IS〜愛しき貴女へ捧げる我が人生〜   作:TENC

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episode.9

「一夏の容態はどうだ?」

 

「ISの保護システムで目立った怪我は無いですが、問題は意識が回復するかですね」

 

「そうか‥‥」

 

花月荘に設置された臨時会議室にて、織斑千冬と鉄双刃の二人は先ほどの作戦失敗の後から変わらない雰囲気で相対していた。

 

「このあとは、どうなるんだ?」

 

「鈴たちのことだから、一夏の仇を取りに行くでしょうね」

 

「そうだな」

 

「それじゃあ、俺はこれで」

 

「まて鉄。お前はどうするつもりなんだ?」

 

伝えることを終えて部屋に戻ろうとした俺を織斑先生が呼び止める。

トラブルや何かがあった時は、俺は必ず俺は動いていた。だが、今回は違う。

俺は何かやる必要がないのだから。

 

「どうもしませんよ。今回は俺が動く必要も動機もないんですから」

 

「そうか。呼び止めて済まなかったな」

 

「いえ」

 

そう言葉を交わし俺は、自分の部屋へと足を進める。

だが、その途中で懐から携帯を取り出す。

 

『やぁ、どうしたんだい?』

 

携帯の向こうから聞こえてきたのは、何時もと変わらない博斗のあざとい声にイラつきながらもそれを表に出さないように会話をする。

 

「単刀直入に言うが、やり過ぎるなよ」

 

『あはは、何に対してかは知らないけど注意しておくよ』

 

側から見れば何を言っているのか分からない会話だが、俺と彼奴の中では十分なのだ。

 

『要件はそれだけかい?』

 

「いや、あと一つだけある」

 

『ヘェ〜、それは何だい?』

 

一年前の俺ならば、死んでも出ない事を俺は今から口に出す。だが、そんな事今はどうでも良かった。

 

「頼みがある」

 

 

 

『いや、あと一つだけある』

 

「ヘェ〜、それは何だい?」

 

別に大したことでも無いと思っていた。

心の変動も何もない状態で、刃の言葉を待っていた。

 

『頼みがある。お前にしか頼まない』

 

は?と無意識に声が出た事に気付くのに約数分掛かった。

その数分の間に刃からの通話は既に切れており、代わりに刃からのメールが1通だけ送られていた。

そのメールの内容を見て、生まれて初めての高い高揚感を感じた。

 

「分かったよ。任せなよ。最初で最後であろうと構わない」

 

御託はいい。そこに刃から頼られたという事実がある限り、他の理由なんて要らない。

 

「やってやる。やってみせる。やり遂げる。そのかわりちゃんと通ってくれよ?」

 

じゃなきゃ、僕のこれは意味ないからね。

 

 

 

「作戦内容は覚えてるかい?」

 

「ああ、バッチリだ。アリアとアリア妹の方はどうだ?」

 

「整備も調整も終わってる。海斗たちには、福音の相手をしてもらうとして君には亡霊たちを相手にしてもらうから、ちょっとしんどいから気をつけてね」

 

「ああ、任せとけ。んじゃ、接続開始」

 

小さく、だが響く声と共に統真の身体を青い光が包み込む。

そして、そのまま大地を蹴り上げると統真の姿はそこから霧のように霧散した。

 

『目標補足』

 

『戦闘形態・移行』

 

統真が博斗と別れるよりも先に先行していたバトルタイプオートマタ一号機アリアとその二号機リーアの二人は、対象を見つけると戦闘形態へと変化する。

 

『『発射(ファイア)』』

 

「「ッ!?」」

 

重火器を展開し、対象の敵ISをロックするとそのまま射撃を開始する。

そして、敵のパイロット達はそこで自分達がロックされている事と攻撃を受けている事を知る。

普通のパイロットであるならば、最初のこの射撃で堕ちていただろう。だが、今回のパイロット二人は適正が高い上に戦闘を既に幾度か繰り返している強者である。

 

「ちっ!何もんだよてめぇら。俺たちの邪魔してタダで済むとでも思ってるのか?」

 

一瞬の判断で、最低限の動きでその砲撃を回避する。だが、完全には交わしきれず装甲の一部を掠っていた。

 

「サマー。どうする?」

 

「任務を遂行したいところだが、残念ながら既にロック済みで正体不明の高性能機だ。それは、得策じゃねぇ」

 

「てことは‥‥‥」

 

砲撃が交わされ、次の行動に移そうとしていたアリアとリーアの二人はアリアを前衛にリーアを後衛に起き、フォーメーションを組んでいた。

そして、敵パイロットも作戦が決まったように武装を展開して、それをアリア達へと向ける。

 

「威力解析といこうかぁ?!」

 

準備(スタンバイ).OK(アンド).(アタック)!』

 

『状況解析、思考修正、武装全展開(フルオープン)

 

「行くぞ、シグレ!」

 

「了解‥‥!」

 

そんな言葉の後、その周囲一帯は激しい閃光光る音速の戦場へと変わった。

そして、両者の関係が拮抗していた時それを断ち切るように空間が割れた。

 

「楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ!」

 

マサカリ(稲叢神楽)担いだ金太郎(統真)が、狂笑を浮かべながら現れた。

そこから戦いは、激化して行く。

 

そして、福音の相手をしていた海斗達はIS学園の専用機持ち達が出撃した事を聞き、歯痒い状況であったが撤退せざるを得ない状態となった。

 

主人公(織斑一夏)の登場まで、あと十分。

 

「自由断絶」

 

音を超え、光を超え、事象を超え、限界を超え、理を超え、境地を超えた正真正銘の人外な化け物の統真は、今のこの戦場を決めに掛かっていた。

一秒にも満たないそんな時間の中にそぐわないスピードと剣技で、目の前に在る物を切る。ひたすらに斬る。

 

「チェックメイトだ」

 

そんな言葉を呟き納刀する統真に合わせるように色褪せていた世界に、色彩が戻って行く。

 

「ガハッ!!!!!」

 

「‥‥‥っ!!!!!」

 

そして、それと同時に血飛沫を上げるパイロット二人。

普通なら、死んでもおかしくない怪我を負っていても未だに意識を保つ二人。

そんな中、一人が澄まし顔をして此方を向いている統真に向けて、掠れた声で叫ぶ。

 

「この、ばけ、ものが!!!!」

 

「ああ、よく言われるよ。主に親友からね」

 

恨み言のように吐き捨てられた言葉のあとに、パイロット二人は海へと堕ちそのまま幕を閉じた。

 

「ああ、そういや、やり過ぎるなよって博斗とヤブ医者野郎に言われてたんだったわ。まぁ、でももういいか」

 

人を二人殺したというのに、何時もと変わらないような態度の統真は、インカムを通してアリアの声を聞く。

 

『任務完遂です。帰投します』

 

「りよーかい」

 

『YES.MY.SISTER』

 

統真達が、戦闘を終えたと同時にそれは起きた。

 

世界は一夏を見捨てる事も助ける事もしなかった。

 

旅館の医務室には、目醒めた主人公(織斑一夏)がただ一人いた。

 

そして、作戦は成功した。




ここで、今更な補足。
アリアやリーアの戦闘形態のイメージは、アスタリスクのリムシィです。

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