俺の許嫁と幼馴染が同じバンドメンバーの件について 作:羽沢珈琲店
因みに、自分は学園祭に来て欲しいバンドはRoseliaか、ハロハピですかね。バンドだけで見れば本格派ユニットのRoseliaの演奏が聞きたいですし、ハロハピは普通に楽しそう。
風が強く靡いている中、俺は桜の木の下である一人の少女を前に意を決して思いを告げた。
「みーちゃん!そ、その俺……ずっと前からみーちゃんのこと……!」
「翼……ごめん」
「えっ……?」
俺は友に裏切られ崖から落とされた絶望感が全身に巡った。
「翼にはこころがいるでしょ。だから私とは付き合えない」
「みーちゃん!こころは関係ない!こころのこと、何とも思ってないから!」
「嘘はいいよ。私を元気づけようとするのもやめて。そもそも私に話しかけてきたのだって、私が一人だったからでしょ?」
「そんなわけない!!俺は本当にみーちゃんのことが……!」
「ごめん。もう私に構わないで」
きっぱりと吐き捨てた彼女は俺の前からいなくなって行く。俺はそれを必死に追いかけ、彼女の名を叫んだ。
「みーちゃんー!!」
○○○○○
「いったー……!今のは夢か?」
瞼を開けるとそこは外ではなく何処かの部屋に俺はいた。左隣にはベットが置いてあることから、そこから落ちたのか。しかし、なんつー夢だ……。
「心の中ではこころのことを想ってるていうのか?違う!俺はみーちゃん一筋だ!」
部屋のど真ん中で高らかに一人宣言する俺。一人だとすげえ恥ずかしいな。
「とりあえず、ここは誰の部屋だ?そもそも誰の家?」
誰かの部屋ということは分かったが、自分の部屋でもなく自分の家でもなさそうだ。
「でも、このキラキラ感。心当たりある人物が一人いるんだよな……」
今、あまり会いたくない人物。俺と同等の豪邸に住んでいてシングルベットにしては他の家よりも一回り大きいこのベット。つまりこの家主は……、
「あ、翼!やっと起きたわね!」
部屋に突如として入ってきたのは予想通りの弦巻こころ。俺の許嫁(仮)の女の子。
というか、躊躇なく扉開けるって何なんだよ!着替え中とかだったらどう責任とってくれる!着替えないけどさ!
「何で俺がこころの家にいるのか聞いてもいいか……?」
「海がね、私の家に泊めた方がいったの!」
海さーん!?俺を裏切りましたねー!?
まぁいいや。家は隣同士だし、このまま帰れば。
「あれ?何処行くの翼?」
「何処って自分の家だよ」
「帰るの……?」
「あぁ。別にこころの家にいてもすることないし」
「する事ならあるわよ!昔みたいに私と遊びましょ!
「遊ばない!こころの遊びはいつも疲れるんだよ!昔は付き合ってやったかもしれないが、今はもう高校生だ。もう昔みたいに遊ばねぇよ」
俺はこころを突き放す形で部屋を出て行こうとする。海がこの現場を見たら「クズだな」の一言で一蹴しそうだな。でも、俺はみーちゃん一筋。こころを突き放した方が俺の願いは叶う。
「待って……!」
すると、こころが後ろから俺を止めるために抱きついてきて一言。
「帰らないで……翼」
涙目&上目遣いのこころがそう告げてきた。
え、何この展開。ちょっと待って心の整理させて。こころってこんな女の子っぽかったか!?しかも、若干背中越しから伝わるある部分の膨らみが直に伝わってきて……って!何考えてんだ俺は!?俺はみーちゃん一筋だぞ!!こころがちょっと女の子っぽくなったからと言って惑わされるわけ………しかし、昔より可愛いくなったし、色々な部分が成長してるな……ってだから惑わされるな俺!!
こころが抱きついてから1分ほど経った頃だろうか。俺には数時間程に思えたが、俺は観念して口を開いた。
「……あぁ!もう分かった!分かったから手を放せ!」
「え……?」
「遊んでやるから手を放せ。但し、一時間だけだぞ!」
「……うん!」
涙目から一瞬にしていつものパァとした笑顔に戻り、まるで初めておもちゃを貰った子供のようにはしゃぎ回るこころ。
(そんなに俺と遊びたかったのか?ホント、バカだなこいつは)
昔もここまで感情豊かになっていたかと疑問に感じる翼。でも、明確に変わってるとはっきりしたのは無邪気な笑顔の裏にあんな悲しげな表情も出来たということ。
(昔は涙なんて一つも見せなかったのに……。あんな顔されたら誰だって断れねえよ)
初めて見た許嫁(仮)の涙に戸惑いを見せつつも、こころの遊びに仕方なく付き合う事にした。
「それで、何の遊びをするんだ?」
「それはねー……」
「こころ、もしかして考えてなかったとか」
「ち、違うわ!えっと、その……そう!かくれんぼよ!かくれんぼをしましょう!」
「何でまたかくれんぼ……」
「翼が鬼ね。一時間以内に私を見つけてみなさい!30秒数えたら探しに来ていいわよ」
「俺の意見無視かよ……」
こころの身勝手さにはいつも呆れるが、もう慣れてしまった自分が怖い。
「それじゃあスタートよ!」
そう言ってこころは部屋から出ていき、隠れる場所を探しに向かった。
「今日だけだ。こころのわがままを聞くのは。今日だけ……」
翼は翼で呪文を唱えるかのように何度もぶつぶつと呟いていた。そして、気付いた時には30秒などとっくに経過しており、探しに向かったのはそれから2分後のことだった。
〇〇〇〇〇
こころを探して三千里。とまではいかないが、あれからかれこれ30分経っただろうか。一向に見つかる気配がない。
「改めて思ったが、この家でかすぎだろ!!」
何だよこの家!?ドーム二個分ぐらいあるんじゃないか!?確かに俺の家も金持ちの家系だけど、ここまで大きな家持ってないし住んでない!!
「部屋の隅々まで探したってのに何処にもいない……。まさか、外とか言うんじゃないだろうな?」
外と言っても家の外ではない。敷地内にあるある意味庭みたいな場所に隠れているのではないかと考えたのだ。
「まず、庭だけでも家一個分は建ちそうだよな」
弦巻家の凄さに最早呆れてきている翼の目の前に一つの部屋が見えた。
「まだ、この部屋は入ってなかったっけ?ここを調べてから庭の方を調べるか」
こうなったら一時間と言わず二時間でも三時間かかっても絶対見つけ出してやる、と思いながら部屋のドアノブを回した。
そして、目の前に映ったのは花咲川女子学園の制服だった。
バタンッ!と勢いよく扉を閉める。見てはいけないものを見てしまったような気がした。
(いやいや!唯の制服だろ!何をドキドキしているんだ俺は!というかこの部屋、こころの部屋だったとは……)
てっきり表札とかに子供っぽい字で「弦巻こころの部屋〜」とか書いてあると思っていたが、流石に考えすぎだったか。
「よし、もう一度入るか。決してやましい気持ちがあるわけじゃない。こころを見つけるために仕方なくこの部屋に入るだけだ。断じてやましい気持ちがあるわけじゃない」
誰に言い聞かせてるのかぶつぶつと呟きながら意を決して再び、部屋の中に入った。
しかし、花咲川女子学園の制服があっただけで、至って普通の女の子の部屋だった。
「こころの部屋というからには奇想天外な部屋なんだろうと思っていたが、拍子抜けした気分だ」
だからと言って女の子の部屋なのは変わりない。長居していたら変な気分になりそうなので、早速探し始めようとした時、机に置いてあった一冊のノートに目がいった。
「何だろう。何故かこのノートに惹かれる自分がいる」
一冊一万円するノートとか、絶対にふやけない防水ノートとかそんな高級そうなノートではなく唯の百円ノートなのに、何故こんなにもノートを凝視してしまうのだろうか。
「見なきゃいけないんだろうな。何故か知らねえけど」
こころ探しは一先ず置いといてこのノートの解読?をすることにした。
ぺらっとページをめくるとそこにはこころが書いたと思われる日記が書かれていた。
『20〇〇年、四月△日。
きょうはパパがかいさいするパーティ?にいった!
でも、パパとママはほかのひととおはなしばかりでつまんない。まわりのひとたちもえがおじゃない。
でも!そんなときにひとりのおとこのことあったの!おとこのこはわたしをつまらないところからいろんなところへあんないしてくれたわ!あんなたのしかったじかんはぜったいにわすれないわ!
そうだ、なまえをかいておきましょ!たしか、しんどうつばさだったかしら?』
そこで一ページの日記は終わっていた。
「これこころの日記か。というか、こころが日記とか付けるタイプに見えないんですが……」
だが、子供が書いたような殴り書きで字もひらがなばかり。正真正銘こころが書いたものと断言出来る。
「それにしても、俺がこころを引っ張っていったことなんかあったか?」
小さい頃の記憶はみーちゃんのことで埋め尽くされていて、こころとの記憶が曖昧になっている気がする。
その後もペラペラとページをめくっていくとある違和感に気付いた。
「あれ?このページとこのページ、日付が三年近くも空いてる」
日記の最後のページとその前のページの日付が三年近くも空いていたのだ。何故三年間も日記を書いていないんだ、こころのやつ。しかも、この最後のページの日付……先週の日曜日の話じゃねぇか!慌ててその日の日記を読み始めていく。
『201〇年 6月△日。
今日はパパの会社の50周年?のパーティらしいわ!色んな人が集まるってパパは言っていたけれど、もしかして翼とも会えるのかしら!?学校が離れてしまって全然会えなかったけれど、今日は会えるのね!今から楽しみで仕方ないわ!
けど、翼には会えなかった。翼のパパが言うには来ていると言っていたけれど、見つけられなかった。
もしかして翼は私のこと嫌いになったのかしら……。私は会いたいわ翼。私、あなたに会いたくて胸が苦しいの………』
それを読み終えた俺は情けない気持ちで一杯になった。まさか、こころがここまで俺に会いたいと願っていたなんて思ってもみなかった。
(そうだよ。あいつは人に迷惑をかけることしか出来なくて、世間知らずで、何でも自分の言う通りになると思い込んでいて、常に笑顔のそんな奴が寂しい気持ちを持っているわけ…………あったのか?)
だが、この文章を見る限り嘘を吐いている感じがしない。それでも俺でも分かる。
(常に笑顔だったからそんな悩みなんて一切ないと思っていた。けど、実際は違った。直接面と向かって言葉に表しても良かったのに……ってそうか。それは俺が避けてたから出来なかったのか。こころを遠ざけていたのは俺の方だった。だから、伝えたくても出来なかった。……ホント、バカだよ。俺もお前も)
こころの心情を知ってしまった翼はこころに対して罪悪感を覚えてしまった。そして、そんな日記を読みふけっていたからか気づかなかった。当の本人がすぐ後ろに来ていることに。
「うー、わぁ!!」
「うわああぁぁ!!」
俺は背後から急な大声に驚き、持っていた日記を上空へ放り投げてしまい、そのまま後ろに倒れる。
「え?」
驚かせた方もまさか倒れてくるとは思わなかったのか、翼と一緒に倒れてしまった。
「いてて、一体何が起きて……!?」
「うーん、翼、急に倒れられたら……?」
そして、出来上がった状況は、神童翼の片手が弦巻こころのある膨らみ部分に置いてあったという謎の現象が起きていた。
次回、神童翼死す!