ドラゴンボールNEXUS 時空を越えた英雄   作:GT(EW版)

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めぐりあい地球

 

 

 

 それは、不思議な出会いだった。

 

 人里から離れた森の中に潜みながら、孫悟空との戦いで受けた傷を癒していたベビー。

 そんなベビーの居場所へ、一人の地球人の少女が現れたのである。

 

「きみ、まいごなの?」

 

 歳の頃は五歳か六歳と言ったところか、言葉の呂律も回っていない小さな幼子だ。

 肝が据わっているのか無知なだけなのか、少女は明らかに地球の者ではない姿をしているベビーを見ても臆することなく近寄り、好奇心を隠せない眼差しでまじまじと見つめてきた。

 そしてベビーが身体のあちこちを負傷していることに気付き、その表情を心配そうに歪めた。

 

「けがしてるの? いたそう……」

 

 馴れ馴れしく近寄ってきた少女のことを鬱陶しくと感じ適当に追い払おうとしたベビーであったが、孫悟空との戦いで受けたダメージが予想以上に重く、この時の彼にはそんなことに費やす労力さえ勿体無かった。

 

 故に、ベビーは少女に対して無視を決め込むことにした。

 

 今はただひたすらに身体を休めて、自己治癒力を高める。彼女の存在など始めから居ないように振舞うことで、彼女の馴れ馴れしさ、鬱陶しさを感じないようにしたのだ。

 初めて見る宇宙人に興味津々なのだろうが、幼子などこちらが何も反応しなければすぐに飽きてどこかへ消えるだろうと。そう考えていたベビーであったが、少女の追及は思いのほかしつこかった。

 

 ――執拗なほどまでに、少女はベビーの怪我を心配してきたのだ。

 

 やれ転んだの?だの、誰かと喧嘩したの?だの……そんな言葉を掛ければ何を思ったのか、ポケットから取り出した飴玉を渡してきたリ、許可も無く隣の地べたに座ると頼んでもいないのに一方的に自己紹介をしてきた。

 

「わたし、ネオンっていうの。ひがしのみやこからきたんだけどね……わたしも、まいごになっちゃったんだ」

 

 こんなところに一人で居るのは、親元からはぐれてしまったからなのだと言う。しかしそう言う割に彼女の表情に悲壮感は無く、図太いと見るべきか能天気と見るべきか……随分と楽観的な様子だった。

 

「えへへ、おそろいだね」

 

 一体何が楽しいのやら、少女――ネオンは尚も無反応なベビーに対して微笑みかける。

 すると彼女は強引に手渡した一粒の飴玉がまだベビーの手の中にあることに気付き、不思議そうに首を傾げながら訊ねた。

 

「あめちゃん、たべないの?」

 

 しかし不思議だと感じたのは、ベビーの方だった。

 

「……お前」

 

 あまりのしつこさに折れたとも言うべきか、逆に興味を持ったと言うべきか。

 溜め息をつくように小さな息を吐くと、ベビーは彼女に対して初めて口を開いた。

 

「お前は、この俺が怖くないのか?」

 

 はっきり言って、今目の前に居る幼子は愚かとしか言いようがない。

 先ほどは孫悟空に敗れたとは言え、ベビーという存在はドクター・ミューによってサイヤ人を殺す為に生み出された戦闘用のマシンミュータントである。事故により不完全な状態で目覚めてしまった身だが、そんなベビーでも彼女のような何の変哲もない地球人を殺すのはわけもない。

 

 ベビーにとって幼子の命を奪うことなど、満身創痍な今ですら赤子の手をひねるより簡単なのだ。

 

 彼を前にしてあまりにも無警戒、無防備な少女は、しかしその問いを受けても変わらない表情で答えた。

 

「ううん。だってきみ、わたしよりちいさいじゃん!」

 

 自分よりも小さいベビーのことなど、全く怖くないと。

 彼女がベビーを恐れないのは、あまりにも単純な理由だった。

 それは幼子の理屈故に単純で。

 単純故にスッと納得出来てしまう。

 ……こんな子供に真面目に訊ねた自分が馬鹿だったと呆れたように溜め息をつきながら、ベビーはそんな彼女に対して一言だけ言い返した。

 

「……お前よりは大きい」

「ええー!? わたしのほうがおおきいよ!」

 

 不完全な状態で目覚めた為に本来備わる筈だった思考回路が破損してしまっているとは言え、それでも自分はツフル王の遺伝子を持ったマシンミュータントだ。間違いなく、地球人の幼子などよりは遥かに成熟しているという自負が、この時のベビーにはあった。

 そんなベビーの言葉を受けても自分の方が少しだけ大きいと対抗心に燃える少女の声を無視しながら、ベビーはその手に握らされた飴玉を気まぐれに口の中へと投げ入れた。

 

 ベビーの中で未知の世界が広がったのは、その時だった。

 

「――っ」

 

 甘い、と――そんな、当たり前の味覚である。

 それは、感動するほど美味しかったわけではない。しかし何故だか、妙な感覚だった。

 

「……おい」

「なーに?」

 

 その時、ベビーは少女――ネオンと初めて目を合わせ、思わず問い質した。

 

「これは……飴玉か?」

「? きみ、あめちゃんしらないの?」

 

 飴玉――デンプンを糖化して作った甘い菓子。砂糖等の糖類を加熱して熔融した後、冷却して固形状にしたキャンディなどを指す菓子だ。

 惑星プラントにも、同じような菓子はあったという記録がある。それは取るに足らない知識であったが、ツフル王の遺伝子に刻まれた記憶を「ある程度」受け継いで生まれたベビーには、この菓子に対する「データ」も一応は備わっていたのだ。

 

 ……だが、それはあくまでもデータに過ぎず。

 

 今ここで飴玉を食べたという「経験」は、生まれたばかりのベビーにとって初めてのことだった。

 

 

 ――ベビーはこの時、初めて戦いや復讐心以外のことを知ったのである。

 

 

「西だ」

「?」

 

 飴玉を一つ舐めただけで自らの心に全く理解できない感情を抱いたベビーは、少女から顔を背けるなり呟くように言う。

 

「東の都だかなんだか知らないが、ここから西に行けば人が居るところに出れる……わかったら、さっさと消えろ。目障りだ」

 

 自身に内蔵されたパワーレーダーの反応を探りながらそう言った意図は、彼女を追い払う情報として都合が良かったからか……それとも、この森で迷子になったという彼女を助けたくなったからか。

 その時の心境はベビー自身にもわからなかったが、気づけば彼女を助けるようなことを口にしていたのは確かだった。

 そんなベビーの言葉に彼女は首を傾げた後、向日葵のような笑みを浮かべて言った。

 

「にしって、どっち?」

「……あっちだ」

「ありがと!」

 

 ベビーが嘘を吐いているという可能性を欠片も疑わず、迷いの森から抜け出すことが出来ることを信じきった表情で、少女――ネオンが笑う。

 そんな彼女はベビーに手を振りながら、トテトテと駆け足でこの場を去っていった。

 

「またねー!」

 

 まるでいずれ再会することを望んでいるような、別れの言葉を述べながら。

 

 

 

「ガキが……」

 

 こんな辺境の星に住む異星人の子供の考えることなど、ベビーには全く理解できない。

 彼女がようやく立ち去ったことで、ベビーはその身に不必要な疲労が押し寄せてきたように感じた。

 

 それからこの森の中でじっと傷を癒していたベビーであったが、そんな時間の中で彼は再び妙な感覚を覚えた。

 

 一人で居ることの静寂――それが何故か、その心に「寂しい」と感じたのだ。

 

 しかしそんな自身の感情を理解するには、この時のベビーはあまりに幼かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球――北の銀河で最も環境の整った、美しい青の星。

 修行の旅で数々の星を巡って来た悟飯とトランクスは、改めて自分達の母星の美しさを思い知ったものである。

 

 住民達から温かく見送られながら飛び立った惑星シャモから数日の渡航を経て、二人を乗せた宇宙船はこの星へと戻って来た。

 モニター越しに見た限りでは、地球の姿は昔のまま変わってはいない。

 最悪の場合は青の星が赤茶けた渇いた星に変わり果てている可能性も頭にはあったが、この星を支配しているパラガス達にもまた、美しい地球を無傷で手に入れたいと言う拘りがあったのであろう。少なくとも外側だけは(・・・・・)、平和だった頃と比べても然程変わりはなかった。

 

 しかし、中に入ればすぐにその美しさが仮初に過ぎないことがわかってしまう。

 

 悟飯が宇宙船をゆっくりと降下させていくと、大気圏を越えた地球の内側では凄惨な光景が広がっているのが見えた。

 人が住んでいた町々はそのほとんどが廃墟と化しており、地上から感じる人々の気も大きく減っている。

 パラガス達は地球と言う星の美しい環境そのものへは配慮していたものの、そこに住んでいた人々に対しては何の慈悲も無かったのだ。

 まさに宇宙の悪魔だと……彼らの行いに対して、悟飯は改めて怒りを抱いた。

 

「これが……今の西の都……」

 

 地球の中でも有数の都会であった筈の西の都もまた、今や荒れ果てた廃墟の一部と化しており、思わず目を背けたくなる惨状を見下ろしながら、悟飯達を乗せた宇宙船は地球の地に降り立った。

 

「トランクス……地球に帰ったのは正解だったよ」

「……僕もそう思います」

 

 トランクスの思いを受けて急遽地球への帰還を決めた悟飯だが、この状況を見ればその判断は正しかったように思える。

 トランクスと共に宇宙船から出た悟飯はしばらくぶりに味わう母星の空気を吸い込みながら、修行の為とは言えこれまでこの星から離れていた責任を胸に感じていた。

 仮にあのまま地球に残っていたとしても、むざむざブロリーに殺されるだけだったのは明白であろう。

 ……しかしそれでも、今こうして壊された町の景色を見ている悟飯には、そんな自分にも守れたものがあったのではないかと感じてしまう。

 何が正しいのかはわからない。せめてここで失われた命に黙祷を捧げながら、彼らが天国で幸せになれるようにと悟飯は祈った。

 

 彼らの耳に彼らの名前を呼ぶ女性の声が響いたのは、その時だった。

 

「トランクス! 悟飯君!」

「っ! 母さん!」

「二人とも、戻ってきたのね!」

 

 研究者の白衣を纏った青髪の女性はトランクスの母であり、悟飯の恩人であるブルマである。

 気苦労からかやや老け込み始めてはいるものの、心配していた彼女の姿は五体満足でこの町にあった。

 彼女の無事を確認したことで悟飯は安堵の息を突き、トランクスが喜びの表情を浮かべた。

 

「流石、ブルマさん……ご無事で何よりです」

「死んでると思った? あいにく私もチチさんも、そんなにヤワじゃないわよ」

「母さんも無事でしたか……良かった」

 

 この町の惨状を見れば最悪の可能性も頭には過っていたが、かつてナメック星戦線をも生き延びた彼女のタフさは今も尚健在なようだ。

 話を聞くには悟飯の母チチや祖父牛魔王達も無事生き残っているようであり、後で顔を見せるようにブルマから言われた。もちろん悟飯としても、始めからそのつもりである。

 しかしその前に、宇宙での暮らしが長く続いた悟飯達には現在の情報が圧倒的に不足している為、彼女から聞いておきたい話が山ほどあった。

 

「よろしければ、教えていただけませんか? 僕達が旅立ってから、その……地球で起こったことを」

「……ええ、あれから、色々なことがあったわ。とりあえず、うちに入りましょう」

 

 今この地球を取り巻いている状況には悟飯達の知らないこともあり、もちろんブロリーやパラガスの動きも気掛かりである。

 質疑応答を承知したブルマが彼らを今彼女が暮らしていると言う場所へ招こうとするが……ふとその瞬間、彼らの後方から砂利を踏み締める足音が聴こえた。

 

「――っ!」

 

 今こちらに対して何の気配も(・・・・・)感じさせずに、一人の人間が悟飯達の背後に降り立ったのである。

 その足音に気付いた悟飯が慌てて振り返り、その人物の方へ警戒の目を向ける。

 

「悟飯さん、何か……?」

「トランクス、ブルマさんを頼む」

「! はい……!」

 

 同じく気配を感じなかった為にその人物の接近に気づけなかったトランクスもまた、悟飯の目線を見た途端に母親を庇うように前へ出る。

 そんな彼らのやりとりを前に無関心な様子で、その人物は平坦な声で呟いた。

 

「データによると、98%の確率で孫悟飯だな」

「……なんだ、お前は?」

 

 訊ねた――と言うよりは、確認したという表現の方が正しいかもしれない。

 小太りの男性のような姿をしたその人物は、頭に「RR」と書かれた小さな三角帽子を被っており、肌は厚化粧のように真っ白である。

 間違いなく人間の姿をしている……しかし不気味なのは、彼がその身体に僅かな「気」すら宿していないことだ。

 人間ならば大なり小なり必ずある筈の「気」が、彼の身体からは一切感じないのである。

 まるで存在そのものが人間ではなく、生き物ですらない無機物であるかのように。

 

「気をつけて悟飯君! そいつはパラガスの部下……人造人間よ!」

「人造人間?」

 

 彼のことを知っているのだろうか、ブルマがトランクスと共に後退しながら悟飯にそう忠告する。

 人造人間という聞き慣れぬ言葉に怪訝な表情を浮かべる悟飯だが、彼女の言葉を肯定するように男が言った。

 

「私は人造人間19号……お前達を殺す為に作られた」

 

 そしてその男――人造人間が予備動作もなく地を飛び出し、悟飯に向かって拳を叩き込んできた。

 彼の身には「気」が無くとも力は強く、彼の拳は防御に構えた悟飯の右腕を重く痺れさせた。

 

「……ッ、なるほど……道理で「気」を感じないわけだ。人造人間……ロボットだから、「気」なんて無いのか!」

 

 人造人間という名前が示すのは、彼が人によって作られた機械人形だということだ。

 機械であればその表情が無機的であるのも、人が持つ「気」を感じないのも当然である。

 納得する悟飯に向かって、無表情で拳を連打しながら人造人間19号が言った。

 

「私のデータは完全。お前は私を倒せない」

 

 彼を作ったのはパラガスか、パラガスの仲間の誰かか。いずれにせよ敵であることには間違いない。

 人工物とは思えない凄まじい力を発揮する19号に対して、悟飯は宇宙での修行で身に着けた「力」を解放した。

 

「そいつは……どうかなぁっ!」

 

 咆哮を上げた瞬間、悟飯の黒髪が逆立ち、瞬く間に光の色へと染まっていく。

 瞬間、黄金色のオーラに覆われた悟飯の右足が19号の大柄な腹部に突き刺さり、目にも留まらぬ速さで彼の身体が吹っ飛んでいった。

 

「だりゃああっ!!」

「!?」

 

 その19号が空中で体勢を立て直すよりも速いスピードで回り込んだ悟飯が、裏拳、正拳と次々に追撃の連打を浴びせていく。

 応戦する19号も懸命に攻撃を繰り出してくるが、その全てを悟飯がいなし、返す拳で叩きのめていった。

 スピードも、パワーも、クウラの時と同じく、超サイヤ人になった悟飯が全てにおいて19号を上回っていたのだ。いや、戦闘力差で言えば彼らの間にはクウラ以上に大きな開きがあった。

 

 繰り広げる空中戦は終始悟飯が19号を圧倒していき、炸裂したハンマーパンチが19号の身体を地面へと叩き落としていった。

 しかし土煙の中から立ち上がる19号の表情は、まるでダメージなど無いかのように涼しく無表情だった。

 

「アイツは、痛みを感じないのか……攻撃が効いているのかわからないな……」

 

 人造人間だから痛覚も無いのだろう。彼との戦いにまるで人の姿をしている精巧なサンドバッグを延々と殴り続けているような気味の悪い感覚を覚えた悟飯は、次の一撃でこの戦いを終わらせるべく構えを取る。

 

「魔閃光!」

 

 両手から放つ、今は亡き師匠ピッコロから授かった魔族の技。

 暴力的な威力の篭った黄金色の気攻波が悟飯の両手から解放されると、19号の身体を覆い尽くそうと突き進んでいく。

 しかしその瞬間、これまで無表情を貫いていた19号が満面の笑みを浮かべて両手を突き出してきた。

 

「ハアッ!」

「なに!?」

 

 悟飯の放った魔閃光は、彼の身にとどめを刺すことはなく。

 彼の突きだした両手に、吸い込まれるように消滅していった。

 

「今のは……!」

 

 予想外な現象に、悟飯が驚きに目を見開く。

 そして次の瞬間、以前よりも大きくスピードを増した19号の頭突きが、悟飯の胸に突き刺さった。

 

「ッ!」

「ホホホホ! エネルギーはいただくぞ!」

 

 体勢を崩した隙を突き、19号が悟飯の両腕を掴み、喜色に笑んだ顔で叫ぶ。

 エネルギーをいただくというその言葉と、彼に捕まった途端に体内から一気に力が消えていくような虚脱感を受けたことから、悟飯は彼の持つ特殊な能力を理解した。

 

「コイツは……手から「気」を吸い取るのか……!」

 

 両手のひらから相手の「気」を吸い取り、自らの力として吸収する能力である。

 それは悟飯のような戦士にとって、実に厄介な能力である。彼に両腕がある限り、気攻波の類は通用せず、こうして直に掴まれて「気」を吸い取られてしまえば、当初開いていた戦闘力差さえもひっくり返されてしまう。

 

 人造人間――恐るべき存在である。

 

 しかし、その程度(・・・・)のことで形勢は何も変わらなかった。

 

「……で? それだけか!」

 

 彼が持っているこちらの「気」を吸収する能力は確かに厄介だ。

 だがそれは、彼に両腕があれば(・・・・・・)の話である。

 

「っ!?」

 

 人造人間19の表情に、初めて動揺が浮かぶ。

 吸収が間に合わないほどの膨大な「気」を解放した悟飯が、その力を使って強引に拘束を振りほどき、19号の両腕を引きちぎったのである。

 

「悪いな……俺は、お前なんかに手こずってられないんだ」

 

 両腕が破壊され、機械仕掛けの内部構造が剥き出しになった19号の姿を青い瞳で見下ろしながら、悟飯が冷酷に言い放つ。

 今の悟飯には、パラガスの手下を相手に掛ける慈悲は無かった。

 

「……ひ……」

 

 超サイヤ人になり性格までも凶暴化した悟飯を前に、19号の表情が恐怖に震える。

 人造人間に痛覚は無く、痛みは感じない。

 しかし恐怖を感じないかと言えば、それは別の話のようだ。

 

「ヒイィィィィ!」

「む……?」

 

 19号は堪らず背を向けると、悲鳴を上げながら飛び去ろうとする。

 人造人間もまた、人と同じように恐怖を感じるのだ。それを目にした悟飯の瞳は、一転して無慈悲から慈悲へと変わった。

 

 恐怖を感じると言うことは、彼にもまた人と同じ「心」があるという証拠だ。

 

 それを理解した瞬間、悟飯は彼にとどめを刺そうと振り上げた右腕を――下ろしてしまった。

 勝負はもうついた。すっかり戦意を失った19号を見て、悟飯はわざわざとどめを刺す気になれなかったのである。

 

 ――しかし逃走しようとした19号の身体は、横合いから飛来して来た一条の光によって貫かれ、大きな爆発と共に粉々に砕け散っていった。

 

「なっ……!?」

 

 轟音を上げたそれはあまりにも一瞬の出来事であり、超サイヤ人になった悟飯ですら反応出来ないほどであった。

 

 爆散していった19号の身体は、首だけが残って地面へと転がり落ち、風に煽られた後に静止したところで何者かの足にグシャッと踏み潰された。

 

「なんだ……お前は……?」

 

 悟飯の元から逃げようとした19号を、横合いから現れて破壊した存在――それは、この場に居合わせたもう一人の戦士であるトランクスではない。

 

 悟飯の記憶にない人物が、突如としてその場に降り立ったのである。

 

 腰まで届く長さの黒髪に、襟元から右腕部分を覆い隠すように下ろされた灰色のマント。

 意外にも華奢な姿をしたその人物はサンバイザーのような装飾で目元を隠しながら、悟飯の姿を見据えて言い放った。

 

 

「サイヤ人は……俺が殺す」

 

 

 ――それは、遠い銀河からやってきた一人の赤子と、何の変哲もない地球人の融合体。

 

 サイヤ人という悪しき存在によって大切なものを奪われ、その心を怨念に囚われた復讐鬼の姿だった。

 





 ~かんたんな人物紹介その1~

【孫悟飯】

 現在19歳で、そろそろ20歳。
 正史寄りの少年期を過ごした為か、性格はやや原作で言うところの未来悟飯寄り。
 まだ左目に傷は負っておらず、まだ左腕は失っていない。
 しばらくの期間、宇宙で修行に専念していた為、現時点でも原作未来悟飯に近い戦闘力を持っている。しかし元来の性格からか、戦士として今一つ非情になりきれないところがある。
 ハチャメチャと死亡フラグが押し寄せてくる。泣いてる場合じゃない。

 

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