先生が鎮守府に着任しました~おバカんむすとの日常~   作:おでんだいこん

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先生、夜戦(歓迎会)しよっ!!其の2

居酒屋鳳翔で始まった6人での飲み会。

乾杯して最初の生ビールを僕と隼鷹がほぼ同時に飲み干した。

 

「先生!いけるじゃ~ん。」

「やるぅ~。」

「いけるやん!」

 

本来ならもう少しゆっくり味わいながら飲むべきなのだろうが、喉が渇いていたこともあったしなによりも久々のビールの美味いこと美味いこと。

実家に居た時は親父も愛飲している焼酎とは名ばかりの怪しい安っいアルコール飲料で毎晩酔っ払っていたものだ。

今考えてもあの焼酎はなんだったのだろう。

一度親父に聞いたことがある。

 

「おとん。この焼酎てほんものの焼酎なんかな?」

「はあ?どういうことや。」

「いやお店とかで出る焼酎ってさ、もっとこう風味とか味とかあるもんなんやろ?。今飲んでるこれって風味とか味っていうよりもただのアルコールって感じやんか。

もはや酒として流通しててええやつなんかなって思ってさ。」

「知らん。でもな今時2円で1升瓶はなかなか買えんぞ!。」

「その安いとこが逆に怖いやん。体にええかどうかもわからんのに・・・。」

僕がブチブチくだ巻きながら飲んでいるといきなり親父は、

 

「そない文句言うんやったら飲むなっ!」

 

怒ってしまった。

そりゃそうだ、気分良く酒を飲んでる目の前で難癖ばかり言われては酒も不味くなってしまう。

僕も酒飲みの端くれとしてずいぶんなことをしてしまったなと反省した。

 

「ごめんごめん、たしかに家で晩酌するなら安酒で十分よな。」

「せやで。それにお父ちゃんこの焼酎もう10年ぐらい飲んでるけどな、体は全然なんともないんやで!。」

 

なるほど酒は昔から百薬の長なんて言われるが、そのとおりかも知れない。過度の飲酒は論外だが、適量ならば食欲は増進されるし、血液の流れも促進されて体が温まる、そしてなにより大変心地が良くなるものだ。

 

「昔の人は上手いこと言いはったなぁ。」

「ほんまやで!酒はどんな名人名医が調合した薬より効きよるで!、まあ2年ぐらい前からお父ちゃんの小便にいっつも血混ざってんねんけどな!」

 

(アカン・・・・)

まだそんな昔のことではないがビールを飲みながら親父とのやりとりを懐かしく思い出してしまった。

 

「先生次は何飲むの~?」

テーブルの向かいから那珂ちゃんが聞いてくる。

「そうやな、次もビールもらおうかな。」

「了解!」

 

那珂ちゃんが注文をしようと板場の方を振り返るとちょうど鳳翔さんが最初の料理を持ってきてくれた。

 

「お待たせしてすみません。

まずは枝豆と裏の土手で採れたつくしのおひたしですよ。」

 

つくし!。

ええやん!。

春ですなぁ。

 

最近では行かなくなったが、幼少の頃はよく母に連れられて近所の土手に生えているつくしを採りに行ったなぁ。母の作るつくしの佃煮は絶品だった。

 

「先生おかわりされますか?」

「はい、もう一杯ビールください。」

「鳳翔さんあたし熱燗2合ね」

「は~い。」

 

とたとたと板場に戻っていく。

 

僕は外で飲むとどうもこういうタイミングが多い。

ついついお酒が美味しくて料理が来る前に飲みきってしまう、で料理が届いたタイミングでおかわりを頼むのだが、次の飲み物が来るまでお預けを食らってしまうのだ。

 

「・・・・ム~、最近夜戦が少なくてつまんないのよねぇ~。」

 

川内が箸をクルクルしながら話し出す。

 

「ま~た、川内っちの夜戦病でた。」

「うちら空母にはわからんけどそんなに夜戦っていいもんなんかなぁ。明るいお日さんの下で海に出てるほうが気持ちええけどなぁ。」

 

「うるさいっ!夜はいいものなの、夜は!」

そう言うと川内も残っていたビールをグイと飲み干した。

 

「那っ珂ちゃんは昼のライブも夜のライブも好きだから、川内ちゃんに着いてくよ~。」

「もう!可愛い妹なんだから!」

そういうと川内は那珂ちゃんを抱きしめ、頭をよしよししている。仲いいなぁ。

 

「そういえばここ数日夜の10時過ぎぐらいになると、どこか遠くの方から毎晩『夜戦~!』て聞こえてくるのってもしかして・・・。」

 

「「「それ川内(っち)(ちゃん)」」」

 

「・・・やっぱり。川内さん・・・あの・・・。」

那珂ちゃんの頭をよしよししている川内がこちらを見る。

「・・・何よ。」

「実はあの夜戦遠吠え一部の子達が怖がってるんですよね。

オバケなのです~!とか、フフ・・・怖い・・・とか、もう少し音量下げてもらえませんかねぇ。」

そう言うと川内は少し視線を落とし、

「分かったわ。夜戦が少なくなるとついつい叫んじゃうのよ、ごめんねなかじー。」

 

俺はツレか。

 

「てかさ!なに天龍普通に怖がってんのよ!あんだけ普段まわりに怖いか?怖いか?言ってるくせに!」

たしかに天龍って情緒不安定なとこあるよな、わかる、うん。

 

「ねえ先生ってさ、みんなに「さん」付けしてるよね。もっと呼び捨てとか「ちゃん」付けでいいんじゃないの?。」

「ええ、それは難しいですよ。それにまだ鎮守府にいる皆さん全員ともお話できてないのに。」

「え~、いいじゃんいいじゃん。」

「ちょっと恥ずかしいですねぇ。」

「絶対そっちの方がみんなと仲良くなれるって!」

鈴谷がずいぶんと食いついてくる。

 

たしかに女の子だけの環境だと、そういうコミュニケーションのとり方のほうが円滑にいくのだろうか・・・。

でも大和さんとか大淀さんを「ちゃん」で呼ぶのは抵抗あるなぁ。駆逐艦の子達ならいけそうやけど。

 

「ほらほら~、試しに龍驤を呼んでみてあげて!」

「まじ?言うの?。」

「ほら~、ニッシッシ。」

イタズラっぽく鈴谷が笑う。

「コホン、えっ、え~と・・・。龍驤・・・ちゃん・・・。」

恥ずかしい。

 

「・・・なんかムカつくわ。」

 

「・・・すまんな。」

 

枝豆をつまみつつみんなと喋っているとおかわりの飲み物と新しい料理がきた。

 

「はい先生のおかわりのビールと隼鷹ちゃんの熱燗ね。こちらは名物の出し巻きと若鶏の竜田揚げです。」

 

おおっ、出し巻き!美味そう!。

 

 

・・・・せやっ!

 

 

「ありがとう!、鳳翔ちゃん!」

 

言ってやったぜ。

 

全員がキョトンした視線を僕と鳳翔さんに向けて行ったりきたり。

その鳳翔さんは、

 

「あらあら、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ・・・・・。」

 

とそのまま板場に消えていった。

 

「なかじ~、いきなりすぎっしょ!。」

「こらっ!あたしが飲み物注文する前に何してくれてんのよっ!」

「鳳翔さん照れてたよ~、か~わい~。」

「どアホ・・・。」

「ヒャッハー!」

 

う~む、ちょっと調子に乗りすぎたかな・・・。

 

ビールもきたし出来立ての竜田揚げを頬張る。

熱い。

竜田揚げ独特の衣の食感。その衣をサクッと噛み締めると、中からは鶏肉の旨みたっぷりな肉汁が口いっぱいに広がる。

衣はシンプルな味付けで、後から後から鶏肉そのものの味が追いかけてくる。

熱い。

そしてビール。

 

「・・・幸せ。」

 

ふと左隣を見ると取り皿の上に竜田揚げと出し巻きを載せたままで龍驤の箸がすすんでいない。

 

「鶏肉嫌いなん?。」

尋ねると、

「ちゃうねん。うちめっちゃ猫舌やから自分のお皿に載せて冷まさんと食べられへんねん。」

「そっか・・・。ふむ、なんか可愛いな。」

「うっさいわ。」

 

出し巻きは箸でつかむのもなかなか難しいぐらいのプルプルとした柔らかさ。

断面をのぞくと何層にも卵が巻かれているのがよくわかる。

これ絶対美味いやつ。

 

一口食べると層になっている卵がホロホロと崩れ、昆布とカツオの香りが感じられる出汁が溢れ出てくる。

これは日本酒やな。

 

日本酒に切り替えるか・・・。

でも次の料理が何か分からないしなぁ。

 

とりあえず残りのビールを飲み切ってから鳳翔さんを呼ぶ。

 

「おかわりしたいんですが、次の料理はなんですか?。」

「えっと、このあとは春鰹のタタキと鶏つくねの串焼きですけど。」

 

春鰹のタタキ→辛口冷や酒→ボーノ

鶏つくね→さっぱり麦焼酎ロック→ハラショー 

 

「う~む・・・」

 

どうしようか。思わず腕を組んで唸ってしまう。

すると隼鷹が、

 

「先生!何考えてんのか分かるよ~。鰹には日本酒、つくねには焼酎って思ってるでしょ?」

「はい!正解っ!」

「あたしもその組み合わせで飲みたいからさ、日本酒は一緒に飲もうよ。焼酎はお互い好きなやつ頼んでさ。」

「はい!大正解っ!」

 

酒飲みの心は酒飲みに、だ。

こういう同じ好みの人が宴席にいると非常に助かる。

 

川内はそのままビール、鈴谷はレモンサワー、那珂ちゃんカシスソーダ、龍驤は梅酒ロックをそれぞれ注文。

 

酒の時代背景がめちゃくちゃだが気にしたら負けである。

 

おかわりも運ばれてきて飲み続けていると、だんだんみんなのテンションもいい感じになってきた。

 

 

「だ~か~ら~、最近足柄さんが合コンセッティングしろってうるさいのよね~。」

鈴谷が指でグラスの氷を回しながら言う。

「那珂ちゃんはみんなのものだから合コンは無理だよ~。」

「合コン?お持ち帰り?夜戦?・・・エッロ!!エロいわ~この鎮守府エロいわ~。」

ビールをあおる川内の口の周りは泡でヒゲが出来ている。

「ふっ、ふん!男なんてちょっとチラチラ~って色で仕掛けたらイチコロやっちゅうねん。」

「よりにもよってあんたが言うかね・・・。」

「なんやねん隼鷹!、あんたちょっと自分が胸でかいからって。」

「いやぁ~、正直でかいのも邪魔なんだよね~、分けてあげたいよぉ~。」

「くっ・・・。」

 

これがガールズトークさんですか?。

 

 

「なかじーは彼女いないの?」

 

ほう、この俺にコイバナかい?鈴谷ちゃん。よかろう・・・。

 

「いない。」

 

いない。

 

「ふむ。そんなに顔は悪くないし、中肉中背なのに・・・。」

みんながジロジロと僕を吟味してくる。

 

「はっ・・・・!!」

川内が何かに気づいたのか?

「・・・さては先生は変態なのかっ!変態だっ!。怖っ!!」

「えぇ・・・」

 

けっして変態ではない、と思う。

むろん肉感的な女の子は好きだ。一般成人男性並に。

彼女がいない理由としては月並みではあるがおそらく仕事に熱中しすぎているのと、なかなか女性と知り合う機会がないのにに尽きる。

それに生まれてこの方ずっと彼女がいなかったわけではない。

何年か前に交際している人はいたのだが数年付き合ううちにお互いの気持ちが離れてしまい、そのまま別れてしまった。

その彼女も今では1児の母になっているとは風の噂である。

 

鶏のつくねは麦焼酎のロックでいただく。

つくねはネギ・生姜・鶏肉とつなぎの片栗粉に塩コショウとシンプル。それに秘伝のタレを3度漬けして炭火で焼いてある。味付けにはカドがなく生姜のアクセントがきいたつくねで、熱々のやつとキリッとした麦焼酎を合わせる。

 

クイッと焼酎をあおると、湯呑み越しに隼鷹と目が合ったので思わずにっこり。

 

「な~に2人でアイコンタクトなんかしちゃってんのさ~。」

鈴谷よく見てるなぁ。

「え~、先生あたしに惚れてんの~?」

上目遣いで隼鷹がニヤッっと笑う。

「いやいや、なんで目が合っただけでそうなるのさ。僕はみんなの先生やし、そういうのはあかん!。」

「なかじー照れてかわい~。」

また鈴谷が僕の腕にしがみついてくる。

すると先ほどまでは散々僕をボロカスに言っていた龍驤までもが、

「鈴やん、ちょっとベタベタしすぎちゃうか?、あんたばっかりズルイやんか!」

と言って僕の腕にしがみついてくる。

顔を見るとずいぶん赤くなっている、おそらく酔っているのだろう。

 

右腕、柔らかい何かの触感。

左腕、固い何かの触感。

 

うん、悪くはない・・・。

 

「先生モテモテだぁ~、このまま夜戦しちゃう~?にしし。」

 

「こら川内!2人を焚きつけるんやない!(いいぞ、もっとやれ!)」

 

 

春鰹のタタキがやってきて二人はパッと離れてしまった。残念。

 

このあたりになると僕も隼鷹も手酌で冷や酒をいただく。

 

香ばしく炙られつつも中身は美しい赤身の春鰹。薬味は玉ねぎ、土生姜、おろしにんにく。

最初は天然岩塩で、と言われたのでそれでいただく。

まず口にいれると鰹の身にしっかりのった脂が広がり、赤身魚特有のパンチのきいた旨みがやってくる。岩塩のみなので鰹の純粋な味が何とも言えなく美味い。

口の中に濃厚な鰹の余韻が残ったところに辛口の冷や酒を流しこむ。そうすると日本酒の心地よい香りがさらに鼻腔の奥まで広がり最高の心持にしてくれる。

2切れ目は知り合いのところから仕入れてるというポン酢でいただく。

先ほどの岩塩とちがい、口に入れた瞬間からポン酢の酸味が鰹のクセを抑え込み爽やかな味を舌の上に残してくれる。これに3種類の薬味をのせると、さらに口の中で味が変わって非常に美味しい。

 

いやぁ日本酒が止まりませんなぁ~。

 

「他にお客さんいないんやったら鳳翔さんもこっちにきて一緒にやりませんか?」

声を掛けてみる。

「嬉しいです。じゃあお言葉に甘えましょうかしら・・・。」

 

鳳翔さんも座敷席にやってきて隼鷹と龍驤の間、いわゆるお誕生日席に座る。

 

「じゃあ一献どうぞ。」

 

お猪口を渡し自分の飲んでいる酒を酌する。

 

「いただきます。・・・ふぅ、美味しいですね。」

「鳳翔さん今日は美味しい料理本当に有難うございました。堪能できましたよ。」

「いえいえお粗末様です。今日は若い子達の相手で先生疲れたんじゃありません?。今度は一人で来て頂いても大丈夫ですからね。」

「そうですね、でもこういう若い女の子に囲まれてお酒をいただくなんて、この鎮守府に来なければありえなかったでしょうし、楽しいものですよ。」

「なかじー先生!それほんとっ!?」

鈴谷が大きな目をさらに大きくする。

「本当やで。」

「よかった~。」

「鈴やんよかったやん。」

「実はこの歓迎会の幹事は鈴谷さんなんですよ。新しく来た先生となかなか仲良くなれない、お喋りできないってずいぶん寂しがってたんですよ彼女。」

「ちょっと鳳翔さん、それなかじーの前で言っちゃダメじゃんか!」

「あら秘密だったの?。ごめんなさいね、フフッ。」

「んも~。恥ずかし~じゃんか~。」

そういって鈴谷はモジモジしている。酒のせいなのかはわからないが顔も赤い。

「そっか、ありがとな鈴谷。」

鈴谷の薄緑の髪の頭をなでる。

「・・・ん~///」

鈴谷は何も言わずうつむいてしまった。

 

「ちょっと鈴やんばっかりズルイ!うちもうちも~!」

龍驤もなでろとばかりに頭をさしだしてくるのでよしよし。

 

「那っ珂ちゃんも~!」

はいはい、よしよし。

 

そう、彼女達だって甘えたい年頃なのだ。

彼女達はしょせん軍艦。

この考えがこの1週間どうやっても僕の頭の中から消えることはなかったし、彼女達艦娘との接し方に悩んでいた。

人として接するのか、それとも人間が作り出した艦船、感情を持たぬ無機質な機械として接するのか。

 

中途半端な気持ちでこれからも彼女達に接するのが本当にいいのだろうか?。

 

その自分の心の中に渦巻いていた疑問がこの飲み会で少し解消されたような気がする。

 

あくまで彼女達は思春期の年頃の女の子となんら変わるところはない。

僕に対してもこうして自然体で接してきてくれているではないか。

ならば僕もいち教師として彼女達にこれから自然体で接していこう。

いつも仲良くというわけにはいかないかも知れないし、もちろん喧嘩や口論をする時もあるだろう。でもそれこそお互いが相手のことを考え、尊重しあっている結果だ。

そうなることでお互いのことをより深く理解し合えるだろうし、ここでの生活がさらに良いものになっていくは間違いない、それを気づかせてくれたのはここにいる艦娘達だ。

 

「みんなも今日は本当にありがとう。すごく楽しかったぞ。」

 

そういうと5人はお互いの顔を見渡しあい、照れくさそうに笑っている。

 

一時間ほどおしゃべりの華が咲きみんなでワイワイしていたが、やがて僕の隣では龍驤も鈴谷もコックリコックリ眠そうにし、川内は「これからがあたしの時間だよっ!!」とまだまだ飲む気満々である。

隼鷹は鳳翔さんと酒を酌み交わしあい、那珂ちゃんは踊っていた。

 

お腹も心も満たしてくれた歓迎会だった。

 




楽しく書かせていただきました。
自分で書いていながら居酒屋に行きたくてしかたなくなったので
今日は近所の居酒屋行ってきます。
読んで下さった皆様ありがとうございます。
よろしければ感想お聞かせくださいませ。
ではまた第6話で。

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