FAIRY TAIL 妖精の戦姫   作:春葵

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新章“竜の顎編”開始です!!
どうぞ最後までお楽しみください!!


竜の顎編
24.戦姫の休養


「ん~やっぱりここは気持ちいいなぁ」

 

システィは両手をグッと伸ばし、大きく伸びをする。

システィがいるのは、フィオーレ王国の人里離れた森の中。そこには妖精の尻尾(フェアリーテイル)の顧問薬剤師でマカロフの古い友人である治癒魔導士のポーリュシカが暮らしている。

システィはそこに療養とリフレッシュを兼ねて来ていた。

 

「やっぱりここはエーテルナノが豊富だね」

「まぁ、これだけ街から離れてたらそれもそうでしょ」

 

森の中には二人の声以外に人気は感じられず、まるで世界から切り離された場所のように感じた。

しかし、

 

「っ!?」

 

ほんの一瞬だけ魔力を感じた。しかも、ジョゼのように禍々しくも、マカロフのように優しくもない、言うなれば無色の魔力だ。システィには逆にそれが不気味だった。

システィは魔力を感じた方に視線を向ける。しかし、視線の先には森が広がるだけだ。

 

「……行ってみるしかないか…」

 

システィは意を決して森の奥へと歩き出した。

 

 

 

歩き始めて数分、先に異変に気づいたのはシェリルだった。

 

「…なんか、ちょっと静か過ぎない?

「…動物が…いない…?」

 

さっきまで鳥の鳴き声や、風の音が溢れていたが、今では一切が無くなっている。

何かいる。そう思わずにはいられなかった。

 

生い茂った草木をかき分け少し開けた場所に出ると、そこは小さな湖だった。水は澄んでいて、魚も何匹か泳いでいる。

そして、目線を湖から離した時、彼が目に入った。

黒い髪に漆黒の瞳、黒い装束と全てが黒で染められている。

向こうもこちらに気づいたのか、ゆっくりと顔を上げられ、目が合う。

その瞬間、システィの本能が危険を告げ、即座に距離を取った。

 

 

「貴方は…いったい何者…?」

「僕かい…?僕はただの旅する魔導士さ」

「嘘。さっき感じたあの魔力、貴方は只者ではないはず…」

「……確かにそうだね。それじゃあ改めて名乗ろう。僕の名はゼレフ」

「ゼレフ…!?貴方があの魔法界の歴史上最も凶悪だったと言われる黒魔導士の…!?」

 

システィは即座に構え、魔力を解放した。

 

「その魔力…グランディーネの子か。ウェンディ…いや、システィだったかな?」

「っ!?貴方、どうして私の名前を…」

「……さぁ、どうしてかな?とにかく、僕は戦う気なんてないから魔力を抑えてくれないかな?」

 

実際、システィが魔力を解放してなお、魔力を出すどころか動こうとしない。

しばらくは警戒していたが、結局システィの方が根負けして魔力を収めた。

 

「ねぇ、貴方歳は幾つなの?一体どれだけの時間を貴方は生きているの?…」

「歳…か。そんな概念もう忘れたよ。

……システィ、君はなぜ人は歳を数えると思う?

僕はね、死ぬまでの時間を逆算する為だと思うんだ。

でも、僕には死は訪れない…。だから、三十を超えたあたりから数えることを辞めてしまったんだ…」

「不老…不死……」

「『アンクセラムの黒魔術』っていう古い呪いなんだ」

 

システィはそれを知っていた。

人を尊いと思えば思うほど人を殺めてしまう矛盾の呪い。

それは自分の意思とは関係なく周囲の生命を一瞬にして枯渇させる。

 

「だから、僕にはあまり近づかない方がいいよ」

 

そう言ってシスティに向ける笑顔は、とても悲しく苦しそうなものだった。そして、その笑顔が、昔ナツが幼なじみを亡くした時に見せた作り笑いとなぜか重なり、システィは無意識に手を伸ばしていた。

 

「っ!?」

「ごめん。私にはこれくらいしか出来ない」

 

システィは風を操り、優しく彼を包み込んだ。

 

「…久しく忘れていたよ…。これが、人の温もりなんだね…。

ありがとう、システィ…」

 

ゼレフが見せた笑顔は、さっきのは違って優しく柔らかいものだった。

 

「さて、僕はもう行くよ。ここらの草木を枯らす前に」

「…お元気で」

 

ゼレフはそのまま一度も振り返らず去っていった。

 

彼が去った後、森は思い出したように活気を取り戻す。

システィはまた彼の去った方向に視線を向けた。

 

「最悪の黒魔道士ゼレフ…か」

 

システィは呟くと、そっとシェリルを抱き上げた。

 

「戻ろっか」

「うん…」

 

システィはシェリルを抱いたまま、丁度ゼレフの去った方向とは逆に進み始めた。

 

 

 

 

二人がポーリュシカの元に戻ると、そこにはなぜかミストガンが来ていた。

 

「あれ?どうしたの、ミストガン?」

「……システィか。ちょっと野暮用でな…」

 

そう言って、ミストガンは顎と目線で遠くに見える大きな木を差し示す。ミストガンが二人きりで話したい時によく使う仕草だ。システィは黙って頷くと、シェリルに断って一人でその木に向かった。

 

 

「それで話って?」

「…お前が“ウェンディ”という少女を探していると聞いた…」

「うん。そうだけど…?」

「……その少女の名前、“ウェンディ・マーベル”か…?」

「っ!?なんで…どこで聞いたの!?」

 

システィはギルドのみんなに彼女のフルネームを教えてはいなかったはずだ。少なくとも彼には教えたことがない。

 

「まさか、会ったの…?」

「ああ…。だが、随分昔のことだ…。俺は彼女を化猫の宿(ケットシェルター)というギルドに託した」

「そう…よかった」

 

システィは心から安堵していた。ギルドに保護されているなら、余程のことでもない限り無事でいるだろう。

 

「ありがとう、ミストガン」

「いや…もっと早くに言えばよかったな…」

「ううん、教えてくれただけで十分だよ」

「すまん…。無事再会出来ることを祈ってる…」

 

そう言い残すと、ミストガンは去っていった。

 

「本当にありがとう…」

 

システィは感謝を込めて彼に向けて頭を下げた。

 

 

それから三日ほど経ち、システィの怪我も完璧に治っていた。むしろ、怪我する前よりも調子がいいくらいだ。

 

「さあ、治ったんなら早く出ていきな」

「もぅ…分かったから。…ありがとね、グランディーネ」

「その名で呼ぶんじゃないよ。……もう、あんまり無茶はしないことだね」

「分かってるよ。じゃあ、行くね」

 

そう言ってシスティはポーリュシカの元を後にした。

 

もし、ウェンディをここに連れてきたら、どんな反応をするだろう…。

 

そんなことを考えながら、システィは妖精の尻尾に向けて足を進めた。




最後までお付き合いありがとうございます!!
今回は序章のような感じですね。物語は次回から展開していきます。

それでは次回もどうかよろしくお願いします!!

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