ドラゴンボールNEXUS 時空を越えた英雄   作:GT(EW版)

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開戦! パラガス軍対最後の地球戦士

 パラガス達が地球に帰ってくる日まで、残る猶予は少ない。

 しかし戦士達は希望を捨てず、各々に決戦の準備を進めていた。

 その際、悟飯は一つその身に嬉しい誤算を発生させることとなった。

 

「これは……」

「すごい……すごいです、悟飯さん! これならブロリーに勝てますよ!」

 

 それは、ブルーツ波増幅装置によって一度超越形態に至った影響であろう。

 悟飯のパワーマックスが飛躍的に伸び、戦闘力が通常の状態でも格段に上昇していたのだ。

 ネオンに諭されるまま無理をせずゆっくりと身体を休めた彼だが、それが功を為したとも言える。

 一日掛けて体力を完全回復させた悟飯がその「気」を解放してみせると、今までとは明らかに違うその力にトランクスが驚嘆の声を漏らした。

 

「これなら、何とかなるかもしれない……」

 

 悟飯自身も手ごたえを感じ、勝機を見出す。

 超サイヤ人ブロリーの本当の力は未知数であるが、かつてベジータを殺した時の彼と比べても、今の悟飯の力はそれをやや上回っているように感じた。

 身体に無理がありすぎる超越形態には三日間意識を失うデメリットが発生したが、素の力までも強くなれたのなら想像以上の成果と言えた。

 

「ただ、トランクス君のパワーアップは諦めてもらうしかないね。前の戦いで、装置が完全に壊れてしまったから……もう一度作り直して調整するには、時間も資材も足りていない」

「ああ、残った時間は、戦いの準備に使うよ」

 

 仮に装置がもう一度使えたとしても、その身であの苦行を体感した悟飯は快く弟子にも使わせる気にはなれなかった。

 現状トランクスよりも遥かに鍛えている悟飯ですら、超越形態に至った時はああも苦しみ寝込んでしまったのだ。それをまだ未熟なトランクスに使わせてしまえば、パワーアップどころかその命を落としてしまう危険があまりにも高すぎた。

 こちらが出来る準備と言えば、パワーアップした己の力を慣らすこととトランクスに少々の稽古をつけてやるぐらいなものだ。

 

 おそらくブロリーと直接戦うのは、自分だけになるだろうことは――既に何年も前から覚悟していたことだ。

 

 そんなプレッシャーが、今は自然と怖くない。その不安や負の感情を、一度彼女の前で吐き出したからだろうか……と悟飯は微笑みを浮かべるネオンの顔を見た後、その「右腕」に目を移して訊ねた。

 

「準備と言えば、ネオンさんその腕は?」

「ああ、義手を作ったんだ。付け焼き刃にすぎないけどね。人造人間からもぎ取った腕を使って作ってみた」

 

 ナッパとベジータが初めて地球に来た際、その襲撃によって失われた彼女の右腕。

 隻腕の彼女の片側には、機械の部品が露出している不格好な腕が装着されていた。

 生身の左腕よりも二回り以上大きく見えるそれは、以前破壊した人造人間のパーツを作って製作したらしい彼女の義手だった。

 

「すごいんだよ、これ! 相手の「気」を吸収して、自分の身体に取り込むことができるんだ!」

「そ、そうですか……」

「うん! ドクター・ゲロは本当にしょうもない奴だけど、物凄い天才だ。こんな技術は、ツフルにだってなかったよ」

「へ、へえ……」

 

 やや興奮気味に詰め寄りながら義手の説明をする彼女に、悟飯はたじろぐ。

 実際その性能は高いのだろうが、ゴテゴテしたその義手は彼女のような若い女性が身につけるにはあまりにも物々しく、グロテスクだったのだ。

 失った腕の代替というデリケートな話題でもある為に、悟飯にはどう返せば良いのかわからなかったのだ。

 そんな彼の反応に、彼女は少し唇を尖らせる。

 

「むー……反応薄いね」

「いや、そりゃあ凄いとは思いますけど……本当に、ドラゴンボールがあればなぁ」

 

 ドラゴンボールがあれば、彼女の腕も治せただろうになと――不格好な義手をつけた彼女の姿を見て、悟飯は切ない気持ちになった。

 

 

 

 

 

 

 この期間、悟飯はネオンの地下都市から外出し、地球で生き残っていた知人たちに顔を見せにいった。

 戦士達は全滅しても武天老師やウーロン達は健在だったらしく、トランクスも連れてカメハウスを訪れると彼らは、悟飯の帰還を一斉に歓迎してくれた。

 

「おお、あんなに小さかった悟飯坊ちゃんたちが……なんとご立派になられて……!」

「泣くなよウミガメ……俺まで泣けてきちゃうじゃないか」

「僕も……ヤムチャ様たちにもお見せしたかったです……っ」

「……大丈夫です。みんなとも、いつか会えますって」

 

 彼らの見た目は昔と比べてあまり変わっていなかったが、歳を取った分涙腺が弱くもなっていたのだろう。

 感激のあまりざめざめと涙を流したウミガメに釣られてプーアルまでも泣き出し、それを見て悟飯はある決意を固める。

 

 今までは考える余裕もなかった――「後」のことについてだ。

 

 やっぱりそれが一番だなと思いながら、悟飯は彼らに語った。

 

「この戦いが終わったら、ナメック星を探しにまた旅に出ようと思います。何年経っても必ず見つけ出して、みんなのことを生き返らしてあげたいんです」

「悟飯、お前……」

「ウーロンさんも、綺麗なお姉さん達が生き返った方が嬉しいでしょう?」

「……はは、お前、言うようになったな!」

 

 戦いが終わった後のことを考えるようになったのは、これが初めてかもしれない。

 それほどまでに敵は強大すぎて、勝てる見込みがなかったから。

 そして、これが自分にとって最後の戦いになるだろうことも穏やかに察していた。

 故に悟飯は、その胸の内を幼い頃からの知人たちに明かすことができた。

 自分らしくない、冗談も交えて。

 

「悟飯さん、それじゃ学者さんの夢は……」

「いいんだ、トランクス君」

 

 元々の夢が学者であることを知っているトランクスが、気づかわしげな目で窺ってくる。

 だがそれが悲惨な運命に踊らされ続けてきた、孫悟飯の本心だった。

 

「俺の夢は、みんなを生き返らせることに決まった。今、決めた」

 

 その夢がある限り。

 その願いがある限り、悟飯はまだ戦える。

 どんなに苦しくても。

 

「こういう目標があった方が、ブロリー達を倒さなきゃって、強く思えるから」

 

 亡き父のような純粋な戦士にはなれないけれど、そんな「地球人らしい」思いが自分を強くしてくれる気がした。

 

 

 

「ネオンさんや、腰はもうちょいこうした方が」

「? こう?」

「ムホホ……いや、こうじゃな。もっと深く落として、お尻を後ろに突き出して……」

『触るな変態』

「!?」

 

 そんな悟飯の後ろではかめはめ波の撃ち方をネオンに対して異様なほど丁寧にレクチャーしている武天老師こと亀仙人の姿があったのは、なんとも締まらない光景だった。

 ウミガメとプーアルがガックリと項垂れ、ウーロンが「あのスケベ爺さんほんとブレないなぁ」と自身の性癖を棚に上げてそう呟く。

 生きた伝説である武天老師様とぜひ会ってみたいと言い出したのはネオンの方だったのだが、そんな彼女の来訪に彼は、気のせいか悟飯達が帰ってきたことと同じぐらい喜んでいた気がした。

 

「パラガス達のせいで、ピチピチギャルがみんないなくなっちまったんだもんなぁ……俺も久しぶりに見たぜー。いい娘見つけたな、悟飯」

「え? ……そうですね、良い人ですよ、ネオンさんは」

 

 ウーロンさえも大人しくなるほど人口が激減しているこの時世、彼女のような美人もまた当然のように地上からいなくなっているということだろう。

 何となく彼女がそういう目で見られることに面白くない感情が過るのを感じながら、悟飯は一人決意を込めて呟いた。

 

「……守らなきゃな」

 

 もう誰一人、失いたくはない。

 地球の未来を、今度こそ切り拓いてみせるとその胸に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして数日後、空の向こうから向かってくる大きな「気」の接近を悟飯達は知覚した。

 

 

「悟飯さん、このとてつもない気は……!」

「ああ、間違いない! ブロリーとパラガスの気だ!」

 

 審判の日が、とうとう訪れたのである。

 遠い星を攻め落としに遠征していたブロリーとパラガスの宇宙船が、遂に帰還を果たしたのだろう。

 既に山吹色の道着を纏いウォーミングアップを終わらせていた悟飯は、後ろに立つ自身の母親に視線を移しながら力強く言った。

 

「行ってきます、母さん」

「必ず帰ってくるだよ。おめえの居場所は、ここなんだからな」

「はい……必ず、勝ってきます」

 

 決戦に向けて最終調整を終わらせた悟飯は、最後の時間は実の母親と過ごしていた。

 随分と顔見せが遅くなってしまったのは、戦いばかりで変わり果ててしまった自分を見せることに後ろめたさを感じていたのもあるのかもしれない。

 しかしそんな親不孝な息子に対しても、かつてより老け込んだ母は昔と変わらず惜しみない愛情を注ぎ、その腕で抱擁を交わしてくれた。

 

 そんな二人の様子をどこか羨ましそうに、懐かしむような目でネオンが見つめる。

 

「ネオンさん、行きましょう」

「いいのかい?」

「ブロリーに勝てば、また会えますから」

「そうか……トランクス君もお母さんとは話したかい?」

「はい。僕も、必ず奴らを倒すと約束しました」

「……強いね、君達は」

 

 いつの間にやら迎えに来ていたネオンが、息子との別れと再会の約束を済ませたチチに対して深々と一礼した後、舞空術で飛翔していく。

 そんな彼女の後ろに続いて悟飯とトランクスが飛び上がり、横並びになって速度を合わせながら視線を交わしあった。

 

 この数日の間に、出来ることは全て終わらせてきた。

 

 後は戦うだけだ。

 倒すだけだ。

 こんな時代にしてしまった元凶を、破壊を撒き散らす悪魔を。

 

 

 

 

 

 キングキャッスル――かつてはこの地球の国王が住まっていたその場所は今、禍々しい改築を施されパラガスの居城と成り果てていた。

 

 周辺地域はおびただしい数の機械兵士達や武装した異星人兵士達に囲まれており、外から迂闊に攻められないように厳重な防衛網が敷かれている。

 そのキングキャッスルに向かって、空からゆっくりと降下していく物体が見える。

 かつて見たことがあるフリーザの宇宙船に似た形状のそれは、十中八九パラガス達が乗っている宇宙船と見て間違いないだろう。

 

 距離は約二十キロメートル。

 その範囲まで飛行を続け接近した悟飯は、自身の右手に体内のエネルギーを集束させ、迷いなく解放した。

 

「くらえ!」

 

 悟飯の放った一発の気功波が、寸分の狂いもなく宇宙船へと向かっていく。

 一気に本丸を狙い撃つ先制攻撃だ。

 命中すれば宇宙船は崩壊し、非戦闘態勢であれば中にいるパラガス達にもダメージを与えられるかもしれない。

 

 しかし、予想通りと言うべきか、敵もまたこちらの動きに気づいていた。

 

 宇宙船から飛び出してきた一つの影が悟飯の気功波の前に飛び出し、その一撃を呆気なく彼方へと弾き返したのである。

 

 悟飯の視力はその影を――その人物の姿を、はっきりと捉えていた。

 瞬間、悟飯の心に激しい怒りが燃え上がり、その髪を逆立て、黄金の色に染めた。

 

 超サイヤ人になった悟飯が、トランクスとネオンに対して事前の打ち合わせ通りに命じる。

 

「ブロリーが出てきた! アイツは俺がやる! ネオンさんとトランクスはパラガスを!」

「……わかった」

「お気をつけて!」

 

 あの悪魔を相手にするのなら、中途半端な実力の者が束になっても却って逆効果だ。

 油断を誘うことができず、こちらの勝機が薄れる可能性が高くなる。

 ブロリーが厄介だからと言って、パラガスを放置するのも悪手だ。サイヤ人らしからぬ頭脳派であり策謀家でもある彼は、ある意味では悪魔以上に何をしでかすかわからない危険人物だった。

 故に悟飯達は、最初は二手に分かれた方が賢明だと考えたのだ。

 まずは悟飯が一対一で悪魔に挑み、悪魔が油断したところを――超越形態で一気に仕留める。その間にネオンとトランクスがパラガスの息の根を止める。それが、三人で考えた大まかな作戦だった。

 

 散開し、それぞれの目的地へと飛び去って行くネオンとトランクス。

 

 そして一人その場に残り、黄金の尾を引きながら一直線に突っ込んでいく悟飯に向かって、宇宙船から飛び出してきた影もまた黄金の姿となって真っ直ぐに飛び込んできた。

 

「カカロットォォォォーーーッ!!」

「ううううあああああああっっ!!」

 

 悪魔――その名はブロリー。

 お互いに咆哮を上げるブロリーと悟飯の拳が正面から激突し、黄金の閃光が空に弾けた。

 






 映画ブロリーが大満足だった結果、こちらの執筆が遅れました。
 本作も新しく映画に習って副題を付けることで、ぼちぼち更新を再開したいと思います。
 やっぱり悟空さがいないせいで全体的に暗い本作ですが、じきに明るい展開になっていくかと思います。

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