何か起こるだろうと思っていた。
だから、別に驚きはしなかった。
だが、こればっかりは憤る他なかった。
「自国の失敗を子供に任すんじゃねぇよ‥‥ッ!」
花月荘の屋根上に胡座をかいて悪態を吐く。
専用機を持たない俺にはあの場にいられなかった。だが、何故一夏達が集められたのかだけは教えてもらえた。
何とも言えない表情の織斑先生から言われた事はたった一つ。
『軍用ISが暴走した』
たったそれだけ。だが、俺にはそれだけで十分だった。
暴走したのならば止めれば良い。だが、それは本来暴走した機体の所属国が対処すべきだ。
けど、それがこちらに回ってきた。
必然的に対処に回るのは、専用機を持ち自由に動ける一夏達専用機持ちだ。
「ほんと、ままならねーぜ人生は」
「そうだね。僕もそう思うよ」
何となしに呟いた言葉に返ってこない筈の返事が、聞き慣れた声で返ってくる。
「‥‥‥何の用だ」
「いや、別に大したことじゃないよ」
いつものヘラヘラとした笑みを浮かべながら、博斗はどこかを向いている。
「人生は思い通りにいかない。簡単にならない。上手く回らない。だからこそ、人生は面白いでしょ?」
「うるせぇよ。俺はお前みたいに困難愛好家でも楽観的でもねぇんだよ」
「ちょっと待ってよ。え、困難愛好家って何それ?初耳なんだけど」
「当たり前だ。今から思い付いたからな」
時々、博斗や統真のことが羨ましく感じる。
こいつらは俺に無いものを持っている。こいつらは俺に出来ないことが出来る。こいつらは俺に成れないものに成れる。
どこが違うのか、そんなのははっきり言って分からない。
人が好きだ。人外が嫌いだ。
中学のの頃の俺が、統真と喧嘩した日に言った言葉だ。
これには嘘偽りは無い。
だが、どこまでが人で。どこからが人外かと聞かれてもはっきりとは言えないのも確かだ。
「難しいことだらけだな」
「むしろ、簡単なことなんてないんだよ」
思考の海に落ちていた俺の言葉に博斗は、立ち上がり頭上に広がる空を指す。
「鳥はこの広い空を飛ぶ。でも、僕たちは鳥のように飛ぶことは出来ない。けど、鳥は僕たちのように何かを作り発展させる事は出来ない。何か出来るを見つければ、どこか出来ないが分かる。出来るか出来ないどっちが多いかじゃないんだ。出来るも出来ないもどっちも多くて、どっちも少ないんだ±0なんだよ」
だから、と言葉を切り博斗はこちらを見やる。
その顔は何時もの見慣れたイラつく
「織斑先生」
「鉄か」
「あいつらは行きましたか?」
「ああ、先ほどな」
博斗と別れた俺は、花月荘の廊下を歩いていたら一室の前で織斑先生が立っているのが目に入った。
話しを聞いた感じ、一夏達はもう行ったようだ。
「鉄。ひとつだけお前の意見が聞きたい」
「応えられる範囲でなら」
織斑先生の少し力のない言葉にそんな言葉を返す。
だが、織斑先生が何を聞きたいのか何となくだが分かる。
「成功すると思うか?」
今、行われている作戦の成功か失敗かだ。
「はっきりと言っても?」
「ああ、構わない」
「では、はっきり言いますが十中八九失敗しますね」
「そうか‥‥」
そう、呟く織斑先生の手は力強く握られている。当たり前だ。たった一人の家族の一夏が危険な事に巻き込まれているのだ。心配する筈がない。
「ただ、その敗北と失敗で得られるものはたくさんでしょうね」
「だが、それらは今は許されない」
「許されない?そんなの相手に言ってやればいい。一夏や箒は兎も角、セシリア達は代表候補生であってもまだまだ未熟でしょ?貴女が四、五月ごろに言ってたじゃないですか」
「ああ。だが、今回の作戦は織斑と篠ノ之だけだ」
「え"?」
一瞬何を言っているのか分からなくなり呆れるが、何とか気を取り直して聞き返す。
「え、いや、何であの二人なんすか?いや、確かにあの二人の機体は篠ノ之束の技術が組み込まれてますが、操縦者は未熟者どころかど素人ですよ?」
「ああ、私もわかっている。だが、彼奴言い出したら止まらないんだ。済まない」
「はぁー、ホント嫌になりますよ」
織斑先生の言葉を受けて頭を抱えたくなるが、ため息を吐いて落ち着きを取り戻す。
「それじゃあ、織斑先生。医療室少し借ります」
「ああ、済まない。本来ならば私が‥‥‥」
「大丈夫ですよ。慣れてますんで」
そう言って別れた俺は、運び込まれてくる一夏の処置の為に準備を始める。
そして、準備を終えたと同時に作戦失敗の知らせが届いた。