IS〜愛しき貴女へ捧げる我が人生〜   作:TENC

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鈴編最終回です。


episode. 10

クラス対抗戦の日の夜。とある場所で、奇妙な頭飾りをした人影がディスプレイの光り当てられてつまんなさそうに座って居た。

 

「もうなんなのさ彼奴は?!箒ちゃんの邪魔はするし、挙げ句の果てには頭突きをするなんて、解剖してやろうかな!」

 

人影の正体は、世界各国から指名手配されて追いかけ回されている天災。篠ノ之束だ。

自分が気に入っている織斑千冬の弟であり、世界で一番目の織斑一夏の実力をIS学園の学徒達に見せつけようと思って居たら、自分の思い通りに事が運ばなかった事に悪態をついているのだ。

 

「其れも何で、私のハッキングが直ぐに解除されちゃうんだよ!」

 

「そんなの僕が許さないからに決まってるじゃ無いか」

 

不意に呟かれた自分の疑問に答える声に、バッと振り返る篠ノ之束。

後ろには、血濡れた白衣をコートに着込みポケットに片手を入れてもう片方の手を腰に当てて立っている灰色髪の青年。

 

僅か数人しか見分けられず、其れ以外の人をクズと見下している篠ノ之束だったが、その青年が見た直後本能的にその場から飛び退いた。

飛び退いた後の篠ノ之束の顔は、冷や汗が流れている。

 

「お前誰だよ」

 

「あんたの無人機五機。其れと計画を潰した研究者さ」

 

危機感を研ぎ澄ましている篠ノ之束とは反対に淡々とした態度の青年。

 

「それにしてもあんたの行動は、僕には理解出来ないね」

 

「当たり前だ。お前に理解出来る訳ないじゃない。私は天災何だから」

 

自らを天災と言う篠ノ之束に対し、青年はーー海原博斗は外に出している手で顔を抑え、明らかに不機嫌になる。

 

「あんたが創り出したISってのは、宇宙を自由に羽撃く為の物じゃないのかよ」

 

「!?」

 

不機嫌になった博斗の言葉に、目を見開く篠ノ之束。

其れもそのはずだ。親友の織斑千冬にしか言っていない筈のIS制作の理由。其れを目の前の自分が見下した博斗が、当然の様に答えたのだから。

 

「けど、其れも仕方ないよな。あんたは、自分の夢が馬鹿にされ暴走した。そして、何の枷無く無限に続く星海を飛び続ける筈のISを兵器としての利用価値を見出させた」

 

吐き捨てた様に、ISが世に出た世紀の大事件と言っても良い『白騎士事件』を語る。

 

「考えれば、誰でも分かることだ。13カ国の弾道ミサイルの発射システムを同時に、掌握出来るのはあんたぐらいだからな」

 

「お前に、お前なんかに何が分かるってんだよ!」

 

「分かる訳ないじゃないか。僕は、貴女じゃないのだから」

 

感情的になって反論する篠ノ之束に、博斗の口調は少し穏やかになる。

 

「貴女は、同じ科学者として尊敬するし憧れだ。でも、あんたは。あんたなら、誰かに認められなくても自分でやってのけるぐらいの事は出来たんじゃないか?!」

 

「五月蝿い!そんな事だけじゃダメなんだよ!あの娘達を認めさせなきゃ意味がないんだ!」

 

子供の喧嘩の様な言い争いを続ける二人。

言い争いを続け、暫くして肩で息をする二人の内、博斗の方が俯かせていた顔を上げて人差し指を篠ノ之束に向けて宣言する。

 

「僕は、何れ貴女を超える!今は、束の間の頂点を満喫する事だな!」

 

「ふんだ!望む所だよ!この束さんに勝てると思わない事だね!」

 

不敵な笑みを浮かべる二人の天災科学者。

篠ノ之束は、自分に己の土俵で喧嘩を売ってくる人間なんか居なかったが、目の前にその人間がいる事の嬉しさ。

博斗は、目標だった人を前にして何時か超えると言う目的の再確認と、自分の中に生まれた新しい価値観への喜び。

 

この場に、二人の親友である三人が居たらまた世界が大変な事になると呟くだろうが、今は居ない。

 

満足した様な雰囲気の二人は、各々のやり方でその場から消えていった。

 

 

 

「はぁ、疲れたなぁ」

 

クラス対抗戦の日の夜。俺は、学園の屋上で風に当たって居た。

門限はとっくに過ぎているが、部屋に戻る気は殆んど無い。織斑先生にもちゃんといっているから問題ない。

 

「其れで、何の用だ統真?」

 

「やっぱり、気付いてたか」

 

鉄柵にもたれながら、後ろの入り口の上に座っている悪友に声をかける。

 

「まぁ、用って程の事じゃないんだが、取り敢えず何時もの気まぐれだ」

 

「そうか。其れより、今日は助かった。ありがとな」

 

「そ、そっちも気付いてたか」

 

「当たり前だ。博斗の奴が見てるのは分かったし、其れなら必然的にお前が居るって分かったからな」

 

「流石だな」

 

当たり前だ。何年お前らとバカやって来たと思ってるんだ。

 

「‥‥‥これだけは言っとくがよ。お前らが、何をしようがお前らの勝手だが、俺の許容範囲を超えたら俺も行動を考えるぞ」

 

「‥‥‥ああ、分かってるさ」

 

統真の奴は、そうとだけ答えるとその場から消えていた。

明日からは、面倒な日常がやってくる。

 

ああ、憂鬱だ。

 

そう思う俺の顔は、何処か楽しげだった。

 

 


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