ドラゴンボールNEXUS 時空を越えた英雄   作:GT(EW版)

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残された超戦士たち

 

 

 

 ナッパに殺された町の人々は、生き返っていない。

 

 あれから随分と年月は過ぎたが、そのことを生前の神様が悔やんでいたことを悟飯は覚えていた。

 本来ならばあの時のサイヤ人に殺された人々の命は、ナメック星のドラゴンボールで甦らせた地球のドラゴンボールによって生き返らせる筈だったのだ。

 しかし当時のナメック星はフリーザ一味に襲われておりその願いを叶えられる状況になく、地球のドラゴンボールへの願いごとはやむなく「フリーザ一味に殺された人々を生き返らせてくれ」という、ナメック星の最長老を生き返らせる目的に使われてしまった。

 この願いごとではベジータが殺したナメック星人達が生き返れなかったように、ナッパに殺された地球人達が生き返ることもまた出来なかったのである。

 

 人の魂は死後から一年過ぎてしまえばあの世に定着してしまい、ドラゴンボールでも生き返らせることが出来なくなってしまう。

 そしてそのドラゴンボールは一度使用した場合、一年後まで石になってしまう。

 ナメック星のドラゴンボールならば一度使用しても半年の時間で復活するのだが、ポルンガの力ではヤムチャ、餃子、天津飯という三人の戦士を個別に生き返らせることは出来ても、地球のドラゴンボールとは違って一度の願いでは複数の人間を生き返らせることが出来ないという制限があった。

 

 故に東の都は今も消滅したまま、町の住民は誰一人として生き返っていなかった。

 

 幼いながらも戦士として戦い、当時のナメック星における切迫した状況を誰よりも理解している悟飯にはその時の神様の決断を責めることは出来ず、この件に関しては今でも彼を批難する気持ちは持ち合わせていない。

 仕方が無いという言葉で全て切り捨ててしまうのは冷酷だが、当時のナメック星でナメック星人達を救うにはあそこで行った願いしかなかったこともまた事実だったのだ。

 そう考える悟飯に出来ることはただ、犠牲になった人々に哀悼の意を表することだけだった。

 

「あのネオンって人は、その町で一人だけ生き残った人なのか……」

「話してみれば、悪い子じゃなかったわ。ちょっとサイヤ人のことになると過激になる感じだったけど、貴方達の居ない地球を守る為に、あの子は戦ってくれたわ」

 

 親しかった人々を失った世界で、ただ一人生き残り、今日まで戦い続けてきた人間である。

 今の悟飯自身もまたブロリーとパラガスというサイヤ人によって大切なものを奪われた者であり、奪った者達を憎む彼女の気持ちはわかるつもりだ。

 彼らと同じくサイヤ人の血を引く孫悟飯が、サイヤ人であるパラガス達に着くと思って攻撃を仕掛けてくるのも道理だろう。長い間修行の為とは言え地球を逃げ出していたことも事実であり、彼女が自分に敵意を見せる感情は悟飯には痛いほど理解出来た。

 何はともあれ、次はちゃんと話したいなと悟飯は思う。

 この地球を救う為には、今は一人でも強い力が必要なのだから。

 

「僕や悟飯さんとは違って、純粋な地球人なんですよね? それにしては、物凄い力を持っていましたが……」

「その辺りのことは、私にもわからないわ。孫君やベジータが居なくなった地球に、まだあんな子が居たなんて知らなかったから私も驚いちゃった。それも、女の子なのにね」

「あー、やっぱり女の人だったんですか」

「えっ?」

「えっ」

「悟飯さん、それはちょっと……」

「ええ……だってわかりにくくなかった?」

「……貴方って、妙なところまで孫君に似ちゃったわねぇ」

 

 薄々はそうなのではないかと疑っていたが、やはりネオンという人物の性別は女性で間違いないらしい。そんな悟飯に対してブルマの方は寧ろ疑う要素があったのかというような呆れた表情を浮かべるが、悟飯が確信を持てなかったのには理由がある。

 

 外見で言えば顔の上半分がバイザーで隠れていた為に今一つ判断が着かなかったのもあるが、彼女は戦闘中、男性と女性の両方の声で叫んでいたのだ。

 

「そう言えばさっきのあの子、確かにちょくちょく男みたいな声を出していたわね。何だったのかしら?」

「……隠されていたような感じだったのでよくわかりませんでしたが、あの人の中には何か、二つの「気」があるように感じました」

「一人の中に、二つの「気」があったんですか?」

 

 明確に感じたわけではないが、気のせいとも切り捨てられないのが彼女の纏う特殊な「気」である。理由はわからないが、おそらくはそれが純粋な地球人である彼女があれほどの力を持っている秘密なのかもしれない。

 何にせよ、あのネオンという女性がイレギュラーな存在であることは間違いない。久方ぶりに地球に帰還した悟飯達からしてみてもそうだが、パラガス達にとってはもっとであろう。

 共闘することが出来れば良いのだが、その為にはまずは対話に当たり、こちらのことをわかってもらう必要がある。その点に関しては悟飯の方は前向きな気持ちだった。

 

「……サイヤ人に、奪われてしまった人か……」

 

 先ほどは有耶無耶になってしまったが、彼女とて地球の為に戦っているのならわかってくれる筈だ。

 パラガス達に敵対する者同士、そう遠くない日に再び会うことになるだろうと悟飯は予感していた。

 

 

 ――そしてその時は、早くも訪れた。

 

「……っ、悟飯さん、これは!?」

 

 大きな「気」が、不意に、一つ。

 ここからはやや離れた場所にて上昇している、爆発的なエネルギーを感じ取ったのである。

 その膨大な「気」の強さはあのクウラをも凌駕しており、超サイヤ人にも迫っている。

 

「物凄い「気」だ……でもこの感じは、ブロリーでもパラガスでもない」

 

 これほどの力の持ち主と言えば悟飯の中で真っ先に浮かぶのは仲間達を葬った超サイヤ人であるブロリーだが、彼の身震いするような邪悪な気配とは種類が違っていた。

 トランクスのような純粋な善の「気」ともまた違うが、これまで悟飯が戦ってきた悪人達のような極悪性も無い。

 何とも識別しにくい、不思議な気配と言うのが率直な感想だった。

 

「もしかして、これがあの人の「気」か……」

 

 ともすればこの「気」の持ち主として考えられるのは、話題の人物であるネオンその人だということだ。

 その「気」を感じた方向は先に彼女が飛び去っていった方向とも合致しており、疑いようはなかった。

 

「行くの?」

「はい。あの人がブロリーやパラガスの仲間と戦っているのかもしれませんし、もしそうだったら放っておけません。あいつらに、修行の成果を見せてやります」

 

 ブルマとの話を切り上げ、即刻席を立った悟飯がブルマの家の地下室であるこの場所から地上に出る為の階段を上りながら力強く言い返す。

 そんな彼の背中を追い掛けるように、トランクスが立ち上がって続いた。

 

「僕も行きます!」

「トランクス……わかった。だけど、敵いそうにない相手だったら下がるんだぞ? 君の修行はまだ完成していないんだ」

「わかってます! 足手纏いにはなりません!」

 

 まだ修行が完成しておらず、超サイヤ人にも目覚めていないトランクスでは危険な戦いになることは明白であろう。

 しかしそれを承知の上で「自分も力になりたい」と訴える弟子の目に、悟飯はどうしても冷たくなれなかった。

 今の少年トランクスの姿はまるで無謀にもフリーザに挑んでいた頃の自分とそっくりで、ことごとく在りし日の自分と重なるのである。

 

「ブルマさん、いいですか?」

「……その為に修行してきたんでしょう? だけど絶対に死なないでよ、二人とも」

「はい」

 

 人造人間19号と戦ってからまだそう時間は経っていないが、悟飯の体力はまだ十分に余裕がある。

 この場を飛び出して戦いに赴くことに、迷いは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 13号の拳が正面から繰り出されると、ネオンがバク転の要領で身を回転させ、後方に下がりながらそれを回避する。その先に回り込んでいた15号が巨体を捻りながら右足の蹴りを叩き込んでくると、ネオンは左腕でガードをしながらも強引に吹っ飛ばされていく。

 そしてその先に待ち構えていた14号が後頭部を目掛けて肘打ちを振り下ろしてくるが、一歩早く体勢を立て直したネオンが紙一重でかわしながら、カウンターの蹴りを浴びせて14号を吹っ飛ばした。

 しかし息つく隙も無く、今度は左右から13号と15号が挟み撃ちの形で襲い掛かり、ネオンは灰色のマントを翻しながら防戦を強いられる格好となった。

 

「三対一は、ちょっときついな……」

 

 せめて両腕があれば動きやすくもなるのだろうが、左腕と二本の足で四方からの攻撃を同時に捌くのは至難の業だ。力の差がそれほどないのなら、数の差はあちらにとっていかんともしがたいアドバンテージになる。

 気持ちの良いものとは言えない汗を額から流しながら、ネオンはこの劣勢に舌打ちしながらどうしたものかと思考を巡らせた。

 

「大の男が寄って集って襲い掛かって、恥ずかしいと思わないのかい?」

「生憎だが、俺達人造人間は目標を全力で叩き潰すようプログラムされているんでな。思い通りに戦えないのなら、右腕を失ったことを悔やむがいい」

「そうかい」

 

 隻腕の身で複数の敵を同時に相手取ることが如何に難しいことか、連携もさることながら一人一人の戦闘力も高い三人の人造人間を相手にしたことでネオンはよりそれを実感する。

 だがネオン自身の心は、失った右腕に対して苛立ったことは一度も無い。

 そもそも隻腕の身になったのは十年以上も前のことであり、今ではその生活も慣れたものだ。そして失った右腕以上のものをこの身に宿る「彼」が与えてくれたことが、ネオンには大きかった。

 

『集中しろ』

「りょーかい」

 

 三人の人造人間に距離を詰められたところで、ネオンが全身から気合い砲を発射し、彼らの身体を弾き飛ばす。

 直後に素早く振り上げた左手から三発の気弾を一発ずつ彼らに向かって連射するが、その攻撃はいずれも弾かれ或いは防がれ、ダメージには至らなかった。

 

「ブロリーよりはマシだけど、この三人厄介だ」

『なら、俺がやる』

「……いや、それはもうちょっと待ってくれ。今こっちに、あの子が来るから」

 

 再び高度を上げてこちらの身を取り囲もうとする三人の動きを警戒しながら、ネオンはその意識を後方へと向ける。

 その瞬間、彼女の目元を覆うバイザー型のスカウターは、大きな力を持つ二人の戦士の接近を捕捉していた。

 一つは戦闘力50万程度だが、もう一つは戦闘力計測不能と表示されている。

 ベビーが持つ純粋なツフル人の技術を使って作られたこのスカウターは、最大で100万までの戦闘力を計測することが出来、それ以上の戦闘力こそ計測することは出来ないが、従来のスカウターとは違ってオーバーヒートを起こして故障することもない。

 しかし戦闘力の計測は、ネオンにとってはおまけのような機能だ。人の気配を自力で読み取ることが出来ないネオンからしてみれば、戦士の位置情報を正確に把握することが出来る機能こそが重宝していた。

 

 そして程なくしてそんなネオンの元へ、山吹色の道着の青年が姿を現した。

 

「やあ、早かったね」

「……やっぱり、さっき感じた「気」は貴方でしたか」

「来てくれて良かったよ。孫悟飯だっけ、君?」

「はい……そうですけど」

 

 ネオンと同じぐらいの年齢に見える黒髪の青年は、孫悟飯――彼女が少し前に会って別れたばかりの混血のサイヤ人の姿だった。

 ネオンが人造人間達との開戦時だけ「気」を隠すマントを外したのは彼にこちらの様子を気づいてもらう為だったのだが、その目論見通り彼は戦いの場であるここへ来た。

 彼は一度だけネオンの方へ目を向けたが、彼女と相対する三人の戦士の姿を見て状況を察したように身構えると、ネオンの横に立って彼らと向かい合う。

 

「ネオンさん、そいつらは人造人間でしょう? 俺も手伝います」

「いいのかい? 私って見ての通り、さっきは君に殴り掛かった無礼者なんだけど」

「……憎まれる理由はわかりますよ。俺も、サイヤ人の血を引いていますし」

「……ブルマさんから聞いたか。別に私の方は、君には恨みも憎しみも感じちゃいないんだけどね」

 

 こちらの名前と素性をある程度知っているような口ぶりである悟飯に、それなら話は早いと説明の手間が省けたことを素直に受け入れながらネオンは納得する。

 カプセルコーポレーションの社長、ブルマとはこれまでの戦いの過程で一度だけ会って話をしたことがある。最初は東の都を破壊したサイヤ人ベジータの妻と知って良い気はしなかったが、話してみれば彼女が彼のような悪い人間ではないことがわかった。その会話の中で少しだけ自分の身の上を話した記憶がある、彼女とはそんな関係である。

 しかし自分がサイヤ人に全てを奪われた者だと知っている上で、こうして共闘を申し出てくれるとは……孫悟飯という青年は思った以上に情の深い人間なのかもしれないと、ネオンは思った。

 

『共闘する気か?』

「これなら三対二になるだろう? 彼を敵に回したら、四対一になっちゃうよ」

 

 元よりネオンにとっては一旦マントを外した時点で彼が駆けつけてくれることを期待していたのだが、こうも上手く行ってしまうと彼を都合よく利用しているようで罪悪感が沸いてくる。

 彼に対して少々気まずく感じているこちらの心情を悟らせないように視線を外すと、ネオンはふと「孫」という名前についてあることを思い出した。

 

「孫って苗字で思い出したんだけど、私の死んだお父さんは、孫悟空っていう武道家のファンだったらしい」

「えっ?」

「……まあ、そんなことはどうでもいいか。よろしくね、悟飯。それと、さっきはごめん」

 

 生前の父は天下一武道会をこよなく愛する武道家マニアであり、客として何度も会場を訪れた常連であった。

 そんな父から幼いネオンは、当時の大会に出場していた選手達の話をよく聞かせてもらったものだ。

 特に父は孫悟空という亀仙流の継承者が出場した第二十一回から第二十三回までの大会がお気に入りだったようで、「ピッコロ大魔王が怖くて第二十三回大会の決着をその目で見届けることが出来なかったのが、最大の心残りだ」と当時のことを悔しそうに語っていた彼の姿を思い出しながらネオンが苦笑する。

 その孫悟空の……おそらく息子であろう青年が自分の隣に立って戦おうとしている今の状況が、ネオンには可笑しく思えたのである。

 

『……サイヤ人の混血戦士か』

 

 尤も「彼」の方は、そんなネオンとはまた別の感慨を抱いていたようだが。

 

「ふふ、サイヤ人とツフル人の遺児が結託し、戦いを挑むか……宇宙最強の人造人間である俺達に!」

 

 この奇妙な光景を面白がるように人造人間13号が笑い、高らかに叫ぶ。

 ドクター・ゲロという稀代の天才科学者によって生み出された彼らは、自分達こそが宇宙最強であることを信じて疑わない自信を抱いているようであった。

 そんな彼らの姿に、苛立ったような声でベビーが呟く。

 

『ふん……最強の人造人間とは、この俺を差し置いてよくもほざく』

「……君は人間だよ、ベビー。あいつらとは違う」

 

 サイヤ人とツフル人、二つの種族が遺した希望が同じ目的で共通の敵と戦う。

 この場限りの共同戦線になる可能性は高いが、こんな状況が一時でも生まれることは死んでいったツフル人やサイヤ人達は誰一人として思わなかったことだろう。

 二人はそれぞれの身に宿す「気」を解放し、三人の人造人間に飛び掛かる。

 

 

 ――後に世界を希望の光で照らすことになる、戦士達の「絆」の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 







 ~かんたんな人物紹介その4~

【トランクス】

 ベジータの血を引く11歳の少年。悟飯に師事し、着実に実力をつけている卓越した才能の持ち主だが、まだ超サイヤ人に覚醒していない。今はその焦りによってさらに覚醒が遠のいているという悪循環に陥っている状態。

 私の前作ではラスボスでありヒロインみたいな扱いでしたが、本作の今章では幼年期悟飯的なポジションになるかと思います。
 しかしふと思ったのですが、創作に登場する若いキャラ同士の師弟関係って、なんか途中でどっちかが裏切って敵対するイメージが私の中にはあります(´・ω・`)㌤ベイダー


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