このきっと素晴らしい世界で美遊に祝福を   作:録音ソラ

10 / 21
UA15000超え、お気に入りも300。
ありがたやぁありがたやぁ、泣きますぞ。泣いてますぞ


9話 衛宮士郎

「大丈夫か、二人とも」

「わたしは少しだけべとべとしてるだけで何ともないよ」

「私も硬さだけが取り柄だからな…このぬめぬめした粘液をつけたままの状態で街を歩かされ、周囲からなんだあいつと冷たい視線を浴びてしまうのか…っ!」

 

 どうやら二人とも大丈夫そうだ。

 ただ、その姿のまま歩かれると誤解されそうな気がした。

 というより、ダクネスが受けるつもりでいる視線が俺に突き刺さる気しかしない。

 

「街に帰って風呂にでも入った方がいい。それまでの間はこれでも羽織っておいてくれ」

 

 投影した白い布を二人に渡す。

 

「あ、ありがとう」

「…ん。感謝する」

 

 二人が羽織ったことを確認し、街へと戻っていく。

 カエルを一匹引きずりながら

 

 ------

 

「い、一日で終わらせてしまったんですか⁉︎」

 

 自分でも何匹倒したか、把握していなかったがどうも終わっていたらしい。

 というより、流石にこのパーティで再び行くつもりはない。

 二人の実力を見ることは出来なかったが、ダクネスがいる分、戦闘とは違う意味で疲れそうだったからだ。

 

「どうやらそうみたいだな。丁度カエルが平原の真ん中にうじゃうじゃと集まっていたから、それを一掃しただけだが」

「しかも、一人でね」

 

 クリスが自慢気に言っていた。

 何故、クリスが自慢気なのかよく分からないが、まぁいいか。

 

「ですが、レベルは一つしか上がってないみたいですね…」

「なんでさ…」

 

 あれだけの数を倒しても一つしか上がらないレベル。

 流石に不思議だ。

 美遊に経験値の少しを魔力として取られているのは知っている。

 聖杯というスキルの効果だ。

 だが、それにしてもレベルが上がりづらい。

 

「あれじゃないか?才能が無さすぎるものだったりするとレベルは上がりやすい。つまり、彼はその逆だということ」

「それならあり得ますね。これだけレベルが低い中で圧倒的な戦闘を繰り広げることができるのでしたら、不思議ではありません」

 

 それはどうだろうか。

 俺の身体は、別の世界の俺の成れの果てが置換されつつある。

 俺自身の才能がそこまであるとは思えない。

 

「なんであれ、レベルが全てじゃないってことはよく分かったからそれでいいんじゃないかな」

 

 そう言いだしたのはクリスだった。

 

「だから、彼のレベルのことは気にしなくていいと思うよ」

 

 クリスは俺に微笑みかける。

 まるで君のことは分かっているよと言っているような感じだ。

 

「何が一日で終わったって?」

 

 突然、後ろから声をかけられた。

 なんというか、荒くれ者という言葉が似合うような男だった。

 あと、レベルの話をしていて気がつかなかったが、周りは何やらざわついていた。

 多分、ルナさんの驚きの声でだと思うが。

 

「こちらのクエストをたった一日で…」

「何、ジャイアントトード十五匹の討伐だと?……十五匹⁉︎」

 

 更にざわついてきた。

 そこまで異様なことなのだろうか?

 いや、まぁ、一週間かけてクリアするクエストだから当然か。

 

「今のレベルじゃ、三日で五匹倒すクエストでさえ苦労するっていうのに」「今、ジャイアントトードは殆ど外に出ているんじゃなかったのか?」「動きの止まったあれを倒すのも少し苦労するんだが…」

 

 なんていう声が聞こえてきた。

 どうやら、ここまで簡単にクリアできるクエストではないようだ。

 いや、簡単なものじゃないっていうのは理解している。

 していたが、ここまでのものとは思っていなかった。

 

「あのクルセイダーさんがやったのか?」

「いや、全てあのアーチャーだけだ。私は何も倒していない。」

 

 ダクネスが俺を見る。

 ギルド内の人間がこちらを見てくる。

 

「アーチャーだけでだと…?」

「…ああ、俺一人でやった。疑うっていうならカードを見せてもいい」

 

 冒険者カードには、その日に倒したモンスターの数、種類といったものも記載される。

 これがある限り嘘はつけない。

 

「私が確認しましたが、規定数ちゃんと倒していますよ」

 

 それに受付をやっている人が言うなら信じない人はいないだろう。

 

「そのクエストがクリアされたってことは、つまりダンジョン探索のクエストが…」

「はい、再開されます」

 

 盗賊だと思わしき人たちが喜びの声を上げる。

 そして、そのパーティメンバーだと思わしき人達も。

 一気に賑やかになってきた。

 

「やるじゃねぇか、兄ちゃん。飲もうじゃねぇか!」

「おう、どんどん飲んで食ってけ!」

 

 まるで宴のようになり始めたギルド内。

 わいわい騒ぐのが嫌いな訳じゃないが、この格好だと騒ぐ気にもなれない。

 

「とりあえず、風呂にでも入りに行こう。この調子だとまだまだ続きそうだ」

「そうだね。じゃあ行こうか」

 

 ダクネスとクリスを連れ、ギルドの外へ。

 外に出ても声が聞こえるほど賑わっているみたいだ。

 当分終わらないだろうし、酔い潰れるまで飲みそうなやつばかりだったな。

 

 ------

 

「こっちはウィズの店しかないよ?」

 

 歩いているとクリスが不思議そうに言ってきた。

 風呂に入るという話だったのに、ウィズの店のある方には大衆浴場などはない。

 

「ああ、大衆浴場に行っても服は汚れたままだろ?だから、俺の家の風呂に入って貰おうかなって」

 

 この時間なら誰もいないだろうし、二人はのんびりと入れるだろう。

 その間に俺が服を洗っておこうかと考えた。

 

「い、家に風呂まであるのか…」

「少し大きめの単なる一軒家だけどな。一応風呂付きだ」

 

 ダクネスは意外そうだった。

 クリスは小声で

 

「覗いたりするのはダメだからね?」

「俺をどういう目で見てるんだ…」

 

 誓って覗いたりなんてしない。

 そんなつもりはない。

 そうこうしているうちに家に着いた。

 

「ただいま」

「おかえりなさい、お兄ちゃん」

「あ、お邪魔しています。シロウさん」

 

 家でのんびりと寛いでいる美遊とウィズがいた。

 

「この時間帯に帰ってるなんて珍しいな。それにウィズまで」

「もうそろそろ帰ってきそうでしたので、ミユさんと待っていました」

 

 なんでも今日のクエストのお礼に食事を美遊と一緒に作っていたらしい。

 なんだかんだ、美遊とウィズは仲がいい。

 

「そうだったのか。悪いけど先にこの二人に風呂に入ってもらってからでいいか?」

「二人?」

 

 ダクネスとクリスに入って来てもらった。

 粘液でぬめぬめした二人を見て、ウィズは二人を見て驚き、美遊は俺を睨んで来た。

 

「ウィズ、ここにいたのか」

「パーティメンバーのことぐらい伝えておいてよ」

「ご、ごめんなさい。すっかり忘れひゃっ⁉︎あの、そのぬめぬめした状態で、あ、それ以上抱きつかないでくださいっ!あと、クリスに触れられていると何故かピリピリします!」

 

 とても楽しそうにしている三人の横で

 

「お兄ちゃん何してたの…?」

「美遊、俺はただクエストをだな…」

 

 妹に正座させられ、説教を受けていた。

 

 ------

 

 隣で楽しそうに暴れていた三人は今、風呂に入っている。

 一番粘液だらけのダクネスにも色々されたウィズも相当酷いことになっていたので、風呂に入ってもらうことにした。

 その間、俺と美遊は服を洗っていた。

 

「あのカエルに丸呑み…」

 

 どうにか俺が何もしていないということを納得してもらえた。

 …ダクネスが呑まれそうになっている時に喜んでいた、なんてことは教育上良くないと思ったから言ってはいないが。

 

「油断していたとはいえ、まさか外にずっと出ていたアレがそこまで出来るとは思いもしなかった」

「土の中で眠っているものが外に出て、それから起きたままなら活動が活発化してもおかしくないよ」

「それもそうだな」

 

 寝起きじゃないなら、活発化してても不思議じゃなかったなぁ…

 起こした本人には本当にきつく言っておかないと。

 

 美遊はここの生活にも慣れて来たのか、前と変わらない生活を送っていた。

 人にものを教える美遊なんて、前の世界じゃ考えられないようなことをしていた。

 ずっとあの武家屋敷にいて、俺は中途半端なまま育ててきて、ジュリアンに連れ去られたあとどんな生活をしたかは分からないが、それでもいろんな人と接するような生活は送ってない。

 そんな美遊が今ではいろんな人と話したり、外を歩き回ったりしている。

 兄として妹が成長してくれて、願ったものとして願いが叶いつつあり、嬉しい。

 

「美遊は今、楽しいか?」

「…うん」

 

 笑顔で応えてくれる。

 俺はこうした幸せを求めてきたんだ。

 こんな本物を…

 

 ------

 

 三人が風呂から上がってきたらしい。

 彼女たちの服は洗濯を終えたばかりなので、着替えは俺の服を置いておいた。

 それが、間違いでもあったと気づいた。

 

 目のやりどころに困る。

 

 ダクネスとウィズは、胸部という出っ張りがとても目立つ。

 それに、おろした髪が先ほどまでのイメージを変える。

 なんというか、色気というものか。

 それを感じてしまう。

 

 クリスはスレンダーな体型なのでそういうことはないのだが、少し大きめの服だったのか、腰のあたりで服をくくってとめている。

 先程よりかはマシだがまだ少年っぽさがあるクリス、なはずなのだが、クリスを女の子と知っていることと少年っぽさがマシになったからこそ更に可愛さが表に出てきたというか。

 

 そんな感じでとても目のやり場に困った俺は、目を逸らしながら風呂に入ることにした。

 クリスのせいで粘液ついてたからな。うん。

 

 ------

 

 今日は色々と疲れた。

 家に帰ってからもあまり落ち着けないとは思ってもいなかった。

 

「美遊とかめぐみんの服しかないのが原因だな…」

 

 何がとは言わないが小さい子しかこの家にいなかったから俺の服を貸したが、大変よろしくない。

 

「こんなことになるとは思わないからなぁ…」

 

 ぼやきながら身体を洗う。

 少し褐色の肌が混じった傷だらけの身体。

 少しずつだが、置換されている部分が増えてきている。

 幸いなのが、服で隠せる部分ばかりだというところだ。

 

「突然、顔の色が変わったら流石に、な」

 

 俺の身体に何か起こると分かれば、美遊に何を言われるか。

 あまり心配はかけたくない。

 身体を洗い終えたあと、湯船に浸かりのんびりしていた。

 眠気が不意に襲ってきた。

 

(風呂に浸かりながら寝るのは…)

 

 危険だとわかっていても抗えず、意識が途切れた。

 

 ------

 

 夢を見た。

 

 何故夢かと分かったのか。

 

 目の前に小さい頃の俺と、親父がいたからだ。

 

 縁側に座り、二人で話している。

 

 この日、俺は親父が正しくあろうとしたことを間違いになんかさせないと誓った。

 

 正しくあろうとして間違え続けたと話していた親父。

 

 俺はそんな親父を正義の味方だと信じていた。

 

 しかし、目の前の会話は俺の知ってるあの日の話ではなかった。

 

 

『僕はね、正義の味方になりたかったんだーー』

 

『誰かを助けるという事は、誰かを助けないという事。正義の味方っていうのは、とんでもないエゴイストなんだ』

 

 知っている。

 

 それは俺の知る衛宮切嗣もそうだった。

 

 大勢を救うために美遊を道具として扱った。

 

 道具として扱った美遊が縛られ続けることを知っていても。

 

 それが間違いだと言った親父。

 

 それを間違いにさせないと誓った俺。

 

 目の前にいた小さい俺は

 

『しょうがないから俺が代わりになってやるよ』

 

『任せろって、爺さんの夢はーー』

 

 その俺も親父の夢を受け継いだ。

 

 あの時の俺は泣いていた。

 

 目の前の俺は笑っていた。

 

 そんな小さな違いだが、それが大きな違いだった。

 

 純粋に正義の味方を信じた男と正義に迷いを生んだ男の違い。

 

 そして、場面は変わる。

 

 そこはーー地獄だ。

 

 いくつもの死体の山。

 

 戦場の跡。

 

 彼はそこに一人で佇む。

 

 その瞳には、その表情には何の感情もなく。

 

 殺した分、多くの命を救っていた。

 

 親父の正義。

 

 完成した正義の味方。

 

 

 ー俺はこんなものを求めていたわけじゃない。

 

 あの日、背を向けた正義。

 

 あれを正しいと思い続ければこうなっていたかもしれない。

 

 だが、俺はそれを捨て、美遊を救う兄になった。

 

 今は、美遊の周りを、その幸せを守りたいと思う。

 

 前の世界()を捨て、美遊のいる世界()を救う。

 

 ーーそれではまるで今の世界を救うと、そう言っているように聞こえるな。

 

 その通りだ。

 

 ーーそれはあまりにも傲慢だ。

 ーーそんな大きなものを捨てた貴様に、次であれば救えるとでも言うつもりか。

 

 全てを守る正義の味方になろうとしているんじゃない。

 美遊を、美遊の幸せを守る兄でありたいだけだ。

 

 ーーでは、幸せに必要のない人間は切り捨てると言うことか。

 

 そんなものはない。

 誰かがいなくなっていい世界なんかじゃない。

 

 ーーやはり、貴様も『衛宮士郎』でしかない。

 ーー正義などという呪いで縛られた『衛宮士郎』でしかない。

 

 俺は正義なんかじゃない。

 俺はたった一人を救う『悪』でしかないんだーー

 

 --------

 

 目が覚めた。

 

 知っている顔が見えた。

 

 めぐみんだ。

 

「俺は今風呂に入ってるんだが」

「電気が消えていたのでいないと思っていました」

 

 入っているのに気がついたなら出ればいいんじゃないか?

 

「お風呂で寝ると最悪死にますよ」

「起こしてくれたのか」

「そうですよ。感謝してください」

「ああ、ありがとう」

 

 動かないめぐみん。

 出られないんだが

 

「めぐみん?」

「少し場所空けてください。入りますから」

 

 言われるがまま場所をあける。

 そこへめぐみんが入ってくる。

 

「お風呂はいいですね。疲れが飛びます。それに落ち着きます」

「そうだな」

 

 落ち着かないが。

 

「疲れているならしっかり休んでください。みんな心配しますから」

「……そうする」

 

 

 その後、一緒に風呂場から出てきたところを美遊に見つかり説教を受けた。

 

 バラバラでいいのにわざとめぐみんが一緒に出てきた気がする。

 

 なんでさ

 




思いつくまま書いてちゃダメだと思う。
なんかよくわからないものになった。
次回は二週間ほど飛び、カズマさんの活動が始まる気がする。

始まれ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。