勇者「えい、えい」魔王「…」   作:めんぼー

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闇の衣

「側近様。」

 

気づけばバサバサと羽音を鳴らしながら、空を飛ぶ人型の魔物、ガーゴイルが側近のすぐ横まできていた。

 

「首尾はどうだ。」

 

「整っております。」

 

「ご苦労、では西は任せる。」

 

「はっ!」

 

会話を終えると、ガーゴイルは西門へと向かって飛んで行った。

 

「今のは先程の羽虫か…どこへ行かせた?いや、それよりもあの魔方陣は如何様なものか、答えよ側近。」

 

飛龍が鋭い眼光で側近を睨み、問い詰める。

 

「ふん…いいだろう、冥土の土産に聞かせてやる。」

 

肩を竦め、勝ち誇ったように側近は勇者達の陣営へと話し始める。

 

「我ら魔族が原初の頃より使っていた魔法という神秘の力、いくつか種類があるが、代表的なものは5つの種類があるのは知ってるな?」

 

「えぇ、それがどうかしたのかしら。」

 

怪訝な顔をして風魔が答える。

ふいに側近が自身の顔の前に手を差し出し、人差し指を立てた。

 

火球魔法(メラ)系。」

 

続けて2、3と指を5本まで立てていく。

 

氷結魔法(ヒャド)系、真空魔法(バギ)系、火炎魔法(ギラ)系、爆裂魔法(イオ)系。」

 

「何故今になってそんな話をする。」

 

飛龍は怒りを抑えているように見えた、主殺しの男を目の前にして冷静でいなくてはならないのは歯痒いだろう。

その胸中を察した火魔が飛龍に声をかけた。

 

「飛竜、気持ちはわかる。俺もこいつを今すぐにでもたたっ斬ってやりてぇ。」

 

「火魔…。」

 

「だがよ、今は我慢しようぜ、こいつの口からたっぷりと言い訳を聞くまではな。水魔、土魔と勇者を頼む。」

 

気絶した勇者と水魔を背に、火魔は水魔に2人を守るよう頼んだ。

 

「わかりました。土魔、こちらに来てください。」

 

「う、うん…。」

 

先ほどまで泣きじゃくっていた土魔であったが、今は落ち着き、勇者と水魔のいるところまで駆け寄っていく。

 

「勇者…。」

 

「大丈夫、今はただ眠っているだけです。」

 

「うん…。」

 

心配そうに勇者の顔を見る土魔に、水魔が優しく微笑みかけた。

 

「貴様らは――」

 

側近が話を続ける。

 

「貴様らはおかしいとは思わなかったのか?激しさを増す戦場、魔王軍が押しているにも関わらず、この中間の国に手を出さなかったこと、疑問に思わなかったか?」

 

「…?そりゃ人間達が壁を作って、侵攻を防いでいたからじゃないのか?」

 

火魔が答えると、側近は口元を大きく歪ませ笑った。

 

「はっはっはっは!!侵攻を防ぐ?笑わせるな。そもそもこのような壁を作ったところで我らが魔王軍の侵攻を止める事など出来るわけがないだろう。」

 

「魔王が無駄な争いを避けよと軍に命令したからであろう、我にもしばし駐留せよと命があったが。火魔よ、斥候として一匹の魔物をそちらに向かわせたのを忘れたか。」

 

「……あぁ…。」

 

苦虫を噛み潰したような顔で火魔が呟いた。

 

「そう、表向きにはそういう事にしてあるのさ。」

 

「表向きには?それは一体どういうことかしらね、あの魔王が嘘をついてたって言うの?」

 

風魔は一歩前に進み、側近の答えを待っていた。魔王軍の長である魔王が嘘をついていたとすれば、大幅な士気の低下に繋がる。

そうすると当然、魔王軍の中に不信感を持ち始める者や、離反・謀反を企てる者が出てくる。それだけは避けたい…はずなのだが。

 

(この男…自分の言っていることがわかってるのかしら…。自分で自軍の士気を下げるような事を言ってることに気付いていない…?)

 

風魔はしばし思案したが、すぐにそれは中断することになる。側近が話を再開したのだ。

 

「嘘などついていない、魔王様は実に魔王様らしくない、お優しい方だ。そう――」

 

 

 

 

 

「反吐が出るほどにな。」

 

 

 

 

側近が言い放つと、残った左手で黒く光る玉を掲げた。

すると途端に頭上の魔方陣が光り輝きだす!!

 

「あ、あれは…闇の衣ではないか!!側近、貴様が何故そんな物を持っている!!」

 

「闇の衣…?知っているのか?」

 

驚愕する飛龍に、火魔が問いかける。

 

「歴代魔王の魔力が封印された黒玉だ、魔王の力が無い物には触れることすらできぬはず…。」

 

「歴代魔王って…それ、かなりまずい代物なのでは…?」

 

飛龍の答えに水魔は背筋が凍りつく感覚を覚える。

土魔も同様に、禍々しい魔力を目に身体を震わせていた。

 

「水魔…あれ、怖い…。」

 

土魔は水魔と勇者の傍に座り、水魔の手を握る。

 

(魔王様に次ぐ魔力量の土魔がここまで怯えて…。あれ、どんだけやばいんですか…?)

 

水魔は土魔の手を強く握り返し、眠っている勇者と土魔の前に立つように前に出る。

 

「…。」

 

風魔は1人思考を巡らせていた。魔王城の書物をよみふけっていた時に、何かで見たことがある。

魔方陣を敷いているという事は、恐らく側近が掲げた闇の衣を使って何か魔法を使うということだろう。

 

黒玉から無尽蔵に湧き出る魔の力。恐らくただの【火球魔法(メラ)】でも【極大火球魔法(メラゾーマ)】を軽く陵駕しかねない、油断はできなかった。

 

「順を追って説明してやる。太古の昔、まだ人間も魔族も存在しない、天使と呼ばれる種族がこの地を支配していた頃の話だ。」

 

 

側近は掲げていた闇の衣を降ろし、話を続けた。その内容とは――

 


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