ドラゴンボールNEXUS 時空を越えた英雄   作:GT(EW版)

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変貌する2人

 

「はあああっっ!!」

 

 黒髪が逆立ち、光の色に染まっていく。

 黄金色の光が悟飯の身体から炎のように広がっていくと、それと呼応していくように彼の内なる「気」が数十倍へと上昇し、引き出されていった。

 サイヤ人の中で千年に一人だけ誕生するとされる伝説の戦士、超サイヤ人。彼の肉体から迸るエネルギーが大気を激震させると、音速を超えて繰り出した拳が人造人間14号の身体を突き飛ばした。

 さらなる追撃を加えようと追い掛ける悟飯の元へ次に飛び込んできたのは、大柄な体格の人造人間15号の姿だ。

 しかし。

 

「隙あり!」

 

 横合いから割り込んできたネオンがその首筋に蹴りを入れ、15号の加勢を妨害する。その隙に悟飯が14号の背後へと回り込み、一撃、二撃と超スピードでのラッシュを加えていった。

 

「中々やるな。だが、これはどうだ!」

 

 戦況を見つめていたもう一人の人造人間、13号が不敵な不敵な笑みを浮かべると、その両手に巨大なエネルギーボールを作り出す。 

 S.Sデッドリィボンバー――そう叫び放った一撃は、15号を相手している最中のネオンへと放たれた。

 

「容赦ないな……この、触るなっ!」

 

 飛来してくるエネルギーボールの射線から逃さないように、15号がその巨体に物を言わせてネオンの身を羽交い絞めにしようとする。

 ネオンはそんな15号との密着を阻止すべく両足を使って乱暴に弾き飛ばすと、上から迫り来るエネルギーボールに対して即座に振り向き、左手から気攻波を発射する。

 エネルギーにはエネルギー。13号のエネルギーボールに、ネオンは気功波で対抗したのだ。

 両手が使えればそのエネルギーボールを受け止めるなり出来たのかもしれないが、生憎隻腕の身ではその余裕が無い。

 ネオンの放つ一条の気功波と13号の放つ特大のエネルギーボールは上空で激突すると、そのまま押し合いに入っていく。

 拮抗する二つの力は激しい火花を散らして膠着状態に入るが、ギリギリと歯を食いしばるネオンに対して13号の表情は尚も余裕綽々だった。

 

「女と言えど……人造人間は容赦せん!」

 

 そう叫び、13号が自らのエネルギーボールに上乗せして右手からエネルギー波を加えていく。

 その瞬間両者の均衡は崩れ、爆発的に火力の増した13号のエネルギーボールがネオンの気功波を一気に押し出していった。

 

「ネオンさん! くそっ!」

 

 悟飯が即座に彼女の援護へと向かおうとするが、そんな彼の左右からは14号と15号が足止めに掛かり、思うように身動きが取れない。

 このままでは、彼女がやられる……苦虫を嚙み潰しながらその光景を眺め、悟飯が叫ぶ。

 

 しかし、その時だった。

 

「くっ……ベビー!」

『十秒遅い!』

 

 バイザー型のスカウターの下で、突如としてネオンの両目が変化する。

 虹彩から白目の部分に掛けて十字を描くように模様が浮かび上がると、彼女の目つきがより戦闘的な鋭い眼光へと変わったのだ。

 そして変わったのは、その両目だけではない。

 今この瞬間からネオンが解放する「気」が変質し、爆発的にエネルギーを増したのである。

 

「なにっ!?」

 

 それに呼応していくように、彼女の左手から放たれている気功波が大幅に威力を増大させていく。

 膨れ上がっていく閃光は瞬く間に力関係を逆転させると、13号のエネルギーボールを宇宙空間まで押し返し、爆発させていった。

 先までパワー負けしていた筈の押し合いを、圧倒的な力を持って制したのである。

 ネオンは驚愕に目を見開く13号の姿を見上げながら鼻を鳴らすと、もはや用済みとばかりにバイザー型のスカウターを外して無造作に投げ捨てた。

 

「雑魚共が……お遊びはこれまでだ」

 

 人造人間達を鋭い眼光で睨みながら言い放ったその言葉は、ネオンという少女ではなく「男」の声だった。

 

 

「あの時と同じ声だ……それに、この「気」も」

 

 彼女の見せた豹変に、悟飯が呟く。

 今の彼女は、最初にネオンと会った時と同じだ。彼女であって彼女ではない誰かの声と「気」を感じた瞬間、悟飯は自らの推測が間違っていなかったことを確信した。

 

「貴様……貴様が、ベビーか」

「……ベビー?」

 

 おぼろげながら、ネオンの身体には二つの「気」が宿っていることは何となく感じていた。そして今まさに、その二つ目の「気」が表に出てきたのだ。

 

 それも、尋常なものではない。

 

 その身から溢れている「気」はどうあっても隠しきれるものではなく、異常な力を秘めていた。

 

「ネオンさん……貴方は、一体……」

「サイヤ人、ネオンに免じて今は殺さないでやる。だが、俺の邪魔はするな」

「……っ」

 

 

 どちらかと言えば「悪の気」にこそ近しい性質だと感じる彼女は、冷徹な眼光を悟飯に向けながらそう忠告する。

 まるでいつかのベジータを彷彿させるような彼女の言葉に、悟飯は変わったのは声や「気」だけではなく、その人格もだと悟る。

 それでも今この場では味方してくれるのは嬉しいが、悟飯には何故かサイヤ人として、本能的に警戒せずには居られない何かを感じていた。

 

「生憎、俺様は宿り主ほど甘くないんでな……貴様ら全員、バラバラにしてやる!」

 

 白色のオーラが彼女の身体を包み、バーナーのように猛りを上げて広がっていく。

 そして次の瞬間、目にも留まらぬ速さでネオンの拳が13号の頬に突き刺さっていった。

 

「グッ……貴様っ!」

「どうした、それが限界か? 所詮、地球の科学力などこんなものか」

 

 痛みを感じない人造人間だからか、そこから13号が反撃に転じるのは早かったが、彼の拳や蹴りはことごとくネオンの素早い動きにかわされ、カウンターを受けて弾き飛ばされていく。

 単純なパワーだけではない。悟飯の目から見てもわかるほどに、今のネオンは動きそのものが変わっていた。

 

「凄い……俺も、負けてられないな!」

 

 あれが、ネオンという少女の本当の力か。今の戦闘力は、超サイヤ人になった自分よりも上かもしれない。

 あの力が敵に回っていたらと思うと恐ろしいが、今はこれ以上頼もしい戦力は無いだろう。

 13号を圧倒していくネオンの姿に発奮した悟飯は、自身も遅れを取らぬように内なる「気」を引き上げると、その気合砲で14号と15号を吹き飛ばした。

 

 

 

 戦況はネオンの変化を期に、悟飯達の優勢へと変わっていった。

 ネオンにしても悟飯にしても、個々の人造人間よりも戦闘力は上である。そのことに気づいた三体の人造人間は一対一では挑まず、コンビネーションでの攻撃に切り替えようとしてきたが、二人の戦士はその動きに対して常に一歩先の動きで対処していた。

 始めは言葉遣いや声と共に変化したネオンの「気」に対して言い知れぬ冷たさを感じていた悟飯だが、意外にも彼女はこれまでと変わらず悟飯との足並みを揃えて戦ってくれた。

 放たれる言葉こそ確かに厳しいものの、絶妙なタイミングで援護をしてくれたり、それとなく良い位置に敵を誘導してくれたり……戦いながら悟飯は、段々とその性格がわかってきたような気がした。

 そんな彼女と背中合わせになりながら、悟飯は気持ち良く修行の成果を発揮していく。

 初めての共闘にしては随分と様になっていると、まるでピッコロと共に戦っているような気分で悟飯は人造人間達を追い詰めたのである。

 

「でりゃああっっ!!」

 

 一閃――悟飯が振り抜いた右腕の手刀が疾り、14号の首をボトリと斬り落とす。

 上から落ちてきた自身の頭部を両腕で掴み捕った14号だが、その隙に悟飯はとどめの気功波を放ち、敵の身体を木端微塵に撃ち砕いていった。

 人造人間とは言え人に近い姿を壊していくことに何も感じないわけではないが、若くとも孫悟飯は戦士だった。この場において余計な感傷に浸ることは無く、即座に次の敵へと向かった。

 

 そして彼が14号という厄介な敵を倒した瞬間と同じくして、もう一体の敵との戦いもまた終わろうとしていた。

 数多の打撃に打ち据えられ、傷だらけの姿をした巨漢――人造人間15号が猛然と迫り、拳を振り上げる。

 その拳はまるで避ける素振りさえも無いネオンの顔面へと叩き込まれたが、ネオンは彼の攻撃を受けてもなおその場から微動だにせず、唇の端をつり上げるだけだった。

 

「……!」

「ふん……死ね!」

 

 自分の攻撃がまるで効いていないことが信じられないとばかりに15号が目を見開いたその瞬間、予備動作すら見えないネオンの拳が巨漢の腹部を貫いた。

 機械の部品が噴き出しては散らばっていき、その光景を見てネオンが満足そうに笑む。

 地球の空に人造人間の花火が打ち上がったのは、その直後だった。

 

 これで二体目。本気を出した二人の戦士を前に14号、15号と続けて打ち破られ、残る人造人間はリーダーの13号だけとなった。

 

「……14号と15号がやられたか」

「ドクター・ゲロとツフルの科学……貴様らと俺では、出来が違うということだ」

 

 仲間を失った13号の表情からは完全に余裕が消えていたが、彼は無表情のまま冷静に呟く。

 彼もまた既に満身創痍の身であり、左腕はネオンによってもぎ取られており、身体のあちこちに機械の部品が露出していた。対する悟飯達はまだ余力が残っており、既に勝負は決したように思える。

 しかし、物静かな13号の姿は妙に不穏だった。

 

「ふふ……」

 

 圧倒的に劣勢な状況の中で彼は、あろうことか笑っていたのだ。

 これまで数多の強敵と戦ってきた悟飯は、その経験則から何か嫌な予感がすると眉をしかめ、警戒を強める。

 

「何を笑っているんだ?」

「ふふふ……ふふふふふふふふふ……」

 

 悟飯が薄気味悪い笑みに対してその意味を問い質すが、答えは無く、13号はただ不気味に笑い続けている。

 その姿に「気色悪い」と辛辣かつ的確な感想を吐き捨てたネオンが、彼に止めを刺すべく左手に「気」の光を集束させた――その時だった。

 

 13号の周囲に、どこからともなく二枚のチップが出現したのである。

 

「孫悟飯、そしてネオン……いや、ベビー。お前達は確かに強い。しかし二人の人造人間を倒したその行動は、大きな間違いだ」

「なに?」

「……どういうことだ?」

 

 喜悦に染まった表情を歪めながら、13号は意味深に吐き捨てる。

 そして次の瞬間、二枚のチップが13号の頭部と胸部へと差し込まれた(・・・・・・)

 

「これは……!」

 

 二枚のチップを取り込んだ13号が、獣のような唸り声を上げる。

 その声に怯えるように大地は震え、13号の身体から溢れんばかりのエネルギーが放出されていく。

 彼の身体から表出されたそれはまるで悟飯達が放つ「気」のオーラのようであったが、それは本質的に「気」の力とは別物であり、この世の全てを呪っているかのような禍々しさに溢れていた。

 

「ハアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 13号の肉体を覆った禍々しい光は円形状に広がっていくと、しばらくして火山が噴火するようにして――爆ぜた。

 

 

「ほう……合体か」

「合体……?」

 

 つんざくような爆発の後、そこに現れた新たな人造人間の姿を目にしたネオンが呟く。

 同時に、悟飯は今の13号の身に何が起こったのかを理解した。

 

「ハアァァ……」

 

 彼らの前に居たのは人造人間13号であって、既に13号ではなかった。

 ネオンの言葉通り、13号は破壊された14号と15号のパーツを取り込み、合体したのである。

 人間と同じ色をしていた皮膚は深い青色に染まっており、肉体は一回りも二回りも大きくなっている。銀色の長髪は逆立った赤い髪へと変化しており、その眼はいかにも怪物的な、人間とは掛け離れたおぞましい姿へと変貌していた。

 そしてネオンが粉砕した筈の左腕も、何事もなかったように再生している。

 

「グオオオオッッ!!」

 

 荒々しい獰猛な表情を浮かべた13号が、獣のような叫びを上げて二人を睨む。

 人造人間の身体に「気」は無い。しかし、その姿から溢れ出る凄まじいエネルギーは、悟飯の身体の芯まで響いてくるようだった。

 悟飯は科学技術だけで宇宙の帝王を遥かに上回る化け物を作った天才科学者に対して、なんでその頭脳を正しく使えなかったのかと思わずに居られなかった。

 

「雑魚共を取り込んで、パワーアップしたつもりか? 笑わせてくれる」

 

 しかし合体した新たな13号の姿を見ても、男の声を放つネオンの表情に揺らぎは無い。

 まるで自分一人でも彼を倒せると信じて疑わない強気な眼差しを崩さぬまま、彼女は怪物の姿を睨んでいた。

 

「ネオンさん……」

「手を出すな、サイヤ人。コイツは俺が片づける!」

 

 白色のオーラを放つネオンが悟飯にそう言うと、彼女は内なる「気」を一層引き上げて13号へと挑み掛かる。

 

 瞬間、ネオンの拳が13号の胸板に突き刺さる。

 

 それは雷のように速く、鋭い一撃だった。

 超サイヤ人となった今の悟飯でも、その攻撃を避けることは叶わなかっただろう。そしてその威力もまた、自分以上だと悟飯は驚愕した。

 

 ……しかし。

 

「っ……!?」

 

 真っ正面から拳が直撃した筈の13号の反応は、ほんの僅かに上半身が揺れ動いただけだった。

 13号の表情に変化は無く、打たれた胸板にも傷一つ付いていない。

 悟飯とネオンが驚きに目を見開く。

 

「ちっ!」

 

 二撃目――ネオンが身体を捻り、右足から回し蹴りを喰らわせようとする。

 しかし次の瞬間に右足で蹴り飛ばされたのは、13号ではなくネオンの方だった。

 13号がネオンよりも速く、反撃を浴びせたのである。即座に体勢を整えようとする彼女だが、その動きは彼女の身体が地上へ墜落するまで間に合わなかった。

 廃墟の町を崩壊させながらネオンの身体は地を滑って転がり落ちていき、その姿はあっという間に悟飯の視界から見えなくなった。

 

「ッ!? くそっ!」

 

 ――あのネオンを、一撃で吹き飛ばした。

 敵の力は、今までとはまるで違う。見た目だけではない13号の変化に悟飯は慄きながらも、戦意を滾らせて黄金色のオーラを発散する。

 

「ふん! だだだだだだだっっ!」

 

 超サイヤ人のスピードを全開に引き出して距離を詰め、悟飯が左右から拳を連打していく。

 それに対して13号は全くの無反応で、棒立ちしたままノーガードで彼のラッシュを受け続けた。しかしその光景は、今の彼には超サイヤ人の攻撃さえも防御する必要が無いのだと証明していた。

 

「ぐっ……!? ぐあああっっ!」

 

 悟飯が渾身の力を込めてニ十発ほど拳を叩き込んでも身じろぎ一つしない13号は、反撃に転じた瞬間その腕で悟飯の肩を掴むと、彼の腹に膝蹴りを入れた後で乱暴に地面へと投げ飛ばした。

 

 

 ――ブロリーよりも、パワーは上かもしれない。

 

 想像を遥かに超えた戦闘力に、見積もりが甘かったことを悔やむ。

 朦朧としていく意識の中でそんなことを思いながら、悟飯の身体もまた廃墟の大地へと落ちていった。

 

 






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