IS〜愛しき貴女へ捧げる我が人生〜   作:TENC

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今回は双刃の両親が登場。
自分が思うかっこいい親を書いて見ました。
かっこよく思えたなら幸いです。



epilogue. 2

「久しぶりだな。家に帰るのも」

 

杏奈の手術を明日に控えた今日。

俺はほぼ徹夜状態だった身体を休める為、約半年ぶりに俺の住んでいた家へと来ていた。

 

久しぶりに訪れた我が家は、去年末と全く変わらない出で立ちで俺を迎えてくれた。

 

「療養に来たのに肩意地張ってたら余計に疲れるな。前と同じ何時も通り良いんだよな」

 

我が家に帰ってきたというのに、なかなか中へと入りづらかったが意を決して扉を開ける。

それで、中に入ったらこう言っとかないとな。

 

「ただいま」

 

家の中は、半年前と変わらない様子で俺を待っていてくれた。

 

「おかえりなさい。双刃」

 

「ああ、ただいま。母さん」

 

着物を着た美麗の女性。

彼女が俺の母で、今までの俺をつくり上げた恩人。

鉄桔花(くろがねきっか)その人だ。

 

 

 

「それじゃあ、明日には杏奈ちゃんの手術があるのね」

 

「ああ、それで今日は療養序でにこっちに帰省して来いって来夏さんが」

 

「ふふ、そう。なら、ちゃんと休めるようにしなくちゃね」

 

玄関から上がり、軽く風呂に入った後学校帰りに何時も居た居間で寛ぎながら、今日来た理由を母さんに説明すると母さんは夕食の準備をし始めた。

 

「双刃」

 

「なに?」

 

「あなた、ちゃんと出来てるの?」

 

トントンとリズム良く包丁とまな板の鳴らす音の中、母さんからの問いかけに俺は何のことか一瞬分からず固まってしまった。

 

「あなたは、命を預かるのよ。自分じゃない他人の命をね」

 

「分かってるよそんなこと。じゃなきゃ、目指してねぇよ」

 

「そう言う事を言ってるんじゃないのよ。私が、言いたいのはあなたが医者(それ)を目指した理由は、杏奈ちゃんでしょ?もしあなたは、杏奈ちゃんを救ったとしてもその後は、如何するのかしら?」

 

母さんが言いたいのは、杏奈の事を救ったとしてその後の俺の人生は、如何していくつもりかだ。

俺が杏奈が助かった事で、やる気を無くすんじゃないのかと思っての言葉。当たり前だ。杏奈を救いたいなんて理由は、本音の一部分に過ぎない。

本音は杏奈の事が好きだと言うただそれだけだ。

 

「私たちは、あなたが信じた道を歩んで欲しいと思ってるわ。そこに苦難や問題があるんだったら、手伝ってあげる。助けてあげる。存分に頼りなさい。その為に私たち親は居るんだから」

 

母さんなりの励まし、だけどあの時のように心に響く言葉だった。

 

『誰かを救いたいとかどうでもいい良いんだ!ただ、あいつが苦しんで欲しくねぇんだよ!』

 

『なら、あなたが救うしか無いわね。大丈夫。あなたは、私たち親の子で私たちの自慢の息子なんだから』

 

信じてる。たったそれだけの言葉だった。

ほんと、ウチの親は俺を精神的に殺す気である。ホント、敵わない。

 

「んな事当たり前だし、知ってる。“やると決めたらやり遂げる”でしょ?」

 

「ふふ、そうね。そうだったわね」

 

「ちょっと部屋に居とく。出来たら言って」

 

「分かったわ」

 

顔を合わせないまま、居間から出ようと扉に手を掛けた時言い忘れた事を思い出す。

 

「ああ、それから」

 

「うん?何かしら?」

 

俺の言葉に母さんは手を止め、顔をこちらに向ける。

 

「もし何てifの話しじゃねぇから。救うんだよ。俺は」

 

それだけ言い、そのまま扉を開け居間から出て行く。

だから、最後に母さんが呟いた。

 

「分かってるわよ。何たってあなたはあなた何ですもの」

 

そんな言葉は、俺の耳には届かなかった。

 

 

「双刃ー。出来たわよー」

 

「わかったー」

 

自室で、時間を潰していたら母さんに呼ばれ食卓へと向かう。

するとそこには、母さんと仕事から帰ってきていた俺の親父鉄柚月(くろがねゆづき)が着替え終わった状態で椅子に座って待っていた。

 

「ただいま」

 

「ああ、おかえり」

 

久しぶりの家族三人揃っての食事は、ぎこちない雰囲気は無く他愛ない話しをしながら過ぎていった。

 

「双刃。こっちに来なさい」

 

「んだよ。親父」

 

夕食を終えて、居間で流れるテレビを見ていたら縁側に座っていた親父に呼ばれた。

 

「少し晩酌に付き合いなさい」

 

「んだよ。唐突に」

 

そうは言うが、拒まずに親父の隣に座り母さんが作ったであろう炙りチーズを食べる。

丁度いい塩味が口の中に広がる。

 

「樋之上さんの手術、明日なんだとな」

 

「ああ、俺はやり遂げてみせるよ」

 

「そんな事は分かっている。私が、言いたいのはそう言う事ではない」

 

親父の意図が全く分からず、内心で頭を傾げていると親父が真剣な顔つきで俺の方を向いて来た。

 

「私はお前と同じ時に夢描いた夢を捨てた。無理だと言って諦めた。だが、お前はその時の私よりも十分過ぎるほどに夢に向かって進んだ。だから、お前は」

 

そこで言葉を切った親父は、空に昇った月を見上げこう言った。

 

「休んでも良い。逸れても良い。挫けても良い。それでもしっかりと前に進みなさいよ」

 

「‥‥‥分かってる。それで、もし大変になったら迷惑かけるかもしれないけど‥‥」

 

「心配要らないさ。子供は親に迷惑をかけるものだから」

 

「ああ、お願い」

 

ホントに、敵わないんだよこの二人には。

 


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