それでは最後までお付き合いお願いします!!
16.幽鬼の奇襲
海賊船に乗り、マグノリアの港へと帰還したシスティ達。
いつも通り、乗り物酔いの余韻か残るナツとシスティに苦笑を浮かべながら一同はギルドへ帰る途中だった。
「システィ、いつごろ旅に出るつもりなんだ?」
ナツ達に聞こえないよう気遣いながらエルザはシスティに問いかける
「そんなにすぐって訳じゃないから安心して、エル姉。一応この一件が終わって落ち着いたら行くつもり」
「そうか…」
「人馬!?それってどんな奴なんだ?」
深刻な雰囲気で話し込むシスティとエルザを他所に、ナツ達は貰った黄道十二門の鍵を持って騒いでいた。
そんな光景を見て、システィは思わずため息をついてしまう。何だか真面目な話をしている自分の方が馬鹿みたいだ。
「ナツ、ルーシィ。その鍵あげたのは私だけど……いいの?そんなに呑気にしてて」
「え?」
「だって帰ったらアレだよ?」
システィは隣のエルザへ視線を向ける。
「…ギルドへ戻ったら、お前達の処分を決定する」
エルザは普段と変わらず、途轍もない量の荷物を引きながら、ナツ達に無表情でそう告げる。
その言葉を聞いた瞬間、ナツ達は思い出したように震える。
「ま、判断を下すのはマスターだけどね。一応覚悟はしといた方がいいよ?」
お仕置きを受けるナツ達を想像してか、ニヤニヤし始めるシスティを見て、ナツとグレイは背筋に嫌な寒気が走る。
「ま、まさか…アレをやらされるんじゃ…!?」
「え、アレって?」
「アレだけは嫌だよぉ~!!」
「だからアレって何!?」
グレイやハッピーが恐怖に震え、それを見たルーシィも訳もわからず恐怖する。
「へ、大丈夫だって!!きっとじっちゃんならよくやったって褒めてくれるさ!!」
唯一、ナツだけは気落ちせずにポジティブ思考を貫いている。
「あんた…どんだけポジティブなのよ…」
その様子にルーシィが呆れた目で見つめ、システィも苦笑を浮かべ、ナツを見る。
しかし……
「いや…アレは確実だろう」
エルザの無慈悲な声が響く。
すると、さっきまで笑顔だったナツの顔から次第に滝のような汗が流れ、恐怖で顔が歪む。
「嫌だぁああああっ!!!!
アレだけはっ!!アレだけはっ!!絶対嫌だぁああああああああっ!!!!」
「だからアレって…何なのよぉおおおお!?」
ナツとルーシィが絶叫し、逃げ出そうとするナツをエルザが首根っこを掴んで、引きずられるようにしてギルドへと歩を進める。
「あはは…。流石に自業自得だよ、ナツ」
流石に助けられないと苦笑を浮かべ、エルザとのやり取りを見ていたシスティは、ふと周囲の視線がおかしいことに気づいた。
「…ねぇ?なんか見られてない?」
「ん?あぁ、確かにな……」
システィの言葉にエルザも頷き、ナツ達も周囲へと意識を回す。
「なんだァ?」
「なんか…嫌な感じね?」
ナツとルーシィが怪訝そうな表情で言い、グレイやハッピーもそれに頷く。
「またギルドのみんなが何かしちゃったのかな?」
「しちゃったとしたらあたしたちだと思うけどなぁ…」
周囲の目を気にしながら、ギルドへと真っ直ぐ帰ると、次第にその姿が見えてくる。
そして、ギルド全体を目にすることでその理由が判明した。
「んな…!?」
「んだこりゃあ!?」
「ひ、ひどい…」
「ギルドがボロボロだぁ…」
「これは…!」
「…!?この魔力って……!?」
システィ達の目の前には、何本もの鉄の柱が壁に突き刺さり、ボロボロになったギルドがあった。
ナツやグレイは口々に怒りを顕にし、エルザも拳を握って震わせている。
「何があったというのだ…」
「…ファントム」
システィ達の背後から、弱々しいが聞き覚えのある声が聞こえ、振り返ると悲しく悔しげな表情を浮かべたミラが俯き、立っていた。
「ファントム…だと?」
「悔しいけど、やられちゃったの…」
その名を聞き、ナツは更に表情を歪まさせ、システィは笑顔のないミラの頭を撫で、抱きしめる。そして、ミラに案内されてギルドの地下の仮酒場に向かった。
そこではギルドメンバーが神妙な面持ちで集まっており、しーんと普段では考えられないほど静まり返っていた。
すると、システィ達の帰還に気づいたマカロフが酒を片手に手を上げた。
「よっ!おかえり!」
「マスター…!」
マカロフの呼びかけにシスティ達はすぐにその傍へと駆け寄る。
「ただいま…戻りました」
「じっちゃん!!酒なんか飲んでる場合じゃねぇだろ!?」
ナツの怒声が響く。しかし、マカロフは一瞬真剣な表情になると、
「おぉそうじゃった!お前達!!勝手にS級クエスト何ぞに行きおってからに!!」
何故かギルド建物のことではなく、ナツ達が勝手にS級クエストへ行ってしまったことへの怒りが落ちた。
「え!?」
「はァ!?」
マカロフの言葉に、驚きの声を上げるルーシィとグレイ。
「罰じゃ!!今からお前達に罰を与える!!覚悟せいっ!!」
マカロフからの“罰”の言葉に、ナツ達はビク!と震え、身構える。
だが、結局はルーシィを除いた者は頭に一発チョップをくらい、ルーシィはお尻を叩かれるという、いわゆる“セクハラ”で終わった。
そんなマカロフの様子にエルザは唖然とし、ほんの僅かに怒りを覚えたのか、テーブルをバンッ!!と叩き、マカロフへ鋭い目を向ける。
「マスター!!今がどんな事態か分かっているのですか!?」
「ギルドを壊されたんだぞ!?じっちゃん!!」
エルザとナツの怒声を聞くも、マカロフは平然としており、怒るのではなく二人を宥め始めた。
「まぁまぁ落ち着きぃ。騒ぐほどのことでもなかろうに。ファントムだァ?誰もいないギルドを狙って何が嬉しいのやら…」
「誰も…いない?」
マカロフの言葉にシスティが首を傾げ、ミラを見やる。
ミラもシスティの視線を感じ、頷く。
「えぇ…。幸いにもやられたのは夜中で誰もいなかったから怪我人はいないのよ」
「へぇ…」
夜中に一体何の目的で…
「不意打ちしかできんような奴らに目くじら立てる必要はねぇ…。放っておけぇ!!」
マカロフはその言葉と共に、この話は終わりじゃ!と叫び、その後ナツ達からの抗議の声も一切聞かず、酒を飲み続けた。
そしてその後、仮酒場にはマカロフとシスティのみが残っていた。
「マスター…どういうおつもりなんですか?」
「なんじゃ…。さっき言ったじゃろ?
別にガキどもは誰も傷ついておらん。建物は、みなで力を合わせればまた作り直せる…。騒ぐほどのことじゃあねぇ……。
そうじゃろ?」
「……でも、今回は、どこか普段と様子が違う気がするんです…」
システィのその言葉にマカロフはピクッと眉を動かし、システィを見つめる。
「………下手な詮索はよすのじゃ。これ以上、向こうが何もしてこねぇなら何も言うことはないじゃろ…」
何を言っても気持ちは変わらないと言うマカロフにため息をつき、システィは仮酒場を後にする。
「確かに、ギルド間での争いは禁じられている…。それがマスターのお心なら、私はそれに従いますよ」
そして、扉を開け出ていく間際…
「…でも、もし誰かの血が流れるようであれば、私は“一人の魔導士”としてでもやるつもりですから」
そう呟き、では…と、システィはその場を立ち去った。
去っていったその後を見つめ、マカロフは長いため息をつくのだった…。
ギルドを出たシスティはその足でルーシィの家へと向かっていた。
暫くは一人でいるのは危ないということで、今夜は全員誰かと一緒に過ごしている。
システィとシェリルもまた、ナツやエルザに誘われていた為、ルーシィの家へと向かっているのだ。
コンコンコンッ
「ルーシィ、来たよー」
バタバタバタッ!!!! ガチャ
「システィ、シェリル、いらっしゃい!!はぁ~良かった!!システィが常識人でほんっと良かった!!」
ただノックしただけなのに…と、システィは訳が分からないと言うような顔をする。
「ま、とりあえず中に入って入って!!」
ルーシィに押されるがままにシスティは部屋の中へと入る。
ルーシィの部屋の中では、ナツが未だに唸っていた。
「くっそー!じっちゃんもミラもみんなビビってんだよ!!」
「だぁから、ちげぇだろ…」
「マスターも我慢しているんだ…。ギルドを壊され、一番悔しいのはマスターだろう」
騒ぎ暴れるナツをグレイとエルザが宥めている。
その様子を見つめ、ハッピーとシェリルはため息をついており、ルーシィとたった今来たシスティは苦笑を浮かべた。
「それにしても…ファントム?って酷いことするのね…前にもこんなことあったの?」
話を変えようとルーシィはシスティ達に問いかける。
「んー?いや、確かに今まで小さな小競り合いはあったけど…」
「こういうことは初めてよね」
システィとシェリルの言葉にそうなんだ…と頷くルーシィ。
「んがー!やっぱ納得いかねぇ!!じっちゃんもビビってないでやり返せばいいだろ!?
先に手出されたのはこっちなんだぞ!?」
「だーから!そういう問題じゃないでしょ!?それに、マスターもビビってる訳じゃないわよ…」
再び叫び声をあげるナツを宥めるシスティ。
「システィの言う通りだろ…仮にもじーさんは聖十大魔道の一人なんだぞ?」
「…聖十大魔道?グレイ、聖十大魔道って?」
グレイの言ったその単語に聞き覚えのないルーシィは首を傾げて問いかける。
「聖十大魔道と言うのは魔法評議会議長が定めた、大陸で最も優れた魔導士十人につけられる称号のことだ」
「ちなみにファントムのマスター、ジョゼもその一人よ」
エルザとシスティの説明に、ルーシィはへぇと興味を示す。
「ちなみに、システィはこの間聖十大魔道に招待されてたわよ」
「え、そうなの!?」
「はぁ?システィ、聞いてねぇぞ!!」
シェリルからの突然の告白にルーシィだけでなくナツ達も驚きの目でシスティを見つめる。
「ちょっと、それは言わなくていいでしょ!?
えっと…まぁ…確かに今まで何度か声は掛けられてるんだけど…。私にはまだ早いかな~って」
「早くねぇよ!!システィは今でも充分強ぇじゃねぇか!!」
「ううん。私なんてまだまだだよ」
そう言うとシスティは暗い顔をして俯いてしまう。そんな顔をされては流石のナツも言い返せない。
そう。私はまだまだ弱い。
みんなを守れるくらい強くならないと…
時間は刻々と過ぎ、夜も耽ていく。
今夜は何だか嫌な感じだ。
「何も起こらないといいけど…」
システィはどこか胸騒ぎを感じながらそっと呟いた。
翌日、マグノリア広場にて―
「通してくれ、ギルドの者だ」
人だかりが集まる中をエルザが先導し、押し進む。
そして……
「っ!!レビィちゃん…!!」
「ジェット…ドロイ…!!」
「ファントム………!!」
システィ達の目の前には、鉄の杭で腕を固定され、傷だらけの状態で木に括りつけられているレビィ、ジェット、ドロイの姿だった。
「ひ、ひどい……」
「こんなの、有り得ない」
三人の姿にハッピーとシェリルの目には涙が浮かぶ。
システィは静かに三人に歩み寄ると、風を纏わせた手刀でレビィ達を捕まえていた鉄の杭を切断した。
レビィ達を順に支え、木に寄りかからせるとシスティは回復魔法を掛ける。
「………マスター………これでも、手を出さないと…?」
音もなく、静かにその場にやってきたマカロフにシスティは振り返ることなく問いかける。
システィの怒りに呼応するように周囲の空気が振動し、草木を激しく揺らす。
また、彼女の声の中にも強い怒りを感じさせ、殺気すら纏っていた。
「ボロ酒場までなら許せたんじゃがな………。
ガキの血を見て黙ってる親はいねぇんだよ…」
ここで初めてマカロフが怒りを見せた。
「戦争じゃ…!!」
持っていた杖を握り潰し、宣言した。
妖精による幽鬼の殲滅を―
最後までお付き合いありがとうございます!!
予定では、あと三、四話くらいで幽鬼の支配者編を終わらせて、オリジナルストーリーを挟みたいと思っています。
ペースは落ちると思いますが、よろしくお願いします!!