先生が鎮守府に着任しました~おバカんむすとの日常~ 作:おでんだいこん
ドタバタした一日から一夜明けた。
職員室の窓から見える海原からは太陽が顔を覗かせようとしている、時刻は朝の5時半だ。
関係のない話だが、太陽が海から昇り山に沈んでゆくのが太平洋側で。反対に太陽が山から昇り海に沈んでゆくのが日本海側である。
僕の住んでいたいた大阪は東の生駒山脈から太陽が昇り大阪湾に沈んでゆく、つまり日本海側ということになる。
ここは太陽が海からやってくる、そう横須賀なのだ。
昨夜は大和さんと夕食をともにした。
まるで高級レストランか?、と思わんばかりの豪華な夕食である。
「すごいですね!、この鎮守府にはシェフの艦娘も在籍しているんですか?。」
とたずねると、
「いえいえ、給糧艦とよばれる艦種の艦娘はいますが、シェフではありませんよ。今日の夕食は全てこの大和が作らせていただきました。」
素晴らしい。
オードブルからスープ、サラダ、バケット、魚料理、メインの肉料理、デザートにいたるまで完璧である。
どの料理も味・量ともに申し分なく、一流シェフも顔負けだ。
「本当に美味しい!。まるでレストランかホテルでいただいてる気分ですよ!。」
僕は正直に思ったことを口にした、すると
「は・・・?、ホテルですか・・・?。」
大和さんの顔色が一瞬で曇りその後は会話も弾まなくなってしまった。
最後は微妙な雰囲気で食事を終えたのだが、一体なにかまずいことを言ってしまったのだろうか?。
自分で会話を思い返してみるのだがいまひとつピンとこない。
仕方ないので提督室で雑務をしていた大淀さんに尋ねてみると、
「ああ、それはまずいですね・・・。」
と苦笑いされてしまった。
簡単に言うと戦艦大和は帝国海軍の切り札として建造された超弩級戦艦なのだが、その巨大さと重兵装によって一度出撃するととんでもない資材を消費するらしい。
したがって普段の出撃や遠征などはもっと低燃費の艦が担っており、どうしても大和は鎮守府での留守が多い。
大和自身には優秀なシェフが乗船しておりその腕をふるうこともしばしばで、他の軍組織からは皮肉をこめて「大和ホテル」などと揶揄されることがあり、ホテルという形容のされかたにひとかたならぬ抵抗があるらしいのだ。
なるほど彼女艦娘たちにはそれぞれに人間と同じで何らかの事情というものがあるのだろう、僕はうっかりその地雷を踏んでしまったというわけだ。
今日からはさらに色んな艦娘と接していかなければならないのだがなんとも気疲れしてしまいそうだなと感じた。
------------ 駆逐艦教室棟
職員室を出て右に進んでいくと艦娘たちが生活している建物へと続く渡り廊下が現れる、その渡り廊下を通って左側に階段があり上の階へ進むと駆逐艦の階になっている。
鎮守府でも一番賑やかな階ですよと大淀さんが言っていた。
昨日までは横に大淀さんや香取さん、鹿島さんが付いていてくれて心強かったが今日からは当然僕一人だ。
しかし今日からこそが僕の本来の仕事であり、最初が肝心である。
いきなり生徒達に舐められるわけにもいかないし、もっと堂々といこう!、背筋をピシッと伸ばして渡り廊下を抜けようかというその瞬間背後から、
「先生、おっそ~い!!」
まさに『ビュン!!!』と聞こえてきそうな物凄い勢いで何かが僕の脇をすりぬけそのまま2階へと消えていった。
・・・妖怪??。
2階に上がりいよいよ駆逐艦の階であるが、木の長い廊下が延々続いている。
階段は廊下の一番東側つまりは端っこにある、そこから西の方にむかって進んでいく。廊下の左側には様々な部屋があり札を見ると「兵装準備室」「手洗い」「更衣室」など。廊下右側はすべて格子のガラス窓、その窓一つ一つには黒いカーテンがついているが今は窓の端でまとめられている。
いくつかの部屋を通りすぎるといよいよ駆逐艦の教室だ。
教室の中からは色々な声がもれ聞こえている。
一旦教室の引き戸の前で深呼吸をし、いざ!。
ガラリと戸を開けると教室の中にはおよそ15人近い艦娘たちがそれぞれ車座になっておしゃべりをしていたり、窓際でしゃべっていたりしている。
今日教える生徒たちだ。
ちなみに200人からいる艦娘をいっせいに教えるというのは実際不可能である。
今この時間も外洋に出撃している子、演習している子、遠征任務している子、夜戦から帰ってきて就寝している子と過ごし方は様々なのだ。
その中で時間が空いた艦娘が僕の授業にやってくる手はずになっている。
「はい、みんな自分の席ついて!。」
声をかけると自分の席に着席。
たしかに雰囲気は小学校高学年から中学生ぐらいっといったところか。
どうやら制服は統一されていないらしい、4~5人で同じ制服を着ている子達が多いな。基本はセーラー服であるが紺を基調としていたり、スカートが緑色だったり、それぞれに可愛らしい制服である。
ひとしきり教室全体を見渡すと・・・、
・・・!?
うっ、うさみみ・・・???
何かの見間違いのように感じたがうさみみしてる子がおる。うん。えぇ・・・。
しかもうさみみをつけてる彼女の周りには2~3匹何か妙な生き物がウロウロしてるし。
か、変わった子やな・・・。
さらによく見渡すと明らかに駆逐艦の子達に混ざるには違和感を覚える子も座っているな、机の上で足組んでるし、眼帯してるし・・・。
おかん、都会ってひらけてるなぁ。
まずはみんなに挨拶ではあるがその前に号令である。学級委員長とかいるのかな?。
すると教壇から向かって最前列一番右側に座っていた戦闘帽をかぶった女の子が、
「起立!」
と号令をかけた、すると、
「あっ、暁ずるい!今日はあたしがやるってさっき言ったじゃない!」
暁の左隣に座ったショートヘアの女の子がすぐさまイチャモンをつけるが、
「いいのよ!あたしが一番この中でレディなんだからビシッと決めないとね!」
「どこがレディよ、暁もお子様よ!。」
「なによ!」
「なんなのよ!」
「2人ともやめるのです~。」
「ハラショー。」
うん元気があってよろしい。うるさい。ハラショー?。
「とっ、とりあえず暁ちゃん?、最後まで号令してくれてええよ。」
「えっへん。気をつけ!礼!おはようございます!」
「「「「おはようございます!!(ぽい!)(にゃし!)(おうっ!)」」」」
若干挨拶の語尾に意味不明なものが付いてたように聞こえたがまあいい。
「はい、皆さんおはようございます。昨日講堂でも挨拶させてもらいましたが、僕は今日からこの鎮守府で皆さんに勉強を教えることになった中島誠司といいます。
教師としては8年間大阪の中等学校で働いてきました、が皆さん艦娘と呼ばれる人たちに授業をするのはまったく初めての経験です。いろいろ至らない点もあるやろうけどみんなと頑張って行きたいと思うのでよろしくお願いします。」
深々と一礼をする。
「じゃあさっそく出席をとります。と言っても先生はみんなの名前も知りませんので、申し訳ないけどさっき号令を掛けてくれた子から順番に名前を言ってもらえるかな?。」
そういうとさっそく戦闘帽の女の子が立ち上がってくれた。
「暁よ。ちゃーんとレディとして扱ってよね先生。」
「はいよろしくお願いします。じゃあレディさんの隣の人。」
「暁よ!。」
「失礼。」
「雷よ、困ったことがあったら何でも頼ってね。」
うん可愛い。
「電なのです、よろしくお願いします。」
ちょっと内気かな?。
「響だよ。ハラショー。」
はいハラショー。
前列窓側から廊下側に向かって挨拶は進む。
「夕立っぽい!よろしくっぽ~い!」
「夕立さんでいいのかな?。」
「ぽい!!!」
う~ん・・・。
「時雨だよ。先生・・・、いい雨だね。」
「今日は快晴やで。」
「うん。」
・・・。
続いて2列目窓側。
「あっ、あの・・・、潮と申します、よっ、よろしくお願いします。」
おっぱいでか!。
「曙よ、ちゃんと名前覚えなさいよねクソ先生!。」
「えぇ・・・。」
「漣と申します、ご主人様。」
「僕は先生です。」
「・・・初雪です。・・・頑張る。」
声ちっさ!。
「不知火です。ご指導ご鞭撻よろしくです。」
普通なんやろうけど、この中では優等生的挨拶。
「おうっ!島風だよ!」
でたなうさみみ!、で周りのうろうろしてるのは何?。
最後列窓側。
「睦月です!張り切ってまいりますにゃし!。」
「はいよろしくにゃ・・・、よろしくね。」
危ない!。
「如月と申します。先生、よ・ろ・し・く・ね。」
もうなんでもこい!。
「ん?あ~、望月で~す。」
眠たいのかな?。
そしていよいよラスト、
「フフ、俺の名は天龍。先生、怖いか?。」
もう面白いわこのクラス。
「いえ別に怖くはないですよ天龍さん。」
「怖くないのか・・・?。」
「はい。」
すると彼女は教壇から見てても分かる勢いで肩を落とし顔にスッと影が入った。
まずい!これでは昨夜の大和さんの二の舞になってしまう!。
「怖く・・・ないんだ・・・そっか・・・、グスッ・・・。」
えっ、嘘!
泣くやん!この子泣くやん!あかんやん!、
「うっ、うわぁ!怖い!うん、天龍さん怖いよ!、なんか分からんけどオーラ?ってやつ出てるわ。いや~先生びびったわぁ~。」
「ほんとかっ!?。」
「ほんとほんと!。」
すると彼女は一気に機嫌を戻し立ち上がると、
「フッフッフ!そうだろ?そうだろ?、なんたって俺様は世界水準の軽巡洋艦だからな!、フンスッ!。」
よかった。
ん?、まてよ、
「軽巡洋艦?、天龍さん駆逐艦じゃないの?。」
「ちげーよ。軽巡だ。」
なるほどどうりで他の子達よりも大きいし、胸も大きいし、態度もでかいし、胸も大きいし。
「えっと、今日の授業は駆逐艦の子達ということで・・・。」
「あ?、俺受けちゃいけないの?ダメなの?、勉強したいのに・・・。ダメ・・・。」
嘘っ!この子また泣くぞ!
「よっしゃこの教室にいるみんなで授業やっちゃうぞー!!。」
出席とるのにこんな疲れるの?ここ?。
------------ 国語
「まずは一般社会でも絶対必要な知識。ずばり漢字の勉強をしていきましょう。」
「「「「は~い。」」」」
みんな返事はいいんだよなぁ、返事は。
「先生が黒板に漢字を書きます。分かった人は挙手して答えてな~。」
とりあえず小手調べ的な漢字から行きましょうかね。
『天国』
「はい、これ何と読みますか?。」
「「「「「「ハイっ!!ぽ~い!」」」」」
「じゃあ一番声のおおきかった夕立さん!。」
「『あまくに』っぽい!」
「逆に難しい!。違います!。他に手を挙げてる人は・・・。」
みんな必死で手を挙げてくれている。嬉しい。
「じゃあ如月さん。」
「ウフフ、『ヘ・ヴ・ン』。」
「ある意味正解ですが違います!他っ!。」
「初雪さん!。」
「・・・てんごく。」
「正解っ!。」
・・・何このテンション?。
「じゃあ次いくよ~、ボケ回答はなしやで~。」
『写真』
「これは何と読むでしょう。」
「おうっ!。」
「はい島風さん!。」
「写メ!!!!。」
「未来人かっ!!!。他っ!。」
「ちょろいぜ!。」
「はい天龍さん!。」
「アルバムっ!。」
「連想ゲームじゃない!不正解っ!。」
「ふぇ・・・。」
「はい!ご主人様!。」
「僕は先生っ!はい漣さん!」
「しゃしんktkr!!!。」
「正解っ!、最後のktkrって何!?。」
まさかこれほどまでとは・・・。
正直突っ込み疲れる。
その後も漢字の問題を続けたがもはや大喜利だ、無理はない彼女達は本来勉強をするためにこの世に現れたわけではない。
軍艦、そう戦うために建造された兵器なのだ。
なるほどこれはたしかにちゃんとした教育を施していかねば彼女達の将来はおろか日本の将来そのものが一大事だ。
だが今授業を受けている年端もいかないこの子達が兵器?、軍艦?。とてつもない違和感が頭の中で渦を巻く。
本当に彼女たちはそんな危険で恐ろしいことをするのだろうか?。
でも今日の彼女達を見ていると不思議と心は弾んでくるのも事実。
ちんぷんかんぷんな回答を連発こそしているが、みんな一生懸命に考え、答え、そして笑っているからだ。
もしかしたら外部の人間から初めて受ける授業というものが楽しくて仕方ないのかもしれない。
僕はえも言えない違和感と今後も付き合っていかなくてはならないのだろう。
もしかしたら彼女達は日々の戦闘を繰り返す中で大きな怪我をするかも知れないし最悪の場合は沈没、人間で言うところの死という現実がやってくるかも知れないのだ。
こんな明るくて快活な艦娘達がだぞ!。
人間でこのぐらいの年頃ならもっともっと楽しい事や幸せな事がまっているはずだ、でも彼女達はそれを味わうことが難しい立場にいる。国からは極秘扱いされその存在すらほとんどの日本人に認識などされてはいない。
本来は艦船でありながら国の秘密組織の力で人間として改造された、だがその一方で人間らしい生活は送れないのだ。なんという矛盾だろう・・・。
だからこそ僕は教師としてそして人間として彼女達に精一杯のことをしてあげたいし、してあげなくてはならない。
それが僕の背負っている使命であり義務だ。
これからも何とかやっていけそうだ!。
「じゃあ最後の問題いくぞ~。これは海に関する漢字だ。ぜひ一発で正解してもらいたいな。」
『大西洋』
「「「「はいっ!!!!!」」」」
「ビシッと決めてくれよ!はい、響さん!。」
「『おおにしひろし』」
「誰やねんっ!!!!。」
第3話目で初授業です。
本当はもっと艦娘達を絡ませていきたいのですが人数が多いというのはなかなか難しいものですね・・・。
でもなかなか楽しくテンション上げて書くことができました。
ちなみに私は教員免許の類は一切持っていないド素人なのであしからず。
読んでいただきました皆様本当に有難うございます。
よろしければ感想お願いいたします。
ではまた第4話で。