このきっと素晴らしい世界で美遊に祝福を   作:録音ソラ

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早く書き上げると言ったな。あれは嘘だったようだ。

今回は美遊のお話。ウィズが何手に入れたのか、美遊のあの顔の原因は何か…ちょっと短めだけども。

適当すぎるぞバーカって思ったら感想で言ってね。書き直すから


19話 ある日の衛宮美遊

「ミユさん、ミユさん!見てください!この商品!きっと売れます!あ、これも」

「………」

 

 目の前の光景に絶句するしかなかった。

 目を輝かせながら、この街では買い手のつかないような商品ばかりを見ては買おうとする魔道具店店主。赤字を抜け出すためにそういったものは買わないようにと散々と言ってきた結果がこれである。

 

「あなたは赤字を抜け出そうとする気がないようにしか見えない」

「あ、あの〜、なんだか初めて話した時のように他人行儀になってきてませんか、ミユさん…?」

 

 言っても聞かない相手にどうしろと。

 正直に言えば、ウィズの手に取る商品は適した場所で売れば儲かることができる商品ばかりだ。そう、適した場所であれば。

 王都と呼ばれるような場所ならまだしも、アクセルのような初心者でお金も少ない人相手にこんな高い商品を売ろうと努力したところで買い手がごく僅かに限られてしまい、赤字にしかならない。買っても一つ二つがいいところだ。

 初心者が買いそうな安いアイテムを仕入れて売りさえすれば赤字にはなる筈がない。立地が悪いのと高い商品しか置いてない赤字店主という噂さえ広まってしまっていることを除けばだが。

 

「このままだとわたしやお兄ちゃんが暮らしていけなくなる」

「その時は私の爪を売れば、数日はなんとかなります…」

 

 ウィズは元凄腕冒険者で現リッチーらしい。このことは黙っていようとしていたウィズがつい口を滑らせてしまったことで知った。それとウィズの爪が高値で売れるということもついでに。

 

「そんなことをすれば、リッチーの知り合いがいるかリッチーの仲間として扱われる。そうでなくてもこの街の近くにリッチーが現れたなんてことが話題になればあなたもここに居づらくなる」

 

 お兄ちゃんでさえまだレベルは一桁。わたしは2しかない。そんな低レベルでリッチーは倒せるはずがない。たとえ上級職であっても。

 それに街の近くにリッチーが居たとすれば、王都から何か来るかもしれない。そうなれば、いずれウィズのことがバレる。同じ店で働いている私やお兄ちゃんにも何かしら厄介なことが起こり得る。

 

「だから今するべきなのは黒字を目指すためにも安いアイテムを探して買うこと。わたしは向こう側を見て来るから、ウィズは反対側を見てきて」

「わかりました。あちらの方を見てきますね」

 

 少し、ではなく、かなり不安しかないが今は信じておくしかない。お金はわたしが持っているから多分大丈夫。

 そう考え、ウィズとは反対側へと歩みを進める。

 

「それにしても、ここまで多いとどこが一番安いのかわかりづらい…」

 

 歩いて行く先には100を超える行商。

 月に一度、王都などの街で売れ残った商品を売るためにアクセルの街の近くで行商達の市場が開かれる。ここではいつものように買うより安く手に入ったり、珍しい品が出回ったりするため、様々な客が来る。私とウィズのような魔道具店経営をしている者や冒険者、珍しい物を探しに来るコレクターなど。

 そして、行商は約200ほど集まっている。品の種類は豊富で値段は様々になっており、安いところもあれば高いところもある。それでもほとんどは定価ギリギリの最安値で売り出されている。

 

「ポーションがこんな値段で……」

 

 いくつか買っておかないとと色々と買っていく。こうして買って回っているからこそ思う。

 

「どうすればこの中から異様に高いものだけを見つけられるの…」

 

 今まで見てきた中で異様に高い商品は両手で数える程しか見当たらない。だというのに、ウィズは次々と高い商品を見つけて来る。ある意味才能なのだろうか。

 ウィズの無駄な才能について考えている時、ふと前から何かを感じた。それは似ても似つかないが、とても似たようなもの。

 顔を上げると前から黒い影のようなものが近づいて来る。それは近づくたびにはっきりとしたカタチに変わっていく。

 

 そのカタチはまるで見知った誰かのようで。

 それはまるで自分を汚染していくナニかのようで。

 

 顔には一見落書きのように見える刻まれた模様が描かれている。それは身体にも刻まれているようで腕にも見える。

 近づくたびに私わたしの中のナニかが叫ぶ。

 

 駄目。

 来ないで。

 やめて。

 

 目の前のそれを拒絶する。

 それは怯えたわたしを見てニヤリと笑う。

 彼のような顔で、彼のしない顔を。

 悪意に満ちた、顔を。

 

 それは真横を通り過ぎていく。

 触れることなく、傷付けることなく。

 ただ、通り過ぎていくときに何かを呟いた。はっきりとは聞こえて来ない筈だった。周りはとても賑やかなのだ。あのような小さな呟きが耳に届くはずがない。されど、その一言は耳に残る。呪いのように。

 

 通り過ぎた彼はこう呟いたのだ。

 

 ーーーさぁ、聖杯戦争を続けよう---

 

 それは前の世界で終えたはずのもの。兄が幾度もの死闘を超えて終わらせた戦い。

 しかし、アレはそれを続けようと呟いた。終わったものは続けられない。ならば、アレは何を続けるのか。それとも本当は終わってなどいなかったのか……?

 

 そんな疑問を抱いたのは一瞬だ。身体はすぐに動いた。振り返るがいない。そんなことはわかっていた。もうここにはいないだろうというのはわかっていたがそれでも探さなければならない。

 身体は自然と走り出す。

 

 -----

 

 結局見つけることはできなかった。

 見つけることはできないと分かってはいた。が、見つけておきたかった。

 

「あれが本当なのか…わたしの聞き間違いなのかどうか…」

 

 いや、こんなことは聞かなくても分かる。嘘偽りのないものだろう、と。

 嘘であってほしいと、こんなことを知ればお兄ちゃんは自分の体のことなど気にせずに無茶な戦いをするだろうと。そんな不安を打ち消したかっただけなのかも知れない。

 

「…出来るだけお兄ちゃんに知られないようにしよう」

 

 兄の願いは『わたしの幸せ』。その為にはその兄がいなくては絶対に手に入らないものなのだ。

 

「あ、ミユさーん!ようやく見つけました…はぁ、はぁ…」

「何かあったの?」

「はい!凄いものを見つけまし…あの、その握りこぶしは…」

 

 この人はどうして高いものとか凄いものを見つけて来るんだろうか。実は赤字になろうとも別にいいと思っているんじゃないだろうかと思ってしまう。

 

「赤字に繋がらないので安心してください。何故かタダで頂いたものですから」

「タダで…?」

 

 ウィズ程の人が凄いと言ってしまうものをタダで?何故そんなことを?いや、何故そんなものを持っているのだろうか?

 

「それで、その凄いものは何?」

「それはですね…」

 

 ウィズが取り出そうとしたとき、嫌な予感がした。見てはならない。それを見てしまっては、本当に戻れない。

 

「これですっ!」

 

 ウィズが取り出したそれは見覚えがある。無いなんてことはあるはずがない。そしてそれは、先ほどのアレの呟きを事実だと認識させるには充分すぎるほどのものだった。

 

「…それはお兄ちゃんには決して見せないで」

「え?」

「絶対に見せてはダメ!」

 

 ウィズは声を荒げたことに驚きつつも頷いてくれた。ただ何故見せてはいけないのか分からず首を傾げていた。知らなくていい。それがどのようなものであるかなんて……

 

「これが…わたしの運命……」

 

 ウィズの手には、剣を持つ騎士の絵が描かれ、Saberと刻まれたカードが握られていた。

 

 -----

 

「こっちの聖杯もあっちと見た目変わってなくて見つけやすかったぜ?ただこっちの聖杯の方が人間らしい。あれだ。育った環境が違うんだろうな。あっちはもう単なる人形だったからな。珍しいもん見たって感じだ」

 

 それは教会の片隅で語りかける。

 その教会で一人、祈りを捧げる者に。

 

「別に祈りを捧げるようなもんじゃないだろ?それ。崇めてるものがまともじゃない。こんな奴を教会に入れるような神なんてロクでもないもんなんだからさ」

 

 祈りを終えたのか立ち上がる少女。

 

「あの人混みの中、殺そうとするのを耐えるのはキツかったんだぜ?労いの一つもないのかよー」

「あたしの傀儡候補を減らさなかったことは褒めてやるよ。けど、外に出るなって言った筈だよな?信者でも傀儡でもないにしろ、言ったことぐらい聞けよな。…一応あたしがマスターな筈なのに…」

 

 ぶつくさと言いながら教会の外へ出る少女。機嫌が良くないようだ。俺を置いて宿へと帰っていってしまった。

 

「ま、何はともあれ……聖杯戦争を続けよう、朔月ーーいや、衛宮美遊。聖杯である限り、これは逃れられない運命(fate)だ。せいぜい楽しもうぜ、ひひひ」

 

---影は夜の闇へと消える。




聖杯がある限り、戦いは、続く。

細かなことはおいおい書いてきます。あとこれは前の話の数日前の話ってことです

色々と出てくるからこれはもうタグ変えた方がいい気がしてきた。いや、増やす方がいいのか?うーん?

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