ドラゴンボールNEXUS 時空を越えた英雄   作:GT(EW版)

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時空を越えた英雄編
平和な世界へ


 

 

 ――咆哮が響く。

 

 

 地獄全体が怯えるように激震していた。

 青年の咆哮に呼応していくように黄金色の光が爆発すると、吹き荒れる真の力が一気に解放されていく。

 拡散していく光がやがて直視できるほど落ち着いたその時――そこに立っていたのは腰まで伸び上がった金色の髪を靡かせた、最強戦士の姿だった。

 

「オラをここまでさせたのは、あの世でもおめえが初めてだ」

 

 鋭利に尖った青い瞳を向けながら、青白い稲妻を纏った青年が巨大な敵の姿を睨む。

 敵はそんな彼が披露した最強の変身を煽りたてるように、幼児のように手拍子を挟みながら無邪気な声を上げた。

 

「ジャネンバジャネンバ!」

「……勝負はここからだ」

 

 それは、この世ではない死後の世界――あの世の地獄での出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドラゴンボール――それは、七つ集めることでどんな願い事でも叶えてくれる奇跡の球だ。

 今この時、世界中に散らばっているそのドラゴンボールを二人で集めている無垢な少年達がいた。

 

 一人はトランクス。

 そしてもう一人は、孫悟天であった。

 

 俺達でドラゴンボールを集めようぜと、最初に提案した言い出しっぺはトランクスである。

 若干八歳のやんちゃ坊主である彼は母親のブルマからドラゴンレーダーを借り受けると、親友の悟天と共にドラゴンボール探しの冒険を行っていた。

 

 幼くとも凄まじい戦闘力を持っている二人にとって、世界中を飛び回ってボールを集めるのは大した苦でもない。寧ろ平和な日常におけるちょっとした良い刺激になっていた。

 ボールを探していく中で些細な事件に巻き込まれることもあったが、二人はそれらを楽しむほどの余裕を持っていた。

 

「あったよトランクス君! ほら、四星球(スーシンチュウ)~!」

「おー、恐竜が飲み込んでたのかー!」

 

 大型の肉食恐竜の顎をガバッと開きながら、口の中から満面の笑顔で出てきたのはヘアースタイルが特徴的な少年孫悟天である。

 悟天は恐竜が飲み込んでしまったドラゴンボールを回収する為、わざと自分が食べられることで彼の胃袋の中に入り、自力で脱出してみせたのである。

 

「何でもかんでも飲み込んじゃ駄目だよ?」

「ぐるる……」

 

 口の中からよいしょと飛び降りた悟天を前に、恐竜が目を点にする。

 恐竜からしてみれば、とんだ獲物がいたものである。彼が自分の餌にならないことを理解すると、大型肉食恐竜は興が削がれたのかしょんぼりとした顔をしながらその場から立ち去っていった。

 そんな恐竜を「またねー!」と見送った後、悟天はよだれのついた四星球を普段着使いしている山吹色の道着で拭き取り、それをトランクスに預けた手提げ袋の中へと詰め込んでいく。

 

 袋の中には今しがた回収を終えた四星球を含め、全部で六つのドラゴンボールが鈍く光り輝いていた。

 

「これで六つ目だな!」

「あと一つで神龍に会えるねー!」

「ああ! 俺達で願い事を叶えちゃおうぜ」

 

 ドラゴンボールを七つ揃えた暁に二人が叶えたい願い事とは、たくさんのお菓子やおもちゃが欲しいと言った何とも子供らしい願いである。

 しかしそれは二人にとってどうしても叶えたい願いというほどでもなく、ドラゴンボールを揃えた時に現れる龍の神様、神龍(シェンロン)の姿を見てみたいというのが本当の目的だった。

 ドラゴンボールを集めるという冒険自体に楽しみを感じていたのもある。

 

「でも、なーんか思ってたより手応えなかったなぁ。ママからは、色んな危ない奴に会って大変だったって聞いたのになぁ」

「そんなに強い人、兄ちゃん達の他にいるのかなぁ?」

「さあ? 俺は会ったことないけどなー」

 

 ドラゴンボールを探し始めて、僅か数日だ。このちびっ子達二人は、それだけの期間のうちにあっさりと六つのドラゴンボールを回収してみせたのである。

 最後のドラゴンボールを探すべくトランクスが舞空術を使い、悟天は呼び出した「筋斗雲」に乗って空を飛び回る。

 

「お前もそろそろ空の飛び方覚えた方がいいんじゃないか? いつも筋斗雲使うんじゃ不便だろ」

「そうかな? そんなことはないよね、筋斗雲! でも今度兄ちゃんに教えてもらおっかなぁ」

「そうそう、そうしろよ」

 

 まだ自力で空を飛べない悟天を見て、既に自由自在なほど舞空術を使いこなしているトランクスが得意げに笑う。親友であり弟分でもある悟天の羨まし気な視線が、彼には嬉しかった。

 そんな少年トランクスが持つドラゴンレーダーの示す反応は、予想よりも近くのポイントを示していた。

 

「あっ、七つ目は近いぜ! この辺りだ」

「初めて見る島だね!」

「本当だ……こんなところに島なんてあったっけ? まあいっか」

 

 レーダーの反応があった場所で移動を止めると、快晴の青空を飛行する二人のちびっ子達が真下に向かって降下していく。

 そこにあったのは緑の自然と珊瑚礁の海に覆われている、見覚えのない小さな孤島だった。

 トランクスの住む西の都からは大きく離れた場所であり、この位置からでは悟天の家があるパオズ山の方が幾らか近いだろう。

 そんな秘境にある小さな孤島はやはり無人島だったらしく、島の地に降り立った二人を野生動物や昆虫達のさえずりが出迎えた。

 

「えっと……ボールボール」

 

 木々に覆われたジャングル地帯の中で、トランクスはレーダーを拡大しながら捜索に歩き回る。

 母が作ったレーダーは一片の狂いのない精密な精度を誇るが、そこら中に生い茂っている植物に視界が塞がれている今、最後に頼りにするのは自分自身の目だ。こういう時ほど背の高い大人がトランクスには羨ましかった。

 

 そうして生い茂る草の根を掻き分けながら、トランクスと悟天は二手に分かれて捜索を開始した。

 

 嬉々とした悟天の声が響いたのは、それから十分後のことだった。

 

「あっ、トランクスくーん! あったよー!」

「本当か? お前探すの上手いなぁ」

「えへへ」

 

 都会生まれの都会育ちである自分よりも、自然の多い場所に住んでいる悟天の方が嗅覚が優れているのだろうか。そんなことを考えながら、トランクスは自分よりもボールを見つけた数が多い年下の少年の捜索能力を素直に賞賛した。

 

 そんな悟天の方へ向かうと、確かにそこにはドラゴンボールと思わしき橙色のボールが転がっていた。

 でかした! 悟天に向かって笑顔で親指を突き立てながら、二人でその場へ駆け出していくと――彼らはボールの傍らに倒れ伏している人影の姿を見つけた。

 

「わわっ!?」

「な、なんだぁ!? 人が倒れてるぞ!?」

 

 それは、遺体と見間違うほど無惨な姿だった。

 上着が破け剥き出しになっている上半身の素肌にはおびただしい傷が刻まれており、身体のあちこちに血が滲んでおり、骨が浮き出ている。

 特に左目の損傷が酷く、顔を見た瞬間トランクスは思わず真っ青になって悲鳴を上げてしまったものだ。

 

 しかしその顔をもう一度見つめ直した時、彼は倒れている人物の身元を特定した。

 

「え……この人……!」

 

 それは、一人っ子のトランクスにとっては兄貴分である男の姿だった。

 

「兄ちゃん?」

 

 息を呑んで発した悟天の言葉に、トランクスの顔から血の気が引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 孫悟空という大きな犠牲の下、地球が救われた「セルゲーム」から七年の時が過ぎた。

 地球は平和を取り戻し、一人目の息子である悟飯もすくすくと成長し、より一層父親に似てきたものだ。

 悟空の死は妻であるチチに大きな絶望を与えた出来事だったが、それでも息子達の幸せの為にはいつまでも悲しんでいられないと、チチは強かに前へと進み続けている。

 そんな彼女はこの日も二人の息子の為に存分に手料理を振る舞うべく、夕食の準備に取り掛かっていた。

 

 ――家の外からやんちゃな次男坊の声が聴こえてきたのは、その時だった。

 

「お母さーん! 大変! 大変だよ!」

 

 ただならぬ様子で放たれた、呼びかけの言葉だった。

 今日は朝からブルマのところのトランクスと遊びに行っていた悟天が、突然家に帰ってそう叫んだのだ。

 何かあったのだろうかと一旦作業の手を止めると、チチはドアを開け、事情を聞く為に屋外に繰り出した。

 

「そんなに慌ててどうしただ悟天?」

「兄ちゃんが! 兄ちゃんが傷だらけで倒れてたんだー!」

 

 えっ、と悟天から飛び出した思わぬ発言に目を丸くする。

 だが、すぐに冷静になってチチは「何を言ってるだ」と不思議な顔を浮かべた。

 悟飯が傷だらけで倒れていたという悟天の言葉が本当ならば、確かにチチも冷静ではいられなかっただろう。

 しかし、そんなことはありえない。ありえないと否定できる材料が、チチにはあったのだ。

 

 ――渦中の悟飯はこの日、ハイスクールの編入試験の為に朝からずっと家の中で勉強していたのだから。

 

 

「えっ、僕がどうしたって?」

 

 その事実を見せつけるように、チチの後ろから黒髪の青年が姿を現す。弟の様子が気になったのであろう、勉強の手を止めて外に出てきたのである。

 

 孫悟飯。十六歳に成長した孫家の長男だった。

 

「……あれ?」

 

 普段と至って変わらない兄の無傷の姿を見て、悟天がキョトンとした顔を浮かべる。

 そんな彼の後ろでは、一人の男を小さな身体に背負いながら地上に降りてくる少年トランクスの姿があった。

 そしてそのトランクスもまた、悟飯の姿を見るなりお化けを見るような目で驚いていた。

 

「悟飯さん? あ、あれ? なんで悟飯さんが二人いるの?」

「トランクス君まで何言って……待って! その人……!?」

 

 彼の背負っている人物の顔を覗き込むと、悟飯とチチは思わず驚きに目を見開く。

 

「その顔……」

「悟飯そっくりだべ……」

 

 身体中に酷い傷を負っている青年の姿は、悟飯とあまりにも酷似していた。

 悟天が間違えるのも無理が無いと思えるほどに、二人は同じ顔をしていたのである。

 しかし、意識も無くぐったりとしている青年の姿はこと切れた遺体のように見え、悟飯が慌てて脈を測ると辛うじて息があることがわかった。

 

「トランクス君、悪いけどその人を家まで運んで! 僕はカリン様のところに行って、仙豆持ってくる!」

 

 数々の死闘を乗り越えてきた過去のある悟飯だが、そんな彼から見ても青年の有様は酷いものだった。

 いつこのまま息を引き取ってもわからない状態の青年を悟天達に託すと、悟飯は大急ぎで飛び上がり、超サイヤ人に変身した全速力の舞空術でカリン塔へと向かっていく。

 現代医療ではおそらく間に合わない。ならばカリン塔にある仙豆を使うか、無ければ神殿にいるデンデを連れて傷を癒してあげようと考えたのだ。

 青年の容姿が自分そっくりだったことも気にはなるが、悟飯は元来困った人を放っておけない性分だった。

 そこに死にかけている人がいるのならば、見捨てることはできない。その一心である。

 

 そんな彼を見送った後、青年を介抱すべくチチは一同を家の中に迎え入れる。

 赤の他人ではあるが息子とそっくりな青年の姿には、チチとしても思うことがあった。

 

「その人、生きてるだか……? 酷い怪我だべ……悟飯が帰ってくるまで手当てしねぇとな」

「僕、兄ちゃんが倒れてるのかと思ったよ……」

「俺も。でも、考えてみたら悟飯さんずっと勉強しているんだったな」

「うん……そうだね」

 

 悟天が医者ではなくこの家に彼を連れてきたのは、倒れていた彼を兄悟飯だと誤認したからに他ならない。

 しかし彼の姿が仮にどうであろうと、死にかけている人間を見つけた以上、二人の少年はその場に捨て置くようなことはしなかっただろう。

 そう言った意味では二人とも真っ直ぐな心を持ついい子達であり、お人好しの善人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――それは、殺戮の光景だった。

 

 暗闇に覆われた陰鬱とした世界――その場所は、どこかの宮殿のように見える。

 そこでは見るもおぞましい闇色のオーラを纏う一人の剣士が、宮殿内の者達を手当たり次第追い掛けては斬り裂いていく光景が広がっていた。

 

 青年の行いには、思わず悟飯の身が震えるほどの激しい憎悪が込められていた。

 

 世界の全てを破壊し尽くしても、なお有り余るほどの憎しみ。

 剣士が浮かべる虚無的な佇まいの中に、悟飯は彼の感情を感じていた。

 なんて悲しい……なんて深い絶望なのだと。神官のような装いの人々を眉一つ動かさず殺戮していく剣士の姿に、悟飯は何故か胸が苦しくなっている自分がいた。

 

『これは、とある次元で観測された一つの可能性だ』

 

 その光景を茫然と眺めている悟飯の横から、懐かしい声が聴こえてきた。

 振り向くと、そこにはいた。

 黒い道着を纏った、黒髪の青年が。

 その青年の姿は、死んだ筈の悟飯の父――孫悟空だった。

 

『一人の哀れな人間が絶望の果てに邪神と契約し、ある目的の為に全ての神を滅ぼした。全王さえも滅ぼし、この世界は十二の宇宙から界王神も破壊神も存在しない唯一の次元となった……』

 

 宮殿をコツコツと歩き回る剣士は情け容赦なく、逃げ惑う者達の命を次々と奪っていく。

 老人であろうと、女性であろうと関係ない。淡々とその剣で首を掻き切っていく行いはまるでブロリーのような一方的な虐殺であり、悟飯は眉を顰めた。

 しかし剣士が殺している者達は、いずれも「人間」ではなかった。

 あれらは全員この宇宙に存在する――存在してい()神なのだと、黒い道着の孫悟空が説明する。

 

『奴の行いは宇宙の摂理を乱し、ゼロの次元に創造の種をばら撒いた……それは新世界の種。種は成長し、やがてはいずれの時空にも該当しない、全く新しい世界へと花開いた……それがお前達の生まれた「神無き世界」の正体だ』

 

 神妙な顔で語る悟空の言葉を、悟飯は虚ろな意識の中で聞いていた。

 自分が何故こんな場所にいるのか、何故亡き父がここにいるのか……それはわからないが、不思議なことに悟飯は現在自分が置かれている状況に対して疑問を感じることはなかった。

 そういうものなのだと、夢心地に理解していたのだ。

 まさにそう、悟飯はこの時夢を見ていた。

 

『孫悟飯……俺はお前に期待している。いつかお前が俺達と同じ次元に至ることを……あの宇宙で生まれる最初の神が、お前になることを期待しているのだ』

 

 孫悟空の語る言葉を耳にしながら、悟飯は記憶に刻みつけるように目の前の光景を見つめる。

 場所はどこかの宮殿ではなくなり、赤茶けた星の中で一人の剣士が二人の戦士と死闘を繰り広げている光景へと切り替わっていた。

 

 神々しい光を放つ青髪の戦士達を前に、一人の剣士は禍々しい闇色のオーラを迸らせながら戦っている。

 剣士の顔も、剣士に挑んでいく二人の戦士の顔も、今の悟飯には何故か靄が掛かっているように認識することができなかった。

 しかし不思議なことに、悟飯には三人とも自分が知っている人物のように感じられた。

 

『だから……せいぜい、つまらんところで野垂れ死んでくれるな』

 

 黒い道着を纏った孫悟空が、忠告するように悟飯に語り掛ける。

 

 その時だった。

 目の前に広がっていた終末的な光景が白い光に包まれ――やがて、悟飯は眠りから覚めた(・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、ここは……」

 

 薄っすらと、悟飯は目を開く。

 朧げな意識の中、最初に感じたのは背中に感じる芝生の感触だった。

 そして開けた視界の中に最初に飛び込んできたのは、特徴的な髪型をしたあどけない少年の顔である。

 

「あっ、起きた! 兄ちゃん、起きたよー!」

「っ!」

 

 その顔を見て、悟飯は言葉を失う。

 愛弟子であるトランクスよりも幼く見える姿だが、彼の顔は間違いない。

 悟飯が憧れてやまなかった父親……孫悟空の姿をしていたのだ。

 

 意識を覚醒させた瞬間、悟飯は彼の姿を見て今の自分が置かれた状況をはっきりと理解した。

 

「……そうか、俺は死んだのか……あの世だと、子供の姿になるんですね、お父さん……」

「え?」

 

 ここは死後の世界なのだと。

 だからあれだけ無茶をしたのに身体は軽いし、ブロリーに潰された左目もこうして治っている。

 死後の世界だというのに空気は地球と変わらないんだなと思いながら、まるでパオズ山のように澄んだ空気に悟飯は苦笑する。思わず二度寝してしまいそうになるほど居心地が良く、もしかしたら自分は地獄ではなく天国に行けたのかなと推測した。

 

 しかし、その認識は大きな間違いだった。

 

「願いは叶えてやった。では、さらばだ」

「ありがとう、神龍!」

「またねー!」

 

 孫悟空と同じ顔をした幼い少年の後ろには、天を覆い尽くすような大きさの迫力ある龍の姿があった。

 それは、どんな願いでも叶えてくれる神様の姿であり――ピッコロが死んだ今の地球にはありえない存在だった。

 

「……シェ……シェンロン……なんで……?」

 

 龍が眩い光に包まれて消え去ると、七つの球が空へと舞い上がり、物凄い速さで四方へと散らばっていく。

 それは紛れもなく、ドラゴンボールで願い事を叶えた直後の光景だった。

 

 その一部始終を見届けた後、興奮した様子で一人の少年が駆け寄って来た。

 

「すごかったなぁ悟天! あれが神龍かー!」

「カッコ良かったねー!」

 

 幼い姿をした孫悟空と親し気に会話を行う彼の姿は、生前の悟飯が誰よりも守りたかった存在だった。

 

「っ!?」

 

 青みがかった灰色の髪、父親譲りの鋭い眼光。

 顔つきは随分無邪気そうに見えたが、その姿は紛れもなく悟飯の弟子である――トランクスだったのだ。

 

「トランクス! なんてことだ……君も、ブロリーに殺されてしまったのか……!」

「えっ、え……?」

 

 血相を変えて飛び起きた悟飯が、飛び掛かるような激しい剣幕で少年の肩を掴む。

 どうやら、恐れていた最悪の事態が起こってしまったようだ。

 ここは死後の世界で、そこに彼がいるということは……彼もまた命を落としてしまったという事実に他ならない。

 自分が死ぬことは最後に超越形態になった時点でわかっていたが、彼だけは何としてでも守りたかったと言うのに。

 そんな彼まで死なせてしまったことが、悟飯にはどうしようもなく悔しく悲しかった。

 

「ああ、お前までちょっと小さくなって……! あの世に来ると子供の姿になるんだな……いや、でもそれならなんで俺は変わってないんだ?」

「……あんたなに言ってるの?」

 

 八歳ぐらいの頃の身長になっている小さなトランクスの肩を揺すりながら、動転した心で悟飯が呟く。そんな彼を見て、当の少年トランクスが要領を得ない顔で訝しむ。

 そんな悟飯の元に、後ろから父に似た声が聴こえてきた。

 

「すっかり元気になりましたね。流石神龍」

「あっ……」

 

 その声に振り向いた瞬間、悟飯は目を見開いた。

 そこにいた人物は、二人。

 一人は自分に似た姿をしている黒髪の青年。

 そしてもう一人は、悟飯が父親のように慕っていた亡き師の姿だった。

 

「ピッコロさん……!」

 

 昔と変わらない姿を見て、安堵と喜びを浮かべて悟飯が彼の名を呼ぶ。

 しかしそんな彼に対してピッコロという男が返したのは、不審なものを見るような疑いの目だった。

 

「俺の名前を知っているのか……お前は、何者だ?」

「……え?」

 

 

 ――彼らと対面したその時、悟飯は初めて自らの勘違いに気づくことになる。

 

 

 この世界が死後の世界などではないということ。

 この世界が自分のいた世界ではないこと。

 

 そして自分が、また死に損なってこの世に生きていることを――彼は思い知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【ドラゴンボールNEXUS 時空を越えた英雄】

 

 

 

 

 






 というわけで新章突入。ようやく悟空ベジータヤムチャを出せます……
 今回はこれまでよりも本作オリジナルの要素が入るかと思います。

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