今回はアヴェンジャーではなくセイバーです
番外編1 ローズリィと三人のジャンヌ~クリスマス前~
それはカルデアにセイバーとしてローズリィが呼ばれて、数日経った頃に起こった事件だ。
「むぅ…………ジャンヌが見当たりません。黒いジャンヌも見付かりませんし。二人して何処にいるのでしょうか?」
ローズリィはカルデアのマスターである藤丸立花に面談で呼ばれ。その後はケルト、円卓と言った武道派サーヴァント達と模擬戦に誘われて。
とうとう腐れ縁のあるスカサハが出張ってきたことで混沌と化した空間から、暫くしてようやく解放された彼女は癒しを求めてカルデアを徘徊していた。
「ジャンヌぅ、ジャンヌぅ~…………どこですか、ジャンヌぅ~」
世の人々から悪魔と恐れられている彼女は、今や親を探す迷子のように情けない姿を晒していた。
「ジャンヌも黒いジャンヌも、部屋にいません…………何処を探してもいません…………私は、彼女達に嫌われてしまったのでしょうか…………」
足を動かす度に彼女の表情が落ち込んでいく。
長い間ジャンヌ成分を補給していなかった彼女の心は、既に死に体だ。
心なしか彼女の鮮やかなピンク色の髪が、ほんの少しずつ少しずつ薄くなっている気がする。
「そう言えばこの間、天草四郎だとかいうサーヴァントが変な仮面を着けて徘徊していたと聞きましたね…………彼はジャンヌと敵対しているとも聞きましたし、この原因もそのサーヴァントのせい…………?
殺すか」
ちょっと物騒な発言と共に、何処かにいる胡散臭い笑顔のルーラーが悪寒を感じたとか感じなかったとか。
こうなれば他のサーヴァント達一人一人に質問していくかとローズリィが考え始めた時、何やら騒がしい音が廊下に響いているのをローズリィの耳が捉えた。
「騒がしい…………この先は、確か子供の英霊の部屋が集まっている区間でしたか? ふむ…………子供好きのジャンヌがいるかもしれませんね。行ってみましょうか」
いざ目的地が決まれば自然と足も速くなるというもの。早くジャンヌに会いたいが為にローズリィは走り出した。
「ん? あれは………こないだ召喚された姉ちゃんじゃねーか。あの姉ちゃんは確実に着痩せしているタイプだな……………よし! おーい、ねぇっぶへら!?」
「?」
ローズリィは足下で熊のぬいぐるみらしき物を蹴っ飛ばしてしまったような感触を感じたようだが、今はジャンヌの方が大事だと考え無視することにした。
カルデアで牽き逃げ事件が起こったが、正直ぬいぐるみなので今はどうでも良い。
ローズリィは騒がしき音がする部屋の中へと突撃した。
「ジャンヌ! いますか!」
「あ! リィルです!」
ん? と、普段のジャンヌより高いような、というか幼くなったように聞こえた声が彼女に届く。なんだかひどく懐かしい声に疑問が生じたローズリィは慌てて声のした方向へ目を向けた。
部屋の中には、ずっと彼女が探し続けていたジャンヌと邪ンヌがいる。そしてもう一人、小さい子供が二人の間にいてローズリィに笑顔を向けているのだ。
というか、幼い頃の姿のジャンヌだった。
「……………………は?」
「この姿の私とは初めましてですね! いつもいつも未来の私が貴女に迷惑を掛けてごめんなさい」
「どういう意味よそれ!?」
何やら邪ンヌと幼いジャンヌが言い争いをしているが、ローズリィは目の前の現状に脳の処理が追い付かず固まってしまった。
二人の光景をまるで姉妹の喧嘩を眺める長女のように見守っているジャンヌにすら、彼女は気付かないまま固まっている。
しばらくすると、邪ンヌと口喧嘩していた幼いジャンヌ。ジャンヌリリィが口喧嘩を止めるとローズリィと話をするために近寄っていった。
「あのですね、あのですねリィル! 私、召喚されてからずっとリィルに会いたかったんです!」
「……………………」
「リィルにクリスマスプレゼントを渡したいんですが、何か…………ってリィル? 聞いてますか?」
「…………………はっ」
「え、どうし………って、ちょ!?」
今まで何処かに意識が旅立っていたローズリィの思考が戻る。
すると目の前にいるジャンヌリリィに条件反射で抱きついたのだった。
「むぐぅッ……リィ、はなひて………!」
「ああ…………ジャンヌ。どうしちゃったんですかジャンヌ。これはあれですか? タイムスリップですか? トリップしちゃったんですか私? あ、でもジャンヌがもう二人います。と言うことは、なるほど。これがユートピアか」
「リィル!?」
ちょっとトチ狂ったローズリィの発言に邪ンヌが驚きの声をあげた。
だが悲しいかな。彼女の驚きを理解してくれる者はこの部屋にいない。
ローズリィはトリップしており、リリィはローズリィの胸の中。長女のジャンヌすら二人の姿に笑顔であるのだから。
「ジャンヌも黒ジャンヌも、三人同時で構いません。私の胸に来なさい。受け止めてみせます…………いえ! 受け止めます!」
「ちょっと! 正気に戻りなさいリィル!!」
「はいリィル!」
「あんたもふざけたことしてんじゃないわよ! このお気楽聖女様!」
ツッコミを入れる邪ンヌを置き去りにして、ジャンヌもまたリィルとリリィを抱きしめるために二人の中へと飛び込む。
目の前にある現実が、邪ンヌの顔を盛大に歪めるのだった。
▽
「それで、なんでちっちゃなジャンヌがいるんです?」
キレた邪ンヌが炎を放ったことで、華麗に二人を抱えながら避けたローズリィが反省して、この場は一度落ち着くこととなった。
ローズリィは部屋の中にある大きなソファーの真ん中に陣取ると、膝の上にリリィを置いてお菓子を食べさせ、両脇にジャンヌと邪ンヌを侍らせた後でようやく事情を尋ねる。
「あれですか? またあのギョロ目が何かしたのですか? それなら労いと共にヤツの目くり貫くのですが?」
「止めなさい、違うわよ……………………実は、少々手違いがあって、ね」
「手違い?」
ジャンヌの幼い姿が久しぶりのせいなのか、ローズリィは幸せそうにお菓子を頬張っているリリィの頬っぺたを指先でツンツンして楽しんでいた。
いつもの無表情顔が崩れているのは、彼女が子供好きであるからだと信じたいところではあるが。
「黒の私はセイバーオルタさんと仲が良くてですね。前にオルタさんがサンタをしているところを見て、この子もやりたいと思ったそうなんですよ」
「はああああ!!? 誰があんな死体色の性格最悪女と仲が良いのよこのイカレ聖女!! 目が腐ってんじゃないの!!?」
「…………そう、ですか。黒のジャンヌはお友達ができたのですね。それは……大変喜ばしいことです……」
「あんたも真に受けてんじゃないわよ!!」
ジャンヌの話を聞いて、少しばかり寂しそうにするローズリィ。
ジャンヌの最大の理解者であると思っている彼女にとって、その話は複雑な気持ちであるのだ。
ネガティブな感情を埋めるかのように、膝の上にいるもう一人のジャンヌを撫でることで気を紛らわせる。そうやって精神を回復させながら、話の続きを聞き出し始めた。
「それでこのジャンヌの原因は?」
「………ちょっとばかしサンタ袋を盗もうとしていた時に失敗したのよ。あの金ぴか(子)に透明になる薬を貰おうとしたら―――――――」
「貰おうとしたら?」
「騙されて子供になる薬を飲まされたんですよリィル!」
ブチリと嫌な音がローズリィの隣で響く。
突如会話に割り込んできたリリィにキレた邪ンヌの音だった。
「うるさいわね、このクソガキ!」
「人の物を盗むなんて最低です! どうしたら未来の私はこんな風に育ってしまったのでしょうか?」
「ああやだやだ! どっかのウザい聖女様みたいなこと言って……これだから世間知らずは嫌なのよ!」
再びギャーギャー騒ぎだす邪ンヌs。
これは仲のいい証拠だと、ジャンヌと同じ結論に至ったローズリィは二人を放置することに決める。なぜなら、それよりやらなければならないことができたから。
「あら? 急にどこ行こうとしてるんですかリィル?」
「いえ。変なものを黒いジャンヌに飲ませたどこぞの英雄王にお礼参りに行こうと思いまして。少々席を外しますので、二人のことお願いしますねジャンヌ」
そうジャンヌに告げて彼女は部屋から出て行った。
この日、カルデアの一部が破損するほどの被害が出る殺人事件が起こった。その事件に巻き込まれたのは、どこぞの変態ぬいぐるみと人類最古のジャイアニストである金ぴか。瓦礫の下に倒れていたのを発見された。
未だ犯人は見つかっていない。
神殺しB
次回は12月24日です