執事と仮面は使いよう   作:カモシカ

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入学式。そして自己紹介。

「新入生挨拶。代表、雪ノ下陽乃」

 

司会である教頭先生の進行のもと、八幡が実質仕えている陽乃が壇上へと上がる。その姿は凛々しく、力強く、それでいて可憐で美麗だ。そして我が子の晴れ舞台にも関わらず、陽乃の両親は来ていない。もちろんそれは陽乃が嫌われている訳では無く、単純に仕事が忙しいのである。

だからこそ八幡は陽乃の入学式に参加しているのだ。だがしかし、一つ八幡には納得できていない事がある。陽乃が心配だからと

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年齢的には二年のほうに居なければならないのだが、もう決定している事なので何も言えない。

 

「……まあ都筑さんが写真撮ってくれてるし良いか」

 

歳の離れた同僚である都筑さんが、入学式に保護者代理で参加している。新入生の立場である八幡は写真撮影など出来ないのだ。

とうの昔に学んだ内容である高校教育課程をもう一度学ばなければいけないのかと思いながら、周りにばれないように溜め息を吐いた。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「比企谷八幡です。趣味は読書で、休日の過ごし方は……」

 

今、俺はものすごく疲れている。このままでは大変だ!早急に小町に癒されねば!お嬢様?楽しいけど疲れる。

 

「はいはーい!質問でーす!」

「……どうぞ」

 

お嬢様?何でここで質問しようとしてるんですかね?嫌な予感しかしないんだけど。

 

「何かバイトとかしてるんですかー?」

「……あるお嬢様の執事として働いております」

 

ああ。うん。そういうの。所有権の主張ですかそうですか。クラスメートへの示威行為なんですね。わざわざそんなことしなくても友達なんて出来ねーよくんにゃろう。

そしてクラスの女子共。何故そんなに騒ぐ。イケメンとかなんとかほざいてるが眼鏡とカラコン取った俺は凄いんだからな!?……主に腐ってる的な意味で。ていうか俺って眼鏡とカラコンを外すと完全に犯罪者だからな。まじで眼鏡とカラコンをつけると腐り目が隠せるのを発見した小町は天使。別に発見しなくても天使。むしろ何もしなくて良いから持ち運びたい。小町愛してる。

 

「ちなみに、誰の執事なんですかー?」

「…………そろそろ怒りますよお嬢様?」

「いやーん八幡に襲われるぅー♪」

 

ああ、何だか凄くイライラするよ小町。これはそろそろ怒って良いかな?ん?

 

「あー、そろそろ良いか?というか執事云々というのは本当か?」

 

おっと危ない。ここは教室。あんまり変なことするとたちまち責め滅ぼされる魔窟。え?そりゃ昔の俺だけだって?……そうだね。目が腐ってた頃の俺は酷かったからな……アハハ。

とまあ担任の先生に止められたので剥がれかけていた仕事モードの外面を着け直し、微笑みを意図的に浮かべて先生を見やる。白衣を着た美人女教師だ。確か担当は現国だったはずだがどういうことなのだろう。それと僅かにニコチンの臭いがする。喫煙者だな。

 

「ええ。そこで分かりきった質問をして下さった陽乃お嬢様の執事として雇われております」

「そ、そうか。ふ、ふむ。まあ高校に来れないわけでは無いのなら問題は無いな……無いよな?無い……と思いたい」

「……既に高校側に話はついてるので大丈夫ですよ」

「そ、そうか!なら安心だな!」

 

大丈夫だろうかこの先生。執事の情報収集技術を使って調べた限りだと概ね高評価だったからお嬢様の担任になるようにしたのだが……ミスったか?

 

そんなことを考えながら席に着く。周りで繰り広げられる小声の会話は、当然のように俺とお嬢様の話題である。しかも初日にも関わらずその数は存外に多い。これは初日から面倒になるなーとか考えながらも、仕事モードの外面は着けたままにする。……ああ、小町よ。俺に高校生活は難易度高かったよ。

…………マッカン飲みたい。

 

 

 

*****

 

 

 

 

「ねえねえ、比企谷くんってホントに雪ノ下さんの執事なの!?」

「ええ。本当ですよ。かれこれ八年程仕えております」

 

妙にテンションの高いクラスメート(笑)の質問を適当にいなしつつ、お嬢様やお嬢様の周りに群がるご学友(笑)達の同行に気を配る。序でに周りでちゃわちゃわしてる直接質問できないやつらの会話の内容も耳で拾う。執事として鍛えてきた俺にとっては40人程度の声を聞き分けるのなど造作もない。そしてその内容というのがこれまた厄介で……

 

「ね!ね!凄くない!?リアル執事だよ!?」

「えー?でも先生も知らなかったんでしょ?ちょっと怪しくなーい?」

「でもでも、どっちにしろすごいイケメンじゃない?」

「えー、何々?あの人好きなん?」

「い、いや!別に好きっていうか普通にカッコいいなってだけで!」

「えー、怪しいんですけどー(笑)」

 

はーい。他称イケメン自称執事の八幡でーす。……ああもう眼鏡とカラコン取ったろか……!?いやまあお嬢様まで巻き込むことになるからやんないけど。

 

「ねえ雪ノ下さん、彼が君に仕えてるのって本当かな?」

「うん?八幡は私のだよ?」

 

その言葉に恋愛(笑)が大好きな女子共が食いつく。物凄く食いつく。何お前ら絶食してたの?それともダイエット?恋愛事を控えるダイエットとか聞いたこと無いけど。

 

「え、何々?主従を越えた禁断の恋ってやつ……!?」

「ちょ、何これこんなの現実にあるの……!?」

 

周りがうるさい。質問が多い。一人ずつしゃべれ。まじで。いくら聞き分けられても俺の発声器官は一つしかないから。そしてこれをわざとやっているお嬢様には後でお説教四時間コースを受けてもらう。これは決定事項である。

 

「いえいえ、あくまでただの主人と執事という関係でございます。ただ小さい頃から執事としてお嬢様のそばにおりましたので、世間一般の主従関係に比べると多少距離が近いとは思っております。年齢も近いですしね」

「え?同じ学年だから同い年じゃないの?」

「ええ。私はお嬢様より一歳年上ですよ。旦那様と奥様の意向に従い、こうしてお嬢様と同じ学年に入ることとなりました」

 

実は俺はもう高校卒業程度の過程を修めているのでどの学年に入っても同じことなのだ。ならば執事として護衛しやすいように同学年同クラスに居た方が都合が良い。雪ノ下家にはかなりの数の敵が居るのだ。

 

まあそんなこんなで、俺とお嬢様の高校生活が始まったのだ。


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