ISと無気力な救世主   作:憲彦

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こっちに掲載するつもりは全く無かったんですけど、無気力な救世主のストーリーであることに変わりはない上に、箒をあのままで終らせる事に納得行かなくなりましたので書いたストーリーです。

既にR18で読んでくれたと思いますが、R18要素が全くございませんので。1つの短編として読んでもらえれば幸いです。


i'm a 仮面ライダー

綺麗な花畑。川底まで見える程澄んだ水が流れる穏やかな川。白装束を着た人が沢山いるこの場所。俗に言うあの世だ。死んだ人間の魂が行き着く場所。そしてこれからが始まる場所。それがこの世界。そしてここで、1人の少女が目を覚ました。

 

「どこだここは?!私は何故ここに……」

 

「ようやく目が覚めましたね、篠ノ之箒さん。死んでから半年も目を覚まさないとは……」

 

「何を言っている……死んでから半年だと?私の体はここにあるんだぞ!死んでいるはずがない!!」

 

目を覚ました途端に、目の前に立っていた骸骨の面を着けた男にそう言われ声を荒らげる。そしていつもならISなり木刀なり竹刀なりを出して問答無用で攻撃を加えるのだが、その道具一式がない。正確に言うと、専用機であるISは今も腕に付けている。だが展開できないのだ。

 

「無駄ですよ。魂が象った体はあっても、この世界には実体があるわけではない。ISが展開できる筈がありません。そもそも、死人はこの世界の物に触れることができても、現世の物には触れることはできません。まぁ死装束等は別ですけど」

 

「訳の分からない事をゴチャゴチャと!ISが使えなくても手足が動くなら殴れば良いだけの話―ッ!?」

 

「暴れないで。とっとと行きますよ」

 

手を箒にかざすと、急に動けなくなり言葉も声も出なくなった。そのまま宙に浮かせられ、どんどん運ばれていく。目的地は不明だが、何も抵抗ができないのだ。

 

「全く乱暴な人だ。まぁ、仕方ないと言えば仕方ないんですけどね」

 

しばらく運ばれると、先程までの場所とは変り町へと出た。屋台が並び物を売ったり食べ物を売ったりと随分賑わっている。

 

「あ、焼き鳥4本下さい」

 

「はいよ!400円ね」

 

「……いま10円玉しか無いのでこれで」

 

「了解。その人は?」

 

「今から転生する方です。少々訳ありでして、この様な強行手段を取っています。それにしてと、旦那も珍しいですね。滅多に店を出さないのに」

 

「いやぁ~。今日占いで5月に死んだ人間が1位になってさ。店を出してみることにしたんだよ!占い通り、今日は儲かってんだ!今夜飲みに行く?」

 

「良いですね~。いつもの居酒屋で良いですか?」

 

「おう!じゃあそこに7時集合な」

 

人を運んでるときに何をやっているんだか。軽く夜に飲みに行く約束をして、運ぶのを続行。町を抜けると木に囲まれた広場に到着した。

 

「さてと。ここで良いな。金縛り解除」

 

「ウワァッ!?ウゥ……貴様ァァ!」

 

「ほい」

 

酷い扱いを受けた箒は頭に血が上り、自分を運んできた男に殴りかかろうとした。だが眉間に人指し指を突き付けられ、吹っ飛ばされてしまう。

 

「いっ……ん?私は一体……」

 

「それが貴女の本来の人格ですか?篠ノ之箒さん」

 

「貴方は?」

 

「亡者たちの案内をする死神です。単刀直入に言うと、貴女は死にました。現世での行い、覚えていますね?」

 

「…………」

 

首を縦に振る。覚えているようだ。自分が死んだ事実も含めて全て。

 

「やはりその方が話しやすいですね。貴女には来世への強制転生が命じられました。さっきまでの状態の貴女をここに置いておく訳にはいきませんからね」

 

「さっきまでの私?」

 

「あぁ。あれです」

 

死神が箒の後ろを指差すと、そこには黒い何かに包まれた箒が横たわっていた。当然箒はそれを見て驚く。何故自分がもう1人居るかが分からないからだ。

 

「あれはもう1人の貴女です。正確には、もう1つの人格と言うところですけど」

 

「人格……」

 

「まぁそこから先の話は、ここにいるもう1人にも聞いて貰いましょう。束さん。出てきて下さい」

 

「バレてたか」

 

「ね!姉……さん?」

 

「久し振りだね、箒ちゃん。半年振りくらいかな?」

 

箒は出てきた束に目を疑った。いつもなら白衣を着て痛いウサ耳を着け、奇抜な紫と言う髪の色をして自分を見たらすぐに抱き着いてくる。しかし目の前にいる束は痛い白衣やウサ耳を着けておらず、しかも黒髪になっているのだ。何があったのかは分からないが、束をよく知る人物なら驚いてしまう事は間違いない。

 

「これでようやく話ができる。後ろにいる貴女は、貴女のもう1つの人格です。彼女が生まれたのは、貴女が要人保護プログラムと言うのに入ってから4ヶ月後の時です」

 

死神曰く、もう1人の箒は要人保護プログラムと長時間に続く束に関する尋問によるストレスで生まれた物の様で、知らず知らずの内にそっち側に人格が変化。本来の生まれ持っての人格である素直な方は掻き消されたのだと。

 

「本来であれば、自分の身を守るための一時の効果の筈が、自分を孤独に追いやり、大切な家や家族、友人、好きな人と離れ離れになったと言う恨みは、消えることなく膨脹。気性の荒い方は、その感情を敏感に感じ取っていき、消えることはなくなった。結果、貴女は、死ぬときに死ぬことができず、今ここにいる訳です」

 

「ゴメンね。私がISを作ったせいで。こんなことになっちゃって……」

 

にわかには信じがたい話。しかしこの死後の世界があることが証拠になる。魂の専門家とも言える死神が説明するからだ。余りの事実に箒は黙ってしまうが、死神が話を切り出す。

 

「では、これから転生して貰います。その前に、来世で起きることを一通り頭の中に流しますね」

 

「え?」

 

「決まり事ですので。生きてるときにはデジャ・ビュと言う形で感じたりしますが、お気になさらず」

 

箒の頭に手を置き、しばらく頭の中に映像として流し込んでいく。流し込みが完了するまで、静かな時間が過ぎていった。

 

「……似てるけど、違う世界なんですね」

 

「はい。本来なら同じ世界に別の存在として転生させますが、貴女の場合はそれが出来ませんので、似たような別の世界となります」

 

「箒ちゃん。どんな世界だったの?」

 

「同じISの世界ですよ。姉さんは相変わらずの様でしたけど」

 

「えぇえ!?どう言うこと?!」

 

「だからこっちと同じでIS作ったって事ですよ。あでも、なんかしばらくしたら飼われてましたね。どこかの会社の社長に。首輪付けられて檻に入れられて人参料理食べてました」

 

「そっちの世界での私がどうなってんの?!」

 

そのまましばらく姉妹での会話が始まった。どう見ても片方が恨み、片方が利用していた姉妹には見えない。ただの仲の良い姉妹だ。

 

「お話はそこまでです。転生して貰わなくては。ですがその前に、あちらの人格をどうにかして貰います」

 

「?それは何故」

 

「負の念で生まれた人格とは言え、貴女は貴女。自分自身で蹴りを着けてください。でないと転生に不具合が起きます。それに―」

 

「死ねぇぇぇぇえ!!!」

 

「起きた様ですので。危な……どうするかはお任せします。一応、対抗手段は渡しときますので」

 

そう言って渡されたのは、来世の自分が使っていた緑色の派手なベルトとガシャット。それともう1人の自分を交互に見る。

 

「ハァァァア!!」

 

「ウワッ!?クッ!待て!止まれ!!」

 

「黙れ!」

 

「グアァァァア!!」

 

この世界では展開できないはずのISを展開して斬りかかってくる。使っている機体は紅椿ではなく、能力の全てを発揮した状態の黒椿。生身では避けられる筈もなく斬られてしまう。

 

「ウッ…グァ……」

 

魂だけとは言え痛みはある。死ねる攻撃なら死ぬほど痛いし、気絶することも無いため逃れられない。もっと言うと斬られた箇所は治るが、普通に血も噴き出せば骨や内臓、肉の断面等が見えて精神的にも辛くなる。

 

「どうした?ベルトは使わないのか?自分を殺すことはできないのか?」

 

「私は……仮面ライダーに……」

 

「ふん。ならお前がもう一度消えて無くなれ。すぐに楽になれるぞ?」

 

「ンナァア!!」

 

「それに私はお前とは違う。自分であろうとも邪魔なら殺す。来世でもそれは同じだ!向こうにも一夏は居るからなぁ。今度こそ一夏を私のものにする!邪魔な物は全て殺す!消す!壊す!私と一夏だけの夢の世界を作り上げる!お前にはできないだろうがな!!お前は私であって私じゃない!あの時生きることを!存在することを放棄した!そんなお前に新しい命を貰う資格はない!!素直に私に寄越せ!!」

 

「アァァァァア!!!」

 

現世での自分の行い。それを考えると仮面ライダーの力を使う気にはなれない。そして目の前にいるもう1人の自分。彼女を生み出したのは間違いなく自分自身。あの時生きることを、存在することを放棄したが故に生れ、そして苦しんだ。

 

「あの時は悲しかったな~。6年振りに会えた幼馴染み。だが昔から疎まれていた。私と言う存在が出てくる前からだ。同じ道場で剣を振っていた時から。私であろうとお前であろうと、振り向くことはなかったな~。だが!次はそうは行かない!何としても!私の物にする!何があってもだ!」

 

「……お前は、それで良いのか?」

 

「なに?」

 

「家族を、友人を、知り合いを、故郷を全て壊すことになっても、そして拒絶されても、自分の物にしたいのか?」

 

「当然だ。この世界では全てを失ったからな。命も含めて文字通り何もかも。お前もそうだろ?」

 

「……成長するべきだったんだ。私は……私達は、前へ進むべきだったんだ。同じ場所にしがみついて、前に行くことを恐れて、なのに進んだ人を逆恨みして、責任を人に押し付けて……」

 

「それがどうした?それがお前と言う、私と言う人間だろう?変わることなんて―」

 

「でも、前へ進めるなら、進ませてくれるなら、私は進みたい!」

 

『タドルクエスト!』

 

全て自分の落ち度が原因。しかし、箒はそれを受け入れて前に進むことを決意した。そしてその決意が、彼女を仮面ライダーへと変身させたのだ。

 

「変身!」

 

『ガシャット!レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?アイム ア カメンライダー!!ガチャーン!レベルアップ!タドルメグル!タドルメグル!タドルクエスト!』

 

「さぁ。始めよう」

 

「都合よく行くと思うな!!」

 

青い騎士へと変身した箒は、一緒に現れた剣を構えて攻撃に備える。黒椿をまとった箒は一直線状に突っ込んできて刀を降り下ろす。だがそれを弾き自分の攻撃をいれ始める。

 

「グッ!仮面ライダーごときが!!ハアアアア!!」

 

「フッ!ハァ!ディヤ!!」

 

「ウワァ!」

 

「長引かせたくはない、これで決める」

 

ベルトからガシャットを抜き出して、剣のホルスターにガシャットを差し込む。

 

『TADDLE CRITICAL FINISH!』

 

「ハァァァ……ゼィィイ!!」

 

「っ!?グワアアアアアアア!!!」

 

確実に攻撃は決まった。黒椿の箒は必殺技を受けて爆発と共に消滅した。筈だった。

 

「うぁぁあ゛……今のは痛かったぞ……」

 

「な、何故!?完全に決まったはず!」

 

「ハァァァア!!」

 

「グッ!なら!」

 

『TADDLE CRITICAL STRIKE!』

 

剣からガシャットを抜き取って、ベルト側面に付いているホルスターに差し直し、ボタンを押した。すると今度は足にエネルギーが溜まり始める。箒は迷わずそれを叩き込んだ。今度は当たった感触もある。これで終わった。そう思ったが、再び爆煙の中から箒は出てきた。ダメージは確かに受けている。疲れも出ている。しかし何故か死なないのだ。何度も何度も爆煙から現れては箒を攻撃してくる。

 

「何故だ!?」

 

「そんなこと知るかぁぁぁあ!!」

 

お互いに倒れない理由が判明しないまま、ずっと殺し合いを続けている。何度も殺し、甦り、また殺す。その繰り返しが延々と続いているのだ。

 

(彼女たちは忘れている。自分の置かれた状態を。そして目の前で対峙している相手は誰なのかを。それに気付けないようじゃ、この殺し合いは終わることはない)

 

死神の考える通りだ。2人が今置かれている状況。それは死人であると言うこと。ここにいる限りはどんなに殺しても死にはしない。そして相手が誰であるかもだ。それを理解できなければ、この無限地獄からは抜け出せないだろう。

 

「ハァハァハァ……何故……」

 

「ダァァァァ!!」

 

「グッ!ハァァァ!!」

 

「ふん!当たらなくなってきたな!何故だか分かるか?お前は私だからだ!自分の事だからな!次にどんな攻撃を出すのか、何が隙になるのか、何が弱点なのか、全部分かるんだよ!!」

 

「ウワッ!!ん?私だから……」

 

「何を考えている!!」

 

黒椿をまとった箒の発した「私だから」。その言葉に箒は引っ掛かった。考える間に何度も攻撃を受けるが、箒は考えるのを止めなかった。そして気付いた。

 

「(負の念で生れた人格とは言え、貴女は貴女)そうか!そう言うことか!」

 

「何を訳の分からないことを!!」

 

黒椿をまとった箒が全速力で自分に突っ込んでくる。剣を突き立ててだ。スピードを使って串刺しにすることを考えたみたいだ。それを見た箒はすぐに剣を構えた。だが、自分に当たる直前になって剣を投げ捨てた。

 

「諦めたみたいだな!!死ねぇぇぇ!!!」

 

「ガハァッ!」

 

刀は箒の腹部を貫き、血を流させる。だが、箒は黒椿をまとった自分をそっと抱き締めた。

 

「何で気付けなかったんだ……私はどうしようもない愚か者だ」

 

「な、何のつもりだ?!」

 

「お前は私で、私はお前。片方が存在し続ける限り、もう片方も存在し続ける。それを知らずに、私はお前を拒絶していた。自分であるにも関わらず。本当にすまなかった。辛い思いを沢山させて、本当に、悪かった」

 

箒の出した答えは、拒絶し合い、殺し会う事ではなく、謝り受け入れると言うことだった。どっちも自分と言うことに、今気付いたのだ。何度も殺し殺され、ようやくたどり着くことが出来た。至極当然で当たり前の答えに。

 

「あ…………はぁはぁ。わ、私は……私は!」

 

その言葉を聞いた黒椿の箒は、刀から手を離し、ISを解除して膝から崩れていった。自分の中にある感情全てを込めた攻撃。そしてそれを正面から受け止めてくれた自分。文字通り自分の中にある全てを出した攻撃で、歪みが無くなり冷静になれたのだろう。

 

「今度は、2人同時だ。転ぶときも、起き上がるときも、痛みを受けるときも」

 

それを聞くと、もう1人の箒は粒子状になって仮面ライダーに変身した箒の中へと入っていった。この戦いが終わったのだ。

 

「さて、これで準備が整いましたね。ベルトとガシャットを。転生はこの扉の向こうへ行けば完了します」

 

「……ありがとうございました」

 

ベルトとガシャットを死神に渡し、扉を潜って来世へと向かって走っていった。

 

「どうだった?私の妹は。合格出来たんでしょ?」

 

「えぇ。文句なしの合格です」

 

この2人の会話から察するに、本当はこんな事をやらなくても良かったのだ。だが、放置したまま来世を迎えさせれば、再びこっちの世界で起きたことを繰り返すことになる。そうさせないためのテストだったのだ。

 

「人は必ずどこかで歪みます。潰れて折れてしまいます。その時、自分の側に物理的にも精神的にも支えてくれる人が居るかどうか。それが人に大きく影響するんです。彼女には、本当に辛いときに側に誰もいなかった。だからあの様にするしか無かった。と言う所ですかね」

 

「だね。私のせいだけど。所で、その道具どうするの?」

 

「ベルトですか?」

 

「いや。そっちのガシャットって言うやつ。箒ちゃんが転生した直後に新しいの出来たじゃん」

 

そう。束の言うように、箒が転生の扉を潜った瞬間、突然新しいガシャットが誕生したのだ。太さは箒がさっき使っていた物の約2倍あり、半分が白、半分が黒のツートンカラーだ。

 

「彼女に与えますよ。そうですね、タイミングは、終わりなきゲームをクリアしそうになったとき。にでもしますかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァア!!」

 

「……ハァ!」

 

「ウワッ!」

 

箒が再び生を受けてから少し時間が経った。今は道場の様な場所で竹刀を振るっている。どうやら試合をしているようだ。が、片方が一方的に負けている。

 

「スゲー……あの新入生。箒を押してるぜ」

 

「あぁ。何者なんだ?」

 

道場に新しく入った人との試合。そしてその新入生が箒を押してる。そんな状況になっている様だ。

 

「クッ!タァァァア!!」

 

「ハァ!」

 

「ゥアッ!」

 

「そこまで!勝者、織斑一夏」

 

この日、箒は剣道初心者の一夏に惨敗した。今は小学校2年。一夏は姉に誘われてこの道場に入ったのだが、自分よりも早くに始め多く学んでいる相手に勝ったのだ。この敗北が悔しかったのか、この日から箒は毎日鍛練を続けた。通常の道場の練習内容とは別に何時間も練習に練習を重ねた。一夏に勝つことだけを考えて。当然師範代である父にも教わった。だが、その父からは

 

「お前は邪な心を持って剣を振っている。それでは誰にも勝つことは出来ん。そんな醜い剣、二度と私に見せるな」

 

そう言って立ち去ってしまった。だが、それ以降も箒は鍛練を続ける。そのたびに試合を挑む。だがいつも負けてしまう。負ければまた鍛練を続ける。そんな日々がずっと続いた。そしてある日、箒は道場とか関係なしに一夏を呼び出し、試合を申し込んだ。

 

「一夏、これは道場とかは関係無い。私個人の、壁を越えるための戦いだ。全力で来てくれ」

 

「あぁ。分かった」

 

「では行くぞ……ゼィィイ!!」

 

降り上げた竹刀を一気に下ろす。竹刀のスピードは小学生が出すような物ではなかった。恐らく威力も相当の物だろう。鍛練の成果が出てきたようだ。しかし、そんな箒の動きも、一夏には全て避けられてしまった。

 

「ッ!面!!」

 

「ッ!?」

 

一夏の鋭い一撃を面に受け、箒は負けてしまった。負けを自覚すると、今までの鍛練の全てが無駄に感じ、力が抜けて膝を付いてしまう。そして何もかもが嫌になってしまって、竹刀を床に叩きつけてしまった。

 

「箒……拾え」

 

「は?」

 

「拾えって言ってるんだよ。竹刀を」

 

「何故だ……私には、もう……」

 

「お前、それで良いのか?!何のために今まで続けてきたんだ!その鍛練はなんだったんだ!?俺に勝つ為じゃなかったのか?!」

 

「でも!私はお前に勝てなかった……父さんに醜い剣と言われても、勝つために続けて来た……でも!」

 

「なら勝つまでやれ!醜い剣ってなんだ?!勝つための剣がそんなに醜いか?!俺は勝つことを捨て美しさだけを求める剣の方がよっぽど醜いと感じるよ!今日のお前の剣の方が何倍も良い!俺に勝つのが目的なんだろ?なら勝て!どんな手を使ってでも!」

 

「どんな手を使ってでも?」

 

「そうだ。刀1本じゃダメなら2本。2本がダメなら3本。3本がダメなら更に蹴りや拳を足す。最後まで足掻け。足掻いたヤツが最後は勝つんだよ!もう一度だ。もう一度俺と試合をしろ」

 

その言葉を聞いた箒は、再び竹刀を握る。そして一夏と向かい合った。

 

「防具が邪魔なら外しても構わんぞ。俺も外すからな」

 

「そうさせて貰う」

 

身体中に着けている重たい防具を剥がす。これでお互いに守りはない。あるのは竹刀のみ。ある意味これからが本当の試合だ。

 

「ッ!ハァア!!」

 

「ゼイ!」

 

「はぁ!」

 

素早い竹刀の振りがぶつかり合う。一撃一撃がとてつもなく重たい。片方が打てば受け流し、流されれば打ち直すが繰り返された。

 

「ハアアア!!」

 

「ウワァア!」

 

「ッ!?クッ!」

 

「ウオッ!?」

 

激しい打ち合いの結果、箒の竹刀が弾かれたときに折れてしまった。だがすぐさま箒は左手で折れてしまった剣先を掴み取り、そのまま一夏に突き付ける。突然の予想していなかった攻撃に怯むが、すぐに箒の居る場所に目を向ける。しかし既にそこに箒はいなかった。

 

「ふん!」

 

「っ!?グッ!」

 

右手に持っていた折れた竹刀を一夏に振るう。突然の背後からの一撃に対応できず、一夏は吹っ飛ばされてしまった。

 

「良い攻撃だ」

 

「か、勝ったのか?」

 

「あぁ。俺が負けた」

 

「ほ、本当に……いやったぁぁぁぁあ!!!勝てた!」

 

箒の表情は晴々している。その後、2人が教え合いながらライバルとして育ったのは言うまでもない。と言っても、箒が一夏に学ぶ方が多かった様ではある。




終盤の方で分かると思いますが、神と時間の支配者に通じる話です。何故あの世界に転生したのかって事ですね。

やっぱりある意味重要なキャラの話ですから乗せないとダメですね。救済させたのなら尚更。なので完結から時間が経ってますが、特別投稿とさせてもらいます。

では、その他の作品などもよろしくお願いします!

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