「おい、こんな所で何をしている。鉄」
「どーも、織斑先生。別に何もしていませんよ。ただ、突っ立っているだけっすよ」
「そうか」
授業終わりの夕方。俺は、学園の敷地内の木陰で木にもたれながら考え事をしていたら、織斑先生から声を掛けられた。
「お前、何かあったのか?」
「何かって例えばなんすか?」
「そうだな。ラウラの事とかな」
「‥‥‥」
多分この人は、知ってて言っているのだろう。ボーデヴィッヒの名前を出されて黙っている俺を見て、腰に手を当て呆れたようにため息を吐く。
「お前が、如何して彼奴の事を嫌悪してるのかは知らないが、異常だぞ?確かに彼奴は、周囲との関わりを持とうとしない奴だが、お前が表に出すような奴じゃないだろ」
「ええ、確かに其れだけなら問題ないっすね。けど、其れを受け入れきれるのは普通の人間だけっすよ」
「‥‥‥鉄。お前、其れを何処で知った」
俺の事に関して少し説教混じりに話す織斑先生の言葉に、考えてた事をそのまま口に出すと、さっきまでの織斑先生の声とは思えない程低い声で聞き返された。
「‥‥俺の高校の友達にそう言う事を調べるのが得意な奴がいるんすよ。そいつから聞きました」
「そうか」
「此処で織斑先生に言っておきますが、俺は人外と言ったものに本能的に嫌悪を抱くみたいで、ボーデヴィッヒは典型的な奴だからこんな状態になってるんだと思います」
「そうか。だが、お前は直す気があるのか?その性質を」
「あるにはありますよ。唯、其処まで重視してないだけで」
何れこの性質の所為で面倒くさい事になるのは分かっている。其れに絶賛そうなってる気がする。
「其れより、お前はいつまで隠れているんだ?ボーデヴィッヒ」
「そうだぞ。私に用か?」
「何時からお気づきに?」
「最初っからだ。其れより鉄。お前も気付いていたか」
「まぁ、闇討ちされそうになった事あるんで」
俺と織斑先生からの指摘の後、俺がいる木陰とは別の場所からボーデヴィッヒが出てきた。
統真から身体を鍛えろと言われてから軽くではあるが、運動だったりしてるし、何故か子供の時から人の気配には敏感だったからすぐ気付いた。
因みに闇討ちされそうになったってのは、本当だ。
「其れじゃあ俺は」
「ああ」
ボーデヴィッヒが来てから俺は、その場を離れて帰路に着く。
そう言えばデュノアの事を調べるのがまだだったな。まぁ、何れにしても何か隠してるだろうな。
「あの男は何者なんですか?」
「お前の唯のクラスメイトだ。年上だがな」
鉄が去ってからラウラが、鉄について聞いて来た。
「其れでどうしたのだ」
「はい。では教官。何故このような所で教師などをしているのですか!?」
「はぁ、其れは無理だ。私には私のやるべき事がある」
予想はしていた言葉に私は頭を抑えて少しだけため息を吐く。
「お願いです教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」
「ほう?」
続いて出たラウラの言葉に目を細めて圧をかけると、ラウラはビクッ!と身体を震わして顔を強張らすが、直ぐに元の顔に戻して口を続ける。
「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そのような程度の低いものたちに教官が時間を割かれるなど――」
「――そこまでにしておけよ、小娘」
「っ!!」
黙って聞いていれば、こればっかりはしっかりと言わせてもらおう。
「少し見ないうちに偉くなったな、十五歳で既に選ばれた人間気取りとは恐れ入る」
「わ、私は‥‥‥」
その後ラウラは、言葉を続けきれなくなったのかその場から走り去っていった。
「さて、盗み聴きとは、異常性癖は感心しないぞ」
「いや!何でだよ!」
ラウラが去った後、木に隠れて盗み聞きしていた一夏に指摘すると慌てたように飛び出て来た。
「其れよりボーデヴィッヒが、俺の事を嫌っているのって‥‥」
「お前の所為では無い。其れにお前が周囲にどう思われても私はお前の姉だ」
此奴の頭の中にあるのは、第2回モンド・グロッソで誘拐された事と其れにより失われた二連覇と言う私の栄誉の事だろう。
だが、此奴は一つだけ勘違いをしている。私が、本当に栄誉が欲しかったのなら自分がどうなっていたのかを。
「其れよりもうそろそろ帰れ。門限前だぞ」
「あ、うん。分かった」
そう言って一夏が帰らす。誰も居なくなり、一人になった所で気持ちを出す。
「一夏。お前は強い。私とは別の意味で強い。鉄のような実力とも鈴音のような天才的な感覚ともセシリアの知識とも違う力を持っている。其れは、私にも匹敵する」
その後の言葉は、言わない。誰かが聞いているやもしれないのだからな。
だが、一夏これだけは言っておく。
「強くなったな」