先生が鎮守府に着任しました~おバカんむすとの日常~ 作:おでんだいこん
国家最高機密として横須賀鎮守府に籍を置いている艦娘達はこの敷地内から一歩も外に出れない、完全に外部と隔離された強制的な生活をしいられているのだろうか?。
赴任してきた時そんな疑問をふと持ってしまった。
遊びたい盛りの年頃の女の子がこの軍港と呼ばれる施設内で閉じ込められてしまうのはあまりにも可哀相だ、街に出て服やアクセサリー、可愛い小物雑貨とかの女の子らしい買い物だってしたいだろうし、美味しい甘味を提供してくれる店があれば行ってみたいと思うのは当然だろう。
僕自身も大阪から出てきて横須賀の街なんてのはまったく土地勘のない場所なので、公休と呼ばれる日曜日になると鎮守府の外に遊びに行くようにしている、休みの日まで鎮守府にこもっていると自分がその時その時の世間の流行や時勢から取り残されてしまうようなちょっと恐ろしい気分にとらわれてしまうからだ。
自分はこうやって自由に街に繰り出すことができるが、もし艦娘達は僕の想像通りに外と完全シャットアウトされているのならたまらないだろうなぁと何とも辛い気持ちになってしまう。
だがとある公休日、いつもにように街をぶらついているとなんと艦娘は普通にいた。
もちろん普段鎮守府で見ている時のようにセーラー服や艤装の類は身に着けていない、完全に私服姿で。
「今日は那珂ちゃん化粧品屋さんいきたいんだ~。」
見慣れた二つのお団子頭、薄ピンクの半そでのカーディガンにフリルの付いた白のミニスカート。
「那珂ちゃん、また新しい口紅でも買うの?。」
デニム生地の長袖シャツに若干黄みがかったスカート姿のちょっと物静かそうなリンとした感じの子が聞く、
「ううん、最近日差しがきつくなってきてお肌が荒れちゃってるからパック買うの!。」
「あぁ~、たしかに最近あっついし、海の照り返しもキツイよね~。提督に言って那珂も出撃時間帯夜戦にしてもらったらいいじゃん?。」
ツーサイドアップの髪型、『夜戦』と背中に大きく書かれた黒の半そでパーカーにジーパン。
やっぱり川内型3姉妹だ。
「こんにちわ!」
大きめの声で声をかける。
「うわっ!なかじ~じゃん、やっほー。」
川内が嬉しそうにブンブンと手を振ってくれる。
「先生、こんにちわ。」
しっかりものの2番艦神通は礼儀正しく頭を下げる。
「やだー!私服見られるの恥ずかしいよ~・・・」
那珂ちゃんはグニャグニャと身悶えていて正直気持ち悪い。
「みんな何してんの?」
街で艦娘に遭遇するなんて思ってもみなかった、それも私たち軍艦です!といった仰々しい感じではなく、どこにでもいる女学生のような雰囲気で。
「えっ?昨日はお小遣い日だったから、みんなで買い物だよ。」
艦娘達は毎月20日にお小遣いの支給日が設けてられている。
「そうなんか、ていうか普通に街に出てるんやな。外で艦娘と会うの初めてやからビックリしたよ。」
僕がそういうと神通が慌てた感じで口元に人差し指をあて小声で、
「先生、艦娘とかそういう言葉は駄目ですよ・・・。」
「こりゃ失敬。」
彼女達はあくまで外にいる時は普通の女の子として振舞わなければならないのだ。
「いやぁ、何か安心したな。」
「何が?」
「外には出てはいけない外部と接触してはいけない、みたいな規則があると思っててちょっと心配してたからさ。」
そういうとケラケラ笑いながら川内が言う、
「そりゃああたし達だってずっと同じとこにいるのはキツイよ~。大丈夫だよ、ちゃんと鎮守府に外出許可申請して、艤装とか制服じゃない私服で外出すればオッケーていうルールだからさ。
ただ外で自分達が艦娘であるってこととか身の上の話しちゃうとマズイんだよ、一応あたし達国家機密だからさ。
もし誰かが外の人に艦娘ってことがバレたりしゃべっちゃったりしたら、外出は禁止になっちゃうだろうし、それ以上に海軍上層部を巻き込んだ大事になっちゃうからね。だから先生も街でそのことしゃべっちゃだめだよ。」
「もし、しゃべったらどうなるかな?」
ちょっとイタズラっぽく聞いてみると、
「先生・・・、国に消されるよ。」
一瞬で川内から笑顔が消え真顔になったのにゾッとする。
「じゃ~ね~。」
3人は笑顔で僕に手を振って街の中へと消えていった。
このように艦娘達は自分の素性を人前でだしてはいけないという鉄のルールはあるもののちゃんと外出しているのだ。
おそらく街行く人々はまさかこのキャッキャはしゃぎながら歩いている女の子達が海軍所属の軍艦だとは思いもしないことだろう、僕だって鎮守府で先生をしていなかったらまず気づくことはない、意外と国家機密は身近なところに転がっているものだ、そう考えるとちょっとおかしかった。
--------------- 鎮守府食堂内
「さて明日は公休日か・・・、何しよっかな?」
鯖の味噌煮定食を食べながら手帳のページをぱらぱらめくりながら呟く。
正直言おう、友達や知り合いがまったくいない横須賀で僕の私生活は完全にボッチだ。
街の映画館やレストランも試しに1人で入ってみたのだが、休日リア充や家族連れで賑わっている雰囲気は涙が出そうになるくらいに僕の孤独を引き立て、寂しくて死にそうだった、ていうか夜寝るときに枕を濡らした。
「何ブツブツいってんだよ!なかじーキモイぞ!」
僕の隣に定食をのせたお盆を乱暴にドンっと置いて1人の艦娘が座ってきた。
ショートボブ、なかなか露出の高いセーラー服、乱暴な雰囲気、高雄型重巡洋艦3番艦摩耶だ。
「いっちょまえに手帳なんか見やがってよ、・・・てなんも予定書いてないじゃねーか!真っ白じゃん!なかじー寂しいな~お前。」
遠慮なくズバズバ言ってくる。そう彼女は根はとても正直な良い子だと思うのだが男勝りな性格が強すぎるせいで大変口が悪い、駆逐艦の子の中には『番長』と呼んでいる子もいるほどだ。
「うるさいな~、勝手に人の手帳覗くなよ。」
彼女に痛い所をつかれた僕はちょっと不機嫌そうに手帳を内ポケットにしまった。
「わりーわりー、別に馬鹿にしようと思ったわけじゃないよ。そうだ、お詫びにこれやるよ!」
僕の小鉢にサラダに付いているトマトを入れてきた。
「お前・・・、トマト嫌いなだけやろ・・・。」
「バレた?」
肩をすくめながらにししと笑っている。
こういう時の表情は可愛いのになぁ。
ちなみに私見ではあるが鎮守府内で黙ってればこの子美人なのにランクはこの摩耶と夜戦馬鹿一代川内が双璧だと思っている。
「で、手帳見ながら何考え込んでたんだよ?」
鯖の骨を実に不器用にとりながら聞いてくる、いるよな魚の小骨とるの苦手な人。
「ん?明日公休日やろ?どこ行こうかなぁって。どっか1人でも気楽に遊べるとこ知らん?」
「1人でか~・・・、ああっ!もうっ、クソがっ!!」
鯖の身がどんどんグチャグチャになっていた。
「あたし普段街には鳥海とか、天龍とか誰か一緒に遊びに行くからなぁ。」
「ですよね~・・・。ハァ・・・。」
「なかじーこの辺に友達いないんだったらさ、誰か艦娘誘って遊びに行ったらいいじゃんかよ。」
「若い女の子と遊んだことあんまりないから自信ないんだよな~・・・。」
「どこでもいいじゃねーか、駆逐艦の連中お菓子屋に連れてくとか。」
「誘拐してると思われない?やーねーあれが有名なロリコンよ!とか言われない?」
「知るか、じゃあ戦艦の姐さん達は?それだったらロリコンじゃねえし。」
「みんな綺麗だし、緊張する・・・。」
「う~ん、なら軽巡は?」
「馬鹿が多いから疲れそう・・・。」
「なかじー、龍田あたりに殺されるぞ・・・。じゃあいっそ鎌倉あたりに1人でプチ旅行とかよくね?」
「次の日授業あるし疲れるのはちょっと・・・。」
「お前は人見知りのOLかっ!!!!」
とうとう摩耶が怒った。
ていうかこの時代背景でOLって言葉使ったらいかんでしょ。
「よくそんなウジウジしてて先生なんかやってられんな~。」
そう言うと摩耶が箸を持ったままう~んと唸りだした、何やら思案している様子だ。そして10秒ほど考え込んだ後、僕の方を見ながら、
「仕方ない。あたしが明日付き合ってやるよ・・・。」
「えっ?」
「えっ?じゃねえよ。ウジウジウジウジ見てらんねえから、あたしが明日なかじーと一緒に出かけてやるって言ってんだ。ありがたく思えよっ!」
「ほんまに、いいの・・・?」
「・・・いいよ。」
そのまま鯖の味噌煮をガツガツ食べだした。
「そのかわり晩飯ぐらいはおごれよな。」
こうして明日僕はボッチではなくなった。良かった~。
----------------- 艦娘棟重巡洋艦階
「~~~~♪」
摩耶が廊下を歩きながら鼻歌を口ずさんでいる。
「あら、摩耶ちゃんご機嫌ね。」
向かいから歩いてきたのは姉である2番艦の愛宕。
「そう?別になんでもね~よ。」
惚けるように摩耶。
「鼻歌歌ってるなんてめずらしいから。何かいいことあったんじゃないの?」
「べっ、別に何にもね~よ。」
「分かった!。」
愛宕が大きな胸の前で両手をパンと叩く。
「トマト!とうとう食べれるようになったのね!!」
「あたしゃ子供かっ!」
「え~違うの~。ねえ何々?お姉ちゃんに教えてよ~。」
「ほんとに何にもねえって。あっ、あたし明日早いから寝るよっ!おやすみっ!」
摩耶は愛宕から逃げるように自分の部屋に消えていった。
も~と言いながら廊下にたたずんでいる愛宕の背後からひょこりと1人の艦娘が、
「愛宕さん、愛宕さん。」
振り返るとそこに青葉型重巡洋艦1番艦青葉がいた。
「あら青葉ちゃん、どうしたの?」
「青葉見ちゃいました・・・。」
「・・・?何を見たの?」
青葉がスッと愛宕の耳元に顔を寄せ小さな声で、
「摩耶さんなんですが、実は明日なかじー先生と街にデートに行かれるそうですよ。」
「えっ?ほんとなの?」
「はい、先ほど食堂でお2人が話されているの青葉聞いちゃいました。」
「へ~、そうなのね。青葉ちゃんわざわざ教えてくれてありがとう、でもこの事は他の子達には内緒にしてあげてね、摩耶ちゃん恥ずかしがり屋さんだから。」
「了解です!」
青葉が仰々しく敬礼と笑顔を作る。
ではでは~とそのまま姿を消した。
愛宕は口元に笑みを浮かべ、
「摩耶ちゃん、やりますねぇ・・・。」
摩耶様とデートしたい。
僕の願望がもろにでております、すいません。
で、気合い!入れて!話を考えていたらとても1話(自分の中では5000~6000文字を目安にしています)では収まりきらないので次回に続きます。
読んでいただき本当に有難うございます。