No likeness and Sameness 作:細胞男
「私のターン!ドロー!」
……待ってたよ。バルキリオン。マグネット・バルキリオンのレベルは8。このモンスターならフライ・ヘルを撃破できる。
「私は、【磁石の戦士α】を召喚!」
ATK1400 LV4
「そして【マグネット・フィールド】の効果を発動!自分フィールドにレベル4以下の岩石族・地属性モンスターが存在するとき、墓地から【マグネット・ウォリアー】を特殊召喚出来る!蘇れ、【磁石の戦士β】!」
ATK1700 LV4
「折角倒したのに。そのフィールド魔法も厄介なカードね」
「私のデッキの要だからね!そしてまだまだ私のターンは終わらないよ。私はフィールドの【α】【β】と、手札の【γ】を生け贄に捧げ、変形合体!」
私の手札から飛び出す3体目の磁石の戦士。3人は体に流れる磁力を操り、その形を変え融合し、最強の戦士を作り出す。
「磁力纏いし剣を掲げ、我が眼前の敵を薙げ!これが私の切り札だっ!【磁石の戦士マグネット・バルキリオン】!」
地響きと共に私のフィールドに降り立つ巨大な戦士。バルキリオンはその体躯に比べると少し小さめの剣を掲げ、その切っ先をフライ・ヘルへと向ける。
ATK3500 LV8
「そして【バルキリオン】の効果を発動!このモンスターを墓地へ送ることで、墓地の【磁石の戦士】達へと分離する!」
バルキリオンの体がパーツごとに吹き飛び、元の3体へと戻る。
ATK1400 LV4
ATK1700 LV4
ATK1500 LV4
「さらにさらに!【マグネット・リバース】を発動!墓地から、通常召喚できない岩石族モンスター……【マグネット・バルキリオン】を特殊召喚する!」
3体の影が変形して混ざり合い、その中から再び巨人が姿を表す。
ATK3500 LV8
私のフィールドには4体のモンスター。攻撃力の合計は8100。ライフポイントを2回も削りきる事のできる数値だ。まずはバルキリオンでフライ・ヘルを撃破して、3体のモンスターでダイレクトアタック。それで遊里ちゃんのライフは0!
「バトル!【マグネット・バルキリオン】で、【捕食植物フライ・ヘル】を攻撃!」
「【バルキリオン】のレベルは8。【フライ・ヘル】じゃ敵わないわね。まさかこのターンで出してくるとは思わなかったわ」
その言葉に、私はガッツポーズして叫ぶ。
「どうだっ!これが私の、【マグネット・リバース】コンボだよ!」
「……けど、甘い。甘いわ。
「そんなっ!」
捕食カウンターの置かれたモンスターは、レベルが1になってしまう。まさか他のカードでも捕食カウンターを置くことが出来るとは思わなかった。
遊里ちゃんの使うデッキは、捕食カウンターを軸にしているのだろうか。
「私が公開するのは【
遊里ちゃんの背後に3枚のカードが浮かび上がり、その1枚1枚からあの種子が放たれる。
「私がカウンターを乗せるのは、【マグネット・バルキリオン】【β】【γ】の3体よ」
LV8→1
LV4→1
LV4→1
既に攻撃宣言はしてしまった。バルキリオンは止まらない。フライ・ヘルは巨人を受け止めるように大きな口を開き、マグネット・バルキリオンを飲み込んだ。
LV6→14
レベル14。デュエルモンスターズでの元々のレベルの最大は12。つまり今のフライ・ヘルは、いかなるモンスターをも食べてしまう完全体。
更なる成長を遂げ、まるでファンタジーの世界に出てくるような『世界樹』を彷彿とさせるサイズにまで巨大化したフライ・ヘルが、私たちを見下ろす。
「ば、バルキリオンが……」
私のデッキのエース。あのモンスターがいるからこその磁石の戦士デッキ。切り札を失った今、私のデッキに強力と言えるモンスターは居ない。
「っ、カードを1枚セットしてターンエンドだよ」
マキナ LP4000 手札0
モンスター:
磁石の戦士α、磁石の戦士β(捕食)、磁石の戦士γ(捕食)
魔法・罠:
マグネット・フィールド、セット2
「私のターン、【捕食植物フライ・ヘル】の効果を発動。【磁石の戦士α】に【捕食カウンター】を乗せるわ」
LV4→1
「レベルでは勝ってるのに、カウンターを……?」
「なにもレベルを下げるだけが【捕食カウンター】じゃ無いわ。これはある種のマーキング。次の一手のための……ね」
遊里ちゃんは意味深な言葉を呟くと、手札のカード1枚を墓地へ送る。
「私は、手札の【捕食植物スキッド・ドロセーラ】の効果を発動。このカードを手札から墓地へ送ることで、自分のモンスター1体はこのターン、【捕食カウンター】が乗った全てのモンスターに攻撃出来る」
「っ!その為にカウンターを!」
「そして私は【捕食植物モーレイ・ネペンテス】を召喚」
ATK1600→2200 LV4
「【モーレイ・ネペンテス】は【捕食カウンター】1つにつき200ポイント攻撃力を上昇させるわ」
今フライ・ヘルは私のフィールドを全滅させることが出来る。そうなると捕食カウンターは減るからネペンテスの攻撃力は下がるだろうけど、ダイレクトアタックを受けてしまう。
私のセットしたこのカードに頼るしかない……。
「バトル。【捕食植物フライ・ヘル】、牧音さんの全てのモンスターを喰らい尽くしなさい!」
フライ・ヘルがその巨大な口で磁石の戦士達を丸呑みにする。
LV14→18→22→26
ATK2200→1600
「私のモンスター達が……一口で……」
「【モーレイ・ネペンテス】でダイレクトアタックよ」
「……っ!私はリバースカード、【ピンポイント・ガード】を発動!墓地からレベル4以下のモンスターを特殊召喚する!」
私を守るために。墓地から磁石の戦士は舞い戻る。
「お願い、【磁石の戦士γ】っ!」
DEF1800 LV4
磁石の戦士γの守備力は1800。モーレイ・ネペンテスよりも高いから破壊されることは無いし、そもそもピンポイント・ガードの効果で特殊召喚したモンスターは、そのターン破壊されることは無い。
「なるほど。モンスターを盾にして攻撃を防いだのね」
「……そうだね。私は仲間を盾にした。戦術的には正しい事でも、仲間に対する扱いとしては間違ってる」
磁石の戦士γがこちらを見つめているような気がした。……あくまでも気がするだけでソリッドビジョンに動きはない。だけど磁石の戦士γを見ていた遊里ちゃんの眉がピクリと動く。
「でも。【磁石の戦士γ】は……私の仲間達は、私の呼び掛けに答えてくれる。私を信頼してくれている。……何度でも、私の手札に来てくれる」
「……信頼、ねぇ」
「だから私は、この子達が体を張って守ってくれたターンを無駄にはしない。……そんなにデュエルやったこと無いけどさ、皆とはずっと一緒に戦っていくんだ。この先何度も盾にすると思う。そのまま負けちゃうこともあるかもしれない。でも、私は絶対無駄にはしない!必ず一矢報いて見せるよ!それが私の相棒達への恩返しだから!」
遊里ちゃんはしばらく黙って、自分のモンスター達を見つめる。そしてほんの一瞬だけ、優しげな笑みを浮かべた。
「……本当に変わらない。貴女は何時だって優しくて、気負いすぎて、潰れてしまう。でもそんな人間だからこそ、『貴女の仲間達』も惹かれるのでしょうね。……カードを1枚セットしてターンエンドよ」
遊里 LP4000 手札1
モンスター:
フライ・ヘル、モーレイ・ネペンテス
魔法・罠:
セット1
「私のターン、ドロー!」
……来たっ!このカードがあれば、フライ・ヘルを倒すことが出来るかもしれない。でもこのカードは罠カード。発動できるのは次のターン。先ずは次のターンをしのぐために、相手モンスターを1体減らす……!
「【マグネット・フィールド】の効果を発動!【磁石の戦士γ】の磁力で、墓地から【磁石の戦士β】を引き寄せる!」
ATK1700 LV4
「バトル!【磁石の戦士β】で、【捕食植物モーレイ・ネペンテス】を攻撃!」
その差は100ポイント。数値にすれば僅かな値だが、それはひっくり返ることの無い絶対の数値。βの磁力を込めたパンチがモーレイ・ネペンテスの茎を穿ち、破壊する。
LP4000→3900
「私の方が先にダメージを受けた……?」
「どうっ!?遊里ちゃん!早速一矢報いて見せたよ!」
「……見事なものね。少し本気を出してあげようかしら」
「そ、それはちょっと怖いかな……?」
それでも。磁石の戦士γが繋いでくれたターンで、遊里ちゃんのライフを削ることが出来た。全体の40分の1しか減らせていないけど、それでも大きな前進だ。
「カードを1枚セットしてターンエンドだよ!」
マキナ LP4000 手札0
モンスター:
磁石の戦士β、磁石の戦士γ
魔法・罠:
マグネット・フィールド、セット2
「私のターン、ドロー」
遊里ちゃんは手札を見ると、不満げにため息をつく。
「……まだ温存しておくべき、ね。私は【フライ・ヘル】の効果を発動。【磁石の戦士γ】に捕食カウンターを乗せるわ」
LV4→1
「そして【磁石の戦士β】に攻撃。噛み砕きなさい」
再びフライ・ヘルに飲み込まれていく磁石の戦士β。成長ペースは遅くなったものの、フライ・ヘルは大きくなっていく。
LV26→30
そしてレベルは驚異の30。カードに書かれていたらイラストの半分くらいが星で埋まってしまいそうだ。
「これでターンエンドよ」
遊里 LP3900 手札2
モンスター:
捕食植物フライ・ヘル
魔法・罠:
セット1
「私のターン!」
うん。悪くない、かな。このカードが無くてもライフポイントは削り切れると思うけど、それでも使っておくべきだろう。
「【マグネット・フィールド】の効果で【磁石の戦士β】を特殊召喚。さらにリバースカード、【マグネット・コンバージョン】を発動。このカードは墓地の【マグネット・ウォリアー】を3体まで選択して手札に戻す。私は【磁石の戦士α】を手札に戻して、そのまま召喚」
ATK1400 LV4
ATK1700 LV4
「凄い持久力ね。何度倒してもこうして現れる」
「ふっふっふ!私、こう見えてかなりしつこいんだよ!そして私は装備魔法【団結の力】を発動!装備された【磁石の戦士β】の攻撃力は、私のモンスター1体につき800ポイントアップする!」
私のモンスターは3体。よってその攻撃力は……!
ATK1700→4100
「4100……!」
「すっごいでしょ!これが私達の結束の力だよ!【磁石の戦士γ】を攻撃表示に変更して、バトル!」
DEF1800→ATK1500
「【磁石の戦士β】で、【捕食植物フライ・ヘル】を攻撃!」
「【フライ・ヘル】の効果、まさか忘れたわけでは無いでしょう?」
「もちろん!この瞬間、私はリバースカードを発動!【マグネット・フォース】!このターン、機械または岩石族のモンスターは、相手モンスターの効果を受けない!」
「……っ!」
フライ・ヘルに飲み込まれた磁石の戦士βが、体内からフライ・ヘルを破壊していく。何度も飲み込まれたから、弱点だって分かってる!
フライ・ヘルは強力な効果を持つモンスター。だけどその効果さえ無力化してしまえば、その攻撃力はたったの400。私の仲間達の敵じゃない!
「っ、きゃぁぁっ!」
LP3900→200
さっきのダメージとは違う、ライフを大幅に削る攻撃。両腕を使って衝撃を防いだ遊里ちゃんの顔に、今までとは違った笑みが浮かぶ。
「……面白い。面白いじゃない。まさか貴女が【フライ・ヘル】を、ねぇ」
今までのぶっきらぼうで、だけど優しげな表情とは違う。獲物を見つけた肉食獣のような、財宝を見つけた盗賊のような、どこか狂気染みた喜びの顔。
「……リバースカードオープン、【デモンバルサム・シード】。このカードは魔界の植物。私が受けたダメージを養分として花を咲かせる」
「ダメージを養分に!?」
「そう。攻撃表示の私のモンスターが戦闘で破壊された時、その際に受けたダメージ500ポイントにつき1体、【デモンバルサムトークン】を特殊召喚するわ」
遊里ちゃんが受けたダメージは3700。モンスターの最大数は5体だから、召喚されるのは5体のトークン。
遊里ちゃんの全身から吹き出した血が集まり、同じ色の大きな花を咲かせる。
DEF100 LV1 ×5
「……っ!【磁石の戦士α】と【磁石の戦士γ】でトークンを攻撃!」
何の効果も持たずステータスも低い花は、抵抗する素振りもなく磁石の戦士達に破壊されていく。だけど200しか無いライフポイントは削ることができない。
「あと一歩なのに……!」
手札は0枚。伏せカードも無い。これ以上何をすることも出来ない。
「ターンエンド、だよ」
マキナ LP4000 手札0
モンスター:
磁石の戦士α、β、γ
魔法・罠:
なし
「私のターン」
遊里ちゃんは何をするか決めてあったかのように、迷うことなく手札のカードを発動させる。
「私は永続魔法【プレデター・プランター】を発動。このカードは自分のメインフェイズ時に一度、墓地の【捕食植物】を蘇生させる。蘇りなさい、【捕食植物フライ・ヘル】!」
「っ!せっかく破壊したのに!」
遊里ちゃんの足元に現れた栽培容器から、にょきっ、とハエトリグサが生えてくる。
ATK400 LV2
「安心しなさい。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効になるわ」
「それじゃあ、モンスターを破壊する効果は使えないってこと?」
「えぇ。でも、それ以外ならなんだって出来るわ。私は魔法カードを発動。【融合】!【フライ・ヘル】と【デモンバルサムトークン】を融合するわ!」
融合。手札またはフィールドの2体以上のモンスターを融合させ、新たなモンスターを召喚する方法。融合でしか召喚できないという制限から、通常よりも強力な効果を持っているモンスターも多い。
「でも、トークンを融合素材になんて聞いたこと……!」
「あるのよ。カード名ではなく、【闇属性】を素材として要求するモンスターがね。開け、地獄の花よ!美しき二輪の花を糧として、相対する全てを呑み込め!融合召喚ッ!【
地響きと共に、遊里ちゃんの後ろに巨大な花が咲き誇る。
花の名前はラフレシア。世界で一番大きな花。何本もの触手が獲物を品定めするように蠢き、花の中心部からは花粉を含んだ黄金色の空気が吹き出している。
ATK2500 LV7
「さらに魔法カード【融合回収】を発動。墓地の【フライ・ヘル】と【融合】を手札に加え、もう一度【融合】を発動するわ」
再び現れた『融合』の渦に、フライ・ヘルとトークンが飲み込まれていく。
「現れなさい、2体目の【キメラフレシア】!」
ATK2500 LV7
巨大な2体の植物が私の前に立ちはだかる。
「【キメラフレシア】は1ターンに1度、自分よりレベルの低いモンスターを捕食し除外する。消えなさい、【磁石の戦士β】【γ】!」
触手に絡め取られた2体のモンスターは、キメラフレシアの黄金色の花粉に触れた途端ドロドロに溶解し、ジュースとなって呑み込まれてしまう。
「そんな……!」
「これで終わりね。【キメラフレシア】で【磁石の戦士α】を攻撃!」
「……いや。まだチャンスはあるよ。この2体の攻撃を受けても、私のライフポイントは」
「残らないわよ。【キメラフレシア】は全てを溶かす強力な花粉を持っているわ。戦闘を行う相手も例外ではない。【キメラフレシア】と戦闘を行う相手モンスターの攻撃力は1000ポイントダウンし、替わりにこのモンスターの攻撃力は1000ポイントアップする」
ATK1400→400
ATK2500→3500
「攻撃力の差が開いた……!」
触手に噛み砕かれたαの破片が飛散して私を襲う。
LP4000→900
「きゃっ!!」
マグネット・フィールドの効果でキメラフレシアは融合デッキへと戻っていくけど、遊里ちゃんのフィールドにはもう1体、同じモンスターが残っている。
「【キメラフレシア】でダイレクトアタック。
LP900→0
キメラフレシアの触手からトケが生え、私の体を串刺しにする。
「ま、負けちゃった……」
衝撃で尻餅をついた私に、白い手が差しのべられる。
「やるじゃない。フライ・ヘルが突破されたことなんて殆ど無いのよ。やっぱり、貴女には才能があるわ」
「え、そ、そうかなぁ……えへへ」
その手をつかんで立ちあがり、少し気恥ずかしくなって頭をかく。
「これから色々教えてあげるわ。デュエルの事を」
「わーい!ありがとう!遊里ちゃん!」
「!?ちょ、ちょっと何するの!?」
感極まって遊里ちゃんに抱き付くと、彼女は顔を真っ赤にして私を突き飛ばす。
「いてっ」
「ぁ、ごめんなさい」
「いやいや、行きなり抱きついた私が悪いから。……本当にありがとう!これからよろしくね!遊里ちゃん!」
「えぇ。よろしくね。牧音さん」
「マキナで良いよ!」
その後はお互いの連絡先を交換して、アカデミアに向かう飛行機でも隣の席に座ろうと約束した。
デュエル・アカデミア。
これまでとは何もかもが違う世界。でも遊里ちゃんと仲間達がいれば、どんな世界も怖くない、そう思えた。
「……そう。貴女はいつまでも変わらない」
あの笑顔を、声を、私は何度夢見たことか。例え貴女が覚えていなくたって、私は貴女を覚えている。
ずっとずっと、私は貴女に救われていたんだから。
マキナは最強ではないので、負けることは多々あります。デュエル始めたばかりですからね。
さて、お楽しみいただけだでしょうか。投稿ペースがカタツムリレベルで申し訳ありません。次回の投稿もちょっと遅くなると思います。
次回、『銀色の海―マーメイドステージ―』。1話に出ていた彼女の出番になる予定です。
それではまた次回もお会いできたら嬉しいです。