先生が鎮守府に着任しました~おバカんむすとの日常~   作:おでんだいこん

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先生、デートしてやるよ!クソがっ! 其の2

なかじー先生と摩耶が明日2人で街に出かけるという噂は瞬く間に鎮守府内を駆け巡り、鎮守府瞬間検索ワード、および注目トレンドワード両部門で第一位に躍り出ていた。

当然その発信源は青葉である。

気をきかせた愛宕の口止めもむなしく、青葉は実にあっさりとしゃべっちゃったのだ。

 

「青葉~、こんな時間に何してんの~?」

まず廊下で青葉を呼び止めたのは入渠ドック上がりの鈴谷とその妹艦の熊野である。

「これはこれは鈴谷さんと熊野さん、お2人お風呂あがりですか?今から入るとこですか?入浴シーン撮ってもいいですか?その写真転売してもいいですか?」

「青葉、私たちは今お風呂から上がったとこですわ。転売ってなんですの?殴りましてよ?」

青葉は面白ネタだと暴走するのだ。

「これは失敬!冗談ですよ。」

「で、何かまたスクープなの?」

青いパジャマ姿の鈴谷が聞く。鎮守府で面白い話を聞くなら青葉のところに行くのが手っ取り早いと言われるワイドショーっぷりは有名な話で、口癖は「恐縮ですっ!」梨○勝もビックリである。

「はい!・・・う~ん、スクープ・・・、あるにはあるんですが実はまだ人にお話できないんですよね~。」

愛宕の口止めもあるので少し歯切れはよくない。

「ええ~!いいじゃ~ん、あたし達誰にも言わないようにするし教えてよ~。」

「お2人を信用したいんですが・・・、ある方からも他言無用でと言われてますので。ごめんなさいっ!」

ジャーナリストは口が固いのだ。

「教えてくださったら次食堂でプリンが出た時、私のを差し上げますわよ、青葉。」

「熊野さん・・・、ふふっ、たかだかプリン1個で特ダネを聞き出そうとは・・・、この青葉もずいぶん安く見られたものですね。」

不敵な笑みを口元に浮かべるとすかさず鈴谷が、

「じゃああたしのプリンもつける!」

「実は明日なかじー先生と摩耶さんが街にデートしに行きます!」

青葉の口はプリン2個よりも柔らかかった。

 

普段一般男性が足を踏み入れることのない鎮守府においてこういう話題は艦娘達にとって絶好の刺激だ。

話題は青葉・鈴谷・熊野を発信地として広まった。

最初のうちは「先生が摩耶とデートする」という正確な情報で始まった伝言ゲームだが、、だんだんだんだん言葉がおかしくなり、最終到着点の朝潮型駆逐艦大潮の耳に届いた時には、

「先生が摩耶にタイマンを申し込まれ、明日横須賀の街で殺されるかも知れない。」

と誤変換されていた。

「それはとってもアゲアゲですね~。」

大潮も意味が分からない。

 

そんな本人の知らぬとこで謎の伝言ゲームが行われていた頃摩耶はご機嫌な様子で明日街に着ていく洋服を吟味し、先生はスヤスヤ寝ていた。

 

 

----------------- 横須賀中央駅前タクシー乗り場

 

 

初めて赴任してきた時大淀さんが車で迎えに来てくれたが、横須賀鎮守府から街までは少し距離が離れている。頑張れば歩けない距離ではないのだがそんなことをしたら街に着く前に全身汗だくになってしまうだろうし、これから遊んだり買い物したりしようとしている女の子は絶対嫌がる。

なのでほとんどの艦娘はタクシー券が支給されるのでタクシーを利用して街に繰り出す。

僕も摩耶と一緒に鎮守府からタクシーで来たのだが朝の集合から難儀だった。

 

「なかじー、15分ぐらい先に門の外出て待っとけ!。」

起床して、朝食をすませて、身支度をして10時に門のところで落ち合おうという段取りだったのだが摩耶から急に職員室に電話がかかってきた。

「えっ?なんで?10時に職員室来て、そのまま一緒に行ったらいいんじゃないの??」

一緒に行きましょうぜ姉御~。

「その・・・、まあ・・・、いろいろ具合が悪いんだよ。」

「摩耶、体具合悪いのっ!?じゃあ今日はやめとこうか?。」

「そっ!そういう意味じゃねえよバカっ!街には行くよ、行くんだよっ!、・・・ほら2人で出かけるとこ他の奴らに見られたら色々恥ずかしいじゃねえか。」

勘違いしてた。

「恥ずかしいの?ふ~んそういうもんなんかなぁ?」

「とにかくなかじーは外で待っとけ!」

 

て感じでわけわからんうちに怒鳴られてやむなく15分前に門の外で待つことにした。

あと何週間かしたら嫌な梅雨の時期が来るっていうのに今日も天気がいいなぁ、と煙草を一服しながら快晴の空を眺めていると、

 

「まっ、待たせたな・・・。」

振り返ると摩耶がいた。

「可愛い・・・。」

正直に言ってしまった、が本当に可愛かった。

淡い青みがかったカーディガンに白のキャミソール、スカートは中間丈のモスグリーン、背中にちいさな革のナップサック。

普段の粗暴な印象からは想像できない、むしろいいとこのお嬢様といった感じである。

「可愛い!!!!!!!!」

そう叫ぶと摩耶はしばしフリーズをおこし、

「そっか可愛いってかチキショー!!」

嬉しそうに僕の肩をバンバン叩いてくる、服装はイメージと違ったが摩耶は摩耶である、喜んでくれたみたいでよかった。

ちなみに僕の予想は背中に大きく『夜露死苦』と金色の糸で刺繍の入った黒ジャージの上下とサンダルであった、すまん摩耶。

「とにかく誰にも見られてないみたいでよかったぜ!」

 

 

すっかり上機嫌の摩耶であるが残念ながら見られまくっていた。

「摩耶ちゃん可愛いわね~、あのスカート卸したてのはずよ。」

愛宕がウフフと微笑む。

「それよりも先生の服もう少しなんとかならなかったのかしら、Tシャツ重ねてジーパンって、近所に煙草買いに行くんじゃないんだから・・・、馬鹿め。」

一番艦の高雄がガクッと肩を落とす。

「青葉ちゃんけっきょくみんなにしゃべっちゃったの~、も~。」

すでにカメラを望遠モードにしてスクープ激写満々の青葉を愛宕がたしなめる。

「申し訳ございません。プリンがですね・・・、プリンが・・・。」

鎮守府の門を出てすぐ県道が走っていて、歩道の両端には植え込みが綺麗に整えられている。

同じ鎮守府側の植え込みに身を潜めたら2人に見つかってしまうかも知れないので、わざわざ反対車線側の植え込みに隠れようと30分ほど前に青葉が現場に到着した時、すでに艦種問わず10人ほどおしくら饅頭のように「ちょっと狭いじゃない!」「痛い痛い押さないでよっ!」となっていた。

集合時間の直前ともなるとそのおしくら饅頭はいよいよ20人近くの盛大なものになった。

 

「はわわわ、デート!デートなのです~。暁ちゃ~ん。」

電ちゃんが両手ほっぺたにあてふにゃ~となる。

「もう電ったら、そんなんじゃ一人前のレディにはまだまだよ!」

「暁だったらお昼は間違いなくお子様ランチね。」

「雷うるさい!」

「ハラショー。」

 

「い~な~、鈴谷もデートしたいのに~。ていうかみんな何か汗で超ヌメヌメするんですけど~。」

「とぉおおおおおおおおお」

 

「・・・これは不純異性交遊ではないのでしょうか?」

朝潮型1番艦の朝潮。

「朝潮はまじめね。これぐらい別にどうってことないわよ。」

霞ママこと霞。

「じゃあ一日一緒に遊んでから2人は夜はどうなるの・・・?大人って夜になると何するか霞知ってるの?」

「そっ、それはあれよ!ほら!手つないで、チッ、チッ、チューするのよ!大人ってきっと!」

「接吻!?何て破廉恥なっ!?朝潮やっぱり2人を止めてきます!」

ガバッと立ち上がりそうになる朝潮を妹たちが慌てて押さえつける。

「朝潮ちゃんがアゲアゲになってちゃダメですよ~。」

大潮は先ほど愛宕に事情を聞くまで本当に先生が摩耶に殺されると思っていた。「な~んだ殺されるとかじゃないんですか・・・」と謎のテンションダウンをすると周りの艦娘が「えっ・・・?」と引いてしまった。

 

鎮守府の門の前にタクシーがやってきて、

「じゃあ行こっか。」

「おう!」

先生と摩耶が後部座席に乗り込む。

 

2人を乗せたタクシーが発進して、鎮守府の方が見えなくなるカーブまで走って行くのを確認すると慌てて青葉が植え込みから車道に飛び出し。

「ヘイ!タクシーっ!!!!」

なんと追跡用にすでに青葉は別のタクシーを予約して待機させていたのだ。

「今走っていったタクシーの追跡お願いしますっ!!」

どかんと助手席に乗り込みながら運転手に言うと、運転手は困惑した表情で、

「お客さん・・・、追跡するのはいいんですが・・・、定員オーバーっすよ・・・。まずそれを何とかしてくれないと発進もできないっすよ。」

「えっ!?」

後部座席を振り返ると、

「青葉ちゃんやっほ~。」

こちらに笑顔で手をヒラヒラしてる愛宕、高雄、高雄型で一番妹の4番艦の鳥海、ここまではまだいい、4人乗車可能のタクシーだからギリギリ定員の許容である、問題はさらにその先後部ガラス越しに見える外のトランクだ、駆逐艦が固まるようにして4~5人座っているではないか。

「ひっ、ひいいいいいいい!!!」

慌てて青葉が全員を車外に連れ出し、

「皆さん何やってるんですかっ!!」

さすがの青葉もキレる。

「いいですかっ!わたしは今からあの2人を追跡、尾行するんですよ!こんな大人数じゃ話になりませんよ!、尾行は青葉1人で行ってきますから皆さんはおとなしく留守番するなり何なりしててください!」

一気にまくし立てると、

「ええ~、青葉だけずるいわ!暁たちも先生と摩耶ちゃんのデート見てみたいわ。」

「ウラー!!」

暁と響がずずいと前に出てくる。

それを口火に他の艦娘達も口々に「わたしも」「わたしも」と騒ぎ出す。

 

で「仕方ないですね・・・」とこのまま問答をしてても埒があかないことを悟った青葉がタクシー定員の3人だけ同行してもらってけっこうですというとこで話がまとまり、

 

「「「じゃーん、けーん、ぽんっ!」」」

 

結果、摩耶の姉妹艦次女の愛宕、THE・レディーの暁・鎮守府バブみ四天王霞ママが勝ち残り、先生と摩耶のタクシーが出発して15分、ようやく青葉のタクシーも出発した。

 

 

横須賀中央駅の駅前はいわゆる地方の栄えた街といった感じだが、ひと通りのお店はそろっている。

「さあ、なかじーどこ行こっか?」

タクシーから外に出て「ん~」と両手で大きく伸びをした摩耶が聞いてくる。時刻は10時30分だ。

「お昼にはまださすがに早いよな・・・。まあ別に今日はここに行くって目的はないし、とりあえずこの辺ぶらついてみよっか。」

「おっけ~。」

駅からとりあえず海の方に向かえばなんなりあるんじゃないかと思いながらブラブラ歩き出す。

天気もよく街を散策するにはもってこいの陽気だ。

 

 

「2人はどこっ!?」

遅れることおよそ15分、青葉のタクシーも到着し、中から慌しく4人が飛び出した。

「今日は休日だしずいぶん人が多いわねぇ・・・。」

ほうっと愛宕がため息をもらす。

「ふっふっふ・・・。」

「どうしたの青葉ちゃん?、どこか2人が行く心あたりでもあるの?」

「愛宕さん愚問ですね・・・、この青葉の長年の取材で培われたジャーナリストの勘を見くびってもらっては困ります。先生も摩耶さんも普段デート慣れしていない人達。おそらくちゃんとしたデートコースなんて計画はしていない行き当たりばったりの散策になると思われます。そういうカップルというのはけっきょくその街の観光スポットに自然と行き着いてしまうものなのです!」

「つまり2人はどこに行くのよ?」

ピンクを基調としたボーダー柄のロンTに黒のミニスカート、白のニーハイをはいたどこから見てもハイエースされておかしくない霞が青葉にたずねる。

「霞さんその尾行にまったくふさわしくない格好はどうにかならなかったんですか・・・。」

青葉の全身から力が抜けそうになる、

「いいじゃないの!あたしだってたまにはお洒落したいんだから!それより2人の行き先よ。」

「ここですっ!」

青葉がジャケットの胸ポケットから横須賀観光マップと書かれたパンフレットを取り出し地図の一角に指でぐるぐる円を描く、

「私達の大先輩戦艦三笠が保存されている三笠公園。そしてその近くにあるショッピングとグルメのよこすかポートマーケットです!」

そう断言する青葉であったが、その予想は大当たりだった。

 

 

駅から海のほうへ歩いていくと国道16号線に行き当たる、その国道沿いを歩き右手に横須賀市役所を見ながらさらに進んで行くとよこすか海岸通だ。

「なかじー、波の音だ!」

普段波の音なんて耳にタコができるぐらい聞いているはずなのに海に近づいていくと摩耶のテンションが一気にあがった。艦娘の習慣みたいなものなのだろうか?。

「三笠公園だー!来たかったんだよここ!」

「来たことないの?」

「実はないんだよな、これが。天龍とこっち来る時はいっつも『ドブ板通り』っていうとこにいってスカジャンとかアメカジの服屋見て回るぐらいだし、観光地って感じのところは行かないんだ。でもドブ板もおもしろいとこだし後で連れてってやるぜ!」

早く、早くと時間はまだまだたっぷりあるのに摩耶が僕の腕を引っ張って公園の中にどんどん入っていく。

「ちょ、摩耶!落ち着け!」

 

三笠公園、その名のとおり日露戦争などで東郷平八郎司令長官率いる日本海軍の旗艦を務めた戦艦三笠が保存されている公園である。

三笠は明治以降我が国で建造された中で唯一現存している軍艦である。その三笠を中心として大きな公園となっており市民の憩いの場、また他府県から来た人間の観光スポットして人気である。

 

「やっぱりかっこいいな~・・・・。」

摩耶に引っ張られて公園の中を小走りに進むと目の前の視界がパアッと開けて戦艦三笠がその雄姿を現した。

その三笠を見て摩耶は目をキラキラさせている。とりあえず口あいてるから閉じなさい、口。

長門や扶桑、山城といった戦艦の写真は僕も図書館などで見たことがあるが、そういった近代的な戦艦に比べると小柄で旧式艦船という印象を持ってしまう。

しかし色んな人たちの苦労によってピカピカに保存されているその白に近いグレーの艦体はとても格好いい、摩耶が見とれてしまうのも分かる気がする。

「こんなちっこい艦体であのバルチック艦隊と殴りあったってすげーよな!あたしも見習いてーよ!」

三笠の艦内は現在記念館として一般にも公開されている。

中には東郷司令官の公室や参謀長室なども再現されているらしい。

「先生!中!中見よ!」

また摩耶が僕の腕を引っ張る。

しゃあないなぁ、大人2人の切符を買うため財布を取り出す。

 

 

一方追跡班は、

 

「青葉~、暑い~、ジュース~。」

「暁、あんたレディなんでしょ!ちょっとは我慢しなさいったら!」

「だって暑いんだもん!あっ、あっちにソフトクリーム売ってるわよ!」

暁が売店を指差すとたしなめていた霞と2人で「わーい」と走っていった。

 

「こう暑いと胸元に汗がたまるのよね~。」

愛宕がその自前の巨砲で生地がパンパンに張っているTシャツの胸元の襟をつかんでパタパタと空気を取り込む、周りの男性連中に見られまくりながら。ここまで注目を集めるわがままボディ愛宕、もはや尾行も何もあったものではない。

 

青葉は、なぜこの3人を同行させてしまったのか・・・、と1時間ほど前の自分を殴りたい衝動を抑えつつ先生と摩耶を探すため辺りを見渡すのが精一杯だった。

 

 

2人のデートはまだまだ続く。

 

 

 

 

 




摩耶様とのデート編、2話で終わりませんでした・・・。
艦娘の服は完全に僕の好みです。
横須賀の観光地については横須賀市のHPより引用させてもらっています。
僕は大阪人なのですがいつか横須賀観光してみたいものですね。
今回もお付き合い有難うございます。
ではまたデート編其の3で。

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