先生が鎮守府に着任しました~おバカんむすとの日常~   作:おでんだいこん

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先生、夜戦(歓迎会)しよっ!!

鎮守府に赴任して早くも最初の1週間が終わろうとしている。

思えばつい2ヶ月前までは大阪で教鞭をとっていたのにえらい環境の変わりようだ。

最初は女の子ばかりの鎮守府でちゃんと教師が務まるものだろうかと一抹の不安を抱えていたが、その心配は杞憂だった。

ここにいる子達は個性は強烈だがみんな真面目に、一生懸命授業に取り組んでくれる。

分からないことはどんどん質問してくれるし、自分なりに考えた答えを発表し、時には僕でさえも思わず唸ってしまうような迷回答が飛び出してきてなかなか面白い。

 

先日は潜水艦達を対象に英語の授業をしたのだが、

 

「じゃあこれから先生が一週間の各曜日を英語にして黒板に書きます。みんなはそれが何曜日か答えてみよう!」

 

「「「は~い!!(なの!)(でち!)(ですって!)」」」

 

相変わらず語尾に色々つくなぁ・・・。

潜水艦の子達は提督指定と呼ばれるいわゆるスクール水着で海に出撃し、普段の鎮守府でもそのまま水着で生活しているらしいのだが、体の発育がすこぶるよろしい子が多いので僕にとっては正直目に毒なのだ。

これでは授業に集中できないと大和さん大淀さんに意見し、授業を受けるさいは白と青を基調としたセーラーカラーのパーカーを羽織ってもらうようにお願いしている。

 

「ではまずこれは何曜日かな?」

 

『Monday』

 

「はいなの!」

「はいイクさん。」

「月曜日なの。」

「正解。」

「やったのね!」

「では次は、」

 

『Friday』

 

「はい!」

「ニムさん。」

「金曜日です。」

「正解。」

「次はちょっとややこしいぞ、」

 

『Tuesday』

 

「火曜日ですって!」

「はいろーさん正解!」

 

なんだみんななかなか優秀じゃないか。

潜水艦の子達にはちょっと簡単だったかな?。

 

「じゃあ最後はこれ!」

 

『Saturday』

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

あっ、あれ・・・?

みんな下向いちゃった。

 

「どうしたの?さっきの問題より簡単やと思うけど分からない?」

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

やはり誰も手を挙げようとしない。

 

「ふっふっふ。なかじー先生甘いでちね・・・。」

 

この声はゴーヤ?。なかじー先生?。

 

「ここにいるゴーヤ達潜水艦にそんな曜日はないでちっっ!!!!!」

「なん・・・やと・・・?」

「・・・いいでちか?、ゴーヤ達は今日こそ午前が半休になってこうして授業を受けにきてるでちが、普段はオリョール海にいる時間でち。

外洋なのに燃料、弾薬を確保できるこのオリョール出撃はこの鎮守府の台所事情を支える大切な出撃なのでち。

それには低燃費で動ける潜水艦の来る日も来る日も毎日出撃する働きなくしてはどうにもならないんでちよ。

ゴーヤ達にとって1週間とは『月月火水木金金』なのでち!!」

 

どやぁ・・・・。

 

「せっ、せやな・・・。」

 

「あっ、答えは土曜日でちよ♪」

 

分かってるんかよ。

 

えらい説教をかまされてしまった。

なかなか一筋縄ではいかないのだ。

 

また別の日理科の授業で太陽と地球の関係について教えていた時も、

 

「このように太陽が東から昇り西へと沈んでいくのは太陽が動いているわけではなく、我々の住んでいる地球が自分で回っている、すなわち自転しているからなんです。では空に見える太陽の位置が変わることによって、我々人間や艦娘の影の形は時間と共にどう変化していくでしょうか?。」

 

簡単な問題である。地平や水平に太陽がある時影は長く伸び、てっぺんにある時影は足元にしかあらわれない。

 

「はいっ!」

 

でたな問題児天龍!!!!

 

「フフ・・・、一口には説明できねえからよ今からみんなで外に飛び出ようぜ!」

「優勝!!!!」

 

何が優勝かは分からないが思わず口から飛び出た。

 

とこのように日々授業をしていて飽きることはない。

ただこの1週間で僕が授業をしているのは基本的に駆逐艦、潜水艦、一部の軽巡洋艦の子達ばっかりで戦艦や空母といった大型艦船の子達とは授業はおろかまとなコミュニケーションすらとれていないのが気にはなっている。

今のところ戦艦で会話をしているのは大和さんぐらいである。

彼女達はもう勉強しなくても大丈夫な年頃なのだろうか?。

まあたしかに見た目はもう十分な大人の女性に見えるが。

 

とそんなことを考えながら一人だけの職員室でボーっとしていると半開きで開けていた窓から小さな小さな飛行機が入ってき、僕の机の上にぽとりと何か落とした。

そして飛行機は僕の頭上をくるくる旋回するとそのまままた小さなエンジン音をたて外へと戻っていった。

拾い上げて紙を見ると何やら書いてある。

 

『本日午後7時より 中島先生が横須賀鎮守府に赴任された記念としてささやかではありますが歓迎会をしたいと思っております。もしお時間よろしければ、鎮守府敷地内居酒屋鳳翔にてお待ちしております。

ぜひお越しくださいね、ていうか来て下さい、絶対来るんやで!。

え、なになに夜戦!?。ナニするぅ~?、なっかちゃんだよ~キャハ!、ひゃっはあああああああ!!!!』

 

何と艦娘達からのありがたいお誘いではないか!。

これは嬉しい!。

ただ最後の方がめちゃくちゃ意味不明ではあるが・・・。

 

 

--------------- 午後7時前

 

 

職員室の入っている棟から外に出て、立派なポプラ並木のレンガ道を進んでいく。

並木の間には等間隔にベンチも置かれていて、晴れた日にはここでお弁当を食べたりもするそうだ。

右手を見ると艦娘の大きな棟が見え、ちょっとポプラ並木の隙間から視線を落とすと、そこはなだらかな芝生の植わえられた土手になっていて、土手の先にはとても広い運動場がある。

運動場からさらに遠くを眺めると、ちょうど夕焼けの真っ赤な明るさとしっとりとした夜の闇が水平線の向こうで混ざり合っている、そんな美しい光景が見ることが出来た。

 

『居酒屋 鳳翔』

日々激務にいそしんでいる艦娘達の慰安のために特別に営業が許可されている居酒屋である。

鎮守府というなんとも堅そうなイメージの施設の中に居酒屋と教えてもらった時は少々驚いたが、たしかに息抜きできる場所はあった方がいい。

何より僕もけっして飲めない口ではないので正直助かる。

この鎮守府にきて1週間、酒にありつく時間もなかったし、そもそも酒が手に入るとも思っていなかったので自然と心が弾んでくるではないか。

店の名前のとおりではあるが鳳翔さんという軽空母が切り盛りしているというのも驚きだ。

 

レンガ道を道なりに進んで行くとコンクリートで作られた高さ4メートルはあろうかという巨大な防波堤にぶつかる。

そこを左に曲がり、また道なりに進んでいくと左手に平屋の一軒家のような建物が見えてきた。

軒先には赤提灯が吊るされている、ここが居酒屋鳳翔だ。

換気扇が近くにあるのだろうか入り口の前に立っていても美味しそうな匂いが漂ってくる。

こりゃ楽しみや。

 

「こんばんわ。」

ガラガラと格子状に木で枠組みされたすりガラスの引き戸を開ける。

店内を見渡すと右手には板場がありその前がカウンター席になっている。カウンター席と板場の間には横にずらりと大皿料理が並べられていて、煮物や佃煮といったいかにもおふくろの味という感じの料理である。

カウンター席の反対側には4人掛けのテーブル席が店の奥に向けて4つ並んでおり、入り口から正面一番奥は宴会用の座敷になっているみたいだ。

板場の中から割烹着姿の女性が小走りにやってきた。

 

「ようこそいらっしゃいませ!」

僕よりもやや小柄で長い黒髪は後ろでひとつに留められている。

「先生、はじめまして。当居酒屋の女将軽空母鳳翔です。」

静かに一礼をする鳳翔さんは艦娘というよりもはや新妻といった雰囲気だが、おそらくそれを口にすると彼女の気分を害してしまうだろうから何も言わないでおこう。

「こちらこそ初めまして、中島と申します。今日はよろしくお願いします。」

「さ、皆さん奥の座敷でお待ちですよ!、どうぞ。」

鳳翔さんにうながされ店の奥へと足を進める。

小上がりになった座敷席には5人の艦娘達が待っていた。

 

「おっ、きたきた。」

「先生!ちぃ~っす!」

「きみぃ、ちょっと遅刻ちゃうかぁ?」

 

普段教室で目にしている子達とはみんなずいぶんと様子が違う。

学校制服のような子もいれば、袴を履き勾玉をつけてまるで神社にいそうな格好の子もいるし。

 

「さあさあ、先生も来てくれたしまずはお酒頼もうよ、お酒!。もうあたし喉からっからだよ~。」

 

「皆さん最初は何を飲まれますか?。」

 

 

「「「「「生っ!」」」」」

 

 

 

「・・・えっ?ちょっとまって。」

 

うん、まあ、居酒屋の流儀ではあるよね、「とりあえず生」、わかるわかる。

 

「君達みんなお酒飲んでも大丈夫な歳なの?。」

 

どう見てもまずいやろ。制服着てる子もいるのにお酒は。

それに制服こそ着てないけど、サンバイザーつけてる子なんかめっちゃちっちゃいぞ。

 

「もう!先生、アイドルに歳を聞いちゃいけないんだよ~。」

 

何この子・・・?。

 

「だいじょぶだいじょぶ。うちら艦娘は見た目こそ若い女の子になってるけど元は軍艦何やで?。見た目が幼くなったりするのはあくまで船の大きさに反映された結果なだけであって、別にお酒もたばこも全然ありなんや。

まあさすがに駆逐艦の子達がお酒飲んだりするのはビジュアル的にちょっとアレやけどな・・・。」

 

おお!、このサンバイザーの子は関西弁や!、と思ったけど何ともうさんくさいイントネーションの関西弁やなぁ。

 

「なるほどね。じゃあ中身はみんなちゃんとした大人なんや。見たとこ君は小柄やから駆逐艦かな?」

 

バシィッ!!!!、おしぼりが飛んできた。

 

「軽空母じゃ!!ドアホっ!!」

 

 

---------------

 

 

「お待たせしました。」

 

生ビールが6つ運ばれてくる。

 

「じゃあ誰か乾杯の音頭とってや。」

「早く飲もうよ~。」

「川内ちゃんでいいんじゃない?」

「おっ、いいじゃん。」

「・・・あたし?。もうしゃあないなぁ。」

 

そういうと川内と呼ばれた女の子がスクッと立ち上がり、

 

「・・・コホン。では・・・、

みんな今日も一日お疲れ様!。今から中島先生赴任記念の夜戦だよっ!!!乾杯っ!!!!」

 

「「「かんぱ~い」」」

 

1週間、いやもっとぶりのビールだ!。

ジョッキまでキンキンに冷やされており白く曇っているのが有難いではないか。

さっそくジョッキを手にとり、口の中にビールを流し込む、すると冷たさの中から舌の上で爽やかに炭酸がはじけ、麦の香りと独特の苦味がいっぱいに広がりを見せる。

美味いっ!!!!!

 

他のみんなも実に美味そうにビールを飲んでいる。

 

「ぷっはぁ~、一日の労働の後のビールは格別だねぇ~。」

 

まったくそのとおりだ。

 

「みんな今日はお招きしてくれて本当に有難う。

・・・なんやけども、失礼ながら僕は皆さんのことをまだ全然知りません。よかったら自己紹介してもらえないかな?」

 

すると僕の真正面に座っている女の子がさっそく自己紹介を始めてくれた。

 

「艦隊のアイドル那珂ちゃんだよ!よろしくね先生!。」

「那珂ちゃんさんですか。よろしくおねがいします。」

「ちっがうよ~、さんは付けなくていいんだよ!。」

「これは失敬。那珂ちゃんですね。」

アイドルってなんや?敵勢言語か何かかな?。

「いつも明るいてキュートな軽巡洋艦なんだよ。キャハっ!」

お団子を2つ頭につけた実に元気な子やな。

 

「その那珂の姉、軽巡洋艦川内型一番艦の川内。先生よろしくね。」

那珂ちゃんの右隣に座っているこの子はさすがお姉さん、しっかりした印象を受け、ツーサイドアップの髪型でなかなかの美人さんである。

「今日は夜戦もないしじゃんじゃん飲もうね。」

「夜戦ですか。夜の海とか怖くないですか?」

「えっ?、怖くないよ、なんで?」

「だって夜って空も海も真っ暗で何にも見えないし、どこに敵が潜んでいるか知れませんし。」

「先生。夜の海っていいもんだよ。静かで穏やかで、海面に月が浮かんでさ、キラキラ光ってほんと綺麗なんだよ。」

ほうなかなか詩的な表現をするじゃないか。

「でもって、探照灯で敵をパッカーンて照らしてさ、一斉射撃するの!そしたらみるみる敵の船が炎に包まれてさ。

その炎の海が海面にメラメラ~ってするのがまた最高なんだよね~。」

バトルマニアじゃないですか、やだ~。

 

「なはは、川内っちはちょっち夜戦バカすぎるんだよね~。

先生ちっす、最上型航空巡洋艦3番艦の鈴谷だよ!」

この子は先ほどの2人と比べるとさらにお姉さんというか、いかにも今時の女の子といった風情だ。

「鈴谷も早く先生の授業受けたいんだけどなかなか行けなくてごめんね。

あたし、ほめられて伸びるタイプだからう~んとほめてね。」

そう言うと隣に座っている僕の腕にしがみついてきた。

ふわっと淡い緑色の髪の毛からはいい香りがした。

ていうか胸が腕にあたってるよ!極楽かっ!。

 

「鈴谷もう色仕掛けかぁ~??

あたしは隼鷹!軽空母さ。先生よろしくな。」

「よろしくおねがいします。今日職員室に飛行機を飛ばしてきたくれたのはあなたですか?」

「そっ、あたしの烈風可愛かったでしょ?。」

あの飛行機は烈風というのか、聞きなれない名前がどんどんでてくるな。

隼鷹はなんとも特徴的な服装である。陰陽とかなんとかがこういう格好だったっけ?。

「あたしも最近出撃続きでなかなかここにこれなかったからさ、今日はしっかり飲んで帰るからね。先生後でいっしょに日本酒飲も。ここの地酒は美味しいよぉ~。」

日本酒か、うん悪くない。

 

最後は僕を挟んで鈴谷と反対隣に座っている駆逐艦と間違えた女の子だ。

ツインテールの髪型、格好は隼鷹の袴をスカートに変えた感じ。

ちいさな見た目がなんとも可愛らしい。

 

「先生、隼鷹にあわせて飲んだら明日どえらい目にあうから気いつけや。

うちは軽空母龍驤や。こう見えてもちゃんとした空母なんやで。そこんとこちゃんと覚えたってや!。」

「先ほどは失礼しました。」

「ほんまいきなり駆逐艦とか失礼なやっちゃで・・・。」

 

「だって龍驤って駆逐艦サイズだししかたないよ。」

対面からすかさず川内が口を挟む、

「ちょ、自分!それどこ見て言うてるんや!」

ニヘ~と笑う川内の視線を点線矢印で追っかけていくと胸にいきついた。

「先生まで何見てんねん!ちゃんとあるっちゅうねん!、ちょっとこぶりなだけやん!」

「こりゃ失礼!、大丈夫。これから成長するよきっと!絶対する!」

「えっ・・・、うちもう成長期終わったんやけど・・・・。ていうかこん中で一応最年長なんやけど・・・。」

「oh・・・。」

「先生!もし胸大きくなるような方法しってたら絶対うちに教えてな!」

 

そういうと先ほどの鈴谷と同じように僕の腕にしがみついてきた。

 

いやぁ、はっはっは。

神様あなたというのも人が悪い!。

全然腕に胸あたってこないっすわ!

 

こんな彼女達との宴会はまだ始まったばかりだ。




艦娘は数多くいますので毎回どの子達を話に登場させるか悩みます。
歓迎会のメンバーは僕提督お気に入りの子達を登場させました。
次回は歓迎会の話を掘り下げるか、別の方向に持っていくか検討中です。
閲覧いただき本当に有難うございます。
よろしければ感想お聞かせください。
ではまた第5話で。

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