先生が鎮守府に着任しました~おバカんむすとの日常~   作:おでんだいこん

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先生、食堂に行く。

キーン、コーン、カーン、コーン

 

鎮守府内に正午を告げるチャイムが鳴り響く。

「はい!午前の授業はここまで!みんなお昼やぞ~。」

「ごっはん~ごっはん~♪」

「今日はカレーの日だわ。」

 

皆机の引き出しに教科書をしまってドタバタと教室から駆け出していく。

 

「先生は今日は学食なのですか?。」

「ん?、もちろん。近くの定食屋で売ってる弁当より間宮さんの料理の方が美味しいからね。」

「なのです。」

「ほら電ちゃんも行かないと。みんなもう行っちゃってるよ。」

「はわわわ、電『ちゃん』て呼んでくれたのです。みんな待つのです~。」

 

そういうと電ちゃんも慌てて教室から出て行った。

先日鈴谷達が開いてくれた歓迎会で『さん』付けよりも『ちゃん』付けや呼び捨ての方がもっと皆とコミュニケーションがとりやすくなると教えてもらってから意識的に呼び方を変えているのだが、そうしてからのほうが気持ち駆逐艦の子達がなついてくれているような気がする。

 

鎮守府内には艦娘達の食事をまかなう食堂がある。

自分でお弁当を用意する子や、購買で菓子パンやサンドイッチを買って食べている子もなかにはいるが、ほとんどの子達は食堂で食事をしている。

 

食堂で料理を作っているのももちろん艦娘で給糧艦と呼ばれる艦種の間宮さんと伊良湖さんで、たまに鳳翔さんが手伝っている。

この鎮守府に赴任した当初は近所の定食屋などで食事をしていたのだが、毎日となるとなかなか財布にやさしくなかった。

トホホ・・・、と空っぽの財布をパタパタしていると、

「先生も食堂利用されてはいかがですか?。」

大淀さんが進言してくれた。

もちろん僕が食べてもまったく問題はないらしく試しに利用してみた。

するとこれが美味くて安い。なんやもっとはよ教えてくれよ、と思ってしまったがおかげで僕の食事事情もだいぶ落ち着いた。僕のように給料をもらっている者はお金を払う必要があるが、艦娘達は当然お金を払う必要はない。

一番大きいのは、食堂にいるとそれまでなかなか話せないでいた戦艦や空母といった色々な艦娘と話しができることだ。

 

昨日は、

 

「赤城さん、今日のA定食は間宮ラーメンとチャーハンのセットよ。さすがに気分が高揚します。」

髪をサイドテールでまとめた青い袴姿の加賀さん、正規空母の艦娘だ。

「ほんとっ!?嬉しいですね。」

加賀さんの横でウフフと笑っているのは長い黒髪赤い袴の正規空母赤城さん。

配膳を受け取るカウンターで2人が楽しそうに談笑している。

2人とも鎮守府の主力空母ということもあって普段は外洋に出撃していることが多いらしい。それはそれはさぞ戦艦の様に頑強な子達なんだろうな、と思っていたのだがどうして日本美人のたたずまいじゃないか。

やっぱり見た目が大人な艦娘には『さん』付けになっちゃうな。

 

「お待たせです。」

間宮さんが2人の分を用意する。

 

驚いた・・・。

うん、とっても驚いた。

 

ラーメンの丼はもはやバケツだ、というかバケツ。

チャーハンは山。よく山盛りという表現を聞くが、これは山。

 

「やりました。」

お前はギャル○根か?

 

「すごい量やな・・・。」

僕が凝視していると、

「あら先生こんにちわ。ん?、この量ですか。」

コク、コクと無言で頷く。

「私達正規空母は燃料やボーキサイトの消費が激しいのでこれくらい食べてちょうどなんですよ。」

赤城さんが教えてくれる。

「食べ切れるんですか?。」

「もちろんよ。ご心配なく。」

 

じゃあせっかくだし一緒のテーブルで食べましょうと誘ってもらった。

 

「「いただきます。」」

 

2人のチャーハンが一人前のお茶碗だとしたら、僕の皿に盛られたチャーハンなんてまるでお猪口である。

 

「間宮ラーメンはみんなの人気メニューなんですよ。もちろん私も加賀さんも大好きなんです。」

「そうなんですか。」

言われてスープを一口。

「美味っ!!。」

見た目はオーソドックスな醤油ラーメンなのだが、鶏がらの旨み、鰹出汁のいい香り。

そのスープが中太のちぢれ麺にからんで最高である。

いやぁ美味しい。

僕が感動しているのを嬉しそうに眺めていた赤城さんが、

「じゃあ私達もいただきましょう。」

「ええ。」

 

そこからは圧巻であった。

ラーメンやチャーハンが文字通り消えるのだ、それもとくに慌てて食べている様子のない2人の口の中にどんどんどんどん。

時折談笑しながら食べているところがまた恐ろしい。

 

あっけにとられてしばしその様子を眺めていたが自分のラーメンがのびてしまうので慌てて僕も食べだす。

が普通の一人前でもなかなかのボリュームがあるラーメンセットは2人のようには減っていかない。

「鎮守府にはもう馴染まれました?。」

赤城さんが聞いてくる。

「そうですね・・・。まだ日にちが浅いのもありますが、こういう女性だらけの職場というのが経験したことないもので戸惑いはまだちょっとありますね。」

「大丈夫です。皆良い子達ばかりですし、先生の授業は分かりやすくて楽しいって入渠ドックで駆逐艦の子達が話してましたよ。ファイトです。」

こういう第三者から教えてもらう評判と言うのは本当に嬉しい。

「ほんまですか!?、それは嬉しいなぁ。じゃあ今日の昼からの授業も頑張らないと!」

「はいっ!」

赤城さんがニコッと微笑んでくれた時には2人の料理が消えていた。

 

嘘やん・・・。

 

そしてこの食堂は金曜日が面白い。

海軍らしく毎週金曜日の昼食はカレーと決まっているのだが、この日だけは間宮さん伊良湖さんの2人にも休んでもらおうということで、カレー班当番の艦娘達が作ることになっているのだ。

ちなみに初めての金曜日、先々週はニ航戦の飛龍さんと蒼龍さん、五航戦の翔鶴さんと瑞鶴さんの正規空母の4人が作ったチキンカレー、トロトロに煮込まれたチキンがとても美味しかった。

先週は朝潮型駆逐艦の子達が作った王道のビーフカレー。

駆逐艦らしいフルーツがたくさん使われているちょっと甘口のカレーだったがこれもたいへん美味しかった。

 

「先生は色も白くて生っちょろいからもっとしっかり食べなさいな!」

と霞ちゃんに無理やり大盛りにされてしまった。

ママー!!。

 

で3回目の金曜日が今日である。

 

今日はどんな艦娘が作ってくれたカレーかなぁ。

ウキウキしながら食堂の前まで来ると何やら入り口周辺に人だかりができていて騒がしい。

 

「やばいじゃ~ん。」

鈴谷が苦笑いしながら天を仰ぐ。

「死人がでるかも知れないクマ・・・。」

軽巡洋艦の球磨ちゃんが呟くと、

「ピャー。」

阿賀野型軽巡洋艦末っ子の酒匂が奇声をあげる。

一体何が起こっているのか?、とりあえず事情がよく分からないので鈴谷に尋ねてみる。

「どうした?どうした?」

「あっ、なかじ~。」

「何かあったんか?」

「これだよ、これ~。」

鈴谷がちょいちょいと指をさす。

食堂入り口横にはその日の定食やメニューが貼り出される黒板がある、今日は金曜日なのでメニューではなくカレー担当艦娘の名前が貼られるのだ、どうも鈴谷が指をさしているのはその黒板のようだ。

 

本日のカレー担当:金剛型戦艦

 

「えっ?これが何か問題でもあるの・・・?」

いまいちピンとこない。

「そっか、なかじーはまだ知らないか。金剛型戦艦はぜんぶで4人なんだけどさ、その中に比叡さんってのがいてね・・・。」

「うん。」

「ある意味料理の鉄人なのよ・・・。」

「料理の鉄人ってことは上手なんじゃないのか?」

「なかじー、『あ・る・意・味』って言ったじゃん。」

「不味いのか?下手なのか?」

「う~ん一言では言いにくいんだよね、独創的というか個性的というか・・・。

こないだ比叡さんのカレーを食べた青葉がさ・・・、

 

『そういえばっ!風の噂で政府が生物兵器なるものを開発していると聞いたことがありますが比叡さんのカレーと政府に癒着のようなものを感じますねっ!これはジャーナリスト魂が燃えますよっ!』

 

て言って本当取材に行っちゃったんだけど、そのまま行方不明なのよね。」

「もはやただの事件やんか・・・。」

「あ~あ、今日は明石さんの売店のパンにしよっかな~。なかじーも無理して食べちゃダメだよ~。」

そう言うと鈴谷はヒラヒラ手を振りながら売店の方へ行ってしまった。

 

そういう含みのある言われ方すると逆に気になってしまうじゃないか、比叡カレー。

 

さてどうしたものか?と思案していると突然食堂の中から「ボンっ!」と小さな爆発音のようなものが聞こえてきた。

続いて、

 

「ひえ~~~~~~~!」

「oh!比叡大丈夫デスか~!」

と悲鳴が。

 

入り口付近にいた駆逐艦達は完全におびえきってしまっている。

まいったな、このままじゃあ誰も中に入らない。

仕方ない、ここは先生として僕が先陣をきろうじゃないか!。

 

食堂の中に入ると先ほどの小爆発でカレーが飛び散ったのだろうかメガネをかけたショートボブの艦娘とすらっと伸びた黒髪の美しい艦娘が雑巾を持ってあちこち拭いているところだった。

 

「先生いらっしゃいませ!」

ショートボブの子がパッと顔をあげる、金剛型戦艦4番艦霧島だ。

「ごめんなさいすぐテーブル綺麗にしますね。」

おしとやかなお嬢様のような印象を受けるのは3番艦の榛名。

2人は慌しくテーブルや椅子を綺麗に並べなおしている、どうやら昼のチャイムに気づいてなかったのだろうか?。

後の2人はとぐるり見渡すと、厨房にいた。

 

「比叡!もうガスの栓は問題ナッシングデスか~?」

茶色のロングヘアー、特徴的なしゃべり方、一番艦の金剛だ。

「はい!もう大丈夫です、お姉さま!」

このボーイッシュな見た目の艦娘こそ今まさにみんなを恐怖のどん底に陥れている元凶2番艦比叡である。

 

「もうカレーの方は出来てるんですか・・・?」

おそるおそる聞いてみる。

 

「もちろんオッケーデース!金剛型特製のスープカリーネ!!」

金剛は自信満々にVサインをしてウインクまでしてくる。あれ、意外と大丈夫なんじゃないか?。

「よかった、実はお腹ぺこぺこなんですよ。さっそく1人前お願いできますか?」

「はーい!比叡も、気合い!いれて!お手伝いしました!どうぞ!!。」

 

白いやや深めのカレー皿にご飯、具材がトロトロに溶け込んでいるのであろうまさにスープのようなカレールーが盛られる。

正直見た目はとても美味しそうなのだが。

とりあえずカレーとサラダをのせたお盆を持って最近自分の場所になりつつあるテーブルに移動する。すると廊下から不安そうに様子を伺っていた他の子達が僕の周りに集まってきた。

 

「なかじー先生本当に食べるでちか・・・?」

ゴーヤが不安そうに聞いてくる。

「ヤバイと思ったらここに吐くのよ。」

雷ちゃんがバケツを持ってきてくれた。

ふむ・・・。

 

「みんな、ちょっと聞いてくれるかな。」

僕は少し神妙な表情を作った。

「このカレーで皆はさっきからずいぶん騒いでる様子だけど、作ってくれた金剛型の人達に失礼だとは思わないかい?。たしかに以前に失敗したカレーを作ってしまったことがあるのかもしれないけど、それをいつまでもああだこうだと言うのけっして感心できないし、今日もこうやってみんなのために一生懸命カレーを作ってくれてるんじゃないか。

それを遠巻きに騒いだり、様子を伺うようなことをするのはいけないことだと僕は思う。」

そう言うと先ほどまではしゃぎながら騒いでいたみんなが静かになった。

 

「なかじーティーチャー・・・。」

金剛は嬉しそうに微笑んでいる。

 

「先生・・・、みんな・・・ごめんでち・・・」

「あたしなんかバケツまで持ってきて・・・、ごめんなさい!」

 

ゴーヤと雷をはじめとしてみんな反省してくれたのだろうか、全員が金剛型4姉妹にむかってペコリと頭を下げる。

 

「さあ!お昼休みは短いんだし、みんなも早く食事の準備をして一緒に『いただきます』しよう!」

 

食堂にいた50人近い艦娘達が配膳カウンターに並び、皿にカレーをよそい、思い思いのテーブルについた。

 

 

 

「「「「「「いただきま~す!!!!!」」」」」

 

 

 

---------------------------- 横須賀総合病院 救急入院棟

 

 

 

どうやってここまで運ばれたのかまったく記憶がない。

なんでも僕は丸2日意識が戻らなかったそうだ。意識が戻った今でも少し頭がぼんやりしている。

 

悪夢のような光景、いや地獄絵図だった・・・。

 

あのカレーをみんなで一斉に一口頬張った瞬間、

 

「ギャっ!!」

と短い悲鳴をあげて駆逐艦・潜水艦はその場で泡を吹いて卒倒した。

 

戦艦や空母の大型艦達はいきなり卒倒することはなかったが、雷の持ってきたバケツの争奪戦となった。

 

水を大量にかきこむ者、食堂南端にある便所に駆け出す者、何かを悟ったのか念仏を唱えだす者、自分の吐血で「ひえい」とダイイングメッセージを書き残す者。

 

僕は椅子ごと真後ろに倒れ昏倒した。

 

霧島は海軍省に緊急電文を発信し、榛名は倒れた駆逐艦の看護をし、金剛は比叡に「何入れたデース!?」と問い詰めていた。

 

比叡はいつまでもいつまでも

 

「ひえーーーーー、ひえーーーーー、ひえーーーーー」と泣き叫び続け、遠くの方から聞こえてくる救急車のサイレンの音と地獄のハーモニーを奏でていた。

 

 

バイオテロの疑い有りとして横須賀鎮守府を中心とした半径約2kmの封鎖が解除されたのはそれから2週間後のことであった。

 

ちなみに鈴谷が行方不明と言っていた重巡洋艦の青葉は僕の隣の病室にいた。

 

 

 

 

 

 




早くも比叡カレーにいってしまいました・・・。
もはや艦これ二次創作の王道定番ネタだけに逆に難しかったですね。
ご笑覧いただければ幸いです。

読んでいただきありがとうございます。
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ではまた第7話で。

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