IS〜愛しき貴女へ捧げる我が人生〜   作:TENC

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epilogue. 4

「ここか‥‥」

 

「うん、そう。ここが私の家」

 

杏奈を救い、色々なドタバタがあったりしたが、今俺は杏奈の実家である『樋之上家』へと杏奈と共に訪れていた。

 

「大丈夫?お父さんは分からないけど、お母さんは、多分物凄く反対するよ?その‥‥」

 

「将来性の無いクソガキだからだろ?知ってるよ、そんな事。何度か会ってるからな」

 

「でも‥‥」

 

「けど、諦めねぇよ。反対するなら認めさせるだけだ」

 

「うん、そうだね‥‥」

 

そう、言葉を返す杏奈の言葉はどこか力を感じられなかった。

 

俺たちは、今から何をしに行くのか。簡単に言えば、杏奈の両親に娘さんをくださいと(ご挨拶を)言いに行くのだ。

だが、病院で何度か会った程度だが杏奈の母親は、なんて言うか若干ヒステリックな感じがする。

序でに、女尊男卑な思考は持っていないが、かなり面倒な人というのは分かる。

 

「お帰りなさいませ。お嬢様」

 

「うん、ただいま。それで、彼が‥‥」

 

「事情は伺っております。旦那様方の方へと案内致します」

 

「お願い」

 

門をくぐると其処には、いかにもな格好のお手伝いさんが俺たちに頭を下げて待っていた。

杏奈が、その人と会話を少し交わした後、俺たち二人は来客室らしき和室へと案内された。

 

「旦那様。お連れしました」

 

『ああ、入りなさい』

 

「「失礼します」」

 

厳格な雰囲気の言葉の後、障子を開け和室の中へと入る。

其処には、先程の厳格な声の主であろう男性と俺に対して明らかに敵意を向ける和装の女性が、卓を挟んで並んで座っていた。

 

「話しをする前に先に名乗っておこうか。私は、杏奈の父親の樋之上燈亞(ひのうえとうあ)だ。隣の彼女が母親の‥‥」

 

「‥‥樋之上明乃(ひのうえあけの)です。言っておきますが、私はあなたのことを認めませんからね!」

 

燈亞さんの言葉に不承不承ながらも答えた明乃さんは、何故かヒスって俺のことを指差して認めない宣言をしてきた。

杏奈がそれを見て、止めようとしたが意外な人が止めてくれた。

 

「よせ、明乃」

 

「あなた?!」

 

「私たちは、彼を一方的に否定する為に来てもらったのでは無い。杏奈の将来を共に歩んで行けるかを知る為に来てもらったのだ」

 

「そんなものダメに決まってるわ!?杏奈には、ちゃんとした相手が相応しいわ!こんな、普通で将来性の感じない人がなんて!」

 

「静かにしなさい」

 

「っ!‥‥‥」

 

そこまで言いかけたところで、燈亞さんが今度は、口では無く視線と怒気を孕んだ口調で静止させた。

明乃さんが、黙ったのを見て燈亞さんは今度は杏奈を見やる。

 

「杏奈。悪いが、席を外してくれないか?お前が居ては、話しづらい事もあるだろうからね」

 

「はい」

 

燈亞さんのその言葉を聞いた杏奈は、立ち上がり、和室から出て行った。

 

「それじゃあ、早速話しをしようか。私のたちが聞きたいのは、さっき言ったように杏奈と共にこれからを歩んで行くのに君が、相応しいかだ。君は、君自身はどう思ってるんだい?」

 

人を試すような視線を向けたままで、いきなり俺に質問してくる。

成る程、流石は杏奈の親だな。

 

「相応しいか、どうか言われれば。どっちでも無いと言います」

 

「どっちでも無いと?何故?」

 

「誰かと誰かが、相応しいなんて誰かが言うべき事じゃ無いからです。相手が自分と相応しいかを考えてから一緒に行くんじゃ無く。相応しいかを知る為に一緒に行くと俺は考えていますから」

 

親父や母さんを見てきた俺は、そう思ってる。

俺の言葉を聞いた燈亞さんは、軽く笑うと俺の目を見てこう言った。

 

「君が言いたい事は分かります。私自身、そう思ってるのだから。杏奈が選んだ人だ。これからを決めるのは私たち親じゃない」

 

そう言う燈亞さんの顔を苦虫を噛み潰したような顔で睨み今にもヒステリックになりそうな明乃さんだったが、燈亞さんの軽い睨みで押し黙る。

 

「だけど、一つだけ聞いていいかな?」

 

「はい。何でも」

 

そう言う燈亞さんは、一息吐くとこちらを見やり言葉を続けた。

 

「君は、杏奈に何をしてやれる?」

 

一瞬何を言っているのか分からずかたまっている俺を他所に燈亞さんは、眼を閉じて語り出した。

 

「明乃は色々としていたようだが、私は杏奈に対して何かをしてやれなかったダメな親だ。だから、教えてほしい。君は、杏奈にどんな事をしてやれる?こんなダメ親の元に育ったあの娘の為に、何かをしてやれるのか。教えてほしい。これが親としての私のワガママだ」

 

そう言う燈亞さんの真剣な視線に答えるべく、真っ直ぐに向かい俺は口を開けた。

 

「貴方があいつに、やれなかった事全部です」

 

「過言や戯言ではないかね?」

 

やんわりと否定してくる燈亞さんの言葉に、首を横に振り否定する。

 

「いいえ。俺は、杏奈と会って色々と助けられました。目指すものが無かった俺には目指せる物をくれました。様々な物を知りました。だから、俺は杏奈にその分のお返しをしなきゃいけない。する義務がある。だから、貴方がやれなかったであろう事。あいつが望んだこと。その全てを叶えてやる。それがあいつと共に歩みたい俺のすべき事です」

 

静かに眼を閉じて俺の言葉を聞いていた燈亞さんは、ゆっくりと眼を開けて俺の事を見据えて静かに()()()()()

 

「娘を頼みます」

 

「‥‥っ!任せて下さい‥‥!」

 

静かに言われた言葉を聞いて、俺はお辞儀を返した。

この日、俺と杏奈は両家公認で付き合うことが出来、二人が二十歳になると同時に結婚する事が決まった。

 

 

 

 

そして、それから5年の時が過ぎた。

 


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