究極魔法【マダンテ】 究極消滅魔法【メドローア】
どちらも究極と名が付く魔法ではあるが、名を安売りするような生半可な威力ではなかった。
広範囲を破壊し、焦土へと変える威力を持つマダンテに対し、メドローアは一点集中の文字通り消滅魔法である。
古い文献等に記されていただけの古の魔法であったが、神の悪戯か、この日2つの魔法が中間の国にて目撃されることに、いや―
揃って発動するところを目撃する事は叶わなかった。
「ぐっ…………?」
側近は詠唱中だったが、左手を咄嗟に顔の前にかざしていた。
【
「発動…しなかったのか…?」
そう呟き、かざしていた左手を下ろし水魔へと視線を向ける側近。
その視線の先では―
「っ…ぅ…ここは…?」
気絶していた火魔の意識が戻る。
(そうだ…俺達は中間の国に来てて…。)
気絶した事による軽度の記憶障害が火魔には起きていた。
横になったまま周りの状況を確認する。
(なんだ…?風魔と土魔がここに…?それに飛龍まで…。)
(勇者…なんでお前も床で寝てる…。)
「火…魔…?」
(風魔が気付いた、が…何故泣いているんだ…?)
涙を流す風魔が、火魔から視線を外し、離れたところを指差す。
(何を指差して……っ!?)
水の羽衣がところどころ焼け、口から大量に出血している水魔が立ち尽くしていた。
火魔の記憶が正常に戻る!
「水魔ァァァァァァ!!!!!」
それと同時に声を上げ、よろめきながら水魔の下へ向かう火魔。
そして、そのタイミングで
「う…んん…せんしさんのこえ…?」
勇者が目を覚ました。
ゆっくり、ゆっくりと
「う…っぐ…畜生…!水魔…くそっ…待ってろ、今すぐに…!」
水魔へと向かう火魔
そしてたどり着いたところで、水魔の身体が倒れかけるが、火魔が支え、共に座る。
「……ヒュ……ヵ……」
「なに…やってんだよ…おい…!自分に回復魔法かけろよ!早くしろ!!!」
「………フフ…」
水魔は優しい笑顔で、火魔の頬に手を当てる。
その手を握り、火魔は強く叫ぶ。
「笑ってんじゃねぇよ…早く回復を…!」
「……ド…」
「なんだよ…?聞こえねぇよ…!」
水魔は、指先から水の魔法を発動する。
「何を…?」
発動された水の魔法は、小さい文字列を作っていく。
ご め ん の ど や け ど し ちゃ た
火魔の目から涙がこぼれる
「なんでこんな無茶……ばかやろう………っ!!」
水魔の目からも涙がこぼれる
そして先程の文字列を動かし文字を形作る。
け い ご は ぶ く ね
「仲間だろう!!いつもいつも…敬語なんていらねぇよ!!それに…お、俺は…」
火魔の声が震え、言葉に詰まる。
ひ ま ? そ れ と も せ ん し さ ん ?
「今は、火魔だろう…なんでそんな事…」
あ な た の せ い で や け ど し た よ
「…すまない…守ってやれなくて…すまない…」
「…フフッ」
水魔は苦笑いをする。そして水を動かし始める。
そ う じゃ な く て
「……?」
辺りが振動を始める。
5つ目の魔方陣が光りだし、間もなく五芒星の線が完成しようとしていた。
2人のまるで逢瀬にも似た雰囲気を、邪魔することなく、側近はただ見つめ、佇む。
最後の情けか、勝利を確信した余裕からか、その場の誰もがわからずにいる。
(対消滅エネルギー。恐らくは水魔が炎の剣の力をうまく制御できなかったのだろう。博打で出来る魔法じゃない…。)
冷静に不発の原因を探る側近。
自身が得意とする水の力に対して、炎の力を制御できず、強くなりすぎてしまい、身体を一部焼いていたのが証拠だった。
も う じ か ん が な い ね
水魔が再度水を動かし、文字を作り始める
「そう…だな…負けちまった…。もう間に合わない…。」
あ き ら め る な ん て ら し く な い
「……そうか…。」
ひ と つ お ね が い
「…言ってくれ。」
さ い ご に そ う りょ っ て よ ん で ほ し い
僧侶は…僧侶だった私の事は、他の誰も知らない。
勇者様と…戦士さん、貴方達だけが知ってる特別な名前。
「最後なんかじゃ………僧侶…。」
う れ し い で す
「こんな時に何言ってんだ…。」
さ っ き の や け ど
あ れ は か ら だ じゃ な く て
わ た し は あ な た の こ と が す き で す
「火傷じゃすまないって…あれか…。」
「フフ…。」
い ま ま で あ り が と う
水魔が笑う。
「俺も……俺も、水魔の事が―
火魔が話す途中で、水の魔法は、地に落ち、音を立てて弾け散った!
力なく項垂れそうになった水魔の手を、優しく、力強く握る火魔。そして―
「…………好きだよ。」
5つ目の魔方陣から、1つ目の魔方陣に光線が伸び、五芒星が完成する!
辺りには風を切る音が響き、中間の国の空は紫色に染まっていた。
近づく終焉の音――