とりあえず今はカドケリュ物ですが、これからどうするかあまり考えていません(笑)。
たぶん一応きっと不定期更新(週1くらい?)ですが、よろしくお願いします。
ではでは。
( ・∇・)
「ん?……何だろ……」
ケーリュケイオンは読んでいた本から視線をそらして顔を上げた。
彼女の知覚が、この寮内に漂う何かうっすらとした不穏な気配を感じとったのだ。
すぐにケーリュケイオンは目を閉じて精神を研ぎ澄まし、この周囲の気配を探り始める。
するとこの近くで、何らかの魔法の力が働いている形跡があるのが感じられた。
「むぅ?」
ケーリュケイオンは不審そうに眉をひそめる。
こんなファンキル学園の寮の中で魔力の波動を感じるなんて、普通あまりあり得る事ではない。
ケーリュケイオンは読みかけの本をベッドに伏せて考えを巡らせた。
〈これは一体何だろう?戦地じゃあるまいし、この寮内で誰か杖のキル姫が魔法戦闘をする訳もないしね。でもこれは一応ちゃんと魔力を隠そうとはしている気配ね。……と、なるとやっぱりあの子か〉
ケーリュケイオンは大きな溜め息をついてベッドから立ち上がると、紫色のネグリジェの上に白いカーディガンを羽織って自室を後にしたのだった。
ケーリュケイオンは静まりかえった寮の廊下を歩き、ある扉の前で立ち止まった。
その扉には赤紫の可愛い丸文字で{カドケウス}という表札が掛けられている。
ケーリュケイオンはコンコンと扉をノックして声をかけた。
「カドケ?いい?入るよ」
だが中からの返事はない。
ケーリュケイオンはドアノブをひねって扉を開いてみた。
扉は簡単に開いた。特に鍵も掛かってはいない。
だがケーリュケイオンは、扉を開けた途端に物凄い魔力の奔流を感じて、顔をしかめる事になった。
「きゃ!!くぅ!?……ちょ、何なのこれ!」
もう突然の事で何が何だか分からない。
その時、部屋の奥から慌てたような声が聞こえてきた。
「あ!お、お姉ちゃん!?ちょうど良かった~!……ご、ごめん。ちょっとこれ手伝って~!!」
カドケウスが半べそをかいたような声で懇願してきたのだった。
ケーリュケイオンは急いで扉を閉めて、部屋からのこの魔力の流出をくい止めると、部屋の奥にいるカドケウスの元に行った。
「……全く、貴女はいったい何をやってるの?」
ケーリュケイオンは、まずそう訊ねずにはいられなかった。
見るとカドケウスは、戦闘時の新衣装(!)を身に纏い、手には特別な魔力増幅の杖まで持っていて、さらには彼女のキラーズの力の根幹である蛇の従者アウルムまで召喚しているのだった。
そんな格好をしたカドケウスが何をしているかと言うと、部屋の机の上に魔方陣を描いて、その上に妖しげな紫色の液体が入ったビーカーを乗せて、それに魔力を注いでいるような感じなのだ。
カドケウスがだいぶ苦しそうな声で助けを求めてくる。
「う、うう~……お、お姉ちゃん、お小言はあとでちゃんと聞くから~。取りあえずこれを落ち着かせるの手伝ってよぅ~」
ケーリュケイオンはしょうがない子と言った感じでカドケウスを見つめると、諦めた様子で改めてそのビーカーに目をやった。
ケーリュケイオンは素早く目の前の物体の状態を分析する。
〈……ふむ。あの感じは魔力のオーバーフロー状態ってやつね。とりあえず、あの液体の持つ許容量以上に魔力を付与させてしまったのが原因と。それでこのままほうっておいたら、アレが一気に爆発して霧散するのがオチと言う訳ね。さ、どうしようかしら〉
ケーリュケイオンはカドケウスにちらりと目をやった。
カドケウスはそれに気がつき、目をウルウルとさせて姉を懇願のまなざしで見つめ返す。
ケーリュケイオンは肩をすくめた。
あの様子だと、妹はこの儀式魔法をどうしてもやり遂げたいのだろう。
ケーリュケイオンはもう観念して、本気で目の前の魔方陣のビーカーと向き合う事にした。
ケーリュケイオンは片手をすらりと上げて、言霊と呪文を唱え始める。彼女も自分のキラーズの力の根幹である螺旋の蛇{ヒュドラ}を呼び出そうとしているのだった。
「出でよっ!螺旋の蛇の片割れの一つ{ヒュドラ}よ!トリートケインッ!!」
するとその言葉に従って、ケーリュケイオンのその挙げた手に巻き付くように、黄金色に光り輝く大蛇が姿を現した。
ケーリュケイオンは即座に指示を出す。
「お願い、ヒューちゃん。取りあえずあの魔方陣の強度を高めて、アレが勝手に暴発しないようにしてて」
その指示を受けたヒュドラが青い瞳を光らせる。
すると、この部屋の魔力による振動がピタリと治まったのであった。
カドケウスがホッと一息をついて礼を言う。
「あ、ありがとう~。お姉ちゃん」
「礼を言うのはまだ早いわ。ずっとこうしてこの力で抑え続ける訳にはいかないんだから。それで?アレはいったい何なの」
「……」カドケウスはスッと目をそらして返事をするのを渋っている。
「じゃあ、もう帰ろっかなぁ」
そう言うと、ケーリュケイオンは徐々に手を下げ始めた。
カドケウスは慌てて口を開いた。
「あ、あ、ま、待って!お姉ちゃん!!言う、言うからぁっ」
ケーリュケイオンは妹に目で話を促す。
カドケウスは渋々ながら話し始めた。
「えっとね、あれは……んーと、いわゆる惚れ薬っていうものかなぁ」
ケーリュケイオンは驚いたように妹の顔を見つめる。
「えっ?貴女そんな物を……。惚れ薬?でもそんな薬のレシピなんて、ほとんど伝説級の代物よ。一体どうやって見つけたの?」
「あ、ううん。あれはそこまで本格的な物じゃないの。いわゆる精力剤的な飲み物の効果を上げてるだけなんだけどね。あとそれに若干の特殊な興奮剤を忍ばしているの。言うならば、目の前の相手に股間を熱くして興奮させる状況を作り出すお薬ってとこ」
「……はあ。まったく器用な事ね」
「えへへ♪」
「褒めてないから」
「あう」
ケーリュケイオンは呆れ顔で妹を眺め、不気味にぐつぐつと泡を吹いているビーカーの中身を見て話を続けた。
「それでどうするの?アレをあのままの状態で均衡を保たせるのはもう難しいわよ。また一からやり直したほうが良いと思うけど」
カドケウスはぶんぶんと首を横に振る。
「あん!ダメ!もう材料がほとんどないの。また同じ様に山に採りに行ったり街で買ってたりしたら、私達の誕生日が過ぎちゃう!」
「え?誕生日?」
「そだよ!私達の誕生日は5月10日でしょ。丁度その日は、あの忙しいマスターもこの街に帰って来ているんだよ。この機会を逃すのはもったいないよ!」
ケーリュケイオンはすぐに納得がいった。
どうやらカドケウスは、誕生日だからとマスターを呼びだして、マスターにこれを飲ます事で、興奮させたマスターと目一杯イチャイチャしようとしているのだ。
確かにこんな事でもしないと、あの堅物のマスターとお触りしようなんてのは到底無理なのは分かりきっている。
だがケーリュケイオンは目の前の惚れ薬を見ながら、マスターとのその夢のような一時を想像してみて、頬を赤く染めた。
もしもこれが本当にうまくいって、マスターが自分の近くに寄ってくれたなら……。
そして、もしその流れで何か思いもよらない凄い事になったとしたなら……!
ケーリュケイオンは、カドケウスにニマニマとした顔で見られている事に気づいて、一度咳払いをしてから言い出した。
「んんっ、こほん。分かったわ。何とかしてみましょう」
「やった!ありがとう、お姉ちゃん」
カドケウスはとても嬉しそうにはしゃいだ。
だがケーリュケイオンは逆に難しそうな顔をして言う。
「とは言っても、注ぎ込んだ魔力を今から抜くのは難しいから、逆にあの液体の霊的成分量を増やしてそのキャパシティを広げる事で、今ある余剰魔力量と釣り合わせるほうが無難って事になるのよね。……ねえ、カドケ。あの薬の材料って何が余ってるの?」
「う~んと、興奮剤としてのマラリタケとオパイの実、精力剤のバイアグランとオロナミングッドの粉が少々、あとは幻覚成分としてエッチクミエールの葉……」
「……え?ちょっと待って!貴女そんなものを入れてるの?」
「ほえ?大丈夫大丈夫、どれもほんのちょっとだけだから」
「んー、ホントに大丈夫かな……。でもその辺をもう少しずつ足して、この薬の魔力容量を補充していくしかなさそうなのよね」
そうして、ケーリュケイオンとカドケウスは慎重に計算をしながら調合を進め、またそれぞれが持つ螺旋の蛇の力もふんだんに使って、何とか夜明け前にはその怪しい惚れ薬の改良型、名付けて【ヘルメスル】を完成させたのだった。
{続け}
R15タグのみなのでソフトに書いていく予定です。
予定です。
大事な事なので2回いいました(笑)
ではまた。
(^^)/