IS〜愛しき貴女へ捧げる我が人生〜   作:TENC

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episode. 3

「教官」

 

「何だ。門限までにはちゃんと部屋に帰るんだぞ」

 

「いえ!待ってください!少しだけ教えて下さい!」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ達が、IS学園に転入してきてから一週間が経った。

転入してきた二人の学徒達は、お互い共に何かしらの問題を抱えていた。が、ラウラ・ボーデヴィッヒではないもう一人のシャルル・デュノア。本名 シャルロットデュノアは、二人の男子学生のお陰で、事なきを得て、今は年相応な学園生活を送っている。

 

だが、ラウラ・ボーデヴィッヒは、そう簡単では無かった。

 

「はぁ、言っておくが軍には戻らないぞ。私には此処でやらねばならない事が有るからな」

 

「何故ですか?!此処の生徒達は、ISの事をファッションか何かかと勘違いしている様な半端者ばっかです!そんな者たちに構ってばっかでは教官の能力は半分も活かせません!」

 

自分がIS学園(此処)に向けられた事が、自分の教官であり今の担任である織斑千冬の軍の教官への再勧誘だと思っているラウラ・ボーデヴィッヒのそんな言葉に、千冬の纏っている雰囲気が変わる。

 

「ほう?言う様になったな」

 

「っ!?」

 

学園での通常の凜としたオーラでは無く。国家代表時代の試合で纏っていた猛々しい獲物を狙う猛獣の様なオーラを発するラウラは、怯え怯んでしまう。

 

「確かに学園にいる生徒達の大半は、ISがもたらす影響を違う形で認識している。だが、それは当然の事だ。奴らをちゃんと正すのが教師の仕事であり、私のやるべき事だ」

 

現役時代、誰一人自分の場所へと至らなかった。至った者と戦えなかった事が、引退する時の唯一の心残りだった。

引退した後、学園長から学園で教師をしないかと誘われた時、最初は断ろうと思った。

その時の千冬は、今のラウラが言ったようにISの事をちゃんと知っていない者たちに教えるのは、何処か抵抗があった。

 

「其れにな。私に届き有る奴らが居る。其奴らが、これからどうなって行くのかを見てみたくなった。長年待ち続けた機会が生まれそうなんだ」

 

学園長が、その時の言葉が未だに千冬の脳裏には残っている。

 

『誰も貴女に届かなかった。貴女は、強過ぎる自分に飽き飽きしていた。貴女に届く者が“今”居ないのなら“未来(さき)”に作れば良いのです。世界最強である貴女自身が教えて』

 

そうだ。居ないのなら作ればいい。私が持てる技術と経験を生かし、私に届く奴を。

その言葉がIS学園で千冬が教師をしている理由であり、ラウラの誘い受ける気の無い理由でもある。

 

「其れと言っておくが、ラウラ。今のお前では、私を満足出来るのか?全力の私を満足出来るのか?私が、見てる奴らの中の一人は居るぞ。誰とは言わないがな」

 

強く凛々しい千冬に憧れ、そんな千冬に成りたいと思っていたラウラは、今の自分の本能を出している猛々しい千冬に驚きを隠せなかった。

そして、そんな顔をさせる奴のことがとても憎く感じた。

千冬の弟の一夏の事を目の敵にしている理由と同じ気持ちを感じながら。

 

「教官は、何故そんな者達に囚われるのですか!?見込みがあるとは言え、一般人である筈です!そんな平和ボケした奴らなんかより、私の方が!」

 

「一般人?平和ボケ?可笑しな事を言うなラウラ。私は、軍人でも無ければ、元々はお前の言う平和ボケした一般人だぞ?」

 

「え、いえ、そのような事は‥‥‥」

 

千冬の言葉にさっきまでの威勢が嘘の様に無くなっていくラウラ。

 

「ふっ、まぁ、今はもうどうでも良い事だがな」

 

怯えるラウラに対して、千冬は何時もの雰囲気に戻りそのまま自分が向いていた方へ歩いて行く。

重圧から解放されたラウラは、其処にへたれこんだ。

 

「織斑一夏‥‥‥!お前を倒せば!お前が居なくなれば!」

 

今までよりも深い憎しみを身に纏いながら。

 


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