勇者「えい、えい」魔王「…」   作:めんぼー

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心の火傷

中間の国での戦い

 

強烈な、強化魔法をかけての一撃。即席のコンビであったが、完璧なタイミング。威力も申し分ないはずだった。

しかし…

 

「ギャウアアアアアアア!!」

 

「ぐっ…!うおぉぉぉぉっ!」

 

飛龍と火魔が結界を抜けることは叶わなかった。魔王に匹敵するのではないかと言われている飛龍渾身の一撃を、強化をかけ、火魔という協力者がいるにも関わらず、それを跳ね除けた結界壁。

飛龍と火魔は衝撃で門の内側へ吹き飛ばされ落下してしまった!

 

「火魔!飛龍!」

 

「うぁ…っ!…っあぅ…」

 

その余波ですぐ下にいた土魔も巻き込まれ、飛ばされた拍子に頭を壁にぶつけ気絶してしまう。

 

「土魔!!」

 

風魔は土魔の元へ駆け寄った。幸い、出血はしていないようだった。

少しだけ回復魔法の心得がある風魔は、土魔の後頭部へ回復魔法をかけ、壁に寄り掛からせた。

 

「よかった…無事ね。」

 

気絶している土魔の頭を優しく撫でる風魔。そこへ、水魔の声がかかる。

 

「風魔!」

 

水魔の声にはっとした風魔は、すぐさま声の方へ振り向く。

 

「一度撤退しましょう!少しなら転移魔法の心得があります!だから――」

 

「無駄よ。」

 

「え…?」

 

一度態勢を整える為に撤退を提案するも、風魔がそれを否定する。

 

「思い出したわ、あれは…あの五芒星に展開された魔方陣は――

 

「【究極魔法(マダンテ)】」

 

風魔が話している横から、側近が魔法の名称を教える。

その言葉に水魔は目を見開いた。

 

「【究極魔法(マダンテ)】ですって…!?」

 

 

 

究極魔法(マダンテ)

 

全ての魔力を解き放ち、森羅万象一切を、消滅させる究極の魔法。

一度条件を満たすと、詠唱中は外界の干渉を受けない結界を展開する古の魔法。

 

 

おとぎ話の中だけだと思っていた魔法の存在に、水魔は驚きを隠せなかった。

風魔は失敗したと、うなだれ、心の中で嘆き続けていた。

 

(何が先見の明よ、何が約束を果たす、よ…。)

(闇の衣を取り出した時点で退くべきだった…ごめんなさい…陸姫…約束、守れそうにないわ…。)

 

心が折れかけていた風魔を、水魔が叱咤する。

こんな風魔は初めて見る、けれど今はそんな事を気にしている暇はない。

 

「風魔!何してるんですか!あれがほんとに【究極魔法(マダンテ)】だと決まったわけじゃありません!土魔を抱えてください!飛龍と火魔の元へ行きますよ!!」

 

勇者を抱きかかえた水魔は、風魔に土魔を連れて来るよう促すが――

 

「…あれは…本物よ。」

 

「今…なんて…?」

 

「水魔、【究極魔法(マダンテ)】についてはどれくらい理解してるのかしら。」

 

ふと、風魔が水魔に質問を投げる。

 

「え、えぇと…確か全てを破壊する究極の魔法で…詠唱中は外界との……まさか…」

 

「その、まさか。」

 

風魔と土魔の元へと駆け寄って来ていたが、話を聞き、その場でへたり込んでしまう水魔。

 

「で、でも…まだ他に方法はありますよね!?」

 

「ごめんなさい…、あなた達だけでもこの場から離れるように言うべきだったわ…。」

 

「そんな…それってつまり…。」

 

「……魔王に匹敵すると言われている飛龍の力でも砕けない以上…何も、ないの…。偽の魔法ならばとっくに砕けているはずだから…。」

 

次の瞬間、空に五芒星の点として中間の国の周りに展開された魔方陣の1つから、違う魔方陣へと光りの線が繋がる!

結界は振動を始め、地鳴りが起こる!

 

「貴様らはよくやった、全ての魔方陣が繋がった時、【究極魔法(マダンテ)】は結界内に放たれる。せめて束の間の時間を安らかに過ごせ。」

 

既に詠唱を終え、ただ魔法の発動を待つのみとなっていた側近が勇者陣営に賞賛の言葉を贈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふざけんじゃねーですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水魔はぼそりと吐き捨てると、勇者を風魔の元へと連れて行き、風魔に託した。

 

「水魔?」

 

「私は諦めません、諦めない。どんな圧倒的不利な状況でも、絶対に諦めない。」

 

話しながら、水魔はその歩を進めて行く。

 

「魔王軍として新兵になった私には、馬鹿が付きまとってました。傾国の美女だなんて、私も女ですからね、そう呼ばれて嬉しくて舞い上がってた時期もありました。」

 

「ですが、戦場ですら魔王軍の兵士達は皆下心が見えました。四天王になった時、部下すらも、誰も私を仲間としてではなく、女としか見ていなかった。」

 

「でもあの男は、私を見て下心どころか、水の力を持つ私に闘志を抱いていた。傷つきますよね、女としての自信なくします。」

 

「水魔…あなた…」

 

話し始めた水魔を見て、風魔は気が狂ったのかと心配する。

 

「別に気が触れたわけではありませんよ。」

 

風魔の心配を悟ったのか、水魔がそれを否定するように諭す。

 

「水と火なんて最悪の相性なのに、果敢に挑んできて、正直鬱陶しかったんですよね。」

 

「でも、諦めない心を教わりましたよ、火魔に。ばかですよね、ほんと。」

 

 

 

 

 

石畳に、【炎の剣】が突き刺さっている。

 

 

 

 

 

水魔は炎の剣の前でその歩を止めた。そして左手で具現化させた水の槍を持ち、右手で炎の剣の柄に手をかけた。

 

「…熱いですね。」

 

 

 

 

(熱い…。)

 

 

 

 

(ふふ…本当に、火傷じゃ済まなさそうですよ、火魔さん。)

 

水魔は炎の剣を引き抜いた!

 

 

「水魔!?何をする気なの!!」

 

「私がこの結界をこじあけます、風魔はみんなを一箇所に集めてください!」

 

「そんな、こと…」

 

「出来ないかもしれません。でも、やらなければこのまま死ぬだけです!」

 

水魔は、炎の剣と水の槍を天に掲げる。

2つの武器は水魔の手から離れ、宙へと浮いていく。

 

 

 

―光の線が、3つ目の魔方陣へと繋がった!―

 

 

 

炎の剣は赤い球体へと、水の槍は青い球体へと姿を変える。

更に2つの球体は炎と氷のエネルギーに変わり、水魔の両手へと誘われる。

 

「2人を…!」

 

風魔は【飛翔魔法(トベルーラ)】を下にいる飛龍と火魔にかけ、門の上へと運んだ。

飛龍は流石強靭な龍族なだけあり、意識はあるが身体が反動で動けずにいただけであったが、火魔の方は気絶してしまっていた。

 

「風魔…か…ぐっ…!」

 

「飛龍、動かないで、微弱だけれど連続して回復魔法をかけるわ!」

 

風魔は横たわる飛龍の鼻先に手を当て、回復魔法をかける。

 

「我よりも…火魔を先に回復してやれ…奴には厳しい反動だったはずだ…。」

 

「大丈夫、2人とも同時に行ってるわ。両手から同時に………同時に…?」

 

風魔はふとそこで言葉を止める。

 

「どうした…?それより、水魔は一体何を…?」

 

横たわっていた首を起こし、水魔の方をみやる飛竜。

天に掲げた水魔の両手には2つのエネルギーが落ちる。右手には炎の力が、左手には氷の力が。

 

 

水魔は手を合わせ、2つの力を合体させた!

 

 

「何故水魔が火の力を使える…?いや、それはともかく…あれでは力が半減されるどころか、相殺されてしまうのではないか…?」

 

「相殺…まさか…っ!」

 

飛龍の言葉に風魔はポツリと呟く。そして水魔へやめるように叫ぶ。

 

「だめよ水魔!!!!やめなさい!!!!」

 

「やらなければ、ごほっ…!はぁ…はぁ…みんなこのまま死ぬんですよ…!」

 

 

熱い、身体が焼けつくように熱い

 

寒い、身体が凍りつくように寒い

 

口から血が吹き出す。

 

魔力の奔流で身体が悲鳴をあげる。

 

怖い、けど、ここで止めるわけにはいかない。

 

止めたら、ここまでの全てが無駄になってしまう。

 

子供達には未来がある。

 

風魔と飛龍にも2人を見守っていてもらいたい。

 

火魔は…、どうしてだろう。

 

火魔、あなたは死なせたくないと思った。

 

不思議な感覚です。

 

あぁ…そうか、私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火傷、しちゃったじゃないですか…ばか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

―光の線が、4つ目の魔方陣へと繋がれる!―

 

 

 

 

焦げていく右手を、必死に抑え込む作業と共に眺める。

 

多分、私の旅はここまでなんだろう。

 

勇者様、勇者様。

 

可愛い勇者様。

 

ほんとに、短い間でしたが…姉弟みたいでした。

 

ふふ、喧嘩したままでしたね…。

 

「うっ……っぐ…ふぅぅぅ……っ!」

 

これを放てばきっと、私は…。

 

だから、心の中でだけですが…直接伝えられなくてすみません、勇者様…。

 

ごめんね…。

 

 

「うぁぁぁぁ!!!!」

 

 

水魔は声を上げ、合わせていた両手を離し、弓を引き絞る姿勢をとる!

 

魔力は黄金の弓矢のような形状へと姿を変えた!

 

その様子に、側近の顔色が変わった!

 

 

 

「貴様、その魔法は…まさか…!貴様如きが何故使える!!!!!」

 

 

 

「火魔、起きて!起きなさい!水魔が!!水魔を止めないと!!!!!!!」

 

 

 

―光の線が、5つ目の魔方陣へと繋がる!―

 

 

 

時間が、ない…です、ね…。

 

5つ目の魔方陣から最初の魔方陣に繋がれたら…。

 

「風゛魔゛ァ゛!!」

 

「水魔…その声…っ」

 

そんな反応しないでくださいよ、傷つきますね、私だって女なんですよ…。

 

もう、喉が焼けて声を出すのも精一杯なんですから…。

 

「はや゛…っく…ごほっ…!…転移魔法の゛…じゅ…準備を゛!!!」

 

「…っく!うぅっ…」

 

ボロボロと涙を流しながら風魔は転移魔法の詠唱を始める。

しかし側近はそれをさせまいと攻撃を開始してくる。

 

「万が一にも抜けられたりしたら支障が出る!!貴様らはここで死ね!!」

 

「させると思うか!!」

 

側近の放つ【極大火球魔法(メラゾーマ)】から身を挺して風魔を守る飛龍。

 

「ぐっ…!外からは攻撃が届くとは…厄介極まりない結界だな…。」

 

「ふん、結界は反転させてある。遮断するのは内側からの攻撃だけ、貴様らのためにあつらえたのだ。苦労したぞ。」

 

「貴様は一体何が望みだ…!」

 

「間もなく死に行く貴様らに教えてやる義理はない、ここで散れ!」

 

側近は無数の【極大火球魔法(メラゾーマ)】を唱えた!

 

「この数…今の我だけでは…ぐっ…!」

 

大きな振動と音をたてて、飛龍は倒れる。

 

「転移魔法…準備完了よ…水魔…。」

 

風魔の言葉に、水魔は顔を振り返らせ、目を細めて優しく微笑む。

その頬には汗が、口元には血が滴っていた。

 

「水魔……声が…。」

 

はい…もう…出ないんです…。

 

相反する魔力、対消滅エネルギー、それを…放つ。

 

 

~~~~~~

 

『あんたが【傾国の美女】って名高い水魔か?』

 

『そう呼ばれてても普通本人には言わないと思うんですが、あなたは?』

 

『俺の名前は火魔ってんだ、よろしくな!』

 

『はぁ…なんですか?ナンパですか?』

 

『なんだよ、ばれたか?』

 

『魔王軍に入ったときから日常茶飯事なので。』

 

『へぇ、じゃあヤり慣れてるってわけだ。』

 

『…っ、人を色魔みたいにっ!』

 

『勝負しようぜ!』

 

『は?勝負?』

 

『ヤり慣れてるんだろ?戦闘!』

 

『何言ってるんですかこの人。』

 

『聞こえてるぞ。』

 

~~~~~~

 

『お!水魔!お前もこの戦地にきたのか!』

 

『魔神違いです、帰ります。』

 

『おいおいおいおい!!なんだよ!!』

 

『はぁ…なんであなたと同じ部隊に…。』

 

『つっても上からの命令だしなぁ。』

 

『…さっさと終わらせて帰りますよ。』

 

『おう!その後勝負だな!』

 

『ここでお前を終わらせてやろうかこの火達磨野郎。』

 

~~~~~~

 

『いやーまさか2人とも同時に四天王に昇進とはなぁ。戦闘経験がどうのって魔王様言ってたけど。』

 

『非常に不服ですけど、●●期入隊者は今やあなたと私だけですからね、非常に不服ですけど。』

 

『なんで2回言った?ひどくない?』

 

『大事なことなので。』

 

『ん、そうか…なぁ水魔。』

 

『なんですか?』

 

『昇進おめでとう!』

 

『まさか気の利いた言葉が吐けるとは。』

 

『かーっ!可愛くないやつ!』

 

『ひ、火魔も…。』

 

『ん?』

 

『その…お、オメデトウゴザイマス。』

 

『ははっ!初めて名前呼んでくれたな!ありがとうな!』

 

『ふふっ、そこですか?』

 

『昇進祝いに勝負すっか!』

 

『感動返せよ戦闘馬鹿。』

 

~~~~~~

 

『…決めた!俺も行くぜ!』

 

『却下で。』

 

『即答かよ!』

 

~~~~~~

 

『まだあんなとこにいんのか、さっさと来いってんだ』

 

『あまり煽らないでいただけます?門を超えられたらどうするんですか』

 

『俺らがいるからそれはねーだろ』

 

『…大した自信ですね、ほんと』

 

『惚れんなよ?やけ 『火傷じゃ済まないんでしょう?』

 

『お、おう』

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火魔、きっと私はあなたの事が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

究極消滅魔法(メドローア)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




その胸には、戦友への――

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