライの言葉を聞くと、うつ向いていた顔を上げて変身を解除した。そしてラウラとライの肩を借りて立ち上り、2人に連れられて帰っていった。
「こんな辛い戦い、早く終わらせてやるよ」
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