元同性の親友とその想い人がアプローチを仕掛けてくる件 作:作者B
リアルの予定と原作完結の悲しみを乗り越え、何とか年内に完成。
原作は終わりましたが、本作はまだまだ続けていく予定です。
「今回は随分と早かったですのね、レン」
エドガーさんが注いでくれた紅茶を頂いていると、ヴィクターの方から話を切り出した。
前回の訪問から1週間が経った今日、俺は再びヴィクターの屋敷を訪れていた。
会う頻度を下げれば、その分だけ次に会った時の反動が大きくなることがこの間の一件で判明した以上、やはり定期的に会いに来た方がヴィクターのためでもあるからな。距離を置くことには反対されたし。
まあ、普段は半月に1回のペースで来てるのに、今回は1週間しか間を開けていないのには、別の理由があるからなんだが。
「ほら、もうすぐ大会が近いって聞いてな。コイツを連行するついでに一緒に来ただけだ」
「あうぅ……」
俺が隣のソファを指さすと、そこに座っているジークは困ったように縮こまる。
ジークの奴、ホームレス同様の生活してるせいで明日の御飯にも困ってるような有様だし、空腹で試合を欠場するなんで暴挙をやらかした前科もあるからな。
そこで、大きな大会の前にはこうやってヴィクターに食事管理を任せることにしている。
「いつもご迷惑をおかけします。
ヴィクターは頬に手を当てて溜息を吐く。
ジークは長年一人暮らし(?)をしていたせいか、ヴィクターの屋敷に居候するのを妙に嫌がる。普段不摂生の限りを尽くしてるジークからすれば、栄養管理された食事というのは息が詰まるのかもしれない。
そういうわけで、ジークは大会前になると、チャンピオンの名に恥じない高度な危機察知能力を使ってヴィクターから逃げているのだ。
だが、どういうわけかその危機察知は俺に反応しないようで、偶然エンカウントした俺によって毎回連行されている。
「だ、だって、ヴィクターはひどいんよ? 出されたものはきちんと食べなさい、ってピーマン食べさせようとしてくるし」
ピーマンって……もしかしなくても、嫌な理由それかよ! 子供かっ!
「せ、せや! それならレンが作ったってええな! ほら、食費ならこっちで出すし。いっそ、そのままレンの家に――」
「なッ!? 若い男女が同棲だなんて……そんなの許しませんわよ!」
ジークの爆弾発言に声を荒げるヴィクター。反応が完全に母親のそれなんだが……。そもそも、ウチもピーマン出さないとは言ってないぞ。
二人がワイワイ騒いでいるところをぼーっと眺めていると、俺の携帯端末に電話が掛かってきた。
「おっと、少し失礼するぞ」
未だ騒ぐ二人を放置し、俺は一旦部屋を出て端末の通話ボタンを押す。
『よお、久しぶりだな』
「あれ? ノーヴェさん!」
電話の主はノーヴェさんだった。ヴィヴィオとアインハルトの手合わせ以来だっけか? そういえばあの時、番号を交換してたのすっかり忘れてた。
「どうしたんですか? 急に」
『今度の週末、ヴィヴィオやあたしらの知り合いが集まって訓練合宿するから、お前もどうかと思ってな』
合宿? なんでまた? いや、合宿をやることについてどうこう言いたいんじゃなくて……
「俺、運動神経も人並みのバリバリインドア派なんですけど。場違いじゃないですか?」
ついでに言えば魔導師ですらないし。
『別に、練習に参加しろって言うんじゃねーよ。お前、トレーナーの真似事してるって言ってただろ? あたし以外のアドバイスもあった方があいつ等のためになるだろうし』
なるほど、そういうことか。ノーヴェさんがヴィヴィオたち三人を指導してるって聞いてたけど、思いやりのあるいい人じゃないか。
『それと、合宿先を提供してくれてるところのお嬢は歴史に造詣が深くてな。お前とアインハルトの話をしたら、是非とも一度会ってみたいって。あとは――ヴィヴィオとアインハルトの御守り係だ』
ノーヴェさんが最後にぼそりと呟く。
それって、絶対後半がメインの理由なんじゃ……でも、ちょっと待ってよ?
「御守りって、俺が行った方が悪化しません? ヴィヴィオは俺が居ないところだと普通にしてるってリオとコロナに聞いたんですけど」
『あー…、確かに二人とも個々で居る分には問題なかったんだけど……』
「だけど?」
『あの二人が揃うと、さっきまで談笑してたはずなのに、突然殺気を出したりファイティングポーズしたりすることが多くてな……』
「……ご心労、お察しします」
そういえば、
「そういうことなら、予定もないですし参加させて――」
いただきます、と続けるはずだった言葉を遮るように、俺の肩が叩かれる。
猛烈に嫌な予感がしながらも恐る恐る振り返ると、そこには懇願するような視線を向けるジークと、妙に笑顔が怖いヴィクターが立っていた。
ああ、子守り二人追加か……
「まさか、出不精の貴方が参加するとは思いませんでした」
時は経って週末。ノーヴェさんに連れられ、俺はアインハルトと一緒に集合場所であるヴィヴィオの家へ向かっていた。
「……まあな」
「?」
半分は
まあ、気分が落ち込んでるのはこいつらのせいではない。いや、ある意味ではこいつらのせいともいえるんだが。
あの電話の最中、ジークが急に「
え? 因縁があるのはリッドであってジークじゃない? それは御尤もだけど、果たしてそんなのでアインハルトの奴が素直に収まるかどうか。
そして頭を抱えていると、「大丈夫、そこは
ちょっと待て。どちらかというと、お前とヴィヴィオを会わせた方が問題起きそうなんだが!? ……貴方が近くに居てくだされば大丈夫? それこそ何の根拠も無えじゃねえか!
そんな感じで俺たちが騒いでいると、当然ノーヴェさんから二人について尋ねられるわけで。簡単に紹介すると、ノーヴェさんは驚いたのちに二人の参加に対して肯定的な意見を返した。
そりゃ、トップランカー二人が来てくれるって言ったら誰でもそうなるわ。
そういうわけで、結局二人もついてくることになった。まあ、二人は予定があるとかで現地集合なんだけど。
さらに言えば、ノーヴェさんの粋な計らい(?)により、年少組にはこのことは伏せられている。主にリオやコロナにはいいサプライズだと思うけど、俺は今から胃が痛い。
え? それならヴィヴィオとアインハルトには予め言っておけばいいって? 嫌だよ。伝えたところで、どうせ胃痛が早まるだけだし。
「おっ、ここだな。着いたぞ、お前ら」
ナイーブになっていると、ノーヴェさんが一軒の家を指さした。
ここがヴィヴィオの家か。更に言うなら、ここに
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃ――あっ、ノーヴェ! それにアインハルトさんも!」
俺達を出迎えてくれたのは、まだ学院から帰ったばかりなのか、制服姿のヴィヴィオだった。すると、俺の方を見たヴィヴィオが頭にハテナマークを浮かべた。
「あれ、レン? レンも合宿に参加するの? ……もしかして、私と離れるのが寂しかったとか?」
何を思ったか、ヴィヴィオはニヤニヤしながらそんなことをほざいてきた。
「んなわけあるか。お前らの御守りだ、御守り」
「えー、そこは嘘でも『はい』って言って欲しかったんですけどー」
嫌だよ。お前の場合、言質取ったとか言ってきそうで怖いし。
「まったく、普段からレンに迷惑をかけているからそういう評価になるんです」
「言っておくけど、アインハルトも
「え?」
おいこらそこの天然娘。そんな純粋な瞳で首を傾げるな。自覚ない分、ヴィヴィオよりも質が悪いからな、お前。
「ヴィヴィオ、なのはさん達はもう居るか?」
「うん、居るよ。どうぞ、上がって行って。ほら、アインハルトさんにレンも」
俺たちはヴィヴィオに促されるままに家の中に案内される。すると、その先のリビングに居たのは、ヴィヴィオと一緒に帰ってきたらしき制服姿のリオとコロナ。そして、長い金髪の女性と茶髪をサイドテールにした女性が居た。
……あれ? この人、どこかで見たことあった気が。
「あら、初めまして。アインハルトちゃんにレン君。ヴィヴィオの母の高町なのはです」
「あっ、よ、よろしくお願いします」
考えに没頭していたせいか、変に言葉を詰まらせてしまった。
後ろでヴィヴィオが「そんな緊張しなくても、我が家同然に寛いでもらって……きゃー! 私ったら大胆!」と言っているのを聞き流しながら、今一度、目の前の女性の名前を反芻する。
高町なのは。どこかで聞いたことあるはずなんだが。確か、数年前にテレビとかで――――
「あ゙っ」
「どうかした?」
「い、いえ、何でもないです……」
聞いたことあるも何もこの人、管理局の『エースオブエース』じゃねえか! 世情に疎い俺でも知ってる有名人じゃん!
そして隣に視線を向けると、アインハルトは至って普通に挨拶していた。
ま、まったく気が付いてねぇ……。こいつ、俺以上に世間に無頓着そうだもんな。
「あ、そうだ。レン君!」
すると、なのはさんが俺に目線を合わせるように屈み、俺の手を握りながら真剣な表情で俺を見てきた。
なんだ? もしかして、ヴィヴィオのことで何か大事な話があるとか? 今でこそ元気に振舞ってるけど、まだ問題を抱えている可能性だってゼロじゃない。
「は、はい。なんですか?」
俺もなのはさんに釣られて真剣な顔で返事をする。そして――
「――初孫はいつできそう?」
「ブフォッ!」
とんでもない爆弾を投下した。
「な、何を言ってるんですか! いきなり!」
「えー? だって、娘の子供を見たいと思うのは親として当然でしょ? それに、ヴィヴィオがいつもお世話になってるみたいだし、それなら任せても安心かなって」
「いやいやいや! 話がぶっ飛びすぎですよ!」
「そうだよ、なのは! まずはお付き合いから始めないと!」
「そういう問題じゃねぇですよッ!」
何なんだ!? 何なんだこの母親! 金髪の女性――フェイトさんも、フォローしてくれるのかと思ったら追撃してくるし!
よくわかった。この人、間違いなくヴィヴィオの母親だわ。特にこの、マイペースに周りをかき乱すところとか。
俺が怒涛のラッシュに頭を抱えていると、アインハルトが俺となのはさんの間に入る。
「そのぐらいにしてください。レンが困ってます」
アインハルト、俺を庇って――
「それに、レンは私のです」
お 前 も か !
「おっと、アインハルトさん。今更しゃしゃり出てきたところで、『親公認』の前には無力だよ」
そこに、待ったと言わんばかりにヴィヴィオが口をはさんできた。
「……知っていますか、ヴィヴィオさん。 『最後に愛が勝つ』らしいですよ」
「ヒューッ! とんだロマンチストだね。いいよ、その青臭い理想がどこまで通じるか、試してみる?」
なんか、ヴィヴィオが魔王みたいなことを言ってるんだが。
そして、当然のように拳を構える二人。お前ら、人様の家でも絶好調だな……
「それじゃあ、これでメンバーも揃ったみたいだし、そろそろ出発しようか」
「「はーい!」」
「えッ!? スルー!?」
なのはさんの言葉にリオとコロナが元気よく返事をする。
ちょっと! この状況に対して何か言うことはないのか!? ほら! フェイトさんはヴィヴィオたちを見ておろおろしてるし!
すると、ノーヴェさんが遠い目をしながら俺の肩に手を置いた。
あっ……、いつものことなんですね。
とりあえず二人を放置して俺たちは準備を進める。一旦、リオとコロナの家に寄った後に空港でスバルさん達と合流して、合宿先へ向かうとのことだ。
……この調子じゃ、先が思いやられるな。
キリのいいところで区切ったので、今回は少なめでした。すみません。
合宿には、せっかくなのでジークとヴィクターにも参加してもらうことになりました。
まあ、だからと言って特別変なことは起こらないと思います。この作品はコメディですし。