勇者「えい、えい」魔王「…」   作:めんぼー

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ネタ・コメディは台本形式に
シリアス展開時は台本形式なしで書いてみることにしました。


まものさん…だったんだ。

~中間の国・川~

 

少女に渡したはずのアクセサリーを、川で見つけた勇者。

手にした瞬間、誰かの記憶が流れ込む。

「なに…これ…。」

 

 

~魔王城・中庭~

 

『お母様…どうして…』

 

一人の少女が墓石の前で膝を付き、泣いていた。

どこか見覚えのある少女の顔、勇者にはすぐにそれが誰だかわかった。

 

(あのこだ)

 

昨日、中間の国で出会った少女。

独特な言葉を使うその少女の事を思い出す勇者。

 

―風景が、変わる!―

 

―魔王城・廊下―

 

『可哀想に、母親を殺されたんだと。』

『あぁ、まだ小さく…甘えたい盛りだろうに…。』

 

廊下の曲がり角で、2匹の魔物は神妙な面持ちで会話をしていた。

オークと大魔導である。

2匹の死角である柱の裏には先程の少女がいた。

ふと、オークがきょろきょろと周りを見回し始める。

少女に気付いていないのだろう。人気が無い事を確認すると、小声で―

 

『なんでも、殺した犯人を側近様が見たって話だ。』

『だから犯人が【勇者の末裔】だとわかったのか!』

 

オークの話に大魔導は驚きを隠せない様子で声を大きくする。

馬鹿!声がでけぇ!―と窘め、またも周囲を確認し、話を続けるオーク。

 

『殺害する現場を見たんだと。即死だったらしい。』

『惨い事を…。人間というのは益々生かしておく価値がないな。』

 

そう言いながら、わなわなと拳を握り締める大魔導。

オークはまったくだ―と返し、会話を続ける。

 

『その後すぐに風魔様達がご到着なさったそうだが…ショックの余り風魔様は、地に座り陸戦姫様を抱きしめ独り言を呟いてたんだとよ…。』

『なんと言っていたのだ?』

 

『それが小声でブツブツと聞き取れんかったそうだ。だがふと聞こえてきたのは龍の言葉だったらしい。結局は何を言っているのかわからんかったと。』

 

『戦友が死に、気が触れられたか…おいたわしや…。』

 

そこまで聞くと、少女は―

 

『勇者の…末裔…』

 

と呟き、魔法で音もなく姿を消す。

 

―風景が、変わる!―

 

最初の風景に出てきた、魔王城の中庭の墓石の前に座る少女。

突然風が吹き、芝生がざわめきたつ。

次の瞬間、巨大な黒い影が少女を覆う。

 

『お主が、陸姫の娘であるか?』

 

声のした方を見やる少女。

その声の主は、全長10mはあろうかという、翡翠色(ひすいいろ)の巨大な龍であった。

圧倒的な威圧感を持つ龍は、ゆっくりとはばたきながら、地に足をつける。

普通の魔物ならば、たちまち萎縮してしまうであろうその姿に、少女は睨みを利かせ―

 

『だったらなんじゃ…貴様もわしを哀れむか…噂話に耳を貸し、わしに同情したクチならば―』

『母親と同じ…その翁言葉、久方ぶりに聞いたぞ。』

 

そう語り翼を畳むと、少女の横へと体を落ち着かせる龍。

地に頭を伏せ、先程の威圧的な雰囲気とは打って変わり、優しい声色で少女に語りかける。

 

『大きくなったな…初めて会った時は、まだ赤子であったか。』

『わしを知っておるのか…?』

 

怪訝な顔で龍を見る少女。

 

『知っているとも、我の背に…お主と、お主の母を乗せて空を翔けた。』

『私と…お母様を…?乗せて飛んだの?』

『そうだ、お主は赤子だった故、覚えておらぬだろうが。…それがお主の本来の喋り方か?』

『あっ…。』

 

からかうように指摘してきた龍に、しまったと顔を赤くする少女。

 

『よいではないか、歳相応の言葉で。』

『…うるさい。そもそも、お前は何者じゃ。』

 

未だどこの誰ともわからない龍に、少女は警戒しながら問いかける。

 

『我としたことが、懐かしさのあまり名乗るのを忘れておったわ、許せ。』

『…?』

 

首をかしげ、龍の言葉に耳を傾ける少女。

 

『我が名は【飛龍】。お主の母とは『元』主従の関係にあった。我は…『ある者』との約束でお主に会いに来た。』

『私に…会いに来た…?ある者との約束って…誰?』

『今は言えぬ、だが直にわかるだろう。知りたくば…強くなれ、娘。魔王軍の四天王の頂に上るほどの力を得るのだ。』

『魔王軍…四天王…頂…』

『知らずに変わらぬ日々を過ごすのもまた、一興ではあるが。どう生きるもお主の自由だ、好きにしろ。』

『好きに…生きる…。』

 

知りたければ強くなれと言ったり、好きにしろと言ったり。

いきなり意味がわからないといった顔で、呆気にとられた少女は、龍の話した言葉を繰り返す。

無意識に自分に言い聞かせるように。

 

『頂を目指すならば…これより先、我がお主の支えとなろう…。我が翼で空を翔け、我が灼熱の業火でお主に仇なす敵を葬ろう。』

『…いらぬ世話じゃ、わしは一人で生きる。』

『ふははっ!強情なところも母親に似たか!』

 

突然笑い飛ばす龍に、少女はカァっと顔を赤らめる。

しかしすぐに怒りで恥ずかしさは消え、怒号を飛ばす。

 

『わしを笑いに来たのか!お母様に似て何が悪い!馬鹿にするなよ!』

 

気丈に振舞おうと必死なのか、翁言葉を使おうとするも、素が出てしまう少女。

ひとしきり笑い終えると、龍は静かに語りだす。

 

『怒り方も、よく似ている。顔を赤らめるところもな。』

『…お母様の事、どれくらい知ってるの。』

 

いじけたように座って膝を抱えると、龍に母親である陸戦姫の事を聞く少女。

 

『お主よりも知っておる。そうさな…魔王をアゴで使っていた。魔族の王を『玉無し』呼ばわりだ、笑ってしまう。』

『それ…家でもよく言ってた…どういう意味なの?』

 

ううむ、この歳では知らぬのも無理はないか…さて、どう説明したものか―

龍はらしくない反応をとり、少し思案すると。

 

『んん…?ん、うむ…まぁ…あだ名と似たような物だ。』

『そうなんだ…今度から『玉無し様』って言ってみようかな。』

『たまなっ…ふはははははっ!それはやめておけ、死人がでるぞ、はっはっはっは!』

『なんでそんなに笑ってるの…?おかしいこと言った?…ふふっ。』

 

先程よりも大声で豪快に笑い飛ばす龍に驚くも

変な事を言ったかと気になるが、釣られて笑う少女。

 

『…やっと、笑ったな。』

『あっ…』

『その方が可愛げがある。子は感情を殺さずに生きよ。』

 

そっぽを向く少女。

優しく少女を見つめる龍。

さながら、種族は違えど親子のような暖かい雰囲気が、場を包んでいた。

 

 

―風景が、変わる!―

 

『すごい!速ーーい!』

『振り落とされるなよ!我が背にしっかりと掴まっておれ!』

『うん!』

 

少女を背に乗せた飛龍が、青く澄み切った大空を翔ける!

風を切る音が大きいせいか、大声で会話をする一人と一匹。

ふいに、前のめりに飛龍の背に倒れこむ少女。

 

 

『あったかい…。』

『何か言ったか!』

『ううん!なんでもなーい!ね、龍に乗ったら言ってみたかった言葉があるのー!』

『なんだ!』

 

 

『サラマンダーよりはや『やめなさい!』

 

ある意味、放送禁止用語をすんでのところで止める飛龍。

 

『あははははは!』

『まったく…とんだじゃじゃ馬ではないか!最初の頃の大人しさはどこへ行ったのだ!』

『感情を殺すなって言ったのは誰ー!?』

『ええい!口八丁なところまで母親に似おって!』

 

そう話す飛龍であったが、どこか楽しそうであった。

 

―風景が、変わる!―

 

どこまでも続く、穏やかな平原。

一つだけ目立つ大岩の上に、少女と飛龍はいた。

 

『私…四天王を目指すよ。魔王軍に入る。』

 

どこか覚悟を決めた面持ちでそう話す少女。

 

『道程は長く険しい。血反吐を吐くような辛い思いをするぞ。』

『いいの、もう決めた事だから。』

『そうか…。』

『私は―』

 

『私は、お母様の仇を…勇者の末裔をこの手で…。』

 

握った拳を震わせ、それを見つめる少女。

 

 

 

 

 

 

 

―それから、数多の記憶が流れ込む!―

 

 

 

 

 

 

 

―風景が、変わる!―

 

―中間の国、街道上空―

 

 

飛龍の背に乗る少女と、その近くにいる羽の生えた魔物。

 

『以上が、勇者の特徴になります。報告が遅れてしまい、申し訳ありません。』

 

魔物が少女に申し訳なさそうに話す。

 

『……………ご苦労…お主は帰還せよ……わしと飛龍だけで十分じゃ……。』

『はっ、それと話にありました、お金をお持ちしました。』

『いらぬ。』

 

『と、申しますと?』

『もう『必要なくなった』、お主にくれてやる。』

『あ、ありがとうございます!』

『行け…。』

『はっ!』

 

【赤いスライムのアクセサリー】

 

少女は出会った少年との【友達の印】を見つめる。

その印は、少女の手のひらの中で月に照らされる。

 

飛龍『グル…』

 

自分の背に乗る主を心配するように小さく唸る飛龍。

 

土魔『大丈夫…なん…でもない……………どうして…』

 

そう呟くと、友達の印を両手で包み、胸へ当てる。

そして飛龍の背へ、少女は膝から崩れ落ちてしまう。

身体を震わせる少女の頬には小さな滴が流れ、月が優しく照らしていた。

 

 

―風景が、変わる!―

 

 

―中間の国・上空―

 

 

『それは確か人間の童子にもらったと。』

『私がこれを捨てたら、進軍の合図を。』

『もう、よいのか?』

『…うん。』

 

(さよなら…私の、最初で最後の…大切な友達…)

 

『グルルルルル…』

『…行こう。』

 

【赤いスライムのアクセサリー】は 静かに地へ落ちていった。

 

 

 

―中間の国・川―

 

 

「まものさん…だったんだ。」

 

浅く穏やかな川の中で、アクセサリーを見つめ、一人呟く勇者。

 

「魔物とは少し違うかのう。『魔族』と言った方が正しい。」

 

ふいに誰かが声をかけてくる。

声のした東門への道に、顔を向ける勇者。そこには黒いローブを着て、フードで顔を隠している者がいた。

声からして女性であることは伺える。

 

「だれ…?」

「さて、誰じゃろうな?それよりも童子、お主にはそんな事を聞く暇があるのか?随分と悠長な物だ、【伝説の勇者様】とやらは。」

 

土魔と似た喋り方であったが、声と体躯は全く異なっていた。

 

「なんでぼくが、【勇者】ってしってるの?」

「…お主、ワシが今言った事、聞いていたのか?時間に余裕などありはしないのだろ?」

「あっ…ごめんなさい!ぼくいそいでるんだ、またねおばさん!」

「おばっ…!?」

 

言い終え、川の中からザブザブと水をかきわけ渡りきり、ローブの女の横を走りぬけようとした勇者。

しかし―

 

「ちょっと待て、訂正しろ。ワシは―」

 

おもむろにフードを脱ぐ女。

 

「永遠の【おねーさん】じゃ!娘は一人いるがおねーさん!復唱!はりあっぷ!クソガキめ!」

「なにこのひと…。」

 

勇者はドン引きしていた。

 

「ええいそんな事はどうでもええんじゃ!」

「じぶんからいったのに…。」

「 ア ァ ン ! ? 」

「ひっ…。」

 

顔を真っ赤にして怒る女。しかしよく見ると―

 

「おばさんは…まものさん?」

「だからおば…あーもうそれでよいわ!魔物ではない!何度言わせる!【魔族】じゃ!覚えておけ!」

「まぞく…。」

 

女は額から角を2本生やし、目は深紅の色をしていた。

人間ではない事が見て取れる。

女は自らの顔の前で人差し指を立て、話し始める。

 

「よいか?今からお主が行くべき場所は東門の外ではない、魔物はもう来ん。ここまではよいな?」

「え?だってまものさんが」

「 よ い な ? 」

「はい…。」

 

重圧、ひたすらに圧迫感。

母親に叱られている子供そのものであった。

ふいに立てた人差し指を東門の上に向ける女。

 

「行くべきは、あそこじゃ。」

「あそこって…もんのうえだよ?あんなとこにいっても…あれ?」

 

飛んできた飛龍が、門の上に土魔を降ろしている最中であった。

出会った時の恰好が違うとはいえ、顔が見えた為、勇者はすぐに気付いた。

 

「あそこへ行って、あの娘につたえてもらいた―「あのこだ!」

「聞けよ!!」

 

ごほん、と一つ咳払いをして、話を再開する女。

 

「あそこへ行き、あの娘に伝えてもらいたい事がある。」

「なにをつたえればいいの?」

「それはな―」

 

 

―魔王城・正門―

 

「どきなさい!私は、中間の国に用があるの!」

 

小さな言い争いが魔王城の正門で繰り広げられていた。




誰かに似た面影の、その女性は―

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