もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんとAB組合同戦闘訓練 2

「来た…!来た来た来た…!火の鳥が来た!」

 

「空が端から赤く覆われていく…。なんつー数だよ…」

 

 迫る火の鳥の群れ。まるで炎の波が途切れずに打ち寄せてくるようである。その光景をB組の面々は唖然として見ていた。

 一方で、A組は火の鳥が満ちる前の今こそが準備に費やせる時間であることを知っている。八百万は出来る限りのスピードで道具を創り、装備を整えていた。

 

「ふぅ…!人数分の酸素呼吸器と耐熱マントが出来ましたわ…!」

 

「ん!」

 

 創った装備はフード付きの耐熱マントが40人分と、酸素呼吸器39人分(個性上、骨抜は自前で持っている)である。しかし、流石の八百万も一試合終えた後にこれだけの量を『創造』するのは負担が大きい。マントに関しては小大にも手伝ってもらっていたが、やはり疲労が蓄積してきていた。

 

「火の鳥が来たよ。あ、羽も降ってきた」

 

「やっぱり『フェニックスの羽』もやってきたわね。しかも妹紅ちゃんの炎翼からじゃなくて、飛ばした火の鳥の翼から抜け落ちて降ってくるタイプだわ。地面に落ちた後もしばらく残って燃え続けるから注意が必要よ」

 

 上空を観察していた麗日と蛙吹が皆に警告を促した。

 妹紅が彼らに向けて放った火の鳥は二種。一つはフィールド上空を旋回しながら大量の羽根を落とすだけの火の鳥。もう一つは相手を直接攻撃してくるタイプの火の鳥だ。いずれも自動操作で飛ばされており、数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの数だった。

 

「うおお!?ヤベェ!」

 

「炎の嵐に巻き込まれた気分だね、ホント…!」

 

 今、彼らは自陣の牢屋の前で待ち構えている。工場建造物が密集しているこのフィールドにおいて、この場は牢屋を置いてもなお多少の余裕のある程度の広さが確保されていた。ここで妹紅を迎え撃ち、撃破の際は回復される前に速攻で投獄する。彼らはそういう作戦を立てていた。

 しかし、そのためにはまず火の鳥の猛攻に耐えなければならない。火の鳥の群れが雪崩れ込んでくると、不慣れなB組の生徒たちは焦りと戸惑いの声を漏らしていた。

 

「すごい数だぞ!?俺たちが集まっているから狙われているんじゃないか!?」

 

「せ、狭い通路とかに逃げ込んだ方が得策か!?」

 

「それはダメだ。藤原はサイズの小さな火の鳥も作れるから、行動が制限される閉所に逃げ込むと余計に追い込まれてしまうぞ。それと、俺たちが居るから火の鳥が集まっている訳ではない。フィールド全域がこんな感じになっているだけだ」

 

「それに、下手に避難するとバラけて各個撃破される危険性があるからなー。1人の投獄で勝敗が決しかねない今回の藤原戦だと、皆が互いに視認できる位置に居ることが重要じゃね?」

 

「落ち着きすぎだろ、お前ら!?」

 

 妹紅と初めて戦う者たちとは裏腹に、A組の障子や瀬呂は普段通りの口調で説明する。

 彼らにとって火の鳥の襲来なんて序の口だ。ここから妹紅本人が現れてからが真の本番なのだから、今は冷静に対処することが肝要だった。

 

「凄まじいな。これがあの藤原妹紅の全力か…」

 

 火の鳥に翻弄されながら心操がそんな心の声を溢す。だが、そんな彼に芦戸と葉隠が声をかけた。

 

「いや、これ本気ではあるけれど妹紅の全力じゃないよ。本当に全力だったら最強技の『パゼストバイフェニックス』でフィールドごと全部焼き尽くされて今頃私たち全員死んじゃってるし。私たちに大火傷負わせないように超手加減してくれてるよ妹紅。手加減ていうか火加減だけど」

 

「とりゃ!ほら見て、警棒でブッ叩いただけで火の鳥が崩れた。炎の羽根を落としてくる上空の火の鳥はそれなりの炎が込められているみたいだけど、私たちを直接攻撃しようとしてくる火の鳥はスカスカの低火力だから安心して。回避ミスって直撃しても大火傷にはならないよ。耐熱マントもあるから火傷もしないと思う。もちろん、それでも当たる気なんて無いけどね」

 

 芦戸は軽快なステップで火の鳥を回避し、葉隠は手持ちの特殊警棒で向かってくる火の鳥を叩き潰しながらそう語る。

 それを聞いて心操は眉を寄せた。

 

「なら、藤原が接近してくるまでは火の鳥を潰して凌ぎ続けるしかないのか…」

 

「基本は回避だ、心操くん!どれだけ火の鳥を撃墜したところで次から次へとやってくるぞ!一定以上の密度になると火の鳥同士がぶつかり合って勝手に撃墜されていくから、避けきれない火の鳥だけを迎撃して、残りは避けて体力の消費を出来るだけ抑えるんだ!」

 

「解決方法が回避して凌ぐだけかよ。勘弁してほしいな…!」

 

「それに関しては皆同じ気持ちだから安心したまえ!」

 

 飯田の忠告を受け、げんなりとした表情で回避に努める心操。相澤との特訓をこなしてきた彼であるが、ヒーロー科の生徒たちと比べるとやはり体力面や判断力で劣っており長期戦は得意ではなかった。それに加えて暑さもある。『火の鳥』と『フェニックスの羽』のコンボによってフィールドは熱と二酸化炭素が満ち始めていた。

 

「吹出!早く周囲の冷却を!」

 

「最初からやってるよ!『ひんやり』、『ヒヤヒヤ』、『ブルブル』、『しんしん』、『キンキン』!…うん、やっぱり『キンキン』が一番冷えてる。後は喉との耐久勝負だぜ!小森ー、浅田飴あるだけくれー!」

 

 低酸素を吸わないよう酸素マスクを着けて息を吸い、『オノマトペ』の邪魔にならないよう声を出すときはマスクを外す。火の鳥を避けながらこの個性発動の繰り返しなのだから、この中で一番大変なのは吹出だろう。

 そして、彼に追従するように物間も声を上げた。

 

「僕にも喉飴を貰えるかい小森。最初の5分間は轟くんの個性で氷塊を作れるが、その後は僕も『オノマトペ』で冷やすことになる。最後に『洗脳』を使うためにも序盤で喉を潰す訳にはいかないからね」

 

「缶ごと全部あげるから2人共しっかり冷やして!もう既にメチャ暑いノコ!」

 

「分かってるって!『キンキン』、『キンキン』、『キンキン』!!!」

 

「氷結攻撃を放つと身体が冷えてしまうが、暑い時は体温調節に使えるね。個性のデメリットも使い方次第さ。轟くんのような大氷塊は作れないけど、まぁ任せてよ」

 

 吹出は自前の個性で、物間は轟から『コピー』した個性で周囲の熱を冷ましていく。なお、『コピー』元である轟は現在この場に居ない。彼は上鳴、骨抜、円場、鉄哲らと別部隊として行動中だった。

 

「頼んだよ吹出、物間…!こっちの本隊には藤原に対抗策を持てないメンバーも抱えたチームなんだからね…!」

 

 妹紅を直接撃破できる主なチャンスは彼女がコチラを『捕縛』してくる時と『投獄』する時の2回。こちらは轟と吹出という周囲を冷やせる個性持ちが2人居るということもあり、彼らはチームを分けることにした。

 すなわち、自軍の牢獄前で『捕縛』の返り討ちを狙う吹出たち本隊と、妹紅陣地の牢獄前で『投獄』する隙を狙う轟たち別動隊という2チームである。

 

 しかし、別動隊の者が見つかり『捕縛』されてしまうと妹紅を攻撃できるチャンスが減ってしまうという恐れがこの作戦にはあった。そのため別動隊は骨抜の『柔化』で地面や建造物を通り抜けながら妹紅陣地を目指すという隠密行動を取っており、念のため耐熱マントも妹紅に見つからぬように都市迷彩柄を羽織りながら行動している。また、インカム禁止である今試合のルールの中で2チーム間の情報を共有するため、取蔭の『片目』と『片耳』と『口』も別動隊に参加していた。

 

 

 

「『キンキン』。おわっ!?火の鳥の動きが急に…!?」

 

「おっと、これは…明らかに僕たちを狙い始めたね」

 

 試合開始から3分ほどが経過した頃。火の鳥の動きが切り替わり、吹出と物間に攻撃が集中し始めた。つまり妹紅本人の襲来である。すぐさま緑谷が声を上げた。

 

「一部の火の鳥が自動操作じゃなくなった!みんな、藤原さんが来た!どこからかコッチ見てる!」

 

「ど、どこだ!?どこに居るんだ!?」

 

 皆が必死に周囲を確認する。しかし、襲い来る火の鳥の飽和攻撃を受けながら妹紅を探し出すのは容易ではなかった。

 

「宍田!匂いや音で探れないか!?」

 

「酸素マスク着けたままでは嗅覚が…!仮に酸素マスクを外せたとしてもこの火災臭の中では鼻なんて使い物になりませんぞ!聴覚も火の鳥の羽ばたき音ばかりで全く何も…!」

 

「…私も音はダメだね。少なくとも地上に居ないことくらいしか分からない」

 

 宍田の『ビースト』は獣化することで筋力が大幅に上がり、また嗅覚や聴覚なども格段に良くなる個性だ。索敵から戦闘までこなせる便利な個性であるが、この状況では鼻も耳も封じられたも同然だった。耳郎も地面に『イヤホンジャック』を当てて音を聞くが、妹紅から発せられる音は聞こえてこない。

 このまま最後まで見つけられないのではないか。誰もがそう思いそうになった時、おもむろに爆豪が舌打ちを放った。

 

「クソが、居やがった。テメェらはそのまま適当にキョロキョロしとけ。見つけたことがバレたら警戒されて面倒くせぇ。おい、腕。バレねぇように目を作って確認しろ。ここから見上げて太陽と重なる位置に居やがる。目測でいいから距離測れ」

 

「む…火の鳥があまりにも多くて視界が悪すぎるが、確かに居るな。目測で上空250メートル…いや、300メートルほどに小さな人影が見える。太陽を背負うような位置に居て、逆光でほとんど見えないが藤原で間違いないだろう」

 

 妹紅は太陽を利用できる位置で滞空していた。地上から見上げると太陽の逆光で非常に見づらく、爆豪のように予想していなければ発見することは難しかっただろう。秋晴れの日でこれなのだから夏日の晴天であれば発見はほぼ不可能だったはず。その点では季節に助けられたといえた。

 

「しかし、あれをよく見つけたな爆豪」

 

「居たら一番ウゼェと思うところを探しただけだ。俺が見つけなくても他の連中(女子たち)がそのうち気づいていただろ。腕、テメェはそのままバレねぇように捕捉し続けとけ。白髪女に動きがあったら言え。このままだと何をどう足掻いても手が届かねぇからな。今は機を伺うしかねぇ」

 

「ああ、了解した」

 

 『複製腕』に目を作った障子が妹紅をマークしたところで、高度を維持している妹紅には誰も攻撃が届かない。実際、上空に見える影からは大量の火の鳥が次々と放たれており、一方的な攻撃と化していた。

 

「コッチは全員耐熱マントを頭から被ってんのに、あの距離から漫画野郎(吹出)クソ真似野郎(物間)を識別してきやがる。望遠鏡(スコープ)か何かで地上を見てんな。狙いは遠距離から冷却要員を潰しての俺たちの消耗か。性格悪すぎンだろ、あの白髪女」

 

「コラァ、なんてこと言うの爆豪!私たちのことを最大限警戒してるから最善手を打ってきてるだけでしょうが妹紅は!」

 

 爆豪の暴言に芦戸がキレる。性格云々など少なくともコイツにだけは言われたくないという話である。しかし、そんなことを爆豪が気にするはずもなくチームの面々に指示を出し始めた。

 

「うるせぇ。とりあえず優先は冷却だ。おい、漫画野郎にクソ真似野郎。テメェらを狙うクソ鳥は俺が全部叩き落すからテメェらは伏せて動かず個性だけ使い続けろ。喉が潰れても叫び続けろや!根暗野郎(心操)もその隣で丸まっとけ!」

 

「『キンキン』。えー…、この人ヤベェー…『キンキン』」

 

「おやおや、僕は心配だね。本当に守ってくれるのかい?ああ、誤解しないでくれよ。キミのチームワークを疑っている訳じゃないんだ。実力が心配なだけだよ」

 

「…誰よりも早く伏せて言うセリフではないと思うが。すまない爆豪、頼んだ」

 

 ズザァっと一瞬で伏せた物間がその状態のまま軽口を叩く。こんな時でも相変わらずである。しかし、逆に言うと爆豪の実力をそれだけ信じているということでもあった。

 

「あ、見てくれ!火力の強い火の鳥が混ざり始めた!氷塊やオノマトペを焼き消している!これ以上焼かれるとマズいぞ!」

 

 尾白が大きめの火の鳥を指差して注意を促した。妹紅が出した次の一手は高火力の火の鳥だ。人に向ける攻撃でなければ妹紅も容赦がない。高火力で冷却そのものを潰す目論見だった。

 

「させない!『デラウェアスマッシュ エアフォース』!…く、この火の鳥かなり堅い!吹っ飛ばせるけど崩れない!すぐに元の場所に戻ってきて氷塊を焼かれてしまう!」

 

「私がやってみる!妹紅と戦うために考えた新技『音波消火器』!」

 

 緑谷のデコピンによって繰り出される風圧攻撃『デラウェアスマッシュ エアフォース』。ようは強力な空気砲なのだが、炎をしっかりと込められた火の鳥はそう簡単には崩れなかった。

 一方で、耳郎が試した『音波消火』とは、低周波の振動を利用して炎を消す消火方法である。*1理論としては低周波で空気を振動させて燃焼反応が起きている境界層を薄くすることで燃焼を防ぎ、鎮火に至らしめるというもの。特に30~60Hz(ヘルツ)の低音が消火に効果的であるのだが、これはヒップホップのベースサウンドで頻繁に用いられる音域でもあったという。*2

 耳郎はその音域を自身の心音から抽出、増大させて火の鳥に放っていた。

 

「…ダメか。延焼はある程度防げているけど、個性で作られた火の鳥自体には効果が薄いみたい」

 

 単純な火災であれば効果は高いのだろうが、個性で燃焼する火の鳥に対してはさほど効果はなかったようで耳郎は悔しそうにしていた。

 ならばと他の者たちも抵抗を始める。しかし、そう簡単にいかないのが妹紅の個性だった。

 

「駄目だぁ。接着剤が一瞬で蒸発しちゃったぁ」

 

「なんということでしょう。氷水に浸した『ツル』すらも一瞬で燃えてしまうとは…」

 

「『大拳』でいくら扇いでも吹っ飛ぶどころか揺らぎもしない…!八百万!普通の消火器は創れない!?」

 

「申し訳ありません拳藤さん、普段ならともかく消耗している今の私では作れても精々が数個…!ですから三奈さん、この炭酸水素ナトリウムをお使いください!」

 

 八百万はそう言って創造したアイテム『YAOYOROZU’S LUCKY BAG(ヤオヨロズラッキーバッグ)』を芦戸に投げ渡した。バッグの中には白い粉末が入っている。それは炭酸水素ナトリウムだ。重曹とも呼ばれ、掃除にも食品添加物にも使用される非常に身近な弱アルカリ性の物質である。疲労している八百万であっても、このような単純な物質であれば創っても少ない消耗で済んだ。

 しかし、この炭酸水素ナトリウム。実は消火剤としても用いられている物質である。炭酸水素ナトリウムが熱分解されることによって発生するナトリウムイオンが、燃焼反応時に生じる遊離基と結合することによって燃焼の継続を抑制するのである。

 

「オッケー、ヤオモモ!前に教えてもらった化学反応だね!」

 

 芦戸はバッグから粉末を一握りだけ掬い取り、両手で握りしめる。それは手で水鉄砲をする時の握り方だ。そこに芦戸は掌から濃硫酸を生成。炭酸水素ナトリウムと硫酸の強烈な化学反応によって勢いよく二酸化炭素と水が発生した。

(NaHCO3 + H2SO4 → NaHSO4 + H2O + CO2)

 

「名付けて『人間消火器』!妹紅と戦うために考えたヤオモモとのコンボ技だよ!」

 

 先で述べたナトリウムイオンによる燃焼抑制。また、発生した二酸化炭素による窒息消火。更に、注水による冷却消火。これら消火の三要素である抑制作用・窒息作用・冷却作用を全て活用した消火作用の効果は非常に高い。なにせ、日本で初めて生産・販売された近代消火器もこれと同じ化学反応を利用していたほどなのだ。*3

 

「…でもさ、これ効いてる?」

 

「水かけるよりは効果ありそうだけど…。妹紅がしっかり炎を込めて作った火の鳥は、轟の氷で包まれても全然平気なくらい強力だからなー。消火器くらいじゃ無理かなー…?」

 

 あちゃー、という表情で芦戸は落ち込む。残念ながら八百万と芦戸のコンボでも火の鳥は崩れなかった。

 そもそも、これらの新技は耳郎も芦戸も妹紅を倒すために考案したものではない。火災現場や対炎熱系個性との戦闘において、妹紅が救助・戦闘をしている間に彼女らが消火活動を行うことで延焼の被害を減らせないかという考えで生み出したものだ。つまり、対抗するための技ではなく共闘・協力するための技。彼女が先ほど言った通り『妹紅と(共に)戦うために考えた技』なのであった。

 

「…ッ!気ぃ付けろやテメェら!クソ鳥の動きがまた変わりやがった!ッおい、玉ァ!後ろだ!」

 

「ん!?うおおおお!?カギ爪で耐熱マントごと掴まれた!ヤベェ!?抜けらんねぇ!」

 

「なにッ!?峰田!」

 

 物間がコピーした『半冷半燃』の効果時間が切れて『オノマトペ』の個性を使い始めた頃。慣れないB組の者たちをカバーしていたA組生徒たちにも疲れが見えてきてしまい、その隙を突いた妹紅操作の火の鳥によって峰田が捕まってしまった。

 

「動かないで峰田くん!『デラウェアスマッシュ エアフォース』!…良かった、この火の鳥は大きい割に低火力だった」

 

「すまねぇ緑谷!助かった!」

 

 峰田を掴んだ火の鳥を緑谷が消し飛ばす。峰田はなんとか助かったが、そのような攻撃が全員を襲っていた。そして彼らの中でも特に狙われたのが炎(光)に弱い個性を持つ者たちだった。

 

「ッ!避けろ黒色(ベンタブラック)!ぐ、しまった!俺が次なる獲物になってしまったか!」

 

「つ、ツクヨミ!」

 

「常闇くん!マズイ、ここからじゃ『エアフォース』の射線が通らない!」

 

 狙われた黒色を庇った常闇が火の鳥のカギ爪に掴まれてしまい連れ去られそうになった。『ダークシャドウ』は力が出せないどころか、炎に囲まれ過ぎて全く役に立たない。

 緑谷の攻撃も届かずピンチとなった常闇だったが、突如として火の鳥の足が切り落とされた。

 

「ヒャヒャヒャ!俺からすりゃ火の鳥なんて遅ェ遅ェ!」

 

鎌切(ジャックマンティス)!すまん、恩に着る!」

 

 鎌切の『刃鋭』が刃の正体だった。高火力の火の鳥が相手であれば斬りつけたとしても刃の方が焼き尽くされていただろうし、そもそも熱すぎて近距離攻撃は危険だったであろう。低火力の火の鳥だからこそ通用する斬撃攻撃だった。

 

「それにしても耐熱マント越しに攫われてしまうのはマズいわね。『捕縛』も『投獄』も火の鳥だけで全部済んでしまうわ」

 

「妹紅としては近づかないで済む一番の安全策やから、きっとそれが狙いなんやろうね」

 

 彼らの身を守る耐熱マントだが、それは妹紅にとっても有利に働くことがある。火の鳥で拉致されてしまえば、蛙吹と麗日の予想通り妹紅は試合終了まで地上に降りてくることはないだろう。それは妹紅撃破を狙う者たちとしては出来るだけ避けたい展開だった。

 

「なら、攫われないよう互いに死角のカバーを…うわ!マントを…!切ってくれ鎌切!」

 

「何してンだァ泡瀬ぇ!チィ、火の鳥が邪魔しやがるぜ!」

 

 マントに火の鳥の爪が引っかけられ今度は泡瀬が攫われそうになってしまった。彼はとっさに己と地面を『溶接』することで身体を固定して拉致を防ぐも、火の鳥はグイグイとマントを引っ張り、それが2羽、3羽と増えていく。

 鎌切は中々近づけず、他の者たちも対処が難しい。そんな中、八百万が泡瀬に向かって叫んだ。

 

「マントを外してください泡瀬さん!私がすぐに新しいマントを創ります!」

 

「分かった!…くそ、俺は助かったが耐熱マントを藤原が手に入れちまった。あのマントを火の鳥のカギ爪にでも巻かれたら、かなり俺らを攫いやすくなっちまうぞ」

 

 泡瀬がマントを固守していた理由はそれだった。今まではマント越しの捕縛が狙われていたからある程度動きが読めていた。だが、火の鳥自体が捕縛道具を所持していたら、また動きが変わってくるだろう。

 そう懸念する泡瀬だったが、八百万は事前に手を打っていた。

 

「大丈夫ですわ。あれらは皆さんにお渡しする前に小大さんによって大きくしてもらった物ですから。お願いします小大さん」

 

「ん。『解除』」

 

 奪われた泡瀬のマントだけが小大の合図でミニチュアサイズまで小さくなった。生物以外のモノの大きさを変えることができる小大の個性『サイズ』。個性発動の際は触れていなければできないが、逆に個性の解除は手から離れていても可能だった。

 そのため40人分の耐熱マントを『創造』する際、八百万は全てミニサイズで創り出し、それを小大の『サイズ』で巨大化させた後に皆に配っていた。これによって妹紅が耐熱マントを奪ったとしても小大がその大きさを元に戻すことで妹紅の使用を封じることができる。

 また、この連携技は創造物がミニサイズで済むので八百万の消耗が少ないという利点もあった。

 

 こうして彼ら合同チームは勝機を見出すため、火の鳥攻撃に耐え続けるのであった。

 

*1
2015年、アメリカの大学生が音波消火器を開発

*2
開発者である大学生へのインタビュー記事より

*3
なお、時代が進むと消火力ではなく硫酸による腐食性の問題で使用されなくなっていった


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