ISと無気力な救世主 作:憲彦
「クソが……クソが!クソが!クソが!!!」
また時間が巻き戻った。最初と同じ食材を仕入れてたところからだ。最初は本音が殺された様子を見せられた事で次の戦いの対策を考えることすらできなかった。だが家に着いてからと言うもの、本音を殺した怪人と守れなかった自分への怒りが込み上げ、荒れていた。
「イッチー……その、私は大丈夫だから……」
「大丈夫な訳ないだろ!殺されたんだぞ!あんな連中に!そして俺は守れなかったんだよ…!それのどこが大丈夫なんだ!?」
「いいから落ち着け。怒ってもどうにもならないだろ」
今回は本音も一音も覚えている様だ。だが覚えているとは言え、2人とも一夏を責めることはしない。と言うよりも、ここまで荒れている一夏を見れば、声をかける気すら無くなってしまう。こんな一夏を見たことが無いからだ。
「少し出かけてくる。今日と明日は家を出るな」
それだけを言い残し、バジンに乗ってスマートブレインまで飛ばしていった。そして着くなり用件を聞きに来た受付を突き飛ばし、社長室まで一直線に向い扉を蹴り飛ばして中に入る。
「……え?ウオッ!なんですか!?」
「おい。今すぐベルトを渡せ」
「はい?」
「早くしろ!ファイズとデルタは俺が持っていく。カイザとオーガは草加と木場に渡しておけ。また戦いが始まるぞ」
「いや。その、急に言われても……」
「早くしやがれ!!」
出し渋る村上だが、一夏の強迫に負け要求通りファイズとデルタの2つを渡す。
「明日、草加と木場にこの時間、この場所に来るように伝えろ。何が起こるかは行けば分かる」
ベルトの入ったケースを2つ持ち、一夏は最初の戦場へと向かっていく。前回や前々回と比べて、到着した時間が少し遅かったのか、既にショッカーが暴れまわり被害が出ていた。
「変身……」
『complete』
デルタに変身し、目の前にいる敵を何も言わずに倒していく。感情があるのかと聞きたくなる程に、何も感じない戦い方をしている。
「一夏!」
「ようやく来たか。作戦を思い付いた。さっさと片付けるぞ」
「さっきは大丈夫だったのか?」
「黙ってろ」
一夏の様子がおかしいことに不信感を覚えるが、目の前の状況では一々気にしてる暇はない。作戦と言うのも気になる。早く片付けるしか無さそうだ。
「チェック」
『Exceed Charge』
「で?作戦ってなんだ?」
「簡単だ。先回りする」
「先回り?」
「今まで俺たちは、戦うための力を準備してから現れる場所に向かってた。だが、アイツらが出る場所は明日の分まで分かってる。その場所にあらかじめ戦える人間を置いて、時間になったら動く」
「とは言え、戦えるのは俺たちは3人だろ?」
「ここに来る前、村上にベルトの封印を解くように言って来た。俺がベルトを持ってるのは、強迫紛いな事をして渡してもらったからだ。既に他のベルトの封印も解いて使用者に渡してる筈だ。村上なら、ただ封印を解く以外にも色々手を打ってくる。この戦いもすぐに情報が行くだろう。あのバカ2人も記憶は持ってるみたいだからな。問題は無いだろ」
「配置はどうするつもりだい?闇雲に置いても意味はないだろ?」
「明日ショッカーが襲撃する最初の場所には草加と木場、お前たち2人の4人。俺の家には俺と一音の2人で戦う。そして、それ以降の戦いは……」
「?」
「俺が死んでもう一度時間を巻き戻す」
「正気の沙汰とは思えないな~。第一に、君が死んでまた時間が巻き戻るとは思えない。最初は君が死んで時間が巻き戻った。次は一音、そして君の妻。次も都合よく巻き戻るとは考えにくい」
二度目、三度目があるのかと言う話だ。状況的には一夏本人か関係の近い人間が死んだ事で時間が巻き戻る。しかし1番近い人と本人は既に一度死んでいる。また死んでも時間が戻る保証はないのだ。この場合、確実なのは草加と木場の命を差し出すことになる。だが、一夏はそれを選ばず躊躇なく自分を差し出した。
「他に差し出せる手頃な命があるなら、言ってみろ」
「お前の命も手頃じゃない事を理解しろ」
「じゃあ何を捨てればいい。何を失えば良いんだ?少なくとも俺は、もう家族の死ぬ姿は見たくない……次に誰かが死ねば、俺は自分を許せそうにないし、保てそうにない」
もう一夏は限界だ。精神的に追い込まれ過ぎている。これ以上の戦いは一夏の身を滅ぼしてしまう。こんな状態で戦いに行かせるのは危険でしかない。
「もう少しマシな作戦かと思ったが、俺はその作戦には乗れないな」
「僕もだ。悪いけどそれを実行するつもりなら、僕は手を貸すことはできない」
それを言い残し、2人は一夏の前から去ってしまった。一夏としても自分の言っていることの異常性に気付いていない訳ではない。こんな無謀その物とも言える作戦を実行するなどバカらしくて仕方ないと思っている。だがそれを選択せざるをえない状況にまで、少なくとも一夏の中では来ているのだ。
「少し分からせてやる必要があるな」
「何をするつもりだい?」
「アイツの持ってるものを教えてやるだけだ。変身」
『KAMEN RIDOE RYUKI』
「そしてコイツだ」
「成る程ね」
取り出したのは士と海東が使っているカードとは別のデザインが施された物を取り出し、左腕に着けているドラゴンの頭を模した物にカードを入れる。
『TimeVent』
カードが読み込まれると、士達の立っていた空間が割れた鏡の様に粉々になり、ブラックアウトした。が、直後に巻き戻るように割れた空間が戻っていき、元通りになった。
「これで、いい方向に行くと良いんだが……」
「随分な荒療治だからね。一夏が時間を巻き戻されてることに気付くかも分からないのに」
「アイツなら大丈夫だ。必ず気付くさ。そして自分のもっとも大切なものにも。タイムベントに少し細工はしてるが」
士は期待している。表情からそれが分かった。海東が一夏の居た方向を見ると、何かを思い出した様に走り出していた。先程まで暗かった表情が、心なしか明るくなったようにも思える。
「ほらな」
「今回は上手く行っただけでしょ。精神が壊れる可能性だって十分にあった筈だ」
「賭けてみたい気分になったんだよ。この世界の救世主にな」
そして一夏は賭けに勝った。これが大きな変化に繋がると士は確信している。一夏の中でも大きな変化があったのは確かだ。
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