ドラゴンボールNEXUS 時空を越えた英雄   作:GT(EW版)

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復讐者たち

 ブロリーこそサイヤ人そのものだった。

 

 生まれた時点から発覚した過去に例を見ない戦闘力は、かの「伝説の超サイヤ人」の誕生だと噂されたほどだ。

 しかし驚異的なブロリーの潜在能力を知ったサイヤ人の王、ベジータ王は彼が将来ベジータ王子の地位を脅かすことを恐れ、ブロリーの抹殺を謀った。

 

『パラガスの息子、ただちにこの世から抹殺しろ! ……パラガス、何用じゃ?』

『ブロリーは将来必ず、ベジータ王子の役に立つ優秀な戦士に育つ筈です! お待ちくださいっ!』

『だから困るのじゃ……お前も一緒にあの世に逝け!』

 

 ブロリーの父パラガスはベジータ王に息子の助命を懇願したが、王は聞く耳を持たず取り合ってはくれなかった。

 気を害したベジータ王の光線を受けたパラガスは、ブロリーと共にゴミのように捨てられ、共に死を待つだけとなった。

 

 ――だが、二人は助かった。

 

 フリーザによってサイヤ人の星「惑星ベジータ」が滅ぼされる直前、ブロリーの偉大な潜在能力が激しい怒りによって目覚めたのだ。

 超サイヤ人となったブロリーはパラガスと共に、滅びゆく惑星ベジータを飛び去ったのである。

 

 

 ――それ以来パラガスは、ベジータ王家への復讐の為だけに生きてきた。

 

 しかし幼い頃から父親を遥かに上回る力を持つブロリーの教育は、苦難の連続だった。

 生まれ持った桁外れの戦闘力は、成長に従ってどんどん凶暴化し、増大していった。彼の暴走によってパラガスは片目を失い、全身はおびただしい生傷に覆われた。彼との旅の中で、何度死の淵を彷徨うことになったかわからないほどだ。

 宇宙を旅回る道中でツフル人に匹敵する技術力を持つタコのような科学者と出会わなければ、パラガスは十年と持たずに自分の息子に殺されていたことだろう。

 しかし科学者の作ったメディカルマシンにより、治療手段だけは確立することが出来たのは幸いだったと言えるだろう。高度な治療によってパラガスは死に掛けては復活を繰り返し、怪我の功名か今ではパラガス自身もまたサイヤ人の特性によって、かつてのベジータ王をゆうに凌ぐほどのパワーアップを成し遂げていた。

 

 尤も、それでも息子のブロリーからしてみれば矮小な戦闘力に過ぎない。

 

 たかが数十万、数百万程度の戦闘力では超サイヤ人であるブロリーを止めることなど出来る筈も無く、父親としても戦士としてもパラガスは無力だった。

 

 ――当時のブロリーは、まさに悪魔と言って差し支えない暴れようだった。

 

 ……いや、悪魔に憑りつかれていたとでも言うべきか。南の銀河一帯で見境なく暴れ回り、数多の星を理由なく死の星に変えていった。宇宙の地上げ屋としてサイヤ人による大量殺戮を見慣れていた筈のパラガスですら、恐怖を抱くほどにだ。

 ブロリーがこのまま成長すれば、いつか自分も殺されるのではないか。そんな恐怖を抱いたパラガスの目には、いつしか大切な息子である筈の彼の姿が得体の知れない化け物に見えていた。

 

 その恐怖は年々増大していき、青年期を迎えてより凶暴性を増したブロリーをコントロールする為に、一時は科学者に頼んで彼の肉体の自由を奪う制御装置を作らせようとしたほどだ。

 

 ――しかし、結果的にそうならなかったのは、ほんの僅かな歯車のズレだった。

 

 

『カカロット……?』

 

 銀河を旅回る中、パラガスとブロリーはあるサイヤ人と出会った。

 フリーザによって滅ぼされた「惑星ベジータ」の生き残りであるその男は、浅黒い肌と左右に伸びた複雑な髪型が特徴的な下級戦士だった。

 

『俺の名はターレス』

 

 宇宙を気ままに流離って好きな星を壊し、美味い物を食い美味い酒に酔う。そんな暮らしをしていた「クラッシャー軍団」を率いる「ターレス」というサイヤ人は、同じ銀河を荒らし回っていたブロリーの存在を嗅ぎ付け、パラガス達と対面したのである。

 大方有用であれば、自分の配下に加えようと考えたのだろう。

 しかし。

 

『俺達は生き残ったサイヤ人の僅かな仲間だ。仲良くしようや』

『サイヤ人はこの俺が血祭りにあげてやる……!』

『なに?』

 

 ターレスにとって不幸だったのは、ブロリーもパラガスもサイヤ人に対して欠片も仲間意識を抱いていなかったことだ。

 そして何よりも愚かだったのは、「神精樹の実」を食べ続けてきたことによって得た自らの力を過信し、生まれながらの絶対者であるブロリーの力を見誤っていたことにもある。

 ターレスがそれに気づいた頃には既に後の血祭であり、ブロリーは容赦なく、普段以上の気迫を持って殺戮を開始した。

 

 圧倒的な力を持って彼の姿を肉片さえ残さず消し去ったブロリーは、狂気の叫びを上げながら哄笑した。

 

『やった……ウハハハハ! やったぞ! 俺はカカロットを殺したのだ! 俺はァ……勝ったのだぁっ!!」

『ブロリー……?』

 

 カカロット――それはブロリーと同じ日に生まれた下級戦士の名前である。

 赤子の頃、隣り合わせのベッドに寝かされていたブロリーは、彼の泣き声に毎晩うなされていたという記憶が今も残っており、消えぬトラウマとして刻み込まれていた。

 ブロリーの中でそれは、伝説の超サイヤ人として生まれてきた自分が味わった人生唯一の敗北という認識なのだろう。故にこそ、彼は言葉すら交わしたことがないカカロットに対して異常な執着を見せていた。

 

 彼は、その「カカロット」の面影をターレスに感じたのだろう。

 

 彼によく似た姿をしていたターレスを殺したことで、ブロリーは自分の手でカカロットを殺したのだと一時的に認識し、人生唯一の敗北という自らのトラウマを消し去ったのだ。

 そんな彼はターレスの最期を見届けた後、ニヤリと唇の端をつり上げながらパラガスに言った。

 

『親父ぃ……目は大丈夫かぁ?』

『ブ、ブロリー!? お、お前……』

 

 ブロリーが幼児期以来、初めて父親の姿を認めたのだ。

 何かに憑りつかれているようだったブロリーの目が、その日を境に変わったのである。

 決して彼の心から凶暴性や残虐性が無くなったわけではない。しかし悪魔に憑りつかれていたようなおぞましい執念が、どういうことかほんの僅かに取り払われたのだ。

 

 以来、彼は父親のパラガスの言葉ならば、ある程度までは息子らしく聞くようになってくれた。

 

 そしてその時になって、パラガスはようやく理解したのである。

 

 ――どんなに力があっても、ブロリーは亡き妻の遺した自分の息子なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 惑星ビーン――かつて、その辺境の惑星にベジータ王の遺した隠し子が送り込まれたという噂を聞きつけたパラガスは、息子のブロリーと共に本部である地球を発ってこの星を訪れていた。

 ベジータ王にベジータ以外の息子が居た話など聞いたこともなかったが、噂が本当ならば復讐の為にその人物を抹殺しておく必要がある。仮に噂が噂に過ぎなかったのだとしても、それはそれとして息子のストレス解消にはなるという認識での遠出だった。

 

 実際、捜索してみてもここにそんなサイヤ人の存在はなかったが、原始的な生活をしていたこの星の人々を町ごと吹き飛ばしていくブロリーの姿は久しぶりに上機嫌そうに見えた。

 地球はパラガス達の建設した帝国の本部である為、無暗に傷つけるわけにはいかない。それ故に、地球で生活している間は思うように暴れ回ることが出来なかったのだ。故にベジータ王子を抹殺した後は定期的に、今回のように辺境の星を探しては彼の好きにさせていた。

 純粋に破壊を楽しむ、誰よりもサイヤ人らしい息子の姿を遠目に眺めながら、パラガスは自嘲の笑みを浮かべて呟いた。

 

「復讐のことだけを思って生きてきた……俺の姿はお笑いだったぜ」

 

 かつてはあの力を恐れ、彼の身体の自由を奪おうとしていた。しかしその考えが間違っていたことに、パラガスは気づいたのだ。

 

「悪魔だったのは俺の方だ……もう少しで俺は、取り返しのつかないことをしてしまうところだった」

 

 どんなに凶暴でも、どんなに強くても、ブロリーは大切な息子だと。

 その答えにたどり着いた今のパラガスに、迷いは無かった。

 

「うあああああああ!?」

「ハハハハハ、ウハハハハハハハハハ!!」

 

 久しぶりに殺戮ショーを開くことが出来て、ブロリーはご満悦だ。

 かつてはその力が自分に向くことを恐れていたパラガスだが、今はそれさえも心して受け入れられる心情だ。

 

 ――制御装置など必要無い。ブロリーに殺されるのなら、俺の本望だからな。

 

 尤も、今のブロリーの殺戮欲が自分の父親を殺した程度で満たされるとは思えない。そう考えれば、早々に復讐対象であるベジータ王子を殺してしまったのは間違いだったのかもしれない。

 もはやこの宇宙に自分達の敵は一人も居なく、西も、北の銀河もわけなく支配することは可能だ。

 晴れてパラガスとブロリーの帝国は永久に不滅になったというわけだが……そこで問題なのはいずれ全宇宙の王として君臨する筈のブロリー自身に民への支配欲が無いことが問題になってくる。

 

 ブロリーはある意味純粋――純粋な破壊者なのだ。

 

 彼にはフリーザやベジータ王のような支配欲はないし、富や名声にも何の興味も示さない。彼の心にあるのは、殺戮と破壊への欲求だけだ。

 そんな彼だからこそこの宇宙で誰よりも強いのだと確信しているパラガスであるが、現状、宇宙の支配者としては問題がありすぎることは明白だった。

 

「……生贄の星を探し回るのも大変だな」

 

 自分の息子に殺される未来が来ようが来まいが、パラガスはそう遠くない日に老衰で先立つことになるだろう。

 しかし、そうなった後に彼の為に支配した宇宙を彼自身の手で破壊し尽くされては勿体ない。

 自分達の身体に流れているサイヤ人の血に対して、憎しみこそあれど欠片も誇りに感じていないパラガスは、息子には節度のある破壊と殺戮を覚えてほしいものだと思った。 

 

「ハハハ! ………ん?」

 

 この星の地上に住んでいた住民達を粗方殺し尽くした後、黄金色の光を放つブロリーが上空に飛び上がり、仕上げとばかりにその右手にエネルギーを集束させる。

 しかしその光弾を放とうとしたところで、彼は何かに気づいたようにハッと動きを止め、その顔で天を振り仰いだ。

 

「どうした、ブロリー?」

「……カカロット」

「なに?」

 

 一瞬、ブロリーがこの星の民を殺戮している時以上の喜色を浮かべると、その表情を消して超サイヤ人の状態を解除する。

 廃墟と化した星を眼下に、ブロリーは同行者であるパラガスに顔を向けて言った。

 

「親父ぃ……地球に行くぞ」

 

 黒髪に戻った通常形態のブロリーは、それまでの獰猛さが嘘のように大人しい風貌をしている。尤も、そうなったのは、地球にはもう「カカロット」は居ないと知ってしまった、あの時からのことだ。

 どこか虚無的でさえあるその表情で何を考えているのかは、父親であるパラガスにも読み取れない。

 

 ――だがこの時、彼は遠い宇宙の遥か彼方からただならぬ何かを感じている様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――二人の超サイヤ人が肩を並べて戦っている。

 

 それはこの宇宙の歴史上、初めてのことだった。

 師の窮地に居ても立っても居られず、なのにどうすることもできない自分への悔しさ。その怒りが、幼いトランクスに流れる血を超サイヤ人へと目覚めさせたのだ。

 そんな彼の覚醒に驚いたのは、他ならぬ師匠の孫悟飯である。

 

「呑まれるなトランクス! 怒りに任せすぎちゃ駄目だ!」

「っ、はい!」

 

 悟飯の絶体絶命のピンチに駆け付けたトランクスは、今まで得たことの無い想像の絶する強大なパワーを律しながら、それを己の物として取り込んでいく。

 何分初めての覚醒であり、まだ不安定な面は否めなかったが、それでも今の彼は間違いなく悟飯と同じ黄金の戦士だった。

 

 二人の超戦士はそれまで培ってきた連携を持って13号と対峙し、戦いの流れをこちらへと引き込んでいく。

 

 今までは師弟の間で力の差がありすぎた為に出来なかった連携であったが、トランクスが与えられた戦いの基礎の全ては悟飯によって叩き込まれてきたものなのだ。互いの戦いを誰よりも知る彼らの相性は、合体する前の人造人間達にも劣っていなかった。

 

「ザコガァァ!!」

「くっ……!」

「うあっ!?」

 

 しかし、13号との力の差は依然として大きい。

 トランクスの覚醒によって戦力が大幅に上がっても尚、未だ彼の強靭な身体に傷をつけることは出来なかった。

 彼らの攻撃を鬱陶しそうに薙ぎ払いながら、13号は巨体に任せた剛腕で二人の超サイヤ人を弾き飛ばしていく。

 

 そして彼は同時に、遥か上空に広がっている太陽にも似た巨大なエネルギーボールの生成を目視した。

 

「ッ……ゲンキダマ……?」

 

 ドクター・ゲロにデータとして叩き込まれていたのだろう。左手を振り上げたネオンがこれから行おうとしている技を見て、彼はその姿を今は亡き孫悟空の元気玉だと認識する。

 流石の彼も、あれが自分の身に及べばダメージは免れないと判断したのだろう。気づくなり13号は悟飯達の相手をやめて一目散にネオンの元へと向かうとする――が、その足は背後から羽交い締めにしてきた傷だらけの手に阻まれた。

 

「あの人の、邪魔は……させない!」

「ヌウッ……!」

「フルパワーだああっ!!」

 

 13号と密着した悟飯が自爆寸前の域まで自らの「気」を振り絞ると、身体の内から奔流する膨大なオーラによって彼を拘束する。

 圧倒的な力の差がありながらも、どんなに痛めつけられても、孫悟飯の執念は微塵も衰えない。決死の覚悟を決め込んだ彼の力に、人造人間13号の表情が初めて歪んだ。

 

 孫悟飯の放つ得体の知れない力――データでは計り知れないその現象に、13号はほんの少しでも確かな恐怖を抱いたのだ。

 

「グゥ……ハアアッ!」

「ぐあああっ!」

 

 自身を拘束する悟飯の「気」の奔流に負けじと、13号が己の体内から放射した赤色のエネルギー波を拡散させていく。

 それによって悟飯の拘束が乱暴に解かれ、弾き出された悟飯の身体は地面を抉りながら転がり落ちていった。

 全ての力を使い切った悟飯は超サイヤ人の状態が解け、その左腕があらぬ方向へと折れ曲がる。

 だが13号は、既に抵抗する術を失った彼を見ても一切攻撃の手を止めなかった。

 この男はそれほどまでに危険な存在であると、彼は人造の脳からその結論を導き出したのだ。

 倒れ伏した悟飯に向かって右手をかざし、13号がとどめの一撃を放つ。

 

 しかしその光弾が捉える筈の悟飯の姿は、射線上から飛び去っていた。

 

 横合いから割り込んできた小さな超戦士が、身動きすることの出来ない彼の身体を救出し、攫っていったのである。

 

 そしてその彼――トランクスが師匠の身体を担ぎながら、上空でこちらの様子を窺っている一人の少女に向かって思い切り叫んだ。

 

「今だ! やってしまえー!!」

 

 常の礼儀正しさも謙虚さもかなぐり捨てて、トランクスが彼女に命令する。

 その時を待っていたかのように、少女は自身の左手を振り下ろし、頭上に浮かべていた特大のエネルギーボールを投げ放った。

 

「リベンジデスボール!!」

 

 ネオンと、ベビーが叫ぶ。

 大地と海、この地球に存在するありとあらゆる「憎しみ」を集めた復讐の一撃が、皮肉にも復讐の為に生み出された人造人間の身に炸裂した。

 

「ソン……ゴクウゥゥゥーー!!」

 

 壮絶な光に飲み込まれた彼がその口を開いて放った最後の言葉は、今は亡き復讐対象に対するぶつけようのない怨嗟の叫びだった。

 

 

 

 


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