薔薇の騎士   作:ヘイ!タクシー!

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これ書いた初期からこの話に持ってこうとしてたけど、今となってはこれで良いのかわかりません。なので、今回と次回辺りは優しい目で見てください。
誰か影の国の詳しい内容教えて下さい。







起源

「ローズリィ・ゲール。ジャンヌさんの唯一無二の親友にしてフランス最強の騎士だったと聞いています」

 

 リヨンに戻った私たちは、街の人々に宿を貸してもらって一息入れる事となった。私は平気だって言ったんだけど、ドクターやマシュが慣れない特異点の旅に気疲れしているだろうって。

 本当は、一番ショックを受けてたジャンヌの為にスカサハから話を聞きたかったんだけどね…………

 ジャンヌが気持ちの整理がしたいからって私の為に休憩を求めてくるし。それに対して私は何も言えなかったんだ

 

 そういうわけで今はマシュからローズリィのことを、ジャンヌと、二人に興味がある様子のマリーと一緒に聞いているところだ。

 

「親友……というより、家族に近かったですね。あの子とは親や兄弟達以上にずっと長く一緒にいましたから。それこそ戦場でさえ」

 

「あの時も思ったけど、二人はそんなに仲良かったのね!」

 

「………唯一無二と言えるほど大切な人です」

 

 ジャンヌは誇らしそうにローズリィのことをそう言った。

 

 ただ、だからこそさっきの状況を思い出してしまったんだろう。少しだけ暗い顔になっているのがわかる。

 ………とても辛そうで励ましてあげたいけど、なんて声を掛ければいいのかわからない。

 

 多分、私にとってのマシュと同じくらい大切だったんだろう。マシュが私の敵になるなんて想像もしたくないほど嫌なのだから、ジャンヌのショックは相当なはずだ。

 

 マシュもそう思ったのか雰囲気を変えるためにも話の続きを話してくれた。

 

「ジャンヌさんの有名な話と言えばやはりオルレアン奪還でしたが、ローズリィさんには目立った功績はありません。それはローズリィさんがジャンヌさんの従者であったからです。

 それでも、かのローズリィさんを英雄とたらしめた所以は、その圧倒的な強さです。どんな死地であろうともジャンヌさんを守り続けた単騎での戦力。

 指揮官である他の騎士達を除き、ローズリィさんだけが武功のみでイングランド軍を恐れさせたわけですからね」

 

『まあ戦争以外でもう一つ彼には有名な話があるんだけどね』

 

「へ? もう一つあるの?」

 

 マシュの話を聞いていたらロマニが唐突に割り込んできた。

 なんだろうと思い彼に意識を向けようとすれば、マシュが慌てた様子でロマニを睨み付ける。

 

「ドクター!」

 

『あ…………ごめん。なんでもないです』

 

「「?」」

 

 そのやり取りがとても気になるんだけど…………

 隣を見ればジャンヌも良くわからないような顔しているし、何かあるのだろうか?

 

「ドクターの発言は置いておきましょう…………それで、ですが。ローズリィさんの英雄として名が広まったのはやはり、コンピエーニュの戦いです」

 

「…………」

 

「えっと…………確かジャンヌが捕まったのも、その戦いだよね? なんでそれが武勇になるの?」

 

 蒼白になるジャンヌを見れば、その戦いが如何に彼女にとってトラウマになっているのかわかるけれど、二人のことを知るためにも聞かなければならなかった。

 それを理解しているのか、マシュもジャンヌに気を遣いながら話し始める。

 

「コンピエーニュの戦いでジャンヌさん達は少数精鋭の部隊で奇襲を仕掛け、戦いを優勢な状態に持っていきました。ですが、敵側による6000人の援軍が到着したことで、ジャンヌさん達は孤立してしまったんです。

 そして、撤退戦に移行した時に殿を担ったのがローズリィさんなんです」

 

「ッ…………」

 

 ジャンヌが歯を食いしばっている。

 それはその戦いを悔やんでいるようには見えない。己への後悔と無力を恨んでいるような、そんな表情が見てとれた。

 

「皮肉にも、彼が最も戦果を挙げたのがその時です。

 ローズリィさんは6000人の敵兵力相手に、一人で立ち向かい、そして彼は勝った」

 

「へ? …………勝ったの!?」

 

 ジャンヌの表情から負けてしまったのかと思えばそうでは無かった。

 だが同時に。驚きの一言で済むにはあまりにも異常な勝利だ。常識を越えている。

 それほどの武功を挙げているのなら、彼が英雄と呼ばれるのも納得である。

 

「しかし、同時に彼もまた激戦を終えたことで力尽きた。全身に重傷を負い、満身創痍の状態で残党兵に捕らえられたそうです」

 

「ふむ。それはおかしいな」

 

「!?」

 

 び、びびっくりした! 急に私の後ろからにゅっとスカサハが出てきたから、心臓止まるかと思った! 

 と言うか、いつの間に?

 

「おっと、すまんなマスター。驚かせてしまったか」

 

「スカサハさん。いつの間に?」

 

「なに。少しばかり情報の共有をと思ってな。私はこの世界のあやつを知らないのだ」

 

「? それはどういう………」

 

「私のことはいい。それよりもほれ、マシュよ。続きを話すと良い」

 

 さらりといろいろなことを流されてしまったが、確かに続きが気になるのも事実。スカサハに文句を言うのをグッと堪えて、私はマシュに目を向けた。

 

「えっと…………とは言え、その後のローズリィさんの史実はあまり残っていません。治療により四肢を切断しなくてはならなかったことや、彼の代わりにジャンヌさんが拷問を受けたことしか………」

 

「え…………ま、待ってくださいマシュ。……私が、リィルの肩代わりをした………? そんな話、私は知りませんよ………?」

 

「え? ですが史実ではそのように……」

 

 マシュとジャンヌの話が食い違っている? いや………当事者であるジャンヌが違うと言うならそうなんだろうけど、なんでそこが脚色されているのだろうか。

 聖女であるジャンヌの功績を更に彩りたかったから? でも……それじゃあまるで、ジャンヌの為にローズリィが蔑ろにされているような……

 

「…………捕らえられた後、確かに私は拷問を受けました。

 でも、私が屈しなかったから業を煮やしたあの人達が言ったんです。魔女と認めなければリィルに拷問を掛けると

 ………私はすぐ己が魔女であると認めたんです。自分が異教徒だと、信念を曲げてでもあの子を救うためにそう言って………認めればあの子はひどい目に合わない。助けることができるって、信じて…………だから、最後にあの子を見た時、私は………」

 

 そうジャンヌが呟いた直後、彼女は青白かった顔色から白に。血の気が失せたような、死人のように真っ白に変わっていた。

 

「ジャンヌ……?」

 

「…………そう、です……あの時、リィルの傷を見て壮絶な戦いがあったのだと思い込んでいたんです。……………じゃあ、なんで。あの子に治療らしき跡が見られなかった? 

 今でも………今でも覚えています…………

 鮮やかだった髪が酷く痛んでいたのも。綺麗だった顔が、血と傷跡でその面影が無くなっていたのを。満足に動くこともできない身体で、必死に叫んでいたのを………吐血して、引きずられた地面にリィルの血が滲んでいたのを………じゃあ、なんで…………」

 

「ジャンヌ!」

 

「ジャンヌさん!」

 

 どんどん正気では無くなっていく彼女に、マリーが堪らず声を出して肩を揺さぶった。なのにジャンヌは正気に戻るどころか、ますます思考の渦へと飲まれていく。

 

「あの兵士たちが嘘を……? そんなはず、無い。だって主が…………そもそも、その原因を作ったのは私で………でも、それしか無いからって。だから、異教徒になった私が裁かれると………だから、だから――――――――」

 

「だめ! 駄目よジャンヌ!」

 

 ジャンヌの思考の邪魔をするようにマリーが勢い良く抱き着いて、己の胸へと彼女の頭を引き寄せる。

 

「マ、リー…? わたしは、わたしがいるから、リィルが………」

 

「違うわジャンヌ! 貴女は悪くない。悪い筈がない! そんなにもその人のために尽くそうとするジャンヌが間違っている筈無い!」

 

「でも、わたしがいるから、あの子は苦しんで………」

 

「大丈夫。大丈夫よジャンヌ…………貴女がその人を思う限り、きっと支えになっている筈だから。だから大丈夫」

 

 マリーが必死になって励ましているのを、私はただ眺めていることしかできなかった。

 さっき相対したジャンヌの大切な人であり、この特異点において最大の敵になるだろう彼の事が頭に過って、何も言えなかったのだ。

 

 実際に彼の前に立ってわかった。あの人がどれ程ジャンヌを愛し、世界を憎んでいるのかを。

 同時にわからない。彼は何を見て、何を感じて、ジャンヌと敵対してまで復讐を誓ったのだろう。

 

 二人が完全に決別した時。彼は怒っていた、恨んでいた。そして…………泣いているように見えた。

 

 できれば敵になって欲しくない。ジャンヌの為でもあるけど、彼を…………ローズリィを救ってあげたいから。

 人理を守るとか、世界を救うとか、私はまだ実感が持て無いけど…………それでも、あの二人の為に頑張る覚悟はできた。

 

 私は隣にいるマシュと、考え事をしているスカサハに顔を向ける。

 

「二人とも。私は無知だからどうすれば良いかわからない。だから教えて欲しい。マシュの知っている歴史と、スカサハ。貴女が知っているローズリィの事を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____________________

 

 

「さて…………どこから話したものか」

 

 立香とマシュそしてスカサハの三人は与えられた宿から離れた。ローズリィの話をジャンヌに聞かせて、これ以上彼女の心に負担が掛からないようにするためだ。

 教えるにしても、せめて彼女の精神が安定してから。

 

 そう立香が考えて、三人は人気の無い場所を求めて外に出たのだった。

 

「スカサハとローズリィはどういう関係なの?」

 

「…………まずはそこからだな。とは言え大したことでもない。あやつとは師弟関係であった。それだけだ」

 

「えっ…………でも、それはおかしいです。スカサハさんはケルト神話の英雄…………ローズリィさん達とでは、時代も場所もまったく異なります」

 

 スカサハが言った事にマシュが反論した。

 彼女の意見はとても正論だ。何しろスカサハは紀元前でローズリィとジャンヌは西暦1400年。そもそも、ローズリィがスカサハに師事していたと言う歴史は一切無い。

 

「確かに、あやつは私の時代にはいなかった。だが、逆は違う。私は世界から外れた人成らざる者となったからな」

 

「じゃあ本当に…………」

 

「とは言え私があやつと出逢ったのも、その時代ではないがな。もっと後。そう、お前達と同じ時代にリル…………いや、あの馬鹿弟子とは切れない縁ができたのさ」

 

 スカサハは懐かしむような表情で目を細めると、空を見上げた。

 

「そして、それこそが奴の始まりであり、人理を破壊したあの者との繋がりでもある」

 

 

 

 

 




次回からローズリィとスカサハの回です。
鬱はしばらくお休み。

彼で合ってます。史実では女とバレてませんので。

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