もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんの知らないところで

 異能解放軍

 まだ個性が『異能』と呼ばれていた時代。異能の自由行使は人間として当然の権利であると訴えた解放主義者らによって結成された過激派組織である。

 初代指導者はデストロ。その名の意味は“現在を壊す者”。異能に対する法整備を進める政府と対立するも、数年の拮抗の末に敗北。本人を含む解放軍メンバーの多くが捕まり、デストロは獄中で『異能解放戦線』を執筆した後に自決した。

 それに伴い解体されたはずの異能解放軍であったが、デストロの血を引く存在『リ・デストロ』が後を継ぎ、組織は水面下で行動を再開。解放戦士たちは何代もかけて耐え続け、来たる日に向けて準備を整えてきた。

 そして現在。異能解放軍には思想に感化された民間人だけでなく一部のプロヒーローすらも加入しており、解放戦士の総数は11万6516人。老若男女問わず全員が戦闘員であった。

 

 

「解放戦士たちは日々訓練を積んできましたの。肉体を、心を、常に打ち続けた。より人らしく生きる為に。お分かりかしら連続失血死事件の犯人さん」

 

「………」

 

 愛知県 泥花(でいか)市にて、異能解放軍の幹部キュリオスはヴィラン連合の渡我被身子に向けてそう言い放っていた。

 周囲では多くの解放戦士がトガを囲っている。彼らは指導者のリ・デストロやキュリオスら幹部に心酔する狂信者たちだ。一方で、トガは死柄木たちから逸れてしまい単独行動中。同時にその仲間たちも数万人の解放戦士たちから襲撃を受けており、援軍は期待できない。状況は正に絶体絶命だった。

 

「迷惑なのよ、大義も何もない貴女たちヴィラン連合が取り沙汰されている現状が。私たちの邪魔をしないでくださる?」

 

「………」

 

 国家転覆、すなわち『解放』の先導者はデストロ率いる異能解放軍でなければならない。名を上げ過ぎたヴィラン連合は邪魔者でしかないのだ。故に、彼らは自分たちの手でヴィラン連合を潰すことに決めた。ヴィラン連合の殲滅を異能解放軍再臨の狼煙としたのである。

 

「ですけども貴女は別。『少女の凶行とその理由!』とても良い記事になりそう。雄英の記者会見の時ほどではないけども胸が高鳴るわ。私は藤原妹紅さんの次に貴女へ興味がありますの」

 

「もこたん…!」

 

「あら、貴女も興味あります?なら、インタビューを受けてください。少しは延命できますわよ」

 

 キュリアスは異能(個性)の『地雷』と解放戦士たちとの連携でトガを追い詰めていく。

 彼女の本名は気月置歳。表側の職業は大手出版社の専務であり、新人時代は週刊誌でゴシップ記者を務めていた。また、ヴィラン連合による妹紅拉致の際には自ら記者会見に赴き、妹紅の過去を公に曝露してセンセーショナルな報道を生みだした張本人でもあった。

 

「血を飲み変身する。生まれつき持つその異能によって貴女は血に強い興味を引かれるようになった。しかし、それは社会に受け入れられるモノではなく、周囲から抑圧されて貴女自身も己にフタをして仮面を作ってしまった。フフフ。私は知っています、貴女の苦しみを!」

 

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」

 

 無神経で執着心が強く、好奇心旺盛なマスコミ記者というのがキュリオスの本質だ。そして、それらの行動の根底には異能解放の思想があった。世論を操り、異能解放軍の再臨を目指す。真の自由を国家の根底とするのである。

 その世論を操る手段として狙いを定めたのが藤原妹紅の過去であり、渡我被身子の過去だった。

 

「自分じゃない誰かの仮面をつけて己を殺し続け、その果てに凶行に至ってしまった不幸な少女。それが貴女なんでしょう、渡我被身子?」

 

「直飲みチウチウマスク――…ガはッ!?」

 

 猛攻から逃れるため戦士たちの血を飲んで変身しようとするトガであったが、その血が爆発して多大なダメージを負ってしまう。犠牲を厭わぬ戦士たちはキュリオスの『地雷』によって自らを人間爆弾に変え、トガの『変身』への対策を立てていたのだ。

 そこに他の戦士たちの攻撃がトガを襲う。打撲、刺傷、裂傷、火傷。あらゆるダメージがトガの身体に刻まれていく。更に逃げ出そうと咄嗟に足を踏み込んだ先では地面が爆発。『地雷』によってトガは左足に深い爆傷を負った。

 

「一方で、藤原妹紅さんはどうでしょう。死んでも蘇る異能によって彼女は数多くの死を経験しました。劣悪な環境で異能の自由どころか生存の自由すらも奪われ続けた。…愚かしい親だこと。異能の強さこそがこの世でもっとも尊いものだというのに」

 

「あ…ッ!?」

 

 左足を庇いながらそれでも逃げようとするトガだったが、蛇のように蠢くロープが無事な方の足に絡みつく。そのままトガはロープで引きずり倒された。

 

「しかし、妹紅さんは地獄を乗り越えました。圧倒的な力を持つ己の異能で“悪”に打ち勝った!『不死鳥』こそ自由の象徴!私があの日の記者会見で彼女の過去を語ったことで()()()()()!故に、藤原妹紅さんこそ我々異能解放軍の旗印となる人物!解放の聖女なのです!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

 地面に倒されたトガはロープでアスファルトの上を引き摺られてキュリオスの足元まで送り届けられた。アスファルトはおろし金のようにトガの柔らかい皮膚を削っていき、手のひらの肉から膝や肘、顎などに酷い擦傷を負わせている。

 そんな激痛で一時的に行動不能になってしまったトガをキュリオスは静かに抱きかかえた。そして彼女の頭を優しく撫でながら慈母のように微笑んだ。

 

「藤原妹紅と渡我被身子。2人は超人社会の光であり闇。正義であり悪。生であり死。貴女たちは解放軍の正しさを立証するための人柱となるのです」

 

「あ゛ッ!」

 

 トガは身体に鞭を打って血塗れの手でナイフを掴み、無防備なキュリオスに向けて鋭く振るう。しかし、彼女は油断せず武装していた。欧州で進歩が著しい超圧縮技術を盗用することで開発されたデトネラット社謹製のサポートアイテム『キュリオスパンク』だ。

 ブレスレットに偽装されていた武装が真の姿を現し、ナイフより先にトガの顔面に叩きつけられた。直後、発射口から『地雷』が撃ち出されて彼女の顔面を爆破する。トガは顔面全体に爆傷を負い、膝から崩れ落ちて再び倒れた。

 

「だからこその“生と死”。不死の妹紅さんは生きて解放軍の聖女となり、不幸な貴女は死ぬことで我らの聖典として語り続けられるでしょう。ご安心を。その様に私が世論を導きます」

 

「う゛う゛う゛!や゛!」

 

 解放思想に対してトガや妹紅が何を思おうとも、何を言おうとも関係ない。世論はマスコミが決めるのだ。やがて時代は解放思想の流れに乗るだろう。そうすれば解放思想こそが真の秩序となり、プロヒーローや藤原妹紅も解放軍を認めざるを得なくなる。キュリオスにはその確信があった。

 片や、なんとか意識を繋ぎ止めたトガは我武者羅にナイフを振り回しながら逃げ出そうする。だが、既に大怪我を負っている身体だ。その動きは一般人が歩くスピードよりも遅かった。

 

(嫌な人!私はちっとも不幸じゃない!あなた達が好きな人とキスするように、私は好きな人の血を啜るの…!好きな人の…もこたんの血を!)

 

「『変身』!なるほど、妹紅さんの血のストック!やだ、泣かせないで!」

 

 トガに攻撃を仕掛けんとする解放戦士たちを手で制しながらキュリオスがゆっくりと彼女を追い立てていると、急にトガの容姿が変化した。絹のような白髪に紅白リボン、深紅の瞳に美しく白い肌。それは自分たちが聖女と崇める藤原妹紅の姿だ。

 そんなトガの無様な愛らしさにキュリオスは思わず笑みを零してしまった。

 

「知っています!貴女の異能は外見だけしか変わらない!『せめて最期は憧れの姿で…!』かしら!?あァ、カワイソウ!なんてカワイソウなの!」

 

 妹紅の姿をしたトガは左足を引き摺りながらも必死に逃げる。しかし、キュリオスは地面に仕込んでいた強威力の『地雷』を満面の笑みのまま起爆。足元が爆発し、軸足となっていたトガの右足は膝から消し飛んだ。

 

「い゛い゛い゛ィ゛ィ゛!」

 

 それでもなおトガは抗う。匍匐前進のように這い蹲りながらナメクジのようなスピードで地面を這った。溢れ出る血がアスファルトを染めていく。そんな無様な姿こそ渡我被身子に相応しい。そして、不幸で哀れな最期を迎えることで彼女は真の意味で解放されるのである。

 

「さァ、聖典を締めくくりましょう!その姿で!貴女の最期の言葉を下さい!」

 

「や あ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 キュリオスは止めを刺すべく武器を振り上げた。妹紅(トガ)の顔が絶望で酷く歪む。まだ自分らしく笑えていない。まだ“好き”になりきっていない。嫌いな相手に殺されたくない。だから死に抗うのだ。しかし、死神の鎌を避けようにも血を流し過ぎた身体はもう動かなかった。

 そのまま彼女の顔面に『キュリオスパンク』が叩きつけられ、『地雷』が最大威力で起爆。大きな爆発音と共にトガの頭部は熟れ過ぎたザクロのように弾けて地面に散った。

 ここに渡我被身子は死亡した。

 

 

 

「なんて美しい叫び声…。このインタビューによって我らの聖典は完成へと……え?」

 

 しばらく恍惚とした表情で聖典の完成を喜んでいたキュリオスだったが、トガの死体に異変を感じてその思考を止めた。彼女の死体が燃えている。失ったはずの頭部と右足から大きな炎が発せられているのだ。炎の中では彼女の頭部と右足がゆっくりと形成されていく様子が見てとれた。

 

「ほ、炎が足から…!頭も…!?」

 

「う、嘘だ、まさか…!?」

 

 キュリオスも周囲の解放戦士たちもその光景に呆然としてしまい、身動き一つ取ることは出来ない。何故ならば、聖典において渡我被身子は最後まで哀れでいなければならない存在。こんなことは有ってはならないのだ。

 そんな思わぬ出来事に、キュリオスたちは呆気にとられたままトガの蘇生を最後まで見届けてしまった。

 

「私…生きてる…。それに炎…熱くない…。もこたんの個性が使えてる…」

 

「そんな…情報では確かに外見だけだったはず…!まさか今伸ばしたとでも…!?死への恐怖が異能を、『不死鳥』を使えるようにしたと!?」

 

 蘇ったトガは己の身体を見渡しながら小さく呟く。纏う炎に身を焼く熱はなく、ただ優しく包み込むような温かさを夢心地で感じていた。そんなトガとは対照的に、キュリオスは混乱の最中にあった。

 たしかに個性は何かのキッカケで大きく飛躍することがある。個性の『覚醒』と呼ばれるそれの発生条件は強い感情の高ぶりであったり、死地での危機感であったり、もしくはもっと単純で些細なことであったりと人によって様々だ。同時に、これら個性の覚醒は極めて稀な現象であり、多くの人間は経験することなく一生を終えてしまうものでもあった。

 しかし、トガはそれを成した。キュリオスは死への強い恐怖が彼女の個性を覚醒させてしまったのだと悔やむがトガは妹紅の顔のまま首を横に振り、そして壮絶な笑顔を浮かべてみせた。

 

「恐怖…?ううん、これは恋。私は恋して生きて、恋して死ぬの。だから“私”はもっと“好き”になる」

 

「――とっても素敵な見出し。最高の記事に゛」

 

 キュリオスはその美しさに心を奪われた。聖典よりも遥かに、遥かに美しい。人の心を大きく揺さぶる渡我被身子の想い。キュリオスはうっとりとした表情を浮かべ……直後、トガの両手から放たれた業火に呑まれていった。

 

「キュリオスざッ…!」

 

「ほ、炎が…ぎゃあああ!」

 

 トガから放たれた炎はキュリオスだけでなく周囲の解放戦士たちをも呑み込んでいく。その炎には妹紅のような慈悲など宿っていない。ただただ無慈悲に人間たちを焼き払い、焼死体に変えていった。

 

「キュリオス様ァアア!!」

 

「あぁあああッ!!」

 

 炎に巻き込まれなかった戦士たちがキュリオスの死を嘆く。

 彼女には民衆を煽惑する才があった。解放軍の最高幹部にまで成れたのは個性の強さだけでなく、その才能も評価されてのことだろう。一種のカリスマなのだろうが、それ故に死ねば脆い。キュリオスに付き従っていた者たちは只管に彼女の焼死体に縋りつくことしか出来なかった。

 その隙にトガは『変身』を解いて路地裏へと身を隠す。左足を引きずりながらも彼女は人の気配を感じないルートを進んでいった。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…うううっ…!フフ…。欠損は治ったけど…変身前までの怪我は治っていない…。それに…負担がすごく大っきい…」

 

 トガの身体には未だ怪我が残っていた。妹紅に姿を変える前までに負った傷は再生されなかったのだ。また、『不死鳥』の蘇生は酷く体力を消耗する。そのため身体の欠損こそ治ったものの、トガは命の危機に瀕していた。

 

(息が苦しい…力が入らない…血が抜けてく…色が消えてく…)

 

 必死の思いで民家の物置に隠れたトガは血を吐いてそこに横たわる。妹紅の『不死鳥』はもう使用できない。そもそも『変身』で他人の個性を使用すること自体、負担が非常に大きいのだ。たとえ再び妹紅に『変身』したところで蘇生が行われる前に個性は解除されてしまい、トガは死ぬだろう。

 彼女にはそれが本能で分かっていた。

 

(フフ…こういう感覚だったんだね、もこたん…。あなたに近づけて…良かった…)

 

 しかし、トガはこの状況を愛していた。彼女は個性が覚醒した理由を“恋”だと語った。好きで好きで堪らない。そんな想いが『変身』を覚醒させたのだ。

 だからこそトガは迫りくる死に恐怖を感じなかった。むしろ、そこには愛おしさすらある。そんな恋心を胸に抱きながら、彼女は静かに目を閉じるのであった。

 

 

 

 その後、覚醒したトガに脅威を覚えた解放軍の幹部スケプティックが己の手で確実に始末せんと動く。しかし、それは彼女を探していたトゥワイスによって阻まれた。トゥワイスはトガが殺される寸前に己のトラウマを克服。分身体を無限に生み出す『無限増殖 哀れな行進(サッドマンズパレード)』で彼女を、そして他の仲間たちをも救い出したのだ。

 トゥワイスが戦力差を補ったところでヴィラン連合のリーダー死柄木弔と解放軍指導者リ・デストロが戦闘を開始。当初、疲弊しきっていた死柄木は酷く追い詰められるも、幼少期に家族を殺した記憶が蘇り『崩壊』の個性が覚醒。圧倒的な強さでリ・デストロを打ち破り、死柄木は勝利した。

 この戦いで死柄木に真の自由を見たリ・デストロは降伏。ヴィラン連合は異能解放軍を取り込み『超常解放戦線』へと名を変えた。更に、AFOの部下であったギガントマキアも覚醒した死柄木の姿を見て、屈服。死柄木は数においても質においても大きな戦力を手に入れたのだった。

 

 このことにベストジーニストの()()を手土産にスパイとして潜入を果たしたホークスは非常に大きな危機感を抱く。

 国内のネットワークを掌握する大手IT企業F・G・I(フィールグッドインク)社の取締役であるスケプティック。心求党の党首であり政界にも影響力のあるトランペット。ライフスタイルメーカーでありヒーローサポート事業にも参入を果たした大手企業デトネラット社代表取締役社長のリ・デストロ。更には、外典を筆頭とする10万以上の訓練された戦士たち。

 彼らだけでも非常に厄介なのに、ヴィラン連合の者たちも信じられない脅威になってしまった。

 未だ詳細不明のハイエンド脳無はもちろん、あの藤原妹紅に変身して『不死鳥』の個性を使用してみせた渡我被身子。その巨体とパワーで外典すらもコバエのようにあしらって泥花市を直進し続けたギガントマキア。『崩壊』を覚醒させ、触れたものから伝播して全てを破壊できるようになった死柄木弔。

 そして、最たる脅威はそれら全てを無限に増やせるようになったトゥワイスだ。最早、悪夢である。治安が悪化するどころか日本という国家が崩壊する可能性すら高い。

 

 ホークスは強い焦りを感じるが、表情には微塵も出さずに笑顔で彼らとの交流を図った。全ては己の理想のために。ホークスは平和への想いを胸に秘め、敵勢の内部へと身を投じるのであった。

 

 

 

 

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!一時間もインタビュー受けて爆豪丸々カット!」

 

「フフフ、私の知らないところでこんな面白い取材を受けていたのか。フフフ、面白過ぎる」

 

「うっせぇぞテメェら!白髪女ァ、テメー普段笑わねぇのにこんなことで爆笑してんじゃねェ!」

 

 12月下旬。雄英1年A組の教室内は大きな笑い声に包まれていた。その中には妹紅の笑い声もある。原因は轟と爆豪のインタビュー放送だった。

 仮免補講の最終日。彼らは補講試験の帰り道に強盗ヴィランと遭遇したのだという。その際、轟と爆豪は仮免の取得から僅か30分しか経っていないというのに事件を即座に解決。異例のデビューを果たした。

 また、その時に彼らを引率していた雄英の教員がオールマイトだったということもあって話題は非常に大きくなり、そんなホットな出来事を取材するためテレビのクルーがA組の寮まで来ていたのだ。

 なお、その日の妹紅はインターンに出向いていたので寮には不在だった。テレビの取材が来たというのはクラスメイトたちから聞いていたものの、これほど面白いことになっているとは露にも思っていなかった。

 

「オールマイトから遠ざかってない…?」

 

「イカレてんだ」

 

「聞こえてんぞクソデクと玉ァ!」

 

 そんな話題性のあるインタビューだったのだが、取材中の爆豪の態度が悪すぎて彼の放送シーンは全てカットされてしまっていた。ずっと轟が中心で爆豪は見切れっぱなしである。その放送シーンは、男子たちはおろか妹紅すらも爆笑してしまうほどの面白さだった。

 なお、他の女子たちはというと、笑うどころか思いっきり呆れ顔である。溜息を吐いている者までいた。

 

「ある意味、守ってくれたんやね…」

 

「もう三本目の取材でしたのに…」

 

「“仮免事件”の好評価が台無し」

 

 そんなこんなで一部の生徒に笑いを提供してくれた轟・爆豪のインタビュー放送だったのだが、世間は大きな事件によって揺らいでいる最中だった。

 愛知県泥花市、平穏な街で発生した大暴動事件。犯人は“ヒーローに恨みを持った20名の男女グループ”だったらしく、ヒーローたちを罠に嵌めて街外に向かわせた隙に市民を虐殺したのだという。市民たちは多くの犠牲者を出しながらも必死に抵抗し、慌てて引き返してきたヒーローたちも戦闘に合流。その結果、犯人たちの全員死亡によって事件の幕は閉じた。そう報道されていた。

 

「被害規模は神野以上らしいが、地方だった為か死傷者数は抑えられたそうだ」

 

「うん…」

 

 ヒーローの失墜を狙ったこの暴動事件。人々の反応は罠に嵌められたヒーローへの非難一色かと思いきや、意外にも叱咤激励も多かったのだという。それは福岡で発生したエンデヴァーと黒脳無との死闘と、その際に報道された『見ろや君』の叫びが人々の心を打ったのではないかと思われた。

 教室内でそんな事を話していた時である。ガラリと扉が開き、とあるプロヒーローが目の前に現れたのだ。

 

「楽観しないで!良い風向きに思えるけども裏を返せばそこにあるのは危機に対する切迫感!勝利を約束された者への声援は果たして勝利を願う祈りだったのでしょうか!?ショービズ色の濃くなっていたヒーローに今!真の意味が求められている!」

 

「マウントレディ!?」

 

「うわああああ!?」

 

 突如現れたマウントレディに皆が驚く。特に衝撃を受けていたのは峰田だ。職場体験で彼女の事務所を訪れていた峰田は散々に扱き使われ、一時は女性不信に陥ってしまったほどらしい。

 それはともかく、雄英教師でもないマウントレディが何故突然現れたのかと生徒たちが疑問に思っていると、次いで入ってきた相澤がそれを説明してくれた。

 

「『メディア演習』の特別講師として招いたんだ。お前ら失礼のないようにしろよ」

 

「そう!今日は現役美麗注目株(わたし)が皆さんにヒーローの立ち振る舞いを教授します!」

 

「メディア関連?それなら一応、授業でもやりましたけど…」

 

 そう言って何人かは首を傾げる。メディアについてはヒーロー情報学(担当教員ミッドナイト)の授業の一環で多少学んでいた。そういったことを新人ヒーロー(マウントレディ)視点から学ぶのだろうかと生徒たちが思っていると、相澤はいつもの眠そうな表情のまま口を開いた。

 

「それは座学としてだろ。今日は実技でやる。全員コスチューム着替えたらグラウンドβに集合しろ。動け」

 

「「「はい、相澤先生!」」」

 

 相澤の指示に生徒たちは即座に動いた。ここでモタモタしていたらジロリと睨まれてしまうだろう。それがとても怖いのだ。しかし、ヒーローとは誰よりも迅速な行動が求められる職業。生徒たちを視線一つで指導する相澤は流石だった。

 

 

「でもよ、メディアの実技演習って何すんだろうな?」

 

「それな」

 

 男子更衣室でコスチュームに着替えながら上鳴が疑問の声を上げると、同じく着替えていた峰田が頷く。次いで他の男子たちも会話に参加し始めた。

 

「コスチュームが必要ってことは模擬戦でもやるんじゃね?戦闘しながら現場からマスコミを避難させろ、とかよ」

 

「あるかもしれねぇな。仮免事件の時もカメラを構えた女の人が近づいてきて危険な場面があった。幸い、爆豪とオールマイトのおかげで無事で済んだが、俺一人だったら危なかったかもしれねぇ」

 

「はッ!俺なら一人でも問題なかったけどな!」

 

「そうか。すげぇな」

 

 ヒーローの戦闘シーンは大きな人気があり、華々しい戦いはマスコミも一般人も集まって熱心に撮りたがる。つまり野次馬だ。

 時に彼らはヒーローや警察の警告を無視し、危険区域に侵入してまで撮影しようとする。ヒーローによる治安維持活動を舞台の演劇のようにしか認識していないのだ。今の時代、そんな愚か者は少なくなかった。

 

「皆、着替え終わったのなら早く向かおう!何をするかは行けば分かるさ!」

 

「だな!どんな難題でもプルスウルトラで乗り越えようぜ!」

 

 飯田に促されて切島も気炎を上げる。学びの場なのだから難題こそ望むところだ。そんな彼らに感化され、他のクラスメイトたちも気合を入れてグラウンドに向かうのであった。

 

 

 

 青空の下に用意された特設のインタビューステージ。周囲にはバズーカ砲のようなテレビカメラや物々しい一眼レフを構えたスタッフたちが複数名。そして、ステージの壇上ではマウントレディがマイクを片手に立っていた。

 

「という訳で、ヒーローインタビューの時間よ!」

 

「緩い」

 

 切島の表情が緩慢な様子のまま固まる。どうやら今回の演習でプルスウルトラする必要は一切無いらしく、ハードな演習を予想していた面々は肩透かしを食らっていた。

 しかし、インタビューとは一体どういうことかと皆が戸惑っていると、相澤がその説明を始めた。

 

「お前らもメディア露出が増えてきたからな。文化祭の学生インタビューみたいに雄英内なら俺も干渉出来るが、外に出るとそうもいかない。こういった練習をしておくのも重要なことだ」

 

「た、たしかに…?」

 

 今回の轟と爆豪の件だけでない。エンデヴァー事務所の妹紅を始めとして、リューキュウ事務所の麗日と蛙吹。ファットガム事務所の切島。ホークス事務所の常闇とインターンを再開している生徒たちが居ることも大きいのだろう。中でも妹紅はその知名度から影響力も強い。相澤はそれを危惧してのことだった。

 

「早速、1人目いきましょう!凄いご活躍でしたね、ショートさん!」

 

「何の話ですか?」

 

「なんか一仕事終えた(てい)で、はい!」

 

「はい」

 

 早速『メディア演習』が始まった。一番手は轟だ。イケメンな彼の天然っぷりを堪能しつつマウントレディは質問を続けていく。そして必殺技の話題になるとその技の使用を促した。

 言われた通りに轟が必殺技の一つ『穿天氷壁』を繰り出すと、それに常闇が疑問を口にした。

 

「技も披露するのか?インタビューでは?」

 

「あらら、ヤだわ雄英生。皆があなた達のことを知っているワケじゃありません。必殺技は己の象徴。何が出来るのかは技で知ってもらうの。即時チームアップ連携、ヴィラン犯罪への警鐘、命を委ねてもらう為の信頼。ヒーローが技名を叫ぶのには大きな意味がある」

 

 峰田曰く“以前はカメラ映りしか考えていない女”だったらしいのだが、今やランキング23位の立派なプロヒーローである。予想以上にしっかりとしたマウントレディの回答に、生徒たちも感銘を受けていた。

 そうして、轟の番が終わると他の生徒たちも順番にインタビューを受けていく。カチコチに緊張している緑谷や人類とソリが合わない爆豪など要練習な生徒たちも居たものの、概ねは見事に受け答えできていた。

 そして19人の練習が終わり、次は妹紅の番となった時である。マウントレディは真面目な顔で生徒たちを見渡した。

 

「さて、皆があなた達のことを知っているワケじゃないってさっきは言いました。だけど、このクラスには1人だけ居ます。既に大きな知名度を持っている子が、ね」

 

 彼女の言葉に生徒たちが振り返る。その視線を辿って何故か妹紅も振り返る。インタビュー終わりでたまたま後ろを歩いていた爆豪の姿を見て、妹紅は納得したようにウムウムと頷いた。

 

「なるほど、爆豪か…。あの放送は面白過ぎたからな」

 

「オメェだ、クソ野郎が!」

 

「爆豪くん!女性にクソ野郎は、いや、誰に対しても止めたまえ!」

 

 一瞬でブチギレる爆豪。暴言を注意する飯田。“違うのか?”と首を傾げる妹紅に、同じく首を傾げている天然の轟。それに呆れるか苦笑するかのクラスメイト達。A組にとっては割といつもの光景である。

 しかし、相澤だけは深い溜息を吐いていた。そして疲れたような表情でマウントレディに語りかけた。

 

「マウントレディ、藤原を重点的にお願いします。俺はコイツが一番心配です」

 

「ええ、確かに。では“事件”についてはどうします?」

 

「深く踏み込んでもらって構いません。その回答を考えさせるのも今回の目的なので。機密情報は喋らないよう教えていますが、コイツは他の…たとえば自分自身の事などについて無頓着すぎる」

 

「分かりました。それでは始めましょう!もこたん、壇上にお上がりください!」

 

 促されて妹紅がステージに上がる。練習とはいえカメラに囲まれて少し緊張しているのか、表情はいつものように無になっていた。

 

「神野区では素晴らしい炎で見事脳無を打ち破りましたね!戦闘時に放ったあの凄まじい業火がファンの間で大きな話題になっていますが、あれはどのような必殺技なんですか?」

 

 マウントレディは当たり前のように神野区事件に触れてきた。クラスメイトたちは今までのインタビューとは違う空気を感じ、女子たちも少し心配そうに妹紅を見る。一方で、妹紅本人に表情の変化は一切なく、淡々と受け答え始めていた。

 

「あの必殺技は『フジヤマヴォルケイノ』。ただ全力で炎を放出するだけの技です。ですが、警察の方にあまり使わないようにと言われたので今後使用するかは分かりません」

 

「ほう、それは周囲を危険に晒してしまうからですか?たしかに広い場所でしか使用できないほどの威力でした。周辺の地面は溶けてガラス化していたとも報道では見ましたね」

 

 妹紅が答えると、マウントレディは頷きながら理由を聞いた。『巨大化』という圧倒的な火力(パワー)個性を持ち、ヒーロー活動中に意図せず建物を壊してしまうこともある彼女にとって、妹紅の強火力には少し親近感が湧くのかもしれない。

 しかし、『フジヤマヴォルケイノ』が制限された理由はそれだけではない。炎という熱エネルギーならではの問題があったのだ。

 

「それもありますが、局所的な温度上昇で発生した積乱雲がジェット気流に乗ってアメリカの気象に影響を与えてしまったらしく…。幸い被害は出なかったそうですが、今後の使用は可能な限り控えてほしい、と」

 

「そ、それはまたとんでもないエピソードですね…」

 

 山火事や火山の噴火によって地表の空気が熱せられ、上昇することによって火災積乱雲が発生することがある。それと同じように妹紅の炎で火災積乱雲が発生してしまったのだが、幸いなことに当時の季節は夏。夏季のジェット気流(偏西風)の風速は冬季に比べて弱く、そのおかげで北米に与えた影響は小さくて済んだそうだ。冬季であればもっと大きな影響が出ていた可能性もある。

 そう伝えるとマウントレディは素でドン引きしていた。恐らくは当時観測していた気象庁の職員たちもドン引きしていたことだろう。結局、気象庁の連絡を受けた警察の塚内からこの必殺技の多用は控えるようにと妹紅は通達されていた。

 しかし同時に、妹紅は塚内から『必要であれば使用を躊躇しないように』とも伝えられていた。当たり前だ。数々の強力な必殺技を持つ妹紅が『フジヤマヴォルケイノ』の使用を視野に入れるということは、それだけヤバすぎる状況に陥っているということでもある。四の五の言っている場合ではないのだ。その辺は警察もキチンと理解していた。

 

「ゴホン!では、続けてお尋ねします」

 

 マウントレディは咳ばらいを一つして喉を整える。ここまでは軽い慣らし運転。深く踏み込むのはここからだ。マウントレディの表情から笑みが消え、張り詰めたような雰囲気が壇上に漂う。そこから今までのインタビューとは全く違う、明らかに妹紅を試している質問をマウントレディは口にした。

 

「福岡での事件でエンデヴァーは黒脳無を殺害して制圧しました。このことに世間からは賛否両論が起きていますが、貴女はどうお考えでしょうか。また、神野区の事件の際。貴女と戦った黒脳無についても即座に殺害して制圧しておくべきだったという意見があります。当時の判断について間違いはなかったか。御自身ではどのように考えていますでしょうか、お答えください」

 

「……」

 

 この質問に、妹紅は明らかに眉をひそめた表情を見せた。不快に思った訳ではない。神野区の戦闘において、あの脳無の殺害も視野に入れていた妹紅にとってはどちらも回答の難しい質問だったからだ。

 むしろ、この質問に対して大きな不快感を示したのは妹紅以外の女子陣であった。

 

「先生!妹紅にこの質問は…!」

 

「神野と福岡の両方を経験した藤原に対して十分に有り得る質問だ。炎で焼き尽くすことは『超再生』持ちの脳無に対して有効であるとエンデヴァーがカメラの前で証明してしまったからな。むしろ、今の内に心構えを身につけておいてもらわんと藤原自身が困ることになる」

 

「それは…そうですけど…」

 

 相澤は女子たちを正論で制する。それでも不安そうにする彼女たちに、相澤はその理由をすぐに察した。

 

「お前たちの様子を見るに藤原は…、そうか、女子たちには話したか。分かっていると思うが、それは絶対に口外してはならないものだ。誰にも話すなよ」

 

 相澤は口止めを厳に命じると、彼女らは全員しっかりと頷いていた。

 それは寮生活にもすっかり慣れてきたある日のことだった。就寝前の自由時間に女子だけで集まってソファでのんびりしていた時、ふと妹紅が語りだしたのだ。自身の生まれのこと、虐待で数百も数千も死に続けたこと、蘇生した己という存在が“本物の藤原妹紅”なのか“複製された藤原妹紅”なのか妹紅本人ですら分からないこと、地獄と苦悩の果てに慧音の愛に救われたこと。そして、あの脳無のメイン素体が実の父であったことも、神野区での死闘の際にはその脳無を焼き殺すつもりであったことも。

 妹紅はつらつらと語った。女子は全員ヒーロー仮免試験に合格していたので情報漏洩にはならない。妹紅は神野区の詳細を含め、全てを打ち明けていた。

 その話を聞いた女子たちは安易な慰めの言葉など口にしなかったし、妹紅もそんなことは望んでいなかった。彼女たちはただ涙を流して妹紅を強く抱きしめて、翌日からは普段通り接してくれた。妹紅はそれがたまらなく嬉しかったのだ。

 

 しかし、あの脳無の正体は極一部の関係者しか知らないことであり、当時の現場に居たマウントレディすらも認知していない。しかも、神野区の時点においては脳無が死体由来の人形だと判明していなかった。妹紅はあの脳無が改造手術を受けただけの実父だと認識した上で殺害を覚悟していたのだ。

 つまり、この質問はマウントレディが考えているよりも遥かに重い内容だったのだ。

 

「私は……」

 

 『最悪の場合はブッ殺すつもりでいましたし、死体人形だと判明した今ではより一層ブッ殺す覚悟でいます!』…などとは口にしない常識が妹紅にも一応ある。

 とはいえ何と答えるべきか。難しい顔で妹紅が悩んでいると、見かねたマウントレディが腕で×印を作って指南を始めた。

 

「はい、そんな表情で考え込まない!そんな様子を見せると記者の良いように記事を書かれてしまいます。その曇った表情の写真と一緒にね。こういう時は冷静な顔で『可能な限り捕縛に努めます』とハッキリと曖昧に答えましょう!」

 

「ハッキリと曖昧?」

 

「そう、こんな質問に正しい答えなんてありません!イエスと答えてもノーと答えても批判されちゃう問いなのよ。だからって『分かりません』なんて答えを出しちゃうと、それはそれで優柔不断とか信念が無いとか言われて批判される。ならば、どうするか?」

 

 マウントレディは問題提起するように指を立てながらステージ上を歩きながらA組の面々を見渡し、そして妹紅を見据える。妹紅は納得したかのように頷いた。

 

「冷静に応じてハッキリと、しかし内容は取り繕って曖昧に。そう答える、と」

 

「そうです。他にも『ヒーロー及び警察官職務執行法に従い責務を遂行します』など、記者にとってつまらない内容で答えましょう。わざわざ彼らを喜ばせるような答えを言う必要なんてありません」

 

 マウントレディの言葉に最も同意していたのはメディア嫌いの相澤だろう。彼は皆の後ろで強く頷いていた。

 逆に、クラスの中には納得できない者も居る。極度のヒーローオタクである緑谷や熱血漢の切島などはその筆頭だ。彼らは堪らず声を上げた。

 

「し、しかし、ヒーローは皆の憧れです!何故その判断を下したのか、その判断に至るまでの経緯や覚悟、ヒーローとしての責務や倫理に対する考えなど人々に伝えるべきことは沢山あるはずですよ!」

 

「そうだぜマウントレディ!俺だって紅頼雄斗(クリムゾンライオット)のインタビュー記録が切っ掛けでヒーロー目指したんだ。誠心誠意で自分の漢気を語るべきだと思うぜ!」

 

 気になるヒーロー記事はスクラップして保存するほどディープなオタ活が趣味の緑谷にとっては到底受け入れられないのだろう。また、切島にとってもソレは己のオリジンだ。譲れぬものがある。クラスメイトの中にはこの2人程とはいかないまでも、同意見の生徒たちは多かった。

 しかし、マウントレディは“何を言っているんだ?”という表情で彼らを見ていた。

 

「んん?そんなの自分のSNSか何かで発信すれば良いだけの話では?もしくは、信頼できる記者にインタビューしてもらうとかね。悪意を持っているかもしれない見ず知らずの記者にセンシティブな話題を提供するなんてナンセンスだわ。面白おかしく書き叩かれるのがオチよ。あなた達は雄英の記者会見で見たはずなのにもう忘れちゃったのかしら?悪意ある記者という存在を」

 

「…!」

 

 その時、面々の脳裏には1人の女記者の顔が浮かぶ。酷い、余りにも酷すぎる記者会見だった。だからこそ彼らは思い出したくなかったのかもしれない。なお、妹紅だけは素で忘れていた。

 しかし、彼らも良く分かった。信用できない記者というのは恐ろしい。一の事実を元にして九の虚像を肉付けし、それをまるで本物のように公表する。それどころか十の全てが嘘だったりすることも珍しくない。そういったメディアリテラシーの欠けたマスコミというのは残念ながら多かった。

 

「一応言っておくが、轟と爆豪のインタビューに来ていた取材班は雄英側で厳選して許可を出した信頼できるメディアだ。でなければ、寮の中で取材などさせていない。取材を申請してきた者の中には3流ゴシップライターや自称ジャーナリスト、自称ウェブライターなども居たぞ」

 

「自称て。それもうただの不審者じゃね?」

 

「そんなの寮に招いたら知らねーうちに何を設置されるか分かったもんじゃねぇな…」

 

 轟たちが解決した事件では3件の取材を受けていたが、彼らは真っ当なメディアだった。そうでなかったら酷い態度で取材を受けていた爆豪の報道は悪意に満ちたものになっていたに違いない。それだけでなく盗聴器や盗撮カメラ、個性による情報収集なども怖い。妹紅を含めA組は話題性があるため、なりふり構わず特ダネを狙う者も少なくないはずだ。雄英が神経質になるのも仕方なかった。

 そして、生徒側からしても今は雄英に守ってもらえているが、卒業すれば自分で対処しなければならなくなるのだ。それを考えると彼らも少し不安になってきた。

 

「皆、そんな顔をしなくても普通科や経営科にはメディアへの就職を考えている生徒くらい居るでしょうに。訓練ばかりではなく今の内から他科との交流を図って、信頼できる交友関係を築いておくことも将来プロになった時への備えの一つよ?雄英高校ならどの科でも将来有望な子ばかりじゃない、羨ましい」

 

 雄英出身ではないマウントレディは本当に羨ましそうにしていた。

 雄英高校は国内最難関の高等学校だ。その出身者はヒーロー科以外でもエリート揃い。卒業生は当然のように最難関大学に進学して、どの職種でも活躍している。つまり、ここはコネクションの宝庫。その気になれば卒業生とだって簡単にコネが作れるはずだ。マウントレディからすればなぜ親交を深めていないのかと疑問に思うほどだった。

 

「あ、もしかして文化祭を配信中継していた人たちってメディア志望なんじゃない?」

 

「そうかもしれませんわ。同じ一年生とのことですし、今度お会いする機会があれば色々とお話を伺ってみましょう」

 

 他科という言葉を聞いて女子たちは文化祭での出来事を思い出していた。同学年で他科の男子たちから頼まれたインタビューの生配信。彼女たちはさほど気にしていなかったが、ネットではかなりの注目を集めていたのだと後日B組の小森から聞いたのだ(彼女は『生配信…!先を越されたノコ…!』と悔しがっていた)。

 そんなメディア活動に一年時から身を置くなんて、彼らはよほど将来を見据えているに違いない。素晴らしい意識の高さだと八百万たちは感心していた。そんな感じでA組女子たちからの評価が勝手に上がっていっている他科三人組はさておき、マウントレディからのアドバイスを受けた面々は目からウロコといった様子で強く感服していた。

 

「なるほど参考になるぜ…!しっかし、スゲェなマウントレディ。プロデビューしてまだ2年目なんだろ?なんでここまでメディア対応に詳しいんだ?」

 

「今までそれだけやらかしてきたって事だろー…」

 

 切島の疑問に、彼女の本性を知っている峰田が力なく呟く。なお、そんなことを言った彼は耳ざとく聞きつけたマウントレディによって叱りつけられていた。

 

「お黙り、グレープジュース!それより演習の続きよ!全員もう一周するけど今度はハードに行くわ。状況は身に覚えのない国宝破損と二股の浮気と脱税の疑惑が重なってしまって弁明会見を開くって感じよ」

 

「なんだその最悪な状況!?」

 

 次のミッションは弁明会見の体験演習らしいが、とんでもない冤罪設定に生徒たちからツッコミが入る。しかし、こういったことも練習は必要らしい。納得できない生徒たちは困惑しながらも順番に受けていく。

 相変わらず轟は天然だし、緑谷は緊張しているし、爆豪は態度が悪いし、妹紅は重点的に指導を受けていたが、そんなこんなでもマウントレディのメディア演習は無事終了。

 この授業を経て、相澤が抱えていた不安や気苦労は…ちょっぴり軽減されたのかもしれない。

 





ホークス「ヴィラン連合と異能解放軍が戦闘しただと!?頼む!互いに戦力を潰し合っていてくれ!」

解放軍は降伏して連合に取り込まれました^^
トガの個性が覚醒して『不死鳥』が使用可能になりました^^
ギガントマキアが参入しました^^
死柄木の個性が覚醒してチートになりました^^
トゥワイスがトラウマを乗り越えた為、ハイエンド脳無を含め上記の連中を無限に増やせます^^

ホークス「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!(絶望)」


トガちゃん
 原作では麗日ルートでしたが、ここでは妹紅ルートに入りました。しかし、どちらにしてもキュリオスさんは死んじゃう模様。


インタビュー練習
 こういった練習も大事。こうやってカメラ慣れしていくことで最終的にはミルコのバニー衣装を着てキ〇タマはみ出しそうになっても笑顔でポーズを決める緑谷君(公式)が出来上がるのです。慣れって怖い。
 なお、最後の『国宝破損と浮気と脱税疑惑の弁明会見』は久しぶりのヒロアカすまっしゅネタ。恐らくこのSS最後のすまっしゅネタになるでしょう。

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