ドラゴンボールNEXUS 時空を越えた英雄   作:GT(EW版)

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ツフル王の恩恵

 こうしてようやく落ち着いた場所で話せたことで、ネオンは悟飯に自身の存在について明かすことが出来た。

 孫悟飯もまたある程度のことまではカプセルコーポレーションのブルマから聞いていたらしいが、流石にネオンの中で行動を共にしているツフル人、ベビーのことまでは知らなかったようだ。

 自己紹介の中で彼のことも教えると、悟飯はネオンの姿を見つめながら納得したように相槌を打った。

 

「ベビー……そうか、それで、貴方はあれほどの力を身につけられたんですか」

「うん、元々、私自身はどこにでも居るただの地球人に過ぎなかった。ナッパとベジータがやって来たあの日に死に掛けて、ベビーと同化したことで、今の力を使えるようになったんだ」

 

 かつて二人のサイヤ人によって全てを失ったことを話せば、悟飯は気まずそうに目を伏せる。その件に関しては彼が責められるような謂れは一切無いと言うのに、随分真面目な性格なんだなぁというのがその時抱いた彼に対するネオンの印象である。

 孫悟飯という好青年らしい好青年は、こうして話せば話すほど、獰猛な戦闘民族サイヤ人の血を引いているのが信じられなくなるぐらいだ。

 しかし今回は彼がそんな性格だったからこそ、ネオンは必要な話をスムーズに語ることが出来た。

 

「プラント星のツフル人……そんなことがあったんですか……」

『サイヤ人の血を引くお前に同情されたくはない』

「こらこら、悟飯はもう仲間なんだから尖らない尖らない」

『ふん……』

 

 紹介の過程でサイヤ人によって滅ぼされたベビー達ツフル人のことを話せば、彼は自分事のように悲しそうな表情を浮かべ、憐れんでくれた。絶滅までの経緯を見るとツフル人が完全な被害者かと言えば実のところそうでもないのだが、それはそれとしてもこちらの話を素直に信じてくれる純粋な性格には好感が持てた。

 そんな彼はネオンの差し出した左手とは反対側の、灰色のマントに隠されたそこにない右腕を見て言い辛そうに訊ねる。

 

「その腕も、ナッパに……?」

「うん、千切れてなくなっちゃった。今じゃ、そう気にならないけどね」

「……協力しても、良かったんですか? 俺達のこと、憎んでいるんじゃ……」

「君には恨みも憎しみも感じてないって言ったろう? 私が恨んでいるのは、悪いサイヤ人だけさ。君はアイツらとは違うんだろう?」

 

 ネオンがこうして一見言い辛そうなことまで進んで明かしたのは、別段彼に憐れんでほしいからでも負い目を感じてほしいからでもなく、これから協力関係になるのなら話すべきことは話した方が良いと思ったからに過ぎない。

 故にネオンが彼に対して恨みを抱いていないのも全て本心であり、偽りは無かった。口では不機嫌そうだが、それはネオンの中に居るベビーも同じ気持ちである。

 ブロリーという強大な敵を倒す為には、彼のような「善良なサイヤ人」の存在は何より貴重な戦力なのだ。

 

「……そう言っていただいて、ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」

「うん! うわっ、やっぱりカッチカチな手だねぇー」

「あ、ははは……」

 

 友好の証としてネオンが差し出した左手に対して、悟飯は本来応えるべき自分の左腕がギプスに覆われている今どうすれば良いのか迷うように視線を彷徨わせた後、結局動かせる右腕を差し出すことにしてネオンの左手の甲を覆うように右手で掴む。

 ネオンからしてみればそんな彼の手は大きく、感触もまた自分の手に比べて何倍も分厚いものだった。戦士として男らしく鍛え上げられている彼の手に、ネオンは軽い感動を覚えたりしていた。

 そんな二人の後ろでおもむろに部屋のドアが開いたのは、その時だった。

 

「ネオンさん、仙豆を……悟飯さん! 目が覚めたんですね!?」

 

 悟飯の怪我を治す為に「仙豆」という薬を探しに出かけていた、トランクス少年が帰ってきたのである。

 彼は部屋に入ると今回の収穫をネオンに報告しようとしたが、ベッドから起き上がった状態でネオンと握手を交わしている悟飯の姿を見るなり目を見開いて喜びの声を上げた。

 

「心配かけたな、トランクス君」

「いえ、そんな! そうだ悟飯さん、仙豆貰ってきたんです! どうぞ!」

「あ、ああ、ありがとう」

 

 手に持った小袋から一粒の豆を取り出したトランクスが、ネオンの左手から離された悟飯の右手にそれを手渡す。

 その豆を指でつまんだ悟飯は薄く笑みを浮かべながら、しみじみと思い出に浸るように呟いた。

 

「カリン様、生きていたんだな……良かった」

「ヤジロベーさんも元気そうでしたよ」

 

 ネオンの知らない人間の名前を呟いた後、悟飯はその豆を口の中に放り込む。

 すると、変化は一瞬にして訪れた。

 

「よし!」

 

 首から下げていた包帯を勢い余った腕力で引きちぎり、ギプスに固められた筈の左腕をこれ見よがしにブンブンと振り回す。

 肌の血色も目に見えて良くなり、その姿は明らかに元気になっていた。

 それが噂の秘薬、仙豆の効力なのだろう。あまりにも医師泣かせなその一粒に、ネオンは若干表情をひきつらせながら驚きの声を上げた。

 

「うわ、すっご……あんな酷かったのに、一発で治っちゃったの?」

「ええ。何度も助けられましたよ、これには。トランクス君、あと何粒ぐらいある?」

「それが……あと一粒しかないんです。地球の空気を取り巻いているパラガス達の邪悪な気のせいで、最近はほとんど作れないんだって、カリン様が……」

「そうか……なら、最後の一粒は君が持っててくれ」

 

 これほどの薬が何十個もあるのならブロリー達との戦いもやりやすくなるのにと思ったネオンだが、現実はそう上手くはいかないようだ。倒れては仙豆の使用を繰り返したゾンビアタックを仕掛けてみるかという一瞬だけ思い浮かんだネオンの作戦は、その口から放たれる前にあえなくお蔵入りとなった。

 

「さて、これで君も動けるようになったわけだけど。まずは外に出てみない?」

「あっ、そうですね! 悟飯さん凄いんですよ、この町は! あっ、いつもの道着持ってきますね! 町の人に直していただいたんです!」

 

 軽くなった身体をベッドから起こしながら、悟飯はその床に立ち上がる。

 そんな彼の病衣姿を見るなり、トランクスが思い出したように部屋から飛び出していった。

 その姿が心なしかいつもより張り切っているように見えるのは、それだけ師匠が復活してくれたことが嬉しいからなのだろう。

 

「……お弟子君、しっかりしているね」

「もう少しくだけてもいいんだけどね。俺としてはアイツのことは、本物の弟だとも思っていますから」

 

 なんかかわいいな……と、ネオンが走り去ったトランクス少年のせわしない姿に亡き弟の姿を重ねていると、そんな彼女の言葉に苦笑しながら満更でもなさそうな表情を浮かべる悟飯の姿は中々に師匠馬鹿だった。

 将来子供が出来たら物凄い勢いで甘やかしそうだなぁと、ネオンにはそんな彼の姿が微笑ましく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネオンに連れられて部屋の外に出た時、悟飯は思わず驚嘆の声を漏らした。

 

「これは……本当に凄いな」

 

 歳不相応に落ち着いているトランクスが、ああも嬉しそうに町のことを称えていたのだ。今自分の居る町が普通ではないことは予想していたが、そこに映った光景は悟飯の想像をさらに上回るものだった。

 

 ――村ほどの大きさのある人間の居住スペースが、地下一帯に広がっていたのである。

 

 周囲はドームのような外壁に覆われており、二百メートルほど上の頭上からは人工で作られた太陽のような照明が町を照らしている。

 ここが東の都の廃墟の地下に建造された「避難用シェルター」であることすら、右隣を歩くネオンに説明されるまで気づかなかったほどだ。

 

「まだちょっと地味だけどね。それでも避難所として考えれば、結構豪華だろう?」

「驚きました……こんな場所があったなんて」

 

 ここが寂れた廃墟の下にある場所だとが考えられないほどに、この地下都市は未来的な造りをしていた。

 一つ一つの規模こそ小さいが、町には地球がかつて平和だった頃と同じように人の住む家や店があったのだ。その町である者は洗濯物を干していたり、ある者は道を歩きながら住民同士和気藹々と話し込んでいる。

 そんな人々であるが、彼らはネオンの姿を認めると一様に「ネオンさん、おはよう!」「お姉ちゃん、おはよー!」などという言葉で大人も子供も元気よく手を振っていた。

 挨拶を返しながらその手を振り返し、ネオンが穏やかに微笑む。

 

「人気なんですね、ネオンさん」

「……まあね」

「この町は、ネオンさんが作ったんですよね」

「え? 作った? この町をですか?」

「あ、ああ……うん」

 

 この町の住民達に広く顔が知られている様子のネオンに感心する悟飯だったが、トランクスが言い放ったその理由に対して思わず面食らう。

 人工的に作られたこの地下都市そのものが、彼女の手によって作られたものだというのだ。

 トランクスから寄せられる無邪気な尊敬の眼差しを照れくさそうに受けながら、ネオンはその言葉の一部を肯定した。

 

「私だけじゃなくて、ほとんどベビーが考えたんだけどね。ベビーは宇宙有数の科学力を持っていたツフル人の王様の、言わば生まれ変わりみたいなものだから。カプセルコーポレーションは例外だけど、地球では考えられないような知識を思っているんだ」

「へぇ~、それは凄いですね」

『ふん……』

 

 かつて、高度な科学力によって一大文明を築き上げたツフル人。ネオンの中に居るベビーという存在は、その知識の一部を保有しているのだ。ネオンもまた、その知識を共有している。

 そしてその膨大な知識の恩恵は避難民の生活水準を引き上げる意味でも役に立つものであり、地上がパラガスの帝国に支配された今も、地下に潜んで暮らしている者達の助けになった。

 

「生き残った人達にも協力してもらって、なんとかこれだけの町が出来たんだ。だから、君も戦う時は出来るだけ地面を揺らさないように配慮してくれると嬉しい。大人達はある程度覚悟が決まっているけど、子供達は怖がってしまうから」

「……わかりました。気をつけます」

 

 大勢の人々が殺された地球にはもう、ほとんどの人間が生き残っていない。それでも、まだかつてと同じような町の姿が目の前にあった。彼女らツフルの知識を持つ者達が、これまでずっと守り続けてくれたのだ。

 変わり果てた地球の中でも変わっていないその光景を眺めていると、悟飯は己の目頭が熱くなっていくのを感じた。

 

「……でも、地下にこんなたくさんの人が居たのに、どうして「気」を感じなかったんだろう?」

「私の着ているこのマント、実は着けている人の気配を隠す機能がついているんだ」

「え?」

「それと同じ機能が、この町の外壁には取りつけられていてね。だからここに居る限り、アイツらのスカウターでも中に居る人達を見つけることは出来ないんだよ」

「なるほど……」

 

 ここが地球人最後の生存圏なのかまでは今のところはわからないが、少なくともここに居る人々が彼女らによって助けられていることはわかった。

 住民達から慕われるわけだ、と悟飯は思う。擦れ違う子供達から憧れの眼差しを受けているネオンもまた、母親のような優しい目で子供達に微笑み返していた。その姿は、ついこの間まで素手で人造人間と戦っていた戦士とは思えないものである。

 

「ずっと、地球の人達を守ってくれていたんですね……」

「今まで君達が地球にしてくれたことに比べれば、偉そうに自慢することは出来ないけどね。だけど、私達のことを見直してくれたなら嬉しい」

「見直したも何も、頼もしいですよ。貴方が味方になってくれて、本当に心強い」

 

 強い力がある上に高度な知能を備えており、力の無い人々への優しさも持ち合わせている。そんな彼女の存在は悟飯にとって、まさに理想的な人間だった。

 そんな彼女がブロリー達を倒したいと言っているのだ。自分に出来ることなら、協力してあげたいと思う。それが結局、この拳で戦うことしかないのだとしても。

 悟飯がそんな気持ちを伝えると、ネオンは困ったように笑いながら、「ありがとう」と礼を言った。

 

 

 

 

 

 

 そうしてしばらく散歩を続けて町の全容を概ね把握すると、ネオンが表情を変えて切り出した。

 それは同盟関係を結んだ今、当面の目標である打倒ブロリーについての話だ。

 

「これでも私とベビーは、アイツらのことを色々な方面から調べてきた。サイヤ人という種族の特徴や、一般的には尻尾が弱点だってこととかも。そんな知識を生かしながら、私はベビーと一緒にアイツらを倒す為に色々と対策を練ったりしてきたわけで……ほとんど失敗したんだけど一つだけ、「もしかしたら」っていう策を思いついたんだ」

 

 彼女が語り出したのは悟飯達が地球に戻ってくるまでの間、彼女が起こしていた行動についての話だ。

 悟飯達が宇宙へ修行の旅に出た後もブロリーとパラガスは変わらずこの地球で暴れ回り、それを止める為に彼女とベビーは決起した。

 しかし単純な戦闘力ではブロリーには歯が立たず、ツフルの頭脳も惜しみなく行使したのだが、その全てが力技で破り捨てられてしまったものだと苦々しそうに語る。

 だが一つだけ……これならばという秘策を、彼女らは今日まで温めていたのだと言う。

 

「……それは?」

 

 ごくりと、左隣を歩くトランクスから息を呑む音が聴こえる。おそらくは自分も同じ顔をしているのだろうと思いながら、悟飯は彼女に問い返す。

 

 ネオンは前に、悟飯に言った。「ツフルの頭脳とサイヤの力が合わされば、どんな奴にも負けない」と。

 

 その具体的な証の一つが、彼女の提示したその策の中にあった。

 

「ブルーツ波増幅による大猿化……そこから派生する、超サイヤ人の超越形態」

 

 足を止めて悟飯の顔を見つめながら、ネオンはその策を簡潔に述べた。

 それはサイヤ人の最も純粋な姿にして原点。

 ブロリーをも超える最強の超越形態を手に入れる為の、ほんの触りの一面であった。

 

 

 







 ハイパーサイヤンエボリューション、始まります。

 設定的にベビーは物凄い頭脳派戦士なのではという解釈です。

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