ドラゴンボールNEXUS 時空を越えた英雄   作:GT(EW版)

18 / 26
熱戦

 黄金の光が二つ、彗星のように尾を引きながら空中でぶつかり合う。

 それは孫悟飯とブロリー、二人の超サイヤ人が繰り広げる壮絶な打ち合いの様相だった。

 悟飯の拳がブロリーの胸板を叩けば、それ以上の威力で返されたブロリーの拳が悟飯の構えたガードの腕を痺れさせる。

 

「はあっ!」

「ふん!

 

 悟飯が身を翻して回し蹴りを放てば、ブロリーは即座に身を屈めてそれを回避する。

 すかさず、ブロリーがアクロバティックな動きで下からすくい上げるように、二本の足で悟飯の身体を蹴り上げた。

 しかし悟飯もやられっ放しではない。痛みに悶絶することもなく、即座に体勢を立て直しながら右手から気弾を放ち、敵の追撃を防いでみせた。

 爆風から飛び退りながら、悟飯は廃墟のビルの上に降り立って敵の姿を見据える。

 恐ろしくて、はっきり言って心は震えているところだ。

 

「ブロリーめ……! 相変わらず化け物だ……俺もあの時とは、比べ物にならないぐらい強くなった筈なのに……っ!」

 

 昔にはまるでなかった手ごたえを感じているのは良い報せだろう。

 しかしスピードもパワーも防御力も、悪魔の恐ろしい強さは昔と何ら変わっていなかった。

 ブルーツ波増幅装置によって過剰なエネルギーを吸収した今の悟飯は、その影響により通常時のパワーマックスが桁違いに上昇している。

 

 そんな悟飯が超サイヤ人になった今の戦闘力は、あの合体13号をも上回る劇的な上昇を遂げていた。

 

 しかし、それでも……それでもなお、悪魔ブロリーの存在は強大すぎた。

 彼の拳が振るわれる度に、悟飯の脳はしきりに死の警報を鳴らしていた。

 

 ブロリーが爆煙の中からゆっくりと上昇し、その身体から特異な翠色のオーラを放出する。

 長身でありながらも細身な体型や、端正整った顔立ちは一見すれば爽やかな好青年にも見えるかもしれない。

 しかし彼の残虐非道な精神構造はまさしく悪魔のそれであり、そんな彼は超サイヤ人の青い瞳で品定めするように悟飯の姿を睨んでいた。

 

「……違う、カカロットじゃない」

「父さんじゃないが、お前は俺が倒す!」

「倒す? お前が? …………」

 

 お父さんと間違われていたのなら、それは光栄なことだ。

 だが、倒す。

 未来の為に、こいつはここで仕留める。

 もう犠牲はたくさんだという思いを胸に、悟飯は内なる「気」を一気に解放した。

 

「む……」

「だりゃああっっ!」

 

 悟飯が解放した「気」の圧力を受けて、先ほどまで彼が佇んでいた廃墟のビルが呆気なく崩れ落ちていく。

 それが完全な崩壊に至るよりも早く、音を置き去りにして飛び上がった悟飯の右手がブロリーの頬を殴りつけた。

 だが、この程度ではまるで足りない。

 悟飯は仰け反った敵に対して続けざまに左手を走らせ、二発目の拳でブロリーの顎を打ち付けていった。

 

「……カカロットの息子?」

「はあああああっっ!!」

 

 そして二つの手に「気」のエネルギーを集束させ、悟飯は至近距離から気攻波を放った。

 魔閃光――その一撃はいっそ不気味なほど緩慢な動きをしていたブロリーの胴部を捉え、そのまま勢いを落とすことなく彼の身体を無人の廃墟へと叩き付けていった。

 それは傍目から見れば、悟飯の凄まじい猛攻がブロリーを襲っているように見えるだろう。

 しかしその感触の浅さを、誰よりも悟飯自身が深く理解していた。

 

「……やはり、駄目か」

 

 ダメージはゼロ。恐るべきタフネスである。

 悟飯にとっては完璧に決まった一撃だったのだが、まるで堪えていない敵の姿を認めて予想通りの溜め息をつく。

 

 しかし、今の攻撃は僅かながらブロリーの魂を揺さぶったのだろう。

 気の解放一つで廃墟の町をまるごと炎上させながら、巨大怪獣のようにゆっくりと歩き出てくるブロリーは、悟飯の姿を自身の敵として見据えていた。

 

「お前……今ので全力かぁ?」

「……まさか、ほんの挨拶代わりさ」

「そう来なくちゃ面白くない」

「……ああ、とことん楽しませてやるよ。もう二度と悪さ出来ないぐらいにな!」

 

 かつて自分が殺したベジータよりも遥かに強い悟飯の力を見て、彼の戦闘意欲も少しは高まったということだろうか。

 サイヤ人らしい眼光に見据えられた悟飯は、サイヤ人らしい強がりを返して不敵に笑う。

 

 ……まったく、ふざけた悪魔である。

 

 ブルーツ波増幅装置によって反則的なパワーアップを成し遂げた筈の今の悟飯さえも、ブロリーからしてみればそこまでしてようやく「敵」として認識する程度の相手だったということだ。

 こんな化け物に、勝てるわけがない。

 勝てるわけが、なかった。

 だが、それでも。

 それでも、今は――

 

「終わらせる……」

「?」

 

 超サイヤ人の状態を解除し、黒髪に戻った悟飯がすうっと息を吐く。

 出来ることならば、戦いが始まってすぐには使いたくなかった。

 しかし、もはや体力の消耗や後先のことを考えている余裕など一秒とてありはしない。

 故に悟飯は――自らの切り札を一切出し惜しまなかった。

 

「この俺が、終わらせる!」

「――!」

 

 大猿のような咆哮を上げた瞬間、悟飯の黒髪が逆立ち両目が金色の虹彩を帯びる。

 暴風の如き圧倒的なオーラを纏った悟飯の姿を見て、ブロリーが初めて表情を変えた。

 

「なんだ……? なんなんだぁそれはぁ?」

「俺一人、死んでたまるか……決着をつけるぞ! ブロリィィーーッ!!」

「なっ……!?」

 

 超越形態。

 この力を使い果たした時、俺はもうこの世にはいないだろう。そんな確信を抱きながらも、しかし自分一人で墓場に行く気はなかった。

 

 覚悟の中で悟ったような目でブロリーを睨み、孫悟飯は最後の戦いに赴く。

 

 

 そして、一閃――悟飯の拳に腹部を突き刺され、ブロリーが初めて自らの血を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石は敵の総本山と言うべきか、キングキャッスルの周辺はおびただしい数の軍隊に守護されていた。

 その兵達のほとんどが先日ネオンが破壊した人造人間19号と似た姿をした量産機タイプの機械人形であり、個々の戦闘力数値は全員が数千万を超えるレベルの怪物たちである。間違いなく、この宇宙で最強の軍隊と言えるだろう。

 そんな敵陣のど真ん中に飛び込みながら、ネオンとトランクスの二人はそれぞれ一騎当千の活躍で敵の防衛網を崩していた。

 

「コイツら……やっぱり、気を吸い取るのか!」

「トランクス君、絶対に直撃させられる自信が無ければ、気攻波の類は撃たないでね」

「わかってます! 貴方が作ってくれた、この剣があればっ!」

 

 この数日間、パワーアップを遂げたのは悟飯だけではない。

 彼と比べれば微々たる変化ではあるが、少年トランクスもまたこの戦いの為に準備を重ねてきた身だった。

 その一つが、今彼が両手に構えている一本の「長剣」だ。

 彼は徒手空拳だけではなく、初めて武器を使用してこの戦いに臨んでいたのである。

 

 その長剣を振りかぶり、一閃――量産型の人造人間の胴部を横薙ぎに斬り裂いていく。

 

 並大抵の相手ならば、文字通り一刀両断に斬り伏せてみせる。抜群の切れ味を誇る彼の長剣もまた、ネオンがツフルの技術を応用して作り上げたものであり、それを超サイヤ人のトランクスが振るうことによって宇宙でも類稀な名剣と化していた。

 この数日間で初めて気づいたことだが、少年トランクスには武道家のみならず剣士としての才能もあったらしく、元々ネオンがブロリー対策として自らの為に開発を進めていたその「ツフルの剣」を、彼女以上に使いこなすことができたのだ。

 

「やるぅ!」

 

 鮮やかな剣捌きに、ネオンが賞賛の声を贈る。

 新しい才能を腐らせておくのも勿体ないと思ったネオンはそ自身の作った「ツフルの剣」を彼に譲り渡し、今は彼の装備として人造人間相手に振るわれていた。

 

「せああっ!」

 

 悟飯の超越形態と比べれば付け焼き刃に過ぎない戦力アップではあるものの、気攻波の類を吸収してしまう人造人間を相手にその剣は想像以上の猛威を振るった。 

 一体を真っ二つにすれば二体、三体と返す刃で次々と敵を斬り伏せていく少年トランクス。

 彼の動きは敵を斬り伏せていく度にどんどん洗練されていき、剣士としての才能をまざまざと見せつけていた。

 

「数ばかり揃えても、僕達の相手じゃない!」

 

 襲い掛かる敵陣を圧倒的な速さで蹴散らしながら、そう叫ぶ少年の姿は末恐ろしい。

 未だ発展途上で身体も小さいトランクスだが、ネオンの目から見て彼は間違いなく、人類史上例を見ない一流の戦士だった。

 まだ子供である彼がこうして命を張って戦わなければならないこの世界がいかに業が深いか、含むところはもちろんある。しかしこれほどの強さを持つ彼が自らの仲間として戦っている事実に、ネオンは思わず口漏らした。

 

「今更だけどいいもんだね……自分の背中を誰かに預けながら、戦えるっていうのは」

『……ふん、お人好しめ』

 

 数日も同じ時を過ごしていれば、孫悟飯や彼がどれほど清い心を持った正しい人間であるかもわかる。

 今までずっとベビーと二人だけで戦ってきたネオンもまた、彼らの心の温かさを受け取り、今では完全に心を許していた。

 そしてそれは、言葉にはしていないもののネオンの中にいるベビーとて同じなのだろう。口数は少ないが、彼も同様に二人に対して心を開き始めていることをネオンは感じていた。

 自分達から何もかも奪っていったサイヤ人のことを、決して許しはしない。しかし憎むべきではないサイヤ人もいることを、ネオンとベビーは本当の意味でわかり始めていたのだ。

 孫悟飯とトランクスという、立派な勇者の背中を見て。

 

「砕け散れ!」

 

 子供(トランクス)に負けていられないなと、ネオンは彼の長剣に倣って自らの新兵器を解放する。

 ネオンはかつて失われた右腕の部位に装着した義手を振り回し、薙ぎ払うように敵の人造人間達を殴りつけ、次々とまとめて粉砕していった。

 トランクスの剣技が一種の芸術のような美しさを披露する一方で、ネオンのそれは技でも何でもなく、どこまでも野蛮な荒業である。

 先日破壊した人造人間19号や人造人間13号達の残骸を基に製造した巨腕の義手は、ネオンが幼少の頃に失った右腕の分を補って余りある威力を見せつけていた。

 全てはドクター・ゲロのおこぼれと、ツフルの叡智があったればこそだと心の中で苦笑しながら、ネオンは自分より体格が大きく上回る量産型の人造人間達を相手に、その義手を振るい力任せに叩き潰していった。

 寄せ集めのパーツで作った為に形こそ不格好で禍々しいが、ネオンはこの造形を完成当初から修正する気が起きないほど気に入っていた。

 生身では絶対に出来なかったであろう強引な戦い方が、何となく性に合っている気がしたのである。

 

「そう言えばあの子は、これを見て似合っていないって言いたげだったね」

『それがどうした?』

「……いや、どう考えても普通の人間じゃない私を、あの子は戦士としてじゃなく女の子として見てくれたのかなって思ってさ」

 

 自身の中にいるベビーと何気ない会話をしながら、淡々と敵の軍勢を破壊していくネオン。

 これまで彼女が葬ってきた数は軽く五十は超えているが、それでも敵の防衛網は固く、十分以上経ってもパラガスの待つキングキャッスルには近づけずにいる。

 

『……その腕がお前に似合うと思っている奴は、お前しかいないだろう。奴の見方だけが特別なんじゃない』

「ふふ、なに? ベビー君嫉妬してるの?」

『戦いに集中しろ』

「しているよ。冗談だってば」

 

 敵の中から背後に回ってきた者を回し蹴りで叩き落すと、彼らが「気」を吸い取れる体勢でなくなった状態を見てネオンはすかさず生身の左手から気功波を発射する。

 

「私がそんな魅力的な人かっての!」

 

 着弾と同時に巻き起こった爆発は十数体もの量産型人造人間達を巻き込んでいき、彼らをまとめて物言わぬ鉄屑へと変えていった。

 

 これで、八十体は倒しただろう。

 

 ネオンがちらりと横目を向けてみればトランクスもまた同じぐらいの残骸の山を築き上げており、こちらの優勢具合をわかりやすく示していた。

 圧倒的な実力差の前では何体数を揃えようと、ネオンとトランクスの脅威にはなり得なかった。

 量よりも質だと、その道理を証明してみせるように、たった二人の地球戦士は圧倒的だった。

 

 しかし、だからこそネオンは不審に思う。

 

 パラガスの帝国にはドクター・ゲロが所属しているとは言え、流石の彼でも13号クラスの人造人間を量産することは出来ないだろうと予測していた。でなければ、完全にこちらの詰みである。

 そしてその予測は当たっていたのだろう。キングキャッスルを守護している量産型人造人間達の実力は、人造人間19号の完全劣化版と言って差し支えない程度の性能だった。

 しかし、それを踏まえてもあまりに順調すぎる。

 こうも簡単にこちらが優位に立っている現状が、根が小心者であるネオンには気味悪く思えてならなかった。

 

「これだけ暴れれば、そろそろ来るんじゃないかな?」

「来る? 何がです? ――っ!」

「ほら、やっぱり来た!」

 

 嫌な予感ほど、良く当たるというものだろう。

 こちらが圧倒していた乱戦の状況を乱したのは、一発のエネルギー弾だった。

 量産型の人造人間達が放つものとは比較にならない威力が込められたそれは、二人が飛び退った場所を跡形も残らず消し去っていった。

 彼らにとっては味方である筈の人造人間達さえ邪魔者扱いするように吹き飛ばした新たな敵が、一転して見晴らしの良くなったキングキャッスルの地にゆっくりと降り立つ。

 

「雑魚相手に、何を手こずっているんだか」

 

 落ち着いた声音である。

 ネオンにとっては聞き覚えのある声であり、今しがた聴こえてきた「少年」の声に彼女は目を見開く。

 その声を初めて聴いたトランクスの方は油断なく長剣を構えながら、新たに現れた敵の姿を油断なく見据えた。

 

『あいつ……』

「そろそろ大物が来るとは思っていたけどね……だからって、それはないだろう」

 

 爆煙が晴れたことによってはっきりと見えるようになった相手の姿を映して、ネオンは嘆くように呟く。

 オレンジ色のスカーフを首に巻いた、十代半ばぐらいの少年。

 その少年――完成された人造人間が己の加虐性欲を抑えきれぬと言わんばかりに、端整な顔を邪悪に歪めながら言い放った。

 

「二人まとめて掛かってきな。この17号様が、直々に遊んでやるよ」

 

 その名は、人造人間17号。

 少年の見た目に騙されてはならない。

 ネオンの反応から今までとは明らかに違うレベルの敵が現れたのだと悟り、トランクスが油断なく彼の姿を睨む。

 ネオンは悔しさと悲しさを滲ませた目で、敵となった(・・・・)彼の姿を見つめた。

 

「……ラピスさん……」

『気を引き締めろ、奴は人造人間だ。お前の知っている双子は、とっくの昔に死んでいる』

 

 ……わかっているさ、こんちくしょう――そう毒づきながら、ネオンは右腕の義手を構え、黒髪の人造人間と相対した。

 





 【わかりやすい戦闘力説明】

 悟飯:ブルーツ波増幅装置の影響でパワーアップ。セルゲーム時点での原作悟空よりちょっと弱いぐらい。超越化でさらに強化できる。

 トランクス:ナメック星編フルパワーフリーザよりちょっと弱いぐらい。剣を使えばコルド大王までは倒せる。

 ネオン:人造人間13号と大体同じぐらい。ベビーが主導権を握れば神コロ様よりちょっと弱いぐらいの性能を発揮できる。右腕だけサイボーグ系女子にモデルチェンジ。実はベビーが単体で戦った方が強い。

 ブロリー:カワイイ。イケメンブロリー状態で完全体セルクラス。まだ上があるのだが悟飯はそのことを知らない。

 パラガス:原作よりブロリーに歩み寄っている分ブロリーによって死に掛ける回数もそれなりに増えており、相応に戦闘力が上がっている。戦っている姿は誰も見たことがない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。